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第3章 秋の戦い
第23話(3) 夏の終わりのミーティング
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「ミーティングかよ、練習したいのによ……」
私たちは空き教室に集められました。竜乃ちゃんが唇を尖らせます。聖良ちゃんが呆れます。
「アンタ、練習キツいとか言っていたじゃないの……」
「ミーティングは単純に眠くなるから嫌なんだよ」
「……うぃ~す」
黒ずくめのライダース姿の女性が教室に入ってこられました。髪型は黒髪のミディアムロングで、前髪を右に垂らしており、左眉をはじめ、いくつか付けたピアスがよく目立つ女性です。今日はいつもより髪がボサっとしています。この学校にはあまり似つかわしくない方、春名寺恋(しゅんみょうじれん)さんと言って、夏のちょっと前から私たち仙台和泉サッカー部の監督を務められています。サッカー部のOGでもあり、自他ともに『伝説のレジェンド』との異名で呼ばれています。自他ともになど、色々と気になることがありますが、そこは気にしないことにしています。最前列に座るキャプテンが皆に声をかけます。
「……起立」
「あ~そういうのいいって、座れ、座れ」
監督が皆を座るように促し、自身も教壇の横にパイプ椅子を広げて座ります。
「……よろしくお願いします」
「はいよ……」
「大丈夫ですか?」
キャプテンが問いかけます。監督は教壇に頬杖を突きながら答えます。
「いや~昨日、先生と飲み比べしたんだけどよ、完全な二日酔いだわ……」
「? 私は平気ですけど?」
教室の後方に立っているタイトスカート姿で、肩までの長さでの緩くウェーブがかかったミディアムヘアのスラリとしたスタイルで、細いフレームの眼鏡をかけた女性が首を傾げます。この方は九十九知子(つくもともこ)先生、サッカー部の顧問で、私の在籍する一年C組の担任の先生でもあります。ちなみに担当教科は英語です。
「マジかよ……」
「昨日は楽しかったです♪ また行きましょう」
「いや、ちょっと考えさせてくれ……えっと、ジャーマネ」
「はい」
監督の呼びかけに、教壇の近くに立っていた学校指定の小豆色のジャージを着た眼鏡のショートカットの女の子が返事をします。この方は小嶋美花(こじまみか)さん。二年生でマネージャーさんです。
「今日はなんだっけ?」
「例の件です……」
「例の……ああ、あれか」
監督が後頭部を掻きます。キャプテンが怪訝そうに尋ねます。
「監督……?」
「いや、悪い。大丈夫だ。早速本題に入るが、お前ら、この秋の目標はなんだ?」
「そりゃあ優勝だろう!」
「頂点しかありえませんわ!」
監督の問いかけに、竜乃ちゃんと健さんが威勢よく答えます。聖良ちゃんが頭を抱えます。
「アンタたちねえ、そんな大きなこと言える立場じゃないでしょう……」
「いや、龍波やお嬢の言う通りだ」
「え?」
監督の反応に、皆が注目します。
「こういうのははっきりと言葉に出さないとダメなんだよ。『一つでも上へ』とか、『上位進出を目指す』とか曖昧なことを言っていたら、大抵いい結果は出ねえもんだ」
「そ、それはそうかもしれませんけど……」
「春はベスト4なんだ、もっと自信を持っていい」
「は、はあ……」
監督の言葉に聖良ちゃんは一応頷きます。キャプテンが口を開きます。
「とはいえ、相手からのマークもキツくなります」
「それもあるな……それに、現在このチームは登録ギリギリの18人、他のいわゆる強豪チームは数十人、あるいは百人近い部員を擁している。これが意味することが分かるか?」
「……激しいメンバー争いです」
監督からの問いかけにキャプテンが答えます。監督が頷きます。
「そうだ、まずはベンチ入りを巡っての争い、それを勝ち抜いてからはピッチに立つレギュラーメンバー11人に入るための争いが繰り広げられている……日常的にな。日々の練習から気が抜けないわけだ。そうすると、自ずとチーム力が上がる。よって、強豪とその他のチームではどんどんと差が開いていく……」
監督は大げさに両手を広げてみせます。キャプテンが呟きます。
「その差をどうにかして埋めないといけませんね」
「ああ、だが、普通にやっては無理だな」
「な、何を弱気な!」
健さんが声を上げます。監督は片手を挙げて健さんをなだめます。
「落ち着け、普通にやっては……と言った」
「ふむ……?」
「皆がこの夏の厳しいトレーニングを乗り越えてくれたことによって、スタミナや運動量の下地は出来たと言える」
「結構走ったからな……」
竜乃ちゃんがボソッと呟きます。
「そこにプラスアルファを加える」
「プラスアルファ?」
キャプテンが首を傾げます。
「ああ、選手層の薄さは各自のポリバレント性で補う」
「ポリバレント性……」
「複数のポジションをこなせる選手が増えるのが理想だ。もっとも、夏の練習の時点で察しがついていたやつも多いと思うが……」
「確かに、普段とは違うポジションで練習試合に臨んだこともありましたね……」
「それによって、ある程度のベースは整った。もちろん、もっともっと細部を突き詰めないといけねえが……」
「なるほど、それで選手層の薄さに関してはある程度補えるかとは思いますが……」
キャプテンが首を捻ります。それを見て監督が笑います。
「まだ疑わしいみてえだな?」
「……それで強豪との差は埋まるでしょうか?」
「そう簡単には埋まらねえだろうな。話を戻すと、春にベスト4に入ったことによって、他校からのうちへのマークはより厳しいものになる。研究も進むだろうな。単純に個々のポジションを入れ替えたところでどうにかなるものでもねえ」
「それでは……」
「そこでだ、もう一捻り加える」
監督が右手の人差し指を立てます。
「もう一捻り?」
キャプテンが再び首を傾げます。監督が笑みを浮かべて告げます。
「新たなシステムの導入だ」
「新たなシステム?」
「ああ、従来の4‐4‐2だけでなく、3‐5‐2システムを取り入れる!」
「‼」
監督の宣言に教室中が驚きに包まれます。
私たちは空き教室に集められました。竜乃ちゃんが唇を尖らせます。聖良ちゃんが呆れます。
「アンタ、練習キツいとか言っていたじゃないの……」
「ミーティングは単純に眠くなるから嫌なんだよ」
「……うぃ~す」
黒ずくめのライダース姿の女性が教室に入ってこられました。髪型は黒髪のミディアムロングで、前髪を右に垂らしており、左眉をはじめ、いくつか付けたピアスがよく目立つ女性です。今日はいつもより髪がボサっとしています。この学校にはあまり似つかわしくない方、春名寺恋(しゅんみょうじれん)さんと言って、夏のちょっと前から私たち仙台和泉サッカー部の監督を務められています。サッカー部のOGでもあり、自他ともに『伝説のレジェンド』との異名で呼ばれています。自他ともになど、色々と気になることがありますが、そこは気にしないことにしています。最前列に座るキャプテンが皆に声をかけます。
「……起立」
「あ~そういうのいいって、座れ、座れ」
監督が皆を座るように促し、自身も教壇の横にパイプ椅子を広げて座ります。
「……よろしくお願いします」
「はいよ……」
「大丈夫ですか?」
キャプテンが問いかけます。監督は教壇に頬杖を突きながら答えます。
「いや~昨日、先生と飲み比べしたんだけどよ、完全な二日酔いだわ……」
「? 私は平気ですけど?」
教室の後方に立っているタイトスカート姿で、肩までの長さでの緩くウェーブがかかったミディアムヘアのスラリとしたスタイルで、細いフレームの眼鏡をかけた女性が首を傾げます。この方は九十九知子(つくもともこ)先生、サッカー部の顧問で、私の在籍する一年C組の担任の先生でもあります。ちなみに担当教科は英語です。
「マジかよ……」
「昨日は楽しかったです♪ また行きましょう」
「いや、ちょっと考えさせてくれ……えっと、ジャーマネ」
「はい」
監督の呼びかけに、教壇の近くに立っていた学校指定の小豆色のジャージを着た眼鏡のショートカットの女の子が返事をします。この方は小嶋美花(こじまみか)さん。二年生でマネージャーさんです。
「今日はなんだっけ?」
「例の件です……」
「例の……ああ、あれか」
監督が後頭部を掻きます。キャプテンが怪訝そうに尋ねます。
「監督……?」
「いや、悪い。大丈夫だ。早速本題に入るが、お前ら、この秋の目標はなんだ?」
「そりゃあ優勝だろう!」
「頂点しかありえませんわ!」
監督の問いかけに、竜乃ちゃんと健さんが威勢よく答えます。聖良ちゃんが頭を抱えます。
「アンタたちねえ、そんな大きなこと言える立場じゃないでしょう……」
「いや、龍波やお嬢の言う通りだ」
「え?」
監督の反応に、皆が注目します。
「こういうのははっきりと言葉に出さないとダメなんだよ。『一つでも上へ』とか、『上位進出を目指す』とか曖昧なことを言っていたら、大抵いい結果は出ねえもんだ」
「そ、それはそうかもしれませんけど……」
「春はベスト4なんだ、もっと自信を持っていい」
「は、はあ……」
監督の言葉に聖良ちゃんは一応頷きます。キャプテンが口を開きます。
「とはいえ、相手からのマークもキツくなります」
「それもあるな……それに、現在このチームは登録ギリギリの18人、他のいわゆる強豪チームは数十人、あるいは百人近い部員を擁している。これが意味することが分かるか?」
「……激しいメンバー争いです」
監督からの問いかけにキャプテンが答えます。監督が頷きます。
「そうだ、まずはベンチ入りを巡っての争い、それを勝ち抜いてからはピッチに立つレギュラーメンバー11人に入るための争いが繰り広げられている……日常的にな。日々の練習から気が抜けないわけだ。そうすると、自ずとチーム力が上がる。よって、強豪とその他のチームではどんどんと差が開いていく……」
監督は大げさに両手を広げてみせます。キャプテンが呟きます。
「その差をどうにかして埋めないといけませんね」
「ああ、だが、普通にやっては無理だな」
「な、何を弱気な!」
健さんが声を上げます。監督は片手を挙げて健さんをなだめます。
「落ち着け、普通にやっては……と言った」
「ふむ……?」
「皆がこの夏の厳しいトレーニングを乗り越えてくれたことによって、スタミナや運動量の下地は出来たと言える」
「結構走ったからな……」
竜乃ちゃんがボソッと呟きます。
「そこにプラスアルファを加える」
「プラスアルファ?」
キャプテンが首を傾げます。
「ああ、選手層の薄さは各自のポリバレント性で補う」
「ポリバレント性……」
「複数のポジションをこなせる選手が増えるのが理想だ。もっとも、夏の練習の時点で察しがついていたやつも多いと思うが……」
「確かに、普段とは違うポジションで練習試合に臨んだこともありましたね……」
「それによって、ある程度のベースは整った。もちろん、もっともっと細部を突き詰めないといけねえが……」
「なるほど、それで選手層の薄さに関してはある程度補えるかとは思いますが……」
キャプテンが首を捻ります。それを見て監督が笑います。
「まだ疑わしいみてえだな?」
「……それで強豪との差は埋まるでしょうか?」
「そう簡単には埋まらねえだろうな。話を戻すと、春にベスト4に入ったことによって、他校からのうちへのマークはより厳しいものになる。研究も進むだろうな。単純に個々のポジションを入れ替えたところでどうにかなるものでもねえ」
「それでは……」
「そこでだ、もう一捻り加える」
監督が右手の人差し指を立てます。
「もう一捻り?」
キャプテンが再び首を傾げます。監督が笑みを浮かべて告げます。
「新たなシステムの導入だ」
「新たなシステム?」
「ああ、従来の4‐4‐2だけでなく、3‐5‐2システムを取り入れる!」
「‼」
監督の宣言に教室中が驚きに包まれます。
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