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第2章 もう一人
第16話(1)黒ずくめの君
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「OGとの練習試合?」
私の問いにキャプテンが頷きます。
「ええ、今週末にまたOGの先輩方に来て頂いて、練習試合をすることになっています」
「それは分かりました……この手紙は?」
私はキャプテンから手渡されたものを掲げながら尋ねます。
「その手紙を渡して貰いたいのです……『伝説のレジェンド』に」
「『伝説のレジェンド?』」
「なんですかその『頭痛が痛い』みたいな言い方……」
私の隣に立つ聖良ちゃんが呆れ気味に呟きます。
「自称されているのですから、こちらもそうお呼びする他ありません」
「自称って……」
キャプテンの返答に聖良ちゃんが戸惑い、私たちの後ろに立っている竜乃ちゃんが顎に手をやりながらニヤリと笑います。
「はは~ん、そりゃ相当ヤバい奴だな?」
「ヤバい方かどうかは各々の判断にお任せしますよ」
「否定はしないんですね……」
「半ば確定みたいなものじゃないですか……」
にっこりと微笑むキャプテンに対し、私と聖良ちゃんは揃って苦笑いを浮かべます。
「ご自分でお渡しになれば宜しいのでは?」
健さんが私の手から手紙を取り、ヒラヒラさせながら尋ねます。
「私のことはどうも気に食わないようでして……なかなか会ってもらえないのです……」
キャプテンが悲しそうに俯き、首を左右に振ります。
「それでわたくしたちが代わりに、ですか?」
「実は緊急の部長会議が入ってしまって……まさか出席しないわけにもいきませんので……ですので、皆さんにお願いをしたいなと……」
「まあ、そういうことなら……」
「ありがとうございます! では、お願いいたします! 商店街の方に出没しますので!」
キャプテンはそう言ってそそくさとその場から立ち去って行ってしまいました。残された私たちは途方に暮れます。
「出没って……」
「レアモンスターかよ……」
「って、ほぼノーヒントじゃない!」
聖良ちゃんが叫びます。私たちの後方に立っていたエマちゃんがスマホを取り出します。
「あ、キャプテンさんからメッセージだ、何々……『ヒントその①、ターゲットは黒系の服を常に着ている』だって……」
「ヒントって何よ……」
「絶対楽しんでるだろ、キャプテンさん……」
「ふむ、ターゲット確保に向けて、まずは商店街に向かいましょうか!」
唯一ノリノリな健さんの先導の下、私たちは学校近くの商店街へと移動しました。
「さあ! 商店街に来ましたわ!」
「いや、来たのは良いけどよ……」
「どこから探せば良いのやら……」
竜乃ちゃんと聖良ちゃんが軽く頭を抱えます。その脇でエマちゃんが静かに呟きます。
「ヒントを見る限り……洋服屋さんを回ってみるっていうのはどうだっぺねえ?」
「エムスさん!」
「は、はい⁉」
「なかなか良い着眼点ですわ! 洋服店に向かうと致しましょう!」
私たちは洋服屋さんへと向かうことにしました。
「こちらがこの商店街一番の洋服店ですか!」
「で、スコッパよ、店に来てどうするつもりだ?」
「それは勿論、聞き込み捜査ですわ!」
「聞き込みだあ~?」
「そんな面倒なことしなくても店員さんに聞けば良いでしょ……すみませ~ん」
聖良ちゃんが店先で作業をしているエプロンを着けた店員さんに声を掛けます。
「はい、なんでしょうか?」
「漠然とした質問で恐縮なんですけど……こちらに黒系の服をよく買っていくお客さんっていらっしゃいますか? 自称『伝説のレジェンド』っていう方なんですが……」
「⁉ で、伝説のレジェンド⁉」
店員さんは驚いた表情を浮かべます。聖良ちゃんが畳み掛けます。
「知っていらっしゃるんですね?」
「い、いえ、お客様の個人情報をベラベラお話するわけにはいきません……!」
「そこをなんとかお願い出来ませんか?」
「そ、そんなことを言われましても……て、店長を呼んできます!」
店員さんが慌てた様子で店の奥に下がります。しばらくして店長さんらしき人を連れて戻って来ました。
「店長さんですか? 人を探していまして……」
「……『伝説のレジェンド』さんのことでしたら、簡単にお教えする訳には参りませんね」
店長さんは落ち着いた様子で話します。というか『伝説のレジェンド』さん呼びは定着しているんでしょうか……。聖良ちゃんは溜息をひとつ突いてから改めて尋ねます。
「どうすれば教えてくれますか?」
「ふむ……間もなくこの店は毎月恒例のタイムセールが始まります」
「はい?」
「店の奥に置いたワゴンから一番安い値札が付いた服を見事レジまで持ってくることが出来たのなら……『伝説のレジェンド』さんについての情報をお教えしましょう」
「あの、意味が分からないんですが……」
「面白え、その言葉忘れんなよ?」
竜乃ちゃんが横から口を出します。
「店長に二言はありません……セールに参加されるのであれば、所定の位置に着いて下さい」
数分後、私たちはいつの間にか集まってきていた多くのお客さんたちとともに店の前に貼られた白いテープの外側に並んでいました。店員さんが声を掛けます。
「えー皆さん、白いテープの外側にお並び下さい。合図が出る前にはみ出した方は失格となりますのでご注意下さい。繰り返します……」
「エムスさん、タイムセールってこういうものですの?」
「い、いや、わだすに聞かれても……どうなのかな?」
健さんに尋ねられて困ったエマちゃんが私に視線を向けます。
「か、かなり特殊な例だと思うけど……」
「こういうのって、店の前にワゴン置くんじゃねーのか?」
「そうよね、なんでわざわざ店の奥に……それに随分お客さんが多くなったわね」
「なんだ、知らねーのか、姉ちゃんたち?」
訝しがる私たちに対し、横に立つ黒ずくめのライダース姿の女性が話しかけてきました。ボサッとした黒髪のミディアムロングで、前髪を右に垂らしており、左眉をはじめ、いくつか付けたピアスがよく目立つ女性です。
「この店のセール品は驚異の九割引きだぜ? これを逃す手は無いだろって話だ」
「九割引き⁉」
「道理で妙に殺気立っていると思ったわ……」
「それでは位置に付いて……よーいスタート!」
店員さんの合図を皮切りに、お客さんが一斉に店内へ殺到します。
「く! なんて人の波と圧力だよ⁉」
「聖良ちゃん!」
「任せて桃ちゃん!」
聖良ちゃんが群衆の中に果敢に切り込みます。
「ドリブルで密集地帯をすり抜ける要領で……!」
「良いぞ、ピカ子!」
スルスルと店の奥へ入り込んでいった聖良ちゃんがあっという間に群衆の先頭に立ちます。
「よし! 一番乗りだわ……って⁉」
「やるねえ、なかなかの突破力だ!」
いつの間にか先程の黒ずくめの女性が聖良ちゃんの横に並んでいます。私たちも驚きます。
「聖良ちゃんと並んだ!」
「あのライダース、やるな!」
「なんの、勝負はまだ! 一番安い値札は……これよ!」
「ちっ⁉」
黒ずくめの人より聖良ちゃんが服を手に取り、店長さんのいるレジに走ります。
「どうですか⁉ これが今日のセール一番のお買い得品でしょ!」
「ふむ……合格です」
「やったぁ‼」
聖良ちゃんと共に、私たちも大いに喜びます。
「それでは教えて頂けるんですね? 『伝説のレジェンド』さんのことを⁉」
「……こちらの手紙をどうぞ」
「は? 手紙?」
「その手紙に次のヒントが書かれているそうですよ。あ、他のお客さまのご迷惑になりますので、お店の外でご覧になって下さい」
私たちはレジに詰め掛けた他のお客さんたちに押し出されるように店の外へ出ました。予期せぬ疲れに襲われた私たちはうなだれながら今後のことを話します。エマちゃんがこういう時の彼女にしては珍しく何か話をしたそうにしています。
「次のヒントって、なんだよ、また振り出しかよ!」
「あ、あの……」
「黒系の服を常に着る女性? そんな人本当にいたのかしら?」
「! いんやいんや、さっき思いっ切り隣さ!」
「エムスさん少し冷静になって下さる?」
「多分今一番こん中で冷静だど思うんだけども⁉」
「ビィちゃんどうする?」
「次のヒントでなんとか見つけ出そう……!」
なにか言いたげなエマちゃんを落ち着かせつつ、私たちはセールの狂乱が続く洋服屋さんから離れることにしました。
私の問いにキャプテンが頷きます。
「ええ、今週末にまたOGの先輩方に来て頂いて、練習試合をすることになっています」
「それは分かりました……この手紙は?」
私はキャプテンから手渡されたものを掲げながら尋ねます。
「その手紙を渡して貰いたいのです……『伝説のレジェンド』に」
「『伝説のレジェンド?』」
「なんですかその『頭痛が痛い』みたいな言い方……」
私の隣に立つ聖良ちゃんが呆れ気味に呟きます。
「自称されているのですから、こちらもそうお呼びする他ありません」
「自称って……」
キャプテンの返答に聖良ちゃんが戸惑い、私たちの後ろに立っている竜乃ちゃんが顎に手をやりながらニヤリと笑います。
「はは~ん、そりゃ相当ヤバい奴だな?」
「ヤバい方かどうかは各々の判断にお任せしますよ」
「否定はしないんですね……」
「半ば確定みたいなものじゃないですか……」
にっこりと微笑むキャプテンに対し、私と聖良ちゃんは揃って苦笑いを浮かべます。
「ご自分でお渡しになれば宜しいのでは?」
健さんが私の手から手紙を取り、ヒラヒラさせながら尋ねます。
「私のことはどうも気に食わないようでして……なかなか会ってもらえないのです……」
キャプテンが悲しそうに俯き、首を左右に振ります。
「それでわたくしたちが代わりに、ですか?」
「実は緊急の部長会議が入ってしまって……まさか出席しないわけにもいきませんので……ですので、皆さんにお願いをしたいなと……」
「まあ、そういうことなら……」
「ありがとうございます! では、お願いいたします! 商店街の方に出没しますので!」
キャプテンはそう言ってそそくさとその場から立ち去って行ってしまいました。残された私たちは途方に暮れます。
「出没って……」
「レアモンスターかよ……」
「って、ほぼノーヒントじゃない!」
聖良ちゃんが叫びます。私たちの後方に立っていたエマちゃんがスマホを取り出します。
「あ、キャプテンさんからメッセージだ、何々……『ヒントその①、ターゲットは黒系の服を常に着ている』だって……」
「ヒントって何よ……」
「絶対楽しんでるだろ、キャプテンさん……」
「ふむ、ターゲット確保に向けて、まずは商店街に向かいましょうか!」
唯一ノリノリな健さんの先導の下、私たちは学校近くの商店街へと移動しました。
「さあ! 商店街に来ましたわ!」
「いや、来たのは良いけどよ……」
「どこから探せば良いのやら……」
竜乃ちゃんと聖良ちゃんが軽く頭を抱えます。その脇でエマちゃんが静かに呟きます。
「ヒントを見る限り……洋服屋さんを回ってみるっていうのはどうだっぺねえ?」
「エムスさん!」
「は、はい⁉」
「なかなか良い着眼点ですわ! 洋服店に向かうと致しましょう!」
私たちは洋服屋さんへと向かうことにしました。
「こちらがこの商店街一番の洋服店ですか!」
「で、スコッパよ、店に来てどうするつもりだ?」
「それは勿論、聞き込み捜査ですわ!」
「聞き込みだあ~?」
「そんな面倒なことしなくても店員さんに聞けば良いでしょ……すみませ~ん」
聖良ちゃんが店先で作業をしているエプロンを着けた店員さんに声を掛けます。
「はい、なんでしょうか?」
「漠然とした質問で恐縮なんですけど……こちらに黒系の服をよく買っていくお客さんっていらっしゃいますか? 自称『伝説のレジェンド』っていう方なんですが……」
「⁉ で、伝説のレジェンド⁉」
店員さんは驚いた表情を浮かべます。聖良ちゃんが畳み掛けます。
「知っていらっしゃるんですね?」
「い、いえ、お客様の個人情報をベラベラお話するわけにはいきません……!」
「そこをなんとかお願い出来ませんか?」
「そ、そんなことを言われましても……て、店長を呼んできます!」
店員さんが慌てた様子で店の奥に下がります。しばらくして店長さんらしき人を連れて戻って来ました。
「店長さんですか? 人を探していまして……」
「……『伝説のレジェンド』さんのことでしたら、簡単にお教えする訳には参りませんね」
店長さんは落ち着いた様子で話します。というか『伝説のレジェンド』さん呼びは定着しているんでしょうか……。聖良ちゃんは溜息をひとつ突いてから改めて尋ねます。
「どうすれば教えてくれますか?」
「ふむ……間もなくこの店は毎月恒例のタイムセールが始まります」
「はい?」
「店の奥に置いたワゴンから一番安い値札が付いた服を見事レジまで持ってくることが出来たのなら……『伝説のレジェンド』さんについての情報をお教えしましょう」
「あの、意味が分からないんですが……」
「面白え、その言葉忘れんなよ?」
竜乃ちゃんが横から口を出します。
「店長に二言はありません……セールに参加されるのであれば、所定の位置に着いて下さい」
数分後、私たちはいつの間にか集まってきていた多くのお客さんたちとともに店の前に貼られた白いテープの外側に並んでいました。店員さんが声を掛けます。
「えー皆さん、白いテープの外側にお並び下さい。合図が出る前にはみ出した方は失格となりますのでご注意下さい。繰り返します……」
「エムスさん、タイムセールってこういうものですの?」
「い、いや、わだすに聞かれても……どうなのかな?」
健さんに尋ねられて困ったエマちゃんが私に視線を向けます。
「か、かなり特殊な例だと思うけど……」
「こういうのって、店の前にワゴン置くんじゃねーのか?」
「そうよね、なんでわざわざ店の奥に……それに随分お客さんが多くなったわね」
「なんだ、知らねーのか、姉ちゃんたち?」
訝しがる私たちに対し、横に立つ黒ずくめのライダース姿の女性が話しかけてきました。ボサッとした黒髪のミディアムロングで、前髪を右に垂らしており、左眉をはじめ、いくつか付けたピアスがよく目立つ女性です。
「この店のセール品は驚異の九割引きだぜ? これを逃す手は無いだろって話だ」
「九割引き⁉」
「道理で妙に殺気立っていると思ったわ……」
「それでは位置に付いて……よーいスタート!」
店員さんの合図を皮切りに、お客さんが一斉に店内へ殺到します。
「く! なんて人の波と圧力だよ⁉」
「聖良ちゃん!」
「任せて桃ちゃん!」
聖良ちゃんが群衆の中に果敢に切り込みます。
「ドリブルで密集地帯をすり抜ける要領で……!」
「良いぞ、ピカ子!」
スルスルと店の奥へ入り込んでいった聖良ちゃんがあっという間に群衆の先頭に立ちます。
「よし! 一番乗りだわ……って⁉」
「やるねえ、なかなかの突破力だ!」
いつの間にか先程の黒ずくめの女性が聖良ちゃんの横に並んでいます。私たちも驚きます。
「聖良ちゃんと並んだ!」
「あのライダース、やるな!」
「なんの、勝負はまだ! 一番安い値札は……これよ!」
「ちっ⁉」
黒ずくめの人より聖良ちゃんが服を手に取り、店長さんのいるレジに走ります。
「どうですか⁉ これが今日のセール一番のお買い得品でしょ!」
「ふむ……合格です」
「やったぁ‼」
聖良ちゃんと共に、私たちも大いに喜びます。
「それでは教えて頂けるんですね? 『伝説のレジェンド』さんのことを⁉」
「……こちらの手紙をどうぞ」
「は? 手紙?」
「その手紙に次のヒントが書かれているそうですよ。あ、他のお客さまのご迷惑になりますので、お店の外でご覧になって下さい」
私たちはレジに詰め掛けた他のお客さんたちに押し出されるように店の外へ出ました。予期せぬ疲れに襲われた私たちはうなだれながら今後のことを話します。エマちゃんがこういう時の彼女にしては珍しく何か話をしたそうにしています。
「次のヒントって、なんだよ、また振り出しかよ!」
「あ、あの……」
「黒系の服を常に着る女性? そんな人本当にいたのかしら?」
「! いんやいんや、さっき思いっ切り隣さ!」
「エムスさん少し冷静になって下さる?」
「多分今一番こん中で冷静だど思うんだけども⁉」
「ビィちゃんどうする?」
「次のヒントでなんとか見つけ出そう……!」
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