アタシをボランチしてくれ!~仙台和泉高校女子サッカー部奮戦記~

阿弥陀乃トンマージ

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第3章 秋の戦い

第24話(2) 攻撃のポジションに関して

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「攻撃面ですが……両アウトサイドもしくはウィングバックにはあの二人を?」

 小嶋の問いに春名寺が頷く。

「ああ、右はあいつ、白雲流(しらくもながれ)……」

 春名寺は右目を隠すような前髪と後ろで短く結んだ髪型の選手に視線を向ける。

「陸上部出身のあのスピードは魅力的です。登録上はディフェンダーですが……」

「守備はまだまだ危なっかしいな……しかし、あのスピードに加え、夏を超えて、スタミナもついてきた。長時間、サイドをアップダウン出来るのはそれだけでも価値がある」

「とはいえ、先発起用までにはまだ至りませんか?」

「クロスの精度、守備対応など……まだまだクオリティを上げないといけないことが多いからな。だけど、サッカーに本格転向したのは中二の冬からだろう? それなら伸び代は十分だ。あいつに関してはある程度長い目で見るさ……」

 春名寺はふっと笑う。小嶋が続ける。

「左は趙さんですね」

「そうだな、趙莉沙(ちょうりさ)だ」

 春名寺は両肩にかかるくらいの短いおさげと意志の強そうな切れ長の目が印象的な選手の方に視線を移す。小嶋が話す。

「攻撃性能は言うまでもありませんが、中学時代はサイドバックもやったことがあるそうなので、守備力もそれなりに高いですね」

「とはいっても、キャプテンを押し退けて先発とまではいかねえな」

「切り札、ジョーカー的な扱いですか……」

「おおっ、なんかカッコいいわね」

 九十九が小嶋の言葉に反応する。春名寺が苦笑する。

「相手が疲れてきたときに投入すると効果的だと思うぜ。ベタな手ではあるがな……」

「でも、基本的にはもっと攻撃的なポジションでの起用が主ですよね?」

「ああ、例えば右サイドハーフか右ウィングでの起用だな。右から中央にカットイン、切れ込んでからの利き足である左でシュート……分かっていてもなかなか止められないってやつだ」

「ウィングバックはあくまでもオプションだと……」

「もちろんそれは本人にもしっかり伝えてある。試合に出られるならばと、ウィングバックの練習にも黙々と意欲的に取り組んでくれているけどな」

「そうですね。とっても真面目です」

「監督としてはああいう選手の存在はありがたいもんだぜ」

 春名寺が笑みを浮かべる。

「中盤の構成ですが……」

「3‐5‐2とは言ったが、実際は3‐4‐2‐1って組み合わせの方が多くなりそうだな」

「トップ下を二枚並べるということですね」

 小嶋がボードのマグネットを動かす。

「イメージ的にはな、起用する選手のタイプ次第では2シャドーって言い変えてもいいのかもしれねえが……」

「基本的には、ヒカルちゃん……菊沢さんと姫藤さんを並べる感じですか?」

「まあ、菊沢がトータルで抜けているな、さすがはプロチーム『織姫仙台(おりひめせんだい)FC』のジュニアユース出身だけあって基本技術がしっかりとしていやがる」

「谷尾さんと石野さんも同じチーム出身なのよね?」

「ええ、そうです」

 九十九の問いに小嶋が頷く。春名寺が呟く。

「素行は良いとまでは言えねえが、あの三人がいるといないとでは違うな。特にやっぱり菊沢……あの左足のキック技術は全国レベルじゃねえか?」

「昔からすごいこだわっていましたから……」

「ああ、ジャーマネは古い付き合いか……どちらかと言えば、パサータイプの菊沢と組ませるなら、ドリブラータイプの姫藤が良いな。まだ一年だが、さすが関東で鳴らしただけはあるぜ」

「千葉県の中学時代の活躍ぶりから付いた異名は『幕張の電光石火』です」

 小嶋が眼鏡の蔓を触りながら呟く。春名寺が首を捻る。

「わ、わりと限定的な異名なのが少し気になるが……千葉じゃ駄目だったのか? まあ、それはいいとして、あの二人を横に並べるもよし、気持ち縦に並べても面白そうだな」

「姫藤さんをフォワードで起用するということも……」

「もちろん、それも選択肢の一つだ。純粋なフォワードというよりかは、セカンドトップ的な役割になってくるが」

「菊沢さんを左のウィングバックで使うというのは?」

「……ジャーマネがそれを提案してくるとはな、考えてはみたが、あいつが守備をやるか?」

「しないことはないですよ。あの位置からの正確なクロスは大きな武器になるかと思いまして」

「一応、サブオプションくらいには考えてはいるさ」

「なるほど、それで松内さんなのですが……」

「マッチ、松内千尋(まつうちちひろ)か……」

 春名寺はチームでも随一の端正なルックスの持ち主で、プレー中にも髪を優雅にかき上げている選手に目をやる。

「どういう起用法でお考えですか?」

「パスセンスは良いものがある。右足のキック精度も高いしな、何よりプレーに華がある。使いたくなる選手ではあるな」

「松内さん、ファンクラブがあるくらいだものね」

 九十九が松内を眺めながら呟く。春名寺が苦笑気味に話す。

「ファンクラブからのプレッシャーは怖いな……それは冗談だが、先発で起用するには、もうちょっと球際の強さを求めたい、運動量ももっと欲しいところだ」

「……例えば、中盤の枚数を増やすのはどうでしょうか?」

 小嶋がボードのマグネットを動かし、春名寺に見せる。

「なるほど、守備的なボランチ……アンカーに石野を置いて、守備はある程度任せ、その前の二枚を丸井か鈴森という気の利いた選手を使ってマッチと組ませると……」

「そうです。インサイドハーフですね」

「繰り返しみたいになるが、守備の貢献度がもうちょっと欲しいな。その辺が向上すれば、その組み合わせもサブオプションくらいにはなると思うが」

「そうですか。最後にフォワードですが、先ほどのお話だと、ワントップ気味になりますか?」

「そうだな」

「ファーストチョイスは武先輩?」

「ああ、武秋魚(たけあきな)だ」

 春名寺が顎をしゃくった先には、長身の赤毛のソフトアフロな選手がいる。

「武先輩は誰とも合わせられますよね」

「ああ見えて、結構器用な選手なんだよな……」

「お家がお寿司屋さんで『ポリバレントなお寿司屋さん』を目指しているみたいだからね」

 九十九の情報に春名寺が戸惑う。

「そ、その意味はよく分からねえけど、ツートップでも先発の軸になる選手だな」

「うおおっ! ありゃ?」

「竜乃! ちゃんとボールを見て蹴りなさいよ!」

 豪快に空振りした龍波に姫藤が怒る。小嶋が眼鏡を抑えながら問う。

「龍波さんですが……」

「運動能力の高さは経験不足を補ってあまりある。底知れぬポテンシャルも感じさせる。なんといってもあの左足の強烈なシュートだ。あの武器を磨けば、全国だって夢じゃないだろう」

「おおおっ! あれ?」

「……今んとこは壮大な夢物語だな」

 またも派手に空振りする龍波を見て、春名寺は苦笑する。
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