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第2章 もう一人
第15話(3)エミリア、歓迎される
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エマちゃんが加わって数日後のことです。
「じゃあせっかくなので、3チームに分かれて対戦でもしましょうか」
キャプテンがそう提案しました。私たちは練習終わりに、学校近くの商店街にやってきました。秋魚さんのお家である「武寿し」でエマちゃんの歓迎会を行おうという話になったのですが、準備があるということなので、それまでの時間潰しといってはなんなのですが、皆で「ゲームセンターIKEDA」に入りました。
「3チーム? 組み分けはどうするのよ?」
輝さんの問いにキャプテンが答えます。
「うーん、学年ごとがベストですかね」
「それじゃあ人数が合わないわよ」
「秋魚は準備に行っていますからね……では二年生から美花さんと、一年生から丸井さんが我々三年生チームに加わってもらうということで。これで平等に六人ずつですね」
「は、はい……」
私とマネージャーが三年生チームに入ることになりました。
「対戦ってなにをするのよ?」
「まあ、あくまでもレクリエーションですから気楽にいきましょう……まずはクレーンゲームでもやりますか」
私たちはクレーンゲームのコーナーへと移動しました。キャプテンがあるクレーンゲーム機の前に立ち止まり、指差します。
「こちらがこの店で最難度を誇るクレーンゲームです。一チーム三人ずつが挑戦して、あのぬいぐるみを取った方のチームが勝利というのはいかがでしょう?」
「ぬいぐるみって……あれかヨ⁉」
「クレーンで取るには小さすぎだし!」
ヴァネさんと成実さんが不平の声を上げます。輝さんが口を開きます。
「……精度が求められるってことね、面白そうじゃない」
「ヒカル⁉」
「まさかの乗り気だし⁉」
「じゃあ、二年からはウチと成実。そうね、後はワッキーにお願いするわ」
「わ、分かった」
意外と乗り気な輝さんの指名を受け、脇中さんは戸惑いながらも頷きました。
「よっしゃ! 一年からはアタシが出るぜ!」
「却下よ」
「ピカ子さんに同意ですわ」
「って、なんでだよ!」
竜乃ちゃんが聖良ちゃんと健さんに対して抗議します。
「こういう繊細さが求められるゲームにはアンタのガサツさは最も不向きだわ」
「その通り、ここはわたくしが出ますわ」
「後は莉沙と流……頼めるわね?」
「了解した」
「が、頑張るっす!」
聖良ちゃんの頼みに莉沙ちゃんと流ちゃんが頷きます。
「納得いかねえ……」
ブツブツ文句を言う竜乃ちゃんを見ながら、私はキャプテンに尋ねます。
「こちらは誰が出ますか?」
「私と美花さんが出ます」
「キャプテンとマネージャー……こういうのお得意なんですか?」
「いいえ、全然」
「私も全くの不得手です」
「な、ならば、どうするんですか?」
「そう心配せずとも、私たちには弥凪がいますから」
キャプテンが池田さんを指し示します。
「この娘はこのお店のゲームを知り尽くしています。そして、どのゲームも一流の腕前……ゆえに私たちに負けはありません」
「まあこのお店は庭のようなものだからねー」
池田さんは余裕の表情を浮かべます。そして、クレーンゲームが行われた結果……。
「やったぜ、ヒカル!」
「流石の精度だし!」
「……当然の結果よ」
ヴァネさんたちからの称賛を輝さんは満更でもない感じで受け取ります。
「くっ……こうなったらこの店ごと買い取りますわ!」
「そういう問題じゃないわよ!」
懐から見たことの無い色のカードを取り出した健さんを聖良ちゃんが諌めます。
「あ、あの、池田さん……?」
「……弥凪?」
ぬいぐるみを取れずにうなだれてしまった池田さんに私たちは声をかけます。
「……し、信じられない、置き位置からして、初見はまず戸惑うこと間違いないのに、それをあんな大胆なクレーンのアプローチで取りに行くなんて……」
「だ、そうです。まあ、気持ちを切り替えて次にいきましょう」
「は、はあ……って次?」
私たちは場所を近くのカラオケボックスに移動しました。
「秋魚の準備がもう少しかかるそうなので、次はカラオケ対決といきましょう。各チーム二人ずつ歌ってもらい、その合計点で競いましょう。先程の対決に出た人は無しでお願いします」
「ふっ、ここは僕の番のようだね」
「自信満々ね。じゃあマッチ、アンタに決めたわ。もう一人は……オンミョウ、どう?」
「歌ですか……まあ、善処致します」
二年生チームは松内さんと真理さんが出ることとなりました。
「じゃあ、一年生は私が行くわ! 後一人は……」
「どうやらアタシの美声を披露するときが来ちまったみたいだな……」
「エマちゃん、どうかしら?」
「っておい、シカトかよ!」
竜乃ちゃんのことは無視して、聖良ちゃんはエマちゃんに声をかけます。
「え、わ、わだすですか?」
「貴女が今日の主役なんだし、好きな曲を好きなように歌って良いから」
「好きな曲……わ、分かりました」
そんな様子を見ながら、私はキャプテンに再度尋ねます。
「こちらはどうしましょう?」
「名和が出ます」
「ええっ⁉ わ、私は本当に人並みの歌唱力だぞ⁉」
キャプテンの突然の指名に永江さんが驚きます。
「構いません。本命は彼女ですから」
「本気出しちゃっても良いのかな?」
既に桜庭さんはマイクを片手にしています。
「妹さんとの歌ってみた動画が合計数百万回再生を誇る、桜庭さんの歌を生で聴けるなんて! これは貴重な機会ですね!」
こちらも既にタンバリンを手にしたマネージャーが興奮気味に語ります。
「美来の歌唱力はプロレベル……結果は明らかです」
「そ、そうですか……」
自信たっぷりに語るキャプテン。そして、カラオケ対決が行われた結果……
「やった! 合計で私たちがトップよ!」
聖良ちゃんが喜びの声を上げます。
「まあ、ピカ子はどうでも良いんだが」
「どうでも良いってなによ!」
「それよりもエムスだぜ……」
「ええ、エムスさん、今お歌いになられたのは?」
「ドイツの歌の東北民謡アレンジでがす」
「そ、そんなレアな楽曲も入っていますのね、カラオケ、奥が深いですわね……」
「とっても上手だったっす!」
「聞き惚れた」
「あ、ありがとうがんす」
エマちゃんは流ちゃんと莉沙ちゃんにお礼を言いました。
「……わずかに及ばなかったけど、二人とも歌が上手かったわね」
「オンミョウ、良かったゼ!」
「演歌とは意表を突かれたし!」
「演歌とはまた少し違うのですが……まあ、お褒め頂き嬉しく思います」
真理さんが軽く頭を下げました。
「マッチも上手だったね」
「ありがとう、ワッキー、いつもファンクラブの娘たちとカラオケにはよく来るからね」
脇中さんに対し、松内さんは髪をかき上げながら答えました。
「ふ、副キャプテン、可愛い歌声でした!」
「名和の歌、久々に聴いたかもー」
「わ、私のことはいい!」
マネージャーたちに対し、永江さんが手を激しく振る。
「え、えっと……」
「……美来?」
うなだれてしまった桜庭さんに私たちは声をかけます。
「……し、信じられない、な、なんてハイレベルなんだ……馴染みの薄いジャンルでもすっかり聞き入ってしまった。流行歌しか歌えない私など所詮井の中の蛙だったのかな……」
「だ、そうです。まあ、次にいきましょうか」
「は、はあ……って、まだあるんですか?」
勝負の後、時間一杯までカラオケを楽しんだ私たちはいよいよ本日の目的地、「武寿し」に移動しました。
「それでは最後は大食い&早食い対決といきましょうか。各チーム今まで出ていない最後の一人に出てもらいましょう」
「丸井、手加減は不要だぞ」
「いつも通りでー」
「三年生のプライドがかかっているんだ!」
「丸井さん、お願いします!」
「任せて下さい!」
チームの皆に対し、私は力強く頷きました。三年生じゃありませんが。
「ヴァネ、ここはアンタに任せたわよ」
「二年の気合い見せろし!」
「いや、ちょ、ちょっと待てヨ!」
ヴァネさんが何やら喚いています。
「どこまで食い下がれるかな……」
「これは見物だね」
「ヴァネッサさん、どうかご武運を……」
真理さんがヴァネさんに向かって拝みます。
「ふふっ、読み通りだわ! さあ竜乃、いよいよ出番よ!」
「い、いや、無理だって!」
「大丈夫、アンタなら出来るわ!」
「何の根拠も無えだろ!」
竜乃ちゃんも何やら喚いています。
「頑張って下さいっす!」
「骨は拾う」
「不吉なこと言うな!」
エマちゃんが不思議そうな顔で隣に立つ健さんに尋ねます。
「なして二人はあげに騒いでいるのすか?」
「……まあ、ご覧になっていれば分かりますわ」
「?」
エマちゃんは首を傾げます。
「それじゃあ、秋魚、よろしくお願いします」
「へい! お待ち!」
キャプテンの言葉に秋魚さんが料理を持ってきました。
「こ、これハ……」
「……アッキーナよう、これは何だい?」
「へへっ、竜っちゃん、よくぞ聞いてくれましたやで! こちらはウチの特別メニュー、『世界を目指せ! カツカレータワー』やで!」
「タ、タワー?」
「せや! 豚、鶏、牛、エビ、マグロの五種類のカツを贅沢に積み上げたカレーや! これは五大陸に響き渡るで~」
「見ているだけで胸焼けしそうだゼ……」
「えっと……お寿司屋さんですよね、このお店は?」
「そこは気になさったら負けですわ」
「そ、そうなんですか……」
「美味しそう! いっただきま~す♪」
「ええっ⁉」
何やらエマちゃんの驚いた声が聞こえてきましたが、私は気にせず食べ始めます。結果……
「勝者は丸井ちゃんやな!」
「ごちそうさまでした♪」
「し、信じらんねえ……あの量をあっという間に平らげてしまっただ……」
「三年生の威厳はどうにか保たれましたね」
「ちょっと待ってよ、大体、桃は三年生じゃないでしょう」
「それに先程からあまりにもそちらが有利な勝負過ぎませんか⁉」
輝さんと聖良ちゃんが詰め寄りますが、キャプテンは二人を落ち着かせます。
「あくまでもレクレーションですから……。残った食事は皆さんで美味しく頂きましょう」
「ふむ、量はともかく味は美味ですわね」
「健さん、もう一つお尋ねしたかったんですが……」
「? なんですの?」
「わ、わだすのあだ名ですか? そ、その、エムスって言うのは?」
「それは……あそこで俯いている本人に直接聞いてみて下さい」
「は、はあ?」
エマちゃんが竜乃ちゃんにおずおずと話しかけます。
「あ、あんの、竜乃さん? わだすのあだ名なんですけど……」
「……金髪ポニーテールに碧眼。そしてクールないでたち、まるで『〇トロイド』の〇ムスみてえだなって思ってな。だから本名エミリアからエを取って、エムスだ」
「そ、そうだったんすか……」
「エ、エマちゃん、お気に召さないようだったら……」
私の言葉にエマちゃんは思い切り振り返り、嬉しそうにこう言いました。
「あだ名なんて初めてつけてもらったでがす!」
「そ、そう、それは良かったね……」
とにかくエマちゃんの歓迎会は大いに盛り上がって、何よりでした。
「じゃあせっかくなので、3チームに分かれて対戦でもしましょうか」
キャプテンがそう提案しました。私たちは練習終わりに、学校近くの商店街にやってきました。秋魚さんのお家である「武寿し」でエマちゃんの歓迎会を行おうという話になったのですが、準備があるということなので、それまでの時間潰しといってはなんなのですが、皆で「ゲームセンターIKEDA」に入りました。
「3チーム? 組み分けはどうするのよ?」
輝さんの問いにキャプテンが答えます。
「うーん、学年ごとがベストですかね」
「それじゃあ人数が合わないわよ」
「秋魚は準備に行っていますからね……では二年生から美花さんと、一年生から丸井さんが我々三年生チームに加わってもらうということで。これで平等に六人ずつですね」
「は、はい……」
私とマネージャーが三年生チームに入ることになりました。
「対戦ってなにをするのよ?」
「まあ、あくまでもレクリエーションですから気楽にいきましょう……まずはクレーンゲームでもやりますか」
私たちはクレーンゲームのコーナーへと移動しました。キャプテンがあるクレーンゲーム機の前に立ち止まり、指差します。
「こちらがこの店で最難度を誇るクレーンゲームです。一チーム三人ずつが挑戦して、あのぬいぐるみを取った方のチームが勝利というのはいかがでしょう?」
「ぬいぐるみって……あれかヨ⁉」
「クレーンで取るには小さすぎだし!」
ヴァネさんと成実さんが不平の声を上げます。輝さんが口を開きます。
「……精度が求められるってことね、面白そうじゃない」
「ヒカル⁉」
「まさかの乗り気だし⁉」
「じゃあ、二年からはウチと成実。そうね、後はワッキーにお願いするわ」
「わ、分かった」
意外と乗り気な輝さんの指名を受け、脇中さんは戸惑いながらも頷きました。
「よっしゃ! 一年からはアタシが出るぜ!」
「却下よ」
「ピカ子さんに同意ですわ」
「って、なんでだよ!」
竜乃ちゃんが聖良ちゃんと健さんに対して抗議します。
「こういう繊細さが求められるゲームにはアンタのガサツさは最も不向きだわ」
「その通り、ここはわたくしが出ますわ」
「後は莉沙と流……頼めるわね?」
「了解した」
「が、頑張るっす!」
聖良ちゃんの頼みに莉沙ちゃんと流ちゃんが頷きます。
「納得いかねえ……」
ブツブツ文句を言う竜乃ちゃんを見ながら、私はキャプテンに尋ねます。
「こちらは誰が出ますか?」
「私と美花さんが出ます」
「キャプテンとマネージャー……こういうのお得意なんですか?」
「いいえ、全然」
「私も全くの不得手です」
「な、ならば、どうするんですか?」
「そう心配せずとも、私たちには弥凪がいますから」
キャプテンが池田さんを指し示します。
「この娘はこのお店のゲームを知り尽くしています。そして、どのゲームも一流の腕前……ゆえに私たちに負けはありません」
「まあこのお店は庭のようなものだからねー」
池田さんは余裕の表情を浮かべます。そして、クレーンゲームが行われた結果……。
「やったぜ、ヒカル!」
「流石の精度だし!」
「……当然の結果よ」
ヴァネさんたちからの称賛を輝さんは満更でもない感じで受け取ります。
「くっ……こうなったらこの店ごと買い取りますわ!」
「そういう問題じゃないわよ!」
懐から見たことの無い色のカードを取り出した健さんを聖良ちゃんが諌めます。
「あ、あの、池田さん……?」
「……弥凪?」
ぬいぐるみを取れずにうなだれてしまった池田さんに私たちは声をかけます。
「……し、信じられない、置き位置からして、初見はまず戸惑うこと間違いないのに、それをあんな大胆なクレーンのアプローチで取りに行くなんて……」
「だ、そうです。まあ、気持ちを切り替えて次にいきましょう」
「は、はあ……って次?」
私たちは場所を近くのカラオケボックスに移動しました。
「秋魚の準備がもう少しかかるそうなので、次はカラオケ対決といきましょう。各チーム二人ずつ歌ってもらい、その合計点で競いましょう。先程の対決に出た人は無しでお願いします」
「ふっ、ここは僕の番のようだね」
「自信満々ね。じゃあマッチ、アンタに決めたわ。もう一人は……オンミョウ、どう?」
「歌ですか……まあ、善処致します」
二年生チームは松内さんと真理さんが出ることとなりました。
「じゃあ、一年生は私が行くわ! 後一人は……」
「どうやらアタシの美声を披露するときが来ちまったみたいだな……」
「エマちゃん、どうかしら?」
「っておい、シカトかよ!」
竜乃ちゃんのことは無視して、聖良ちゃんはエマちゃんに声をかけます。
「え、わ、わだすですか?」
「貴女が今日の主役なんだし、好きな曲を好きなように歌って良いから」
「好きな曲……わ、分かりました」
そんな様子を見ながら、私はキャプテンに再度尋ねます。
「こちらはどうしましょう?」
「名和が出ます」
「ええっ⁉ わ、私は本当に人並みの歌唱力だぞ⁉」
キャプテンの突然の指名に永江さんが驚きます。
「構いません。本命は彼女ですから」
「本気出しちゃっても良いのかな?」
既に桜庭さんはマイクを片手にしています。
「妹さんとの歌ってみた動画が合計数百万回再生を誇る、桜庭さんの歌を生で聴けるなんて! これは貴重な機会ですね!」
こちらも既にタンバリンを手にしたマネージャーが興奮気味に語ります。
「美来の歌唱力はプロレベル……結果は明らかです」
「そ、そうですか……」
自信たっぷりに語るキャプテン。そして、カラオケ対決が行われた結果……
「やった! 合計で私たちがトップよ!」
聖良ちゃんが喜びの声を上げます。
「まあ、ピカ子はどうでも良いんだが」
「どうでも良いってなによ!」
「それよりもエムスだぜ……」
「ええ、エムスさん、今お歌いになられたのは?」
「ドイツの歌の東北民謡アレンジでがす」
「そ、そんなレアな楽曲も入っていますのね、カラオケ、奥が深いですわね……」
「とっても上手だったっす!」
「聞き惚れた」
「あ、ありがとうがんす」
エマちゃんは流ちゃんと莉沙ちゃんにお礼を言いました。
「……わずかに及ばなかったけど、二人とも歌が上手かったわね」
「オンミョウ、良かったゼ!」
「演歌とは意表を突かれたし!」
「演歌とはまた少し違うのですが……まあ、お褒め頂き嬉しく思います」
真理さんが軽く頭を下げました。
「マッチも上手だったね」
「ありがとう、ワッキー、いつもファンクラブの娘たちとカラオケにはよく来るからね」
脇中さんに対し、松内さんは髪をかき上げながら答えました。
「ふ、副キャプテン、可愛い歌声でした!」
「名和の歌、久々に聴いたかもー」
「わ、私のことはいい!」
マネージャーたちに対し、永江さんが手を激しく振る。
「え、えっと……」
「……美来?」
うなだれてしまった桜庭さんに私たちは声をかけます。
「……し、信じられない、な、なんてハイレベルなんだ……馴染みの薄いジャンルでもすっかり聞き入ってしまった。流行歌しか歌えない私など所詮井の中の蛙だったのかな……」
「だ、そうです。まあ、次にいきましょうか」
「は、はあ……って、まだあるんですか?」
勝負の後、時間一杯までカラオケを楽しんだ私たちはいよいよ本日の目的地、「武寿し」に移動しました。
「それでは最後は大食い&早食い対決といきましょうか。各チーム今まで出ていない最後の一人に出てもらいましょう」
「丸井、手加減は不要だぞ」
「いつも通りでー」
「三年生のプライドがかかっているんだ!」
「丸井さん、お願いします!」
「任せて下さい!」
チームの皆に対し、私は力強く頷きました。三年生じゃありませんが。
「ヴァネ、ここはアンタに任せたわよ」
「二年の気合い見せろし!」
「いや、ちょ、ちょっと待てヨ!」
ヴァネさんが何やら喚いています。
「どこまで食い下がれるかな……」
「これは見物だね」
「ヴァネッサさん、どうかご武運を……」
真理さんがヴァネさんに向かって拝みます。
「ふふっ、読み通りだわ! さあ竜乃、いよいよ出番よ!」
「い、いや、無理だって!」
「大丈夫、アンタなら出来るわ!」
「何の根拠も無えだろ!」
竜乃ちゃんも何やら喚いています。
「頑張って下さいっす!」
「骨は拾う」
「不吉なこと言うな!」
エマちゃんが不思議そうな顔で隣に立つ健さんに尋ねます。
「なして二人はあげに騒いでいるのすか?」
「……まあ、ご覧になっていれば分かりますわ」
「?」
エマちゃんは首を傾げます。
「それじゃあ、秋魚、よろしくお願いします」
「へい! お待ち!」
キャプテンの言葉に秋魚さんが料理を持ってきました。
「こ、これハ……」
「……アッキーナよう、これは何だい?」
「へへっ、竜っちゃん、よくぞ聞いてくれましたやで! こちらはウチの特別メニュー、『世界を目指せ! カツカレータワー』やで!」
「タ、タワー?」
「せや! 豚、鶏、牛、エビ、マグロの五種類のカツを贅沢に積み上げたカレーや! これは五大陸に響き渡るで~」
「見ているだけで胸焼けしそうだゼ……」
「えっと……お寿司屋さんですよね、このお店は?」
「そこは気になさったら負けですわ」
「そ、そうなんですか……」
「美味しそう! いっただきま~す♪」
「ええっ⁉」
何やらエマちゃんの驚いた声が聞こえてきましたが、私は気にせず食べ始めます。結果……
「勝者は丸井ちゃんやな!」
「ごちそうさまでした♪」
「し、信じらんねえ……あの量をあっという間に平らげてしまっただ……」
「三年生の威厳はどうにか保たれましたね」
「ちょっと待ってよ、大体、桃は三年生じゃないでしょう」
「それに先程からあまりにもそちらが有利な勝負過ぎませんか⁉」
輝さんと聖良ちゃんが詰め寄りますが、キャプテンは二人を落ち着かせます。
「あくまでもレクレーションですから……。残った食事は皆さんで美味しく頂きましょう」
「ふむ、量はともかく味は美味ですわね」
「健さん、もう一つお尋ねしたかったんですが……」
「? なんですの?」
「わ、わだすのあだ名ですか? そ、その、エムスって言うのは?」
「それは……あそこで俯いている本人に直接聞いてみて下さい」
「は、はあ?」
エマちゃんが竜乃ちゃんにおずおずと話しかけます。
「あ、あんの、竜乃さん? わだすのあだ名なんですけど……」
「……金髪ポニーテールに碧眼。そしてクールないでたち、まるで『〇トロイド』の〇ムスみてえだなって思ってな。だから本名エミリアからエを取って、エムスだ」
「そ、そうだったんすか……」
「エ、エマちゃん、お気に召さないようだったら……」
私の言葉にエマちゃんは思い切り振り返り、嬉しそうにこう言いました。
「あだ名なんて初めてつけてもらったでがす!」
「そ、そう、それは良かったね……」
とにかくエマちゃんの歓迎会は大いに盛り上がって、何よりでした。
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