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第3章 秋の戦い
第23話(2) お嬢様はゴールキーパー
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「ふむ……ん⁉」
先頭を歩いていた竜乃ちゃんが急に立ち止まり、身を屈めます。
「ちょっと竜乃、アンタ体が大きいんだから、周りを邪魔するような歩き方しないでよ……」
「しー! 静かにしろ、ピカ子!」
竜乃ちゃんは唇に指を当てて、もう片方の指で河原の方を指差します。私が首を傾げます。
「河原のグラウンド? こんなところにあったんだ……」
「早朝の草サッカーとかで使っているところでしょう? あれがどうしたのよ?」
「あそこで向かい合っている連中を見ろよ」
「ん? ああ……!」
聖良ちゃんと私が小さく驚きます。そこには私たち仙台和泉高校サッカー部のチームメイトである数人が何やら言い争っていたからです。竜乃ちゃんがどこか嬉しそうに呟きます。
「ケンカか?」
「い、いや、ケンカは困るよ……」
「もうちょっと近づいてみましょう」
聖良ちゃんの言葉通り、私たちは河原の方に降りていきます。声がよく聞こえてきます。
「ですから……この場所をわたくしたちに譲って下さるということでよろしいですわね?」
黒髪ロングのストレートで、大柄というわけではありませんが、スラリとしたスタイルをしていらっしゃる伊達仁健(だてにすこやか)さんが、キーパーグローブをいじりながら、そのように告げます。
「ふざけんナ!」
「アタシらの方が先だったし!」
大柄な体格の褐色で、髪型はソフトリーゼントで、髪色は明るい色をしている女の子と、その方と比べると小柄な、髪型は右側頭部のみアップにした、変則的なサイドテールで前髪は右側から左側にかけて長くなっているアシンメトリーというものにしている女の子が反発します。
「スコッパのやつ、無茶を言うぜ……」
「あの先輩方がはい、そうですかと避けるわけないでしょうに……」
近くで様子を伺っていた竜乃ちゃんは苦笑し、聖良ちゃんが軽く頭を抱えます。そうです、健さんがお話しているのは、二年生の谷尾(やお)ヴァネッサ恵美(えみ)さんと石野成実(いしのなるみ)さんです。二人ともこのサッカー部になくてはならない方たちです。健さんはため息をつきます。
「……仕方ありませんわね、いくらかお支払いすれば良いのでしょう?」
「おおっ⁉ マジデ⁉」
「さ、さすが伊達仁コンツェルンのお嬢様、太っ腹だし!」
「ヴァネ! 成実!」
二人の間でボールに座っていた女の子がゆっくりと立ち上がります。彼女は菊沢輝(きくさわひかる)さん。髪の色は薄い茶色、髪型は胸元ほどの長さのセミロングでゆるくウェーブがかかっています。いわゆる「ゆるふわ系」ですが、この三人組のリーダー的存在です。
「ヒ、ヒカル……」
「一年に借りを作るつもり?」
「そ、そういうわけじゃないし……」
輝さんの言葉に二人ともあっさり黙ってしまいました。輝さんは健さんの方に向き直ります。
「……無理言わないで、場所なら他を当たってちょうだい」
「いいえ、ここがよろしいのですわ! 無理も通せば、道理になります!」
「す、健さん、やっぱりおめさ、そうとう無茶苦茶なごどを言っているって……」
スラッとした体格のブロンドヘアーのポニーテールの女の子が困惑気味に健さんの側に立ちます。こちらは私たちや健さんと同じ一年生、鈴森(すずもり)エミリアちゃん、通称エマちゃんです。吸い込まれるような蒼い瞳とやや癖の強い宮城弁が印象的です。輝さんは二人を見て、頷きます。
「……分かったわ」
「さすが! お話が早くて助かりますわ!」
「その練習、エマだけじゃ足りないでしょう? ウチらも混ぜてもらうから」
「!」
「本格的にゴールキーパ―をやるつもりだっていうのなら、あらゆるシュートに慣れていた方が良いと思うのだけど?」
「ふむ、一理ありますわね……それじゃあ、五人の方々、どこからでも好きなようにシュートを撃ってきてくださいませ!」
健さんが両手をポンポンと叩いて、ゴールマウスの前に立ちます。輝さんが首を傾げます。
「五人? ……一人足りなくない?」
「私のことかと……」
「ヒィ⁉」
輝さんが驚きます。自身の背後に青みがかった黒色で、長く伸ばした後ろ髪を背中で一つに縛った長身女性が立っていたからです。この方は神不知火真理(かみしらぬいまこと)さん。サッカー部の二年生です。
「? どうかしましたか?」
「オ、オンミョウ! 人の後ろに気配もなく立つのはやめなさいよ!」
「エムスだけでなくマコテナさまも参加か! これは盛り上がってきたな!」
「ど、どこから現れたのよ、真理先輩……」
「聖良ちゃん、真理さんのことはあんまり深く考えない方が良いと思うよ……」
「そ、そうね……現代に綿々と続く陰陽師の家系なんですものね……あっ、始まる……」
シュート練習が始まります。輝さんがサイドに位置取ります。健さんが首を傾げます。
「あら? どうしたって、そんなところに?」
「単なるシュート練習じゃあ、面白くないでしょう? ちょっと趣向を変えて……ね!」
「!」
輝さんが得意の左足からゴール前にボールを送り込みます。ヴァネさんが反応します。
「ナイスボール! もらったゼ!」
「はっ!」
「ナニ⁉」
輝さんのクロスからヴァネさんが高い打点からのヘディングシュートを放ちましたが、健さんは横っ飛びでそれを見事に防いでみせます。こぼれたボールに成実さんが反応します。
「まだまだだし! エマ!」
「! 少し勢いが強いけんど……ええい!」
「ほっ!」
「なっ!」
成実さんのやや強いクロスにエマちゃんが巧みなボレーシュートで合わせます。フォワードなみの鋭いシュートがゴールに飛びますが、健さんがこれも難なく弾いてみせます。
「お~ほっほっほ! そんなものですか⁉」
「ならば……!」
健さんが前に蹴り出したボールに真理さんが反応し、シュートを放ちます。
「ふん……なっ! ぐっ!」
「ほう……止めましたか。やりますね……」
「た、球がブレた……?」
「オンミョウ、アンタいつの間に『ブレ球』なんかマスターしたの?」
「いや、マスターだなんて……まだまだ実験段階です」
真理さんは輝さんの問いに答えます。輝さんが笑って、健さんに向かって声をかけます。
「お嬢! 次はウチのフリーキックを止めてみなさい!」
「望むところですわ!」
「うおおっ! 燃えてきたぜ! アタシもシュート練習に混ぜてくれ!」
いつの間にかジャージに着替えた竜乃ちゃんがグラウンドに飛び出します。
「竜乃……ちょうど良かった、アンタはフリーキックの壁役ね」
「ええっ! そ、そりゃねえよ~」
竜乃ちゃんががっくりと肩を落とします。
先頭を歩いていた竜乃ちゃんが急に立ち止まり、身を屈めます。
「ちょっと竜乃、アンタ体が大きいんだから、周りを邪魔するような歩き方しないでよ……」
「しー! 静かにしろ、ピカ子!」
竜乃ちゃんは唇に指を当てて、もう片方の指で河原の方を指差します。私が首を傾げます。
「河原のグラウンド? こんなところにあったんだ……」
「早朝の草サッカーとかで使っているところでしょう? あれがどうしたのよ?」
「あそこで向かい合っている連中を見ろよ」
「ん? ああ……!」
聖良ちゃんと私が小さく驚きます。そこには私たち仙台和泉高校サッカー部のチームメイトである数人が何やら言い争っていたからです。竜乃ちゃんがどこか嬉しそうに呟きます。
「ケンカか?」
「い、いや、ケンカは困るよ……」
「もうちょっと近づいてみましょう」
聖良ちゃんの言葉通り、私たちは河原の方に降りていきます。声がよく聞こえてきます。
「ですから……この場所をわたくしたちに譲って下さるということでよろしいですわね?」
黒髪ロングのストレートで、大柄というわけではありませんが、スラリとしたスタイルをしていらっしゃる伊達仁健(だてにすこやか)さんが、キーパーグローブをいじりながら、そのように告げます。
「ふざけんナ!」
「アタシらの方が先だったし!」
大柄な体格の褐色で、髪型はソフトリーゼントで、髪色は明るい色をしている女の子と、その方と比べると小柄な、髪型は右側頭部のみアップにした、変則的なサイドテールで前髪は右側から左側にかけて長くなっているアシンメトリーというものにしている女の子が反発します。
「スコッパのやつ、無茶を言うぜ……」
「あの先輩方がはい、そうですかと避けるわけないでしょうに……」
近くで様子を伺っていた竜乃ちゃんは苦笑し、聖良ちゃんが軽く頭を抱えます。そうです、健さんがお話しているのは、二年生の谷尾(やお)ヴァネッサ恵美(えみ)さんと石野成実(いしのなるみ)さんです。二人ともこのサッカー部になくてはならない方たちです。健さんはため息をつきます。
「……仕方ありませんわね、いくらかお支払いすれば良いのでしょう?」
「おおっ⁉ マジデ⁉」
「さ、さすが伊達仁コンツェルンのお嬢様、太っ腹だし!」
「ヴァネ! 成実!」
二人の間でボールに座っていた女の子がゆっくりと立ち上がります。彼女は菊沢輝(きくさわひかる)さん。髪の色は薄い茶色、髪型は胸元ほどの長さのセミロングでゆるくウェーブがかかっています。いわゆる「ゆるふわ系」ですが、この三人組のリーダー的存在です。
「ヒ、ヒカル……」
「一年に借りを作るつもり?」
「そ、そういうわけじゃないし……」
輝さんの言葉に二人ともあっさり黙ってしまいました。輝さんは健さんの方に向き直ります。
「……無理言わないで、場所なら他を当たってちょうだい」
「いいえ、ここがよろしいのですわ! 無理も通せば、道理になります!」
「す、健さん、やっぱりおめさ、そうとう無茶苦茶なごどを言っているって……」
スラッとした体格のブロンドヘアーのポニーテールの女の子が困惑気味に健さんの側に立ちます。こちらは私たちや健さんと同じ一年生、鈴森(すずもり)エミリアちゃん、通称エマちゃんです。吸い込まれるような蒼い瞳とやや癖の強い宮城弁が印象的です。輝さんは二人を見て、頷きます。
「……分かったわ」
「さすが! お話が早くて助かりますわ!」
「その練習、エマだけじゃ足りないでしょう? ウチらも混ぜてもらうから」
「!」
「本格的にゴールキーパ―をやるつもりだっていうのなら、あらゆるシュートに慣れていた方が良いと思うのだけど?」
「ふむ、一理ありますわね……それじゃあ、五人の方々、どこからでも好きなようにシュートを撃ってきてくださいませ!」
健さんが両手をポンポンと叩いて、ゴールマウスの前に立ちます。輝さんが首を傾げます。
「五人? ……一人足りなくない?」
「私のことかと……」
「ヒィ⁉」
輝さんが驚きます。自身の背後に青みがかった黒色で、長く伸ばした後ろ髪を背中で一つに縛った長身女性が立っていたからです。この方は神不知火真理(かみしらぬいまこと)さん。サッカー部の二年生です。
「? どうかしましたか?」
「オ、オンミョウ! 人の後ろに気配もなく立つのはやめなさいよ!」
「エムスだけでなくマコテナさまも参加か! これは盛り上がってきたな!」
「ど、どこから現れたのよ、真理先輩……」
「聖良ちゃん、真理さんのことはあんまり深く考えない方が良いと思うよ……」
「そ、そうね……現代に綿々と続く陰陽師の家系なんですものね……あっ、始まる……」
シュート練習が始まります。輝さんがサイドに位置取ります。健さんが首を傾げます。
「あら? どうしたって、そんなところに?」
「単なるシュート練習じゃあ、面白くないでしょう? ちょっと趣向を変えて……ね!」
「!」
輝さんが得意の左足からゴール前にボールを送り込みます。ヴァネさんが反応します。
「ナイスボール! もらったゼ!」
「はっ!」
「ナニ⁉」
輝さんのクロスからヴァネさんが高い打点からのヘディングシュートを放ちましたが、健さんは横っ飛びでそれを見事に防いでみせます。こぼれたボールに成実さんが反応します。
「まだまだだし! エマ!」
「! 少し勢いが強いけんど……ええい!」
「ほっ!」
「なっ!」
成実さんのやや強いクロスにエマちゃんが巧みなボレーシュートで合わせます。フォワードなみの鋭いシュートがゴールに飛びますが、健さんがこれも難なく弾いてみせます。
「お~ほっほっほ! そんなものですか⁉」
「ならば……!」
健さんが前に蹴り出したボールに真理さんが反応し、シュートを放ちます。
「ふん……なっ! ぐっ!」
「ほう……止めましたか。やりますね……」
「た、球がブレた……?」
「オンミョウ、アンタいつの間に『ブレ球』なんかマスターしたの?」
「いや、マスターだなんて……まだまだ実験段階です」
真理さんは輝さんの問いに答えます。輝さんが笑って、健さんに向かって声をかけます。
「お嬢! 次はウチのフリーキックを止めてみなさい!」
「望むところですわ!」
「うおおっ! 燃えてきたぜ! アタシもシュート練習に混ぜてくれ!」
いつの間にかジャージに着替えた竜乃ちゃんがグラウンドに飛び出します。
「竜乃……ちょうど良かった、アンタはフリーキックの壁役ね」
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