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第3章 秋の戦い
第26話(1) 秋の戦いの始まり
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26
「まあ、春のインターハイ予選で、ベスト8以内どころか、ベスト4に入ったうちのチームは第4シード権を得ることができました!」
「それはありがたいことだな……」
もはやサッカー部のミーティングルームと化してしまったような視聴覚教室で美花さんの言葉に監督が頷きます。
「ただ……」
「ただ?」
「なんと言いますか……」
美花さんが口ごもりまず。監督が後頭部を掻きます。
「あ~なんだよ、さっさっと結論を言えって」
「いわゆる『県内4強』の内、3チームがこっちのブロックに入ってきてしまいました……」
「あ~」
監督が頷きます。
「このままだと、決勝まで、4強の内2チームとはほぼ確実に当たることになります……!」
「なんだって、そんな面倒そうな事態に……」
監督が対戦表を眺めます。美花さんが補足します。
「春の大会でうちのチームがベスト4常連の常盤野さんを2回戦で早々と下して代わりにベスト4に進出してしまったからですね……」
「ああ、そういやそうだったな、それならまあしゃあないわ……」
監督がわざとらしく両手を挙げます。
「しょうがないって……」
「全国狙うなら、楽な相手とだけ戦えば良いってことはない。強い相手を倒してこそ、初めて全国の切符を得られる……違うか?」
「いえ……おっしゃるとおりです」
美花さんが頷きます。
「それじゃあやることは一つだな……」
「こちらのブロックの県内4強チームを丸裸に!ということですね?」
「違う」
監督は美花さんの提案をあっさりと否定されます。
「ええっ⁉」
「こっちがええっ⁉だよ……一回戦はシード貰ったから、まずは二回戦に勝ち上がってきた相手に全力を注げるだろうが」
「あ、ああ、そうでした……」
「頼むぜ、ジャーマネ……」
「それでは気を取り直しまして、今日の試合を勝ち上がったチーム、新川萌芽の分析を始めたいと思います……」
「ああ、頼む……」
モニターに試合の映像を表示させて、美花さんからの説明が始まり、監督や私たちはその説明に耳を傾けました。その翌日……。
「決めた! あの赤アフロ! 見かけだけじゃない!」
迎えた二回戦、武さんの絶妙な個人技から先制弾が生まれました。
「あの二列目、厄介だ! ドリブルもパスもシュートもある!」
そうです、監督は武さんをワントップに置いて、その後ろに三人を並べました。右から聖良ちゃん、松内さん、輝さんの三人です。聖良ちゃんの鋭いドリブル、松内さんの相手の意表を突くパス、輝さんの精度の高いキックをそれぞれ警戒するあまり、相手ディフェンスはどうしても後手後手に回ってしまいました。
「11番のツインテールが内に切れ込んできたぞ! シュートブロック! なっ⁉」
聖良ちゃんは外に持ち出すと見せかけて、内側に入り込んできました。相手はシュートを警戒しますが、聖良ちゃんは中央に位置する松内さんへパスします。
「14番から11番へリターンあるぞ! あっ⁉」
松内さんは相手ディフェンスを嘲笑うかのように、ボールを左に送ります。そこにはフリーの状態の輝さんがいました。輝さんはファーストタッチで絶妙な位置にボールを置くと、間髪入れず左足を振り切ります。そこまで強烈ではありませんが、精度の高いシュートが相手ゴールネットの左上に突き刺さります。これで追加点です。
「落ちついてボールを繋いでいけ! 前からのプレスは甘い! のあっ⁉」
お察しの通り、守備があまり得意でない、輝さんと松内さんの当たりをかわして、相手はボールを前に送り込もうとしますが、残念ながらそこにはエマちゃんがいました。危機察知能力も高いエマちゃんがボールを回収してくれるため、相手の攻め手は限定されていました。
「あ、あの、ポニテの18番、春にはいなかったのに⁉」
相手が混乱している今がチャンスだと思い、私がするすると相手陣内に入り込んでいきます。相手は派手な赤アフロの武さんや、精力的な動きを見せる聖良ちゃんなどに気をとられ、私にまでなかなか注意を払えていません。今だ、と思った瞬間、エマちゃんから鋭い縦パスが入りました。少し強いパスでしたが、私はその勢いをあえて殺さず、ボールスピードの勢いに乗ったまま、ペナルティーエリアに侵入しました。相手ディフェンスラインの中央を割った形です。
私の前にはもう相手キーパーしか見えていません。
「キーパー! 前出ろ! んあっ⁉」
私は相手キーパーが前に重心を傾けたと同時にボールをふわっと浮かせたシュートを放ちました。いわゆるループシュートです。ボールは緩やかな軌道とともに、ゴールに吸い込まれました。これで3対0です。このまま前半が終わりました。
「い、1点取れば、流れは変わるぞ! くっ⁉」
松内さんに代わって入った莉沙ちゃんが積極的にプレッシャーをかけたことで、相手のディフェンスラインからのボールの繋ぎにミスが目立ち始めました。そこをエマちゃんと変わった桜庭さんが長い脚で、私と変わった成実さんが豊富な運動量を活かして、こぼれ球などを徹底的に狩っていきました。これにより相手に対してペースは容易に握らせません。
「ちっ、さっきの10番と18番コンビほどの攻撃センスはない! 押し込め!」
相手は多少無理をして、試合の流れを押し戻そうとしてきました。中盤にフレッシュな選手を投入してきたことも関係しているかもしれません。若干、こちらの陣内でボールをキープされるようになりました。
「よし、行けるぞ! パスを繋いで行け! ぬおっ⁉」
相手のチャンスの芽を摘み取っていったのは、真理さんです。さすがの読みの鋭さを活かしてパスカットをするだけでなく、ディフェンスラインもコントロールして、オフサイドを取るなど、ディフェンスリーダーとして堂々たる振る舞いでした。練習試合などを通じてもほとんど初めてセンターバックのコンビを組む、脇中さんとの連携も全く問題がありませんでした。
「くっ、4番がベンチだというのに、抑え込まれているだと……」
「とにかくシュートだ! 1本撃てば流れが変わる!」
「おおっ! こ、これはいった! なにっ⁉」
少し苦し紛れのシュートにも見えましたが、当たり所が良かったのか、良いコースに飛びました。一瞬、嫌な予感がしましたが、健さんが横っ飛びでボールを掴んでみせました。
「あ、あの13番何者だよ! 春の大会では控えだったろう⁉」
「!」
「‼」
「⁉ し、しまった⁉」
後半押し込まれたのはある程度計算の内でした。私たちは引いて守ってのカウンター工芸を狙っていたからです。健さんからの素早いスローイングを受けた桜庭さんの縦パスに反応したのは、輝さんに代わって投入され、ワントップの位置に入った流ちゃん。彼女が自慢の俊足を飛ばして、相手ディフェンスの裏を突破します。キーパーも前に出て来ましたが、流ちゃんは慌てず、ボールを相手ゴールに向かって流し込みました。これでスコアは4対0。
「ピッピッピィー!」
試合終了のホイッスルが吹かれます。『20XX年度 第XX回 全国高校サッカー選手権大会 宮城県大会』の第二回戦、私たち仙台和泉にとっては大事な初戦を突破することが出来ました。
「まあ、春のインターハイ予選で、ベスト8以内どころか、ベスト4に入ったうちのチームは第4シード権を得ることができました!」
「それはありがたいことだな……」
もはやサッカー部のミーティングルームと化してしまったような視聴覚教室で美花さんの言葉に監督が頷きます。
「ただ……」
「ただ?」
「なんと言いますか……」
美花さんが口ごもりまず。監督が後頭部を掻きます。
「あ~なんだよ、さっさっと結論を言えって」
「いわゆる『県内4強』の内、3チームがこっちのブロックに入ってきてしまいました……」
「あ~」
監督が頷きます。
「このままだと、決勝まで、4強の内2チームとはほぼ確実に当たることになります……!」
「なんだって、そんな面倒そうな事態に……」
監督が対戦表を眺めます。美花さんが補足します。
「春の大会でうちのチームがベスト4常連の常盤野さんを2回戦で早々と下して代わりにベスト4に進出してしまったからですね……」
「ああ、そういやそうだったな、それならまあしゃあないわ……」
監督がわざとらしく両手を挙げます。
「しょうがないって……」
「全国狙うなら、楽な相手とだけ戦えば良いってことはない。強い相手を倒してこそ、初めて全国の切符を得られる……違うか?」
「いえ……おっしゃるとおりです」
美花さんが頷きます。
「それじゃあやることは一つだな……」
「こちらのブロックの県内4強チームを丸裸に!ということですね?」
「違う」
監督は美花さんの提案をあっさりと否定されます。
「ええっ⁉」
「こっちがええっ⁉だよ……一回戦はシード貰ったから、まずは二回戦に勝ち上がってきた相手に全力を注げるだろうが」
「あ、ああ、そうでした……」
「頼むぜ、ジャーマネ……」
「それでは気を取り直しまして、今日の試合を勝ち上がったチーム、新川萌芽の分析を始めたいと思います……」
「ああ、頼む……」
モニターに試合の映像を表示させて、美花さんからの説明が始まり、監督や私たちはその説明に耳を傾けました。その翌日……。
「決めた! あの赤アフロ! 見かけだけじゃない!」
迎えた二回戦、武さんの絶妙な個人技から先制弾が生まれました。
「あの二列目、厄介だ! ドリブルもパスもシュートもある!」
そうです、監督は武さんをワントップに置いて、その後ろに三人を並べました。右から聖良ちゃん、松内さん、輝さんの三人です。聖良ちゃんの鋭いドリブル、松内さんの相手の意表を突くパス、輝さんの精度の高いキックをそれぞれ警戒するあまり、相手ディフェンスはどうしても後手後手に回ってしまいました。
「11番のツインテールが内に切れ込んできたぞ! シュートブロック! なっ⁉」
聖良ちゃんは外に持ち出すと見せかけて、内側に入り込んできました。相手はシュートを警戒しますが、聖良ちゃんは中央に位置する松内さんへパスします。
「14番から11番へリターンあるぞ! あっ⁉」
松内さんは相手ディフェンスを嘲笑うかのように、ボールを左に送ります。そこにはフリーの状態の輝さんがいました。輝さんはファーストタッチで絶妙な位置にボールを置くと、間髪入れず左足を振り切ります。そこまで強烈ではありませんが、精度の高いシュートが相手ゴールネットの左上に突き刺さります。これで追加点です。
「落ちついてボールを繋いでいけ! 前からのプレスは甘い! のあっ⁉」
お察しの通り、守備があまり得意でない、輝さんと松内さんの当たりをかわして、相手はボールを前に送り込もうとしますが、残念ながらそこにはエマちゃんがいました。危機察知能力も高いエマちゃんがボールを回収してくれるため、相手の攻め手は限定されていました。
「あ、あの、ポニテの18番、春にはいなかったのに⁉」
相手が混乱している今がチャンスだと思い、私がするすると相手陣内に入り込んでいきます。相手は派手な赤アフロの武さんや、精力的な動きを見せる聖良ちゃんなどに気をとられ、私にまでなかなか注意を払えていません。今だ、と思った瞬間、エマちゃんから鋭い縦パスが入りました。少し強いパスでしたが、私はその勢いをあえて殺さず、ボールスピードの勢いに乗ったまま、ペナルティーエリアに侵入しました。相手ディフェンスラインの中央を割った形です。
私の前にはもう相手キーパーしか見えていません。
「キーパー! 前出ろ! んあっ⁉」
私は相手キーパーが前に重心を傾けたと同時にボールをふわっと浮かせたシュートを放ちました。いわゆるループシュートです。ボールは緩やかな軌道とともに、ゴールに吸い込まれました。これで3対0です。このまま前半が終わりました。
「い、1点取れば、流れは変わるぞ! くっ⁉」
松内さんに代わって入った莉沙ちゃんが積極的にプレッシャーをかけたことで、相手のディフェンスラインからのボールの繋ぎにミスが目立ち始めました。そこをエマちゃんと変わった桜庭さんが長い脚で、私と変わった成実さんが豊富な運動量を活かして、こぼれ球などを徹底的に狩っていきました。これにより相手に対してペースは容易に握らせません。
「ちっ、さっきの10番と18番コンビほどの攻撃センスはない! 押し込め!」
相手は多少無理をして、試合の流れを押し戻そうとしてきました。中盤にフレッシュな選手を投入してきたことも関係しているかもしれません。若干、こちらの陣内でボールをキープされるようになりました。
「よし、行けるぞ! パスを繋いで行け! ぬおっ⁉」
相手のチャンスの芽を摘み取っていったのは、真理さんです。さすがの読みの鋭さを活かしてパスカットをするだけでなく、ディフェンスラインもコントロールして、オフサイドを取るなど、ディフェンスリーダーとして堂々たる振る舞いでした。練習試合などを通じてもほとんど初めてセンターバックのコンビを組む、脇中さんとの連携も全く問題がありませんでした。
「くっ、4番がベンチだというのに、抑え込まれているだと……」
「とにかくシュートだ! 1本撃てば流れが変わる!」
「おおっ! こ、これはいった! なにっ⁉」
少し苦し紛れのシュートにも見えましたが、当たり所が良かったのか、良いコースに飛びました。一瞬、嫌な予感がしましたが、健さんが横っ飛びでボールを掴んでみせました。
「あ、あの13番何者だよ! 春の大会では控えだったろう⁉」
「!」
「‼」
「⁉ し、しまった⁉」
後半押し込まれたのはある程度計算の内でした。私たちは引いて守ってのカウンター工芸を狙っていたからです。健さんからの素早いスローイングを受けた桜庭さんの縦パスに反応したのは、輝さんに代わって投入され、ワントップの位置に入った流ちゃん。彼女が自慢の俊足を飛ばして、相手ディフェンスの裏を突破します。キーパーも前に出て来ましたが、流ちゃんは慌てず、ボールを相手ゴールに向かって流し込みました。これでスコアは4対0。
「ピッピッピィー!」
試合終了のホイッスルが吹かれます。『20XX年度 第XX回 全国高校サッカー選手権大会 宮城県大会』の第二回戦、私たち仙台和泉にとっては大事な初戦を突破することが出来ました。
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