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第2章 もう一人
第16話(3)伝説への脱出
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「それで? 次の手紙の内容はなんですの?」
「ちょっと待って……えっと、『ヒントその③、ターゲットはゲーム好き、中でも体験型の脱出ゲーム系をよく遊んでいる模様』ですって」
「脱出ゲームって……『謎を解いて、この部屋から脱出せよ!』みたいなやつ?」
「ああ、そういうの、わだすも見だごだあるな」
私の呟きにエマちゃんが頷きます。
「いわゆるゲーセンなら分かるけどよ、この辺にそういう店あったか?」
「……あったわ、あそこの薬局の向かいのビルに入っているそうよ。比較的最近オープンしたみたいだけどね」
竜乃ちゃんの問いに聖良ちゃんがスマホを見ながら答えます。
「そっか、じゃあ行ってみようぜ」
エレベーターでそのビルの上階に着くと、そこには中世のヨーロッパを思わせる様な世界が広がっていました。
「こ、こりゃあ……」
「まるで中世のロンドンに迷い込んだかのような雰囲気ですわね」
「ようこそ……」
「うわ! ビックリした!」
黒いローブに身を包み、フードで顔を半分ほど隠しだ女性がいつのまにか私たちの傍らにおり、エマちゃんが驚きの声を上げました。ローブの女性は口を開きます。
「貴女たちは迷える子羊たちか、それとも勇敢なる救世主たちか……」
「どっちでもねえよ、強いて言うなら多感な女子高生たちだ」
「竜乃、アンタねえ……こういうのはその世界に入り込むものでしょ?」
マイペースな竜乃ちゃんに対し、聖良ちゃんがため息を突きます。
「そういうものかね……」
「すみません、予約とかはしていないんですけど、五名参加って出来ますか?」
聖良ちゃんの問いにローブの女性が冷静に答えます。
「本来であれば出直して頂くところですが、先程パーティーに欠員が発生しました。よって、貴女方の参加を認めます」
「キャンセルが出たということですわね」
「ははっ……まあそういうことだね」
健さんの小声の呟きに私は苦笑しながら頷きます。
「では、この先にお進み下さい……運命の刻が近づいています」
「それは良いんだが、アタシらは『伝説のレジェンド』を探しているんだ。知らねえか?」
「だから竜乃! 段取りってものがあんのよ!」
聖良ちゃんが竜乃ちゃんを注意します。ローブの女性はやや戸惑った様でしたが、落ち着きを取り戻して答えます。
「誰よりも早く謎を解き明かした先に求める答えがあるやもしれません……」
「誰よりも早く?」
改めて女性は私たちに先に進むように促します。竜乃ちゃんが先頭になって進み、部屋の仕切りになっていたカーテンを手で避けると、そこには数名の先客がいました。
「よう、よく会うな今日は」
その数名の中には、黒ずくめの女性がいました。これで三度目の遭遇です。
「本当によくお会いしますね」
「どうしてここに貴女が?」
「ここのゲームにハマってんだよ。毎度なかなか趣向が凝っているからな」
「そうなんですか」
「それは奇遇ですわね」
「だからなしてみんなして揃いも揃って……!」
うんうんと頷いている私と健さんを見て、エマちゃんは軽く天を仰ぎます。
「ここは霧の都、ロンドン……」
部屋が若干暗くなり、アナウンスが流れます。
「いや、杜の都、仙台だろ」
「アンタはちょっと黙ってなさいよ。さっきも言ったでしょ? こういうのはその世界観に浸るのが大事なのよ」
「……謎を解き明かし、ダンジョンを抜け出すことが出来るか……諸君の健闘を祈る」
アナウンスが終わり、部屋が元の明るさに戻りました。
「この部屋の他にもいくつか部屋があり、各部屋に隠された謎を解いて、出口を目指せ……ということですわね」
「さっきの姉ちゃん、『誰よりも早く~』とかなんとか言ってたな、ここにいる連中よりも早く答えを出せってことか」
「謎か……」
私たちは部屋を見渡してみますが、特に変わった様子もなく、揃って首を捻ってしまいました。他のお客さんも同様でした。しばらくすると、エマちゃんが小声で呟きます。
「あの壁画の人物のポーズ、不自然だべ……」
「え?」
エマちゃんが壁画の壁に近づき、しゃがみ込みます。
「! やっぱり! ここの下のタイルが外れて通れるようになっている! 行こう!」
私たちはエマちゃんに続きます。
「左奥のシャンデリアだけ微妙に高さが低い!」
「こっちの本棚だけカバーの色がちゃんと統一されている!」
「キッチンに謎の甲冑!」
などなど、エマちゃんはその後も優れた観察眼を発揮し、次々と謎を解き明かしていきました。流石に甲冑に感じる違和感は満場一致でしたが。その結果……
「おめでとうございます……貴女方が一番乗りです」
「やったぁ!」
「エムスのお陰だぜ! じゃあ、『伝説のレジェンド』について教えてもらおうか」
「……この手紙をどうぞ」
「お~い、また手紙かよ! ったく、何々……『最終ヒント、ターゲットはBARにいる』……どういうこった?」
「! 私の記憶が確かならば……」
ハッとした聖良ちゃんがスマホを操作し、検索結果を見て力強く頷きます。
「あったわ! 『サッカーCAFE&BAR カンピオーネSENDAI』! お蕎麦屋さんの裏手にあるお店よ!」
「行ってみよう!」
私たちはすぐさまそのお店に向かいました。商店街の通りから一つ外れた所にある建物の2階のお店に入ると、カウンターには黒ずくめの女性が立っており、席にはお婆さんが座っていました。私たちの姿を見ると、黒ずくめの女性がニヤっと笑いました。
「ふん、やっと来やがったか……」
「あ、あの、貴女が『伝説のレジェンド』さんですか⁉」
私はお婆さんに話しかけます。黒ずくめの女性とエマちゃんが揃って盛大にズッコケます。
「待て待て待て! なんでそうなる⁉」
「いや、伝説のって言うから……」
「確かにレジェンド感は出ているけれども! ここはどう考えてもアタシだろ!」
「「「「えええっ⁉」」」」
「なんでそんなに驚けるんだよ!」
「で、では貴女が……?」
「……そうだよ、アタシが『伝説のレジェンド』春名寺恋(しゅんみょうじれん)だよ」
「そ、そうですか、この手紙を受け取って貰えますか?」
私はキャプテンから預かっていた手紙を差し出します。春名寺さんは渋々手紙を受け取ってくれました。
「ふん、あのスポーツ用品店の子供だろ……アイツいまいち信用が置けねえんだよなあ」
「そのお気持ちはよく分かります」
「激しく同意します」
「むしろ不信感の方が大きいまであるな」
「どこか得体の知れないところがありますわね」
「み、みんな、ちょっと言い過ぎでねえかな……」
エマちゃんが苦笑を浮かべます。私は気を取り直して尋ねます。
「で、では今度のOG戦、御参加頂けるということで宜しいですね?」
「あ~行けたら行くわ」
「いや、それ結局来ない人の言い方!」
「大体、アタシがわざわざ行く価値があんのかよ……」
春名寺さんの物言いに聖良ちゃんが食ってかかります。
「私たちはインターハイ予選ベスト4です。この10数年突破出来なかったベスト8の壁を初めて越えました!」
「……それで?」
「そ、それで、あのその……」
急に眼光が鋭くなった春名寺さんに対し、聖良ちゃんはその雰囲気に飲まれてしまいます。
「な~にビビッてんだピカ子! ガツンと言ってやれば良いんだよ!」
「ガツンと?」
腕を組んでこちらを見つめる春名寺さんに対し、竜乃ちゃんはバンっとカウンターのテーブルを叩きこう宣言します。
「アタシらは全国制覇を目指してんだ、そこんとこよろしく!」
「ぶふっ!」
春名寺さんが思わず吹き出します。竜乃ちゃんがムッとします。
「なにがおかしい?」
「いや、夢を語るのは若者の特権だ。……対して現実を教えて上げるのが、大人の責務だ」
「それは……」
春名寺さんが手紙の内容を確認し、何度か頷きます。
「あ、あの……」
「心配するなOG戦には出てやるよ。キャプテンにも手紙を読んだって伝えな」
「わ、分かりました、ありがとうございます。本日はどうもお邪魔しました。ほ、ほら竜乃ちゃん、目的も果たしたから帰るよ」
私たちは不満気な竜乃ちゃんを押し出すようにして店を出ました。春名寺さんの不敵な笑みが閉まるドアの向こう側に見えました。
「ちょっと待って……えっと、『ヒントその③、ターゲットはゲーム好き、中でも体験型の脱出ゲーム系をよく遊んでいる模様』ですって」
「脱出ゲームって……『謎を解いて、この部屋から脱出せよ!』みたいなやつ?」
「ああ、そういうの、わだすも見だごだあるな」
私の呟きにエマちゃんが頷きます。
「いわゆるゲーセンなら分かるけどよ、この辺にそういう店あったか?」
「……あったわ、あそこの薬局の向かいのビルに入っているそうよ。比較的最近オープンしたみたいだけどね」
竜乃ちゃんの問いに聖良ちゃんがスマホを見ながら答えます。
「そっか、じゃあ行ってみようぜ」
エレベーターでそのビルの上階に着くと、そこには中世のヨーロッパを思わせる様な世界が広がっていました。
「こ、こりゃあ……」
「まるで中世のロンドンに迷い込んだかのような雰囲気ですわね」
「ようこそ……」
「うわ! ビックリした!」
黒いローブに身を包み、フードで顔を半分ほど隠しだ女性がいつのまにか私たちの傍らにおり、エマちゃんが驚きの声を上げました。ローブの女性は口を開きます。
「貴女たちは迷える子羊たちか、それとも勇敢なる救世主たちか……」
「どっちでもねえよ、強いて言うなら多感な女子高生たちだ」
「竜乃、アンタねえ……こういうのはその世界に入り込むものでしょ?」
マイペースな竜乃ちゃんに対し、聖良ちゃんがため息を突きます。
「そういうものかね……」
「すみません、予約とかはしていないんですけど、五名参加って出来ますか?」
聖良ちゃんの問いにローブの女性が冷静に答えます。
「本来であれば出直して頂くところですが、先程パーティーに欠員が発生しました。よって、貴女方の参加を認めます」
「キャンセルが出たということですわね」
「ははっ……まあそういうことだね」
健さんの小声の呟きに私は苦笑しながら頷きます。
「では、この先にお進み下さい……運命の刻が近づいています」
「それは良いんだが、アタシらは『伝説のレジェンド』を探しているんだ。知らねえか?」
「だから竜乃! 段取りってものがあんのよ!」
聖良ちゃんが竜乃ちゃんを注意します。ローブの女性はやや戸惑った様でしたが、落ち着きを取り戻して答えます。
「誰よりも早く謎を解き明かした先に求める答えがあるやもしれません……」
「誰よりも早く?」
改めて女性は私たちに先に進むように促します。竜乃ちゃんが先頭になって進み、部屋の仕切りになっていたカーテンを手で避けると、そこには数名の先客がいました。
「よう、よく会うな今日は」
その数名の中には、黒ずくめの女性がいました。これで三度目の遭遇です。
「本当によくお会いしますね」
「どうしてここに貴女が?」
「ここのゲームにハマってんだよ。毎度なかなか趣向が凝っているからな」
「そうなんですか」
「それは奇遇ですわね」
「だからなしてみんなして揃いも揃って……!」
うんうんと頷いている私と健さんを見て、エマちゃんは軽く天を仰ぎます。
「ここは霧の都、ロンドン……」
部屋が若干暗くなり、アナウンスが流れます。
「いや、杜の都、仙台だろ」
「アンタはちょっと黙ってなさいよ。さっきも言ったでしょ? こういうのはその世界観に浸るのが大事なのよ」
「……謎を解き明かし、ダンジョンを抜け出すことが出来るか……諸君の健闘を祈る」
アナウンスが終わり、部屋が元の明るさに戻りました。
「この部屋の他にもいくつか部屋があり、各部屋に隠された謎を解いて、出口を目指せ……ということですわね」
「さっきの姉ちゃん、『誰よりも早く~』とかなんとか言ってたな、ここにいる連中よりも早く答えを出せってことか」
「謎か……」
私たちは部屋を見渡してみますが、特に変わった様子もなく、揃って首を捻ってしまいました。他のお客さんも同様でした。しばらくすると、エマちゃんが小声で呟きます。
「あの壁画の人物のポーズ、不自然だべ……」
「え?」
エマちゃんが壁画の壁に近づき、しゃがみ込みます。
「! やっぱり! ここの下のタイルが外れて通れるようになっている! 行こう!」
私たちはエマちゃんに続きます。
「左奥のシャンデリアだけ微妙に高さが低い!」
「こっちの本棚だけカバーの色がちゃんと統一されている!」
「キッチンに謎の甲冑!」
などなど、エマちゃんはその後も優れた観察眼を発揮し、次々と謎を解き明かしていきました。流石に甲冑に感じる違和感は満場一致でしたが。その結果……
「おめでとうございます……貴女方が一番乗りです」
「やったぁ!」
「エムスのお陰だぜ! じゃあ、『伝説のレジェンド』について教えてもらおうか」
「……この手紙をどうぞ」
「お~い、また手紙かよ! ったく、何々……『最終ヒント、ターゲットはBARにいる』……どういうこった?」
「! 私の記憶が確かならば……」
ハッとした聖良ちゃんがスマホを操作し、検索結果を見て力強く頷きます。
「あったわ! 『サッカーCAFE&BAR カンピオーネSENDAI』! お蕎麦屋さんの裏手にあるお店よ!」
「行ってみよう!」
私たちはすぐさまそのお店に向かいました。商店街の通りから一つ外れた所にある建物の2階のお店に入ると、カウンターには黒ずくめの女性が立っており、席にはお婆さんが座っていました。私たちの姿を見ると、黒ずくめの女性がニヤっと笑いました。
「ふん、やっと来やがったか……」
「あ、あの、貴女が『伝説のレジェンド』さんですか⁉」
私はお婆さんに話しかけます。黒ずくめの女性とエマちゃんが揃って盛大にズッコケます。
「待て待て待て! なんでそうなる⁉」
「いや、伝説のって言うから……」
「確かにレジェンド感は出ているけれども! ここはどう考えてもアタシだろ!」
「「「「えええっ⁉」」」」
「なんでそんなに驚けるんだよ!」
「で、では貴女が……?」
「……そうだよ、アタシが『伝説のレジェンド』春名寺恋(しゅんみょうじれん)だよ」
「そ、そうですか、この手紙を受け取って貰えますか?」
私はキャプテンから預かっていた手紙を差し出します。春名寺さんは渋々手紙を受け取ってくれました。
「ふん、あのスポーツ用品店の子供だろ……アイツいまいち信用が置けねえんだよなあ」
「そのお気持ちはよく分かります」
「激しく同意します」
「むしろ不信感の方が大きいまであるな」
「どこか得体の知れないところがありますわね」
「み、みんな、ちょっと言い過ぎでねえかな……」
エマちゃんが苦笑を浮かべます。私は気を取り直して尋ねます。
「で、では今度のOG戦、御参加頂けるということで宜しいですね?」
「あ~行けたら行くわ」
「いや、それ結局来ない人の言い方!」
「大体、アタシがわざわざ行く価値があんのかよ……」
春名寺さんの物言いに聖良ちゃんが食ってかかります。
「私たちはインターハイ予選ベスト4です。この10数年突破出来なかったベスト8の壁を初めて越えました!」
「……それで?」
「そ、それで、あのその……」
急に眼光が鋭くなった春名寺さんに対し、聖良ちゃんはその雰囲気に飲まれてしまいます。
「な~にビビッてんだピカ子! ガツンと言ってやれば良いんだよ!」
「ガツンと?」
腕を組んでこちらを見つめる春名寺さんに対し、竜乃ちゃんはバンっとカウンターのテーブルを叩きこう宣言します。
「アタシらは全国制覇を目指してんだ、そこんとこよろしく!」
「ぶふっ!」
春名寺さんが思わず吹き出します。竜乃ちゃんがムッとします。
「なにがおかしい?」
「いや、夢を語るのは若者の特権だ。……対して現実を教えて上げるのが、大人の責務だ」
「それは……」
春名寺さんが手紙の内容を確認し、何度か頷きます。
「あ、あの……」
「心配するなOG戦には出てやるよ。キャプテンにも手紙を読んだって伝えな」
「わ、分かりました、ありがとうございます。本日はどうもお邪魔しました。ほ、ほら竜乃ちゃん、目的も果たしたから帰るよ」
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