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第3章 秋の戦い
第25話(1) カラオケボックスにて
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25
ある日の練習終わり、緑川たち6人はカラオケボックスに来ていた。
「いや~今日は練習が早く終わって良かったヨ」
部屋に入り、バッグを置いて大きく伸びをする谷尾に神不知火が尋ねる。
「ヴァネッサさんが、菊沢さんと石野さんと別行動とは珍しいですね?」
「あ~いや、そういうこともあるヨ。奢ってくれるっていうしナ……」
谷尾が後ろに振り返る。緑川が呟く。
「商店街の関係で無料クーポンを頂いたので……使ってしまおうと……」
「なるほど、そういうことですか。しかし何故このメンバーで?」
「いえ、特に理由はありませんよ」
「はあ……」
「っていうか、オンミョウ、お前が来る方が珍しいだろうヨ?」
「意味はありません。なんとなく勘が働きましたので……」
「なんか怖いナ。詳しくは聞かないでおくワ……」
谷尾が苦笑する。席に座った池田が声をかける。
「時間は限られているからさーさっさと歌っちゃおうー」
「それじゃあ、私から……」
桜庭が端末を手に取ろうとする。池田が止める。
「美来はダメー」
「な、なんでよ?」
「上手い人が一番手は後の人が歌いにくくなるからー」
「そ、そんな……」
「というわけで、初っ端はヴァネちゃん行ってみよー」
「ア、アタシかヨ⁉ ま、まあ、良いけどヨ……」
「イエーイ」
「~♪」
谷尾が一曲目を歌い終える。緑川と神不知火が感心する。
「ふむ、さすがのリズム感ですね……」
「どことなく南米の香りを感じさせますね……」
「いや、そういうリアクションされても困るんだけどヨ……」
「ヴァネちゃん、イエーイ」
池田がタンバリンをやる気なさそうに鳴らす。谷尾が目を細める。
「いまいちやる気のないリアクションだナ……」
「ほんじゃあ、お次は名和ねー」
「わ、私は後でいい!」
池田からの指名にこれまで黙っていた永江が困惑する。
「そう言ってどさくさ紛れに歌わないつもりなんだからー」
「そ、そんなことは……」
「ほらほらー」
「わ、分かったよ!」
「オウ、イエーイ」
「~♪」
永江が歌い終える。谷尾が感想を述べる。
「副キャプって……案外可愛い声だよナ……」
「あ、案外とはなんだ! じゃ、じゃなくて、別に可愛くない!」
永江が顔を赤くする。
「ほんじゃあ、お次は美郷、行ってみようかー」
「私は後で良いですよ」
「またそう言って、歌わないつもりでしょうーその手には乗らないよー」
「その手って……まあ、良いでしょう」
「ヘイ、イエーイ」
「~♪」
緑川が歌い終える。
「キャプテン、なかなか上手いナ……」
「ありがとうございます」
緑川は谷尾に礼を言う。
「アップテンポが続いたので、あえてゆっくりとしたテンポの歌……選曲センスも絶妙ですね」
「真理さん、別にそこまで考えていませんから……」
神不知火の分析に緑川が珍しく困り顔を浮かべる。
「うん、それじゃあ、オンミョウちゃん、行こうかー?」
池田が神不知火を指名する。
「わたくしですか……それでは失礼して……」
「二年として三年のパイセンらには負けられねえゾ!」
「いつから学年対抗戦に?」
「セイ、イエーイ」
「~♪」
「ふむ、なかなかの歌唱力、なんでもソツなくこなすな……」
永江が感心する。
「いや~オンミョウの演歌は心に響くナ~!」
「古い歌=演歌ではないのですが……まあ、それは良いでしょう」
「お待たせー次は美来だよー」
「よしきた!」
「場は暖めておいたからー」
「暖めたのは私たちのような気もしますが……」
緑川の言葉をよそに、池田がタンバリンを鳴らす。
「レッツ、イエーイ」
「~♪」
「さすがに上手いゼ!」
「これが『歌ってみた』動画再生数、数百万回者の実力……」
桜庭の歌唱に谷尾と神不知火が感服する。
「『いいねとチャンネル登録よろしく~』って、なんちゃって~」
「美来、どんどん歌っちゃおうー」
「ちょっと待って下さい、弥凪」
「お前こそどさくさ紛れに歌わないつもりだろう?」
緑川と永江が池田に迫る。池田が目を逸らす。
「バ、バレたかー」
「なんでも良いから歌え」
「分かったよー」
「まったく……」
「~♪」
「オオッ! ダーイケパイセン、上手いじゃねえかヨ!」
「いやーそれほどでもあるよー」
カラオケは続く。緑川が呟く。
「……盛り上がって良かったです」
「何が狙いだ?」
隣に座る永江が尋ねる。
「え?」
「え?じゃない、お前のことだ。適当に声をかけたと思わせて、守備陣のレギュラー候補がほとんどじゃないか。美来にしても守備的ポジションでの起用が濃厚だからな」
「……それぞれの人となりを知ることが、連携を深めることに繋がりますから……」
「最初から素直にそう言えば良いんじゃないか?」
永江が呆れ気味に首を傾げる。部屋に桜庭の美声が響く。
ある日の練習終わり、緑川たち6人はカラオケボックスに来ていた。
「いや~今日は練習が早く終わって良かったヨ」
部屋に入り、バッグを置いて大きく伸びをする谷尾に神不知火が尋ねる。
「ヴァネッサさんが、菊沢さんと石野さんと別行動とは珍しいですね?」
「あ~いや、そういうこともあるヨ。奢ってくれるっていうしナ……」
谷尾が後ろに振り返る。緑川が呟く。
「商店街の関係で無料クーポンを頂いたので……使ってしまおうと……」
「なるほど、そういうことですか。しかし何故このメンバーで?」
「いえ、特に理由はありませんよ」
「はあ……」
「っていうか、オンミョウ、お前が来る方が珍しいだろうヨ?」
「意味はありません。なんとなく勘が働きましたので……」
「なんか怖いナ。詳しくは聞かないでおくワ……」
谷尾が苦笑する。席に座った池田が声をかける。
「時間は限られているからさーさっさと歌っちゃおうー」
「それじゃあ、私から……」
桜庭が端末を手に取ろうとする。池田が止める。
「美来はダメー」
「な、なんでよ?」
「上手い人が一番手は後の人が歌いにくくなるからー」
「そ、そんな……」
「というわけで、初っ端はヴァネちゃん行ってみよー」
「ア、アタシかヨ⁉ ま、まあ、良いけどヨ……」
「イエーイ」
「~♪」
谷尾が一曲目を歌い終える。緑川と神不知火が感心する。
「ふむ、さすがのリズム感ですね……」
「どことなく南米の香りを感じさせますね……」
「いや、そういうリアクションされても困るんだけどヨ……」
「ヴァネちゃん、イエーイ」
池田がタンバリンをやる気なさそうに鳴らす。谷尾が目を細める。
「いまいちやる気のないリアクションだナ……」
「ほんじゃあ、お次は名和ねー」
「わ、私は後でいい!」
池田からの指名にこれまで黙っていた永江が困惑する。
「そう言ってどさくさ紛れに歌わないつもりなんだからー」
「そ、そんなことは……」
「ほらほらー」
「わ、分かったよ!」
「オウ、イエーイ」
「~♪」
永江が歌い終える。谷尾が感想を述べる。
「副キャプって……案外可愛い声だよナ……」
「あ、案外とはなんだ! じゃ、じゃなくて、別に可愛くない!」
永江が顔を赤くする。
「ほんじゃあ、お次は美郷、行ってみようかー」
「私は後で良いですよ」
「またそう言って、歌わないつもりでしょうーその手には乗らないよー」
「その手って……まあ、良いでしょう」
「ヘイ、イエーイ」
「~♪」
緑川が歌い終える。
「キャプテン、なかなか上手いナ……」
「ありがとうございます」
緑川は谷尾に礼を言う。
「アップテンポが続いたので、あえてゆっくりとしたテンポの歌……選曲センスも絶妙ですね」
「真理さん、別にそこまで考えていませんから……」
神不知火の分析に緑川が珍しく困り顔を浮かべる。
「うん、それじゃあ、オンミョウちゃん、行こうかー?」
池田が神不知火を指名する。
「わたくしですか……それでは失礼して……」
「二年として三年のパイセンらには負けられねえゾ!」
「いつから学年対抗戦に?」
「セイ、イエーイ」
「~♪」
「ふむ、なかなかの歌唱力、なんでもソツなくこなすな……」
永江が感心する。
「いや~オンミョウの演歌は心に響くナ~!」
「古い歌=演歌ではないのですが……まあ、それは良いでしょう」
「お待たせー次は美来だよー」
「よしきた!」
「場は暖めておいたからー」
「暖めたのは私たちのような気もしますが……」
緑川の言葉をよそに、池田がタンバリンを鳴らす。
「レッツ、イエーイ」
「~♪」
「さすがに上手いゼ!」
「これが『歌ってみた』動画再生数、数百万回者の実力……」
桜庭の歌唱に谷尾と神不知火が感服する。
「『いいねとチャンネル登録よろしく~』って、なんちゃって~」
「美来、どんどん歌っちゃおうー」
「ちょっと待って下さい、弥凪」
「お前こそどさくさ紛れに歌わないつもりだろう?」
緑川と永江が池田に迫る。池田が目を逸らす。
「バ、バレたかー」
「なんでも良いから歌え」
「分かったよー」
「まったく……」
「~♪」
「オオッ! ダーイケパイセン、上手いじゃねえかヨ!」
「いやーそれほどでもあるよー」
カラオケは続く。緑川が呟く。
「……盛り上がって良かったです」
「何が狙いだ?」
隣に座る永江が尋ねる。
「え?」
「え?じゃない、お前のことだ。適当に声をかけたと思わせて、守備陣のレギュラー候補がほとんどじゃないか。美来にしても守備的ポジションでの起用が濃厚だからな」
「……それぞれの人となりを知ることが、連携を深めることに繋がりますから……」
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