アタシをボランチしてくれ!~仙台和泉高校女子サッカー部奮戦記~

阿弥陀乃トンマージ

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第2章 もう一人

第19話(2)砂上の戦い

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「よし……もらった! うおりゃ!」

 竜乃ちゃんが転がってきたボールを力強くシュートしようとしますが、見事に空振りし、派手に舞った砂が近くの聖良ちゃんに思いっ切りかかります。

「ぶっ! 何やってんのよ、竜乃!」

「わ、わりぃ、ボールが思ったより早く転がってよ……」

「あ~もう良いからディフェンスよ!」

「お、おう!」

 私たちは今ビーチサッカーをしています。何故そんなことになったのか、時計を数十分程前に戻しましょう。



「あ~久々に泳いだ、泳いだ」

 砂浜に上がってきた竜乃ちゃんに私が声をかけます。

「大分遠くの方まで泳いでいたね、竜乃ちゃん」

「いや~ピカ子がどんどんそっちの方に行っちまうからよ……」

「アンタが押すからでしょ! 泳ぎは不得意なんだから、悪ふざけはやめてよ!」

「浮き輪があんだろ?」

「限度ってものがあるでしょ!」

「悪かったよ、だからちゃんと助けに行っただろう?」

「ふん!」

 聖良ちゃんがプイと首を横に振って、その場から離れ、サッカー部の立てたパラソルの方に歩いていってしまいます。竜乃ちゃんが後頭部を掻きながら私に尋ねます。

「あ~あ、へそ曲げちまった……ビィちゃん、どうすりゃいい?」

「そうだね……」

 私は人の多い方に目を向けます。海の家が並んでいる場所です。

「海の家が一杯あるね。あっちの方に行ってみない?」

「お、良いねえ」

「エマちゃんも行かない?」

 私は近くにいたエマちゃんを誘います。

「ああ、わだすはいいや。ちょっと疲れたみたい……」

「大丈夫?」

「ああ、大丈夫、大丈夫。少し休んでいるから」

 私と竜乃ちゃんは聖良ちゃんを海の家に誘います。聖良ちゃんはまだ若干不貞腐れながらも私たちに着いてきます。

「あ、健さんも海の家に行かない?」

「海の家⁉ なんとも魅惑的な響きですわね!」

「いや、そこまでの期待に沿えるかどうかは分からないけど……」

健さんも一緒になって四人で海の家に向かうことになりました。

「ふむ、単に食事休憩をするところなのですね……」

「なんだと思ったんだよ」

「家というくらいですから、海を優しく包み込むようなものかと……」

「なんだよその漠然としたわけ分からんイメージは……なあ、ビィちゃん……ってうおっ⁉」

「どうしたの?」

「い、いや、それはこっちの台詞だぜ……なんだそれ?」

 竜乃ちゃんが私の持っているものを指差します。私は笑顔満面で答えます。

「『チーズマヨネーズイカ焼きそばの塔』だよ!」

「塔って……」

「まさしくそびえ立っていますわね……」

「パックに全然収まりきってないわよ……」

 何やらブツブツと呟いている三人を余所に私はベンチに腰をかけます。

「アタシも何か食うかな」

「わたくし喉が渇きましたわ」

「私も何か飲みたいわ」

 四人でベンチに座り、食事をしていると、スピーカーからアナウンスが流れてきます。

「え~只今より『海の家 賀宇暑(がうしょ)』前の特設コートにてビーチサッカー大会を行います。飛び入り参加も大歓迎! どなたさまも奮ってご参加下さい……」

「ビーチサッカー?」

 竜乃ちゃんが首を捻ります。聖良ちゃんがストローでジュースを飲み干したグラスの氷をつつきながら答えます。

「砂浜の上でやるサッカーのことよ」

「へ~面白そうじゃん、参加しねえ?」

「こんな暑い中、わざわざやることじゃないでしょ」

「……優勝チームには『賞金10万円相当の豪華景品』……」

「ほら、賞品も出るみたいだぜ⁉」

 アナウンスを聞いて竜乃ちゃんのテンションが上がります。聖良ちゃんが私に尋ねます。

「ねえ、桃ちゃん、参加しないわよね?」

「う~ん……」

「……又は『当海水浴場海の家組合食べ放題券』をプレゼント……」

「出よう」

 そう言って私は立ち上がります。

「桃ちゃん⁉」

「ははっ、そうこなくっちゃな!」

 竜乃ちゃんは膝を打ちます。私たちは早速大会の受付へ向かいます。

「えっ、五人一組⁉」

 竜乃ちゃんの言葉に受付の方が頷きます。

「一人足りないわね」

「ちっ、誰か呼んでくるか?」

「皆さんどうかされましたか?」

「あ、真理さん!」

 真理さんが私たちに声を掛けてきました。聖良ちゃんが指差します。

「失礼ですがその恰好……どうされたんですか?」

「どうされたもなにも海ですから……」

 真理さんは真っ白な着物を着ています。はっきり言ってかなり目立っています。

「滝行でもするつもりですか⁉」

「まあ、それはいいじゃねえか。マコテナ様、ビーチサッカーやろうぜ」

「ビーチサッカーですか? 構いませんが……」

「よし、これで五人揃ったな」

「それは良いのですけど、まさかこの恰好でやりますの?」

 健さんが自身のビキニを指差して尋ねます。

「そうだな、ちょっと待ってな……」

 竜乃ちゃんが受付の方に話をしに行って戻ってきます。

「今、確認したらシャツとハーフパンツ貸してくれるってよ」

「ふ~ん、それは助かるわね」

「そんじゃビィちゃん、ビシッと一言頼むぜ!」

「え? ゆ、優勝目指して頑張ろう!」

「おおっ!」

 こうして私たちはビーチサッカーに挑戦することになりました。話は冒頭に戻ります。



「走るのきついな!」

 竜乃ちゃんが叫びます。そうです、砂に足を取られて、思うように走ることがなかなか出来ないのです。私も戸惑いつつ、声を掛けます。

「体力を消耗しないように、極力ダッシュは避けよう! パスを繋いでいこう!」

「結構バウンドするな!」

「しかもイレギュラー!」

 竜乃ちゃんだけでなく、聖良ちゃんも戸惑いの声を上げます。普通のサッカーボールよりもボールがやや軽く、転がりやすくなっています。蹴ってみると、自分が思っているよりボールが伸びます。またキックの力が分散しやすく、正確なインパクトを心掛けないと強く速いボールを狙ったコースに蹴るのはなかなか難しいです。弾み方も不規則なため、キープをしたり、ドリブルをするのが大変です。

「浮き球のパスを多用しよう!」

 私は再び声を掛けます。

「そ、そうは言うけどよ!」

「こ、これはなかなか……」

 竜乃ちゃんと聖良ちゃんが苦戦する中、真理さんは早くも慣れてきたようです。

「裸足でボールを蹴るのはいささか奇妙な気がしますね……」

「真理さん! 前方に蹴って下さい!」

 私が走り込んだ所に真理さんのパスが正確に飛んできました。私は考えます。

(トラップしてからだと、相手に詰め寄られる……ならば!)

 私は後方からのパスをダイレクトボレーで合わせました。ボールは上手く飛び、相手のゴールネットに突き刺さりました。

「やった~♪」

「凄えぜ、ビィちゃん!」

「半端ないわね」

 喜ぶ私を竜乃ちゃんと聖良ちゃんが祝福してくれます。この一点を守りきり、私たちは初戦を制することが出来ました。次が決勝です。

「試合時間は結構短いですのね」

「本当は12分×3本なんだけど、公式大会じゃないから9×2本なんだって」

 私は健さんに答えます。休憩時間を挟んで決勝に臨みます。そこで私たちは驚きました。

「ええっ⁉ 輝さん⁉」

「アンタたちも参加していたのね……」

 なんと、輝さん、ヴァネさん、成実さんの三人が相手チームにいたのです。しかも……

「っていうか、誰かと思ったら常磐野のキーパーじゃねえか!」

 竜乃ちゃんが驚きます。そうです、常磐野学園のゴールキーパー、久家居まもりさんもそこにいらっしゃったのです。ちなみに私の中学校の先輩でもあります。この決勝戦、かなり厳しい戦いになりそうです。
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