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第2章 もう一人
第15話(2)エミリア、チームメイトを把握する
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「鈴森さん、今日は練習初日ですからあまり無理をなさらずに、この辺で上がって後はしばらく観戦していて下さい」
「は、はい……」
鈴森が頷くと、緑川は周囲を見回す。
「そうなると人数が揃わなくなりますから……ああ、丸井さんも抜けて下さい。鈴森さんのクールダウンに付き合って上げて下さい」
「あ、はい……」
丸井もコートの外に出て、鈴森ともに軽くジョギングを始めた。
「どうだった鈴森さん? 練習初日は?」
私は鈴森さんとゆっくり並走しながら、彼女に話しかけました。
「あ、そ、そうすね……こんな広えコートでプレーするのは久しぶりだったんで、勘を取り戻すのにちょっと苦労しだすね」
「そっか、小学生までサッカーとフットサル、両方やっていたんだっけ?」
「は、はい……五年生くれえまで」
「ドイツにいたんだって?」
「……親の仕事の都合で五歳から五年間向こうさ住んでいました。こっちさ帰ってきたとき、誘われたのがフットサルクラブだったんで、そっからは主にフットサルをやっていました」
金髪碧眼の顔立ちから発される訛りの混ざった独特な口調に若干戸惑いつつも、私は話を続けました。
「それで東北チャンピオンチームに入るなんて凄いね」
「い、いえ、全国大会さ出た丸井さんの方が凄いです」
「桃でいいよ」
「え?」
「名前で呼んでよ、これからチームメイトなんだから。敬語もやめてよ、同い年なんだしさ」
「じゃ、じゃあ、も、桃ちゃん……」
「うん。私もエミリアちゃんって呼んで良いかな?」
「あ、エマでいいがす……仲の良い人は皆そう呼んでくれますから」
「分かった、改めてよろしくね、エマちゃん」
「う、うん、こちらこそ……」
私たちは軽いジョギングを終えると、コートの脇で紅白戦を観戦しつつ、ストレッチを行いました。私はエマちゃんに皆の印象を聞いてみました。
「皆のプレーはどうかな?」
エマちゃんはしばらく考え込んでから、淡々と話し始めました。
「……主力組のキーパー、副キャプテンの……」
「永江さん?」
「うん、良いキーパーだね、ああやって後ろでドッシリと構えていてくれると、味方としてはとっても安心する」
「じゃあ、キャプテンは?」
「……守備ももちろん上手いけど、キックの精度が高いね。低い位置からでも攻撃の起点さなれるのは大きいね」
「センターバックのコンビは対峙してみてどうだった?」
「あの明るい髪の人は当たりが強いね、わだすと比べてもそこまで大柄ってわけでもないけど、吹っ飛ばされて驚いたよ。あれが高校レベルのタックルなんだね。髪さ長い人はなんていうか……不思議な人だね。完全にかわしたと思ったらボールを取られていてビックリしたよ」
「真理さんは一対一ならほぼ負けなしだからね……」
私はエマちゃんの言葉に深々と頷きました。
「成実さんは?」
「サイドテールの人は、とてつもない運動量だね。あんだけ動き回ってボールを拾ってくれたら味方としてはとても助かるよ」
「じゃあ、輝さんは?」
「ゆるふわの人か……やっぱりあの左足のキックが目を引くね。距離を問わず凄く正確で……あれはなかなか真似さできるもんでないね。これまで相当な数のボール蹴り込んできたんだろうな……」
エマちゃんは心底感心したように呟きました。
「聖良ちゃんはどうかな?」
「ツインテールの娘? ドリブルが鋭いね、自信を持っているのが見ていても伝わってくるよ。かといってパスオンリーってわけでもなく、パスもシュートも出来るし、相手にするととっても守りづらいね」
「秋魚さんはどう?」
「まあ、アフロにまずビックリしたんだけども……プレー自体はとっても堅実だね。身長は高いけど、足元の技術も備えていて、意外と器用な選手だね。意外とつったら悪いか」
そう言ってエマちゃんは軽く笑った。ストレッチも終わり、私たちは座り込んで、紅白戦を眺めました。私は続いて他の選手に対するエマちゃんの寸評を聞いてみました。
「一緒にプレーした選手たちはどうだった? 池田さんとか」
「……フットサルの時も思ったけど、ポジショニングが良いよね、味方にとっては良い所、相手にとっては嫌な所さいる」
「桜庭さんと脇中さんは?」
「ショートボブの人はパスカットが上手いね、マッシュルームカットの人はフィードが丁寧だね。二人とも落ち着いているし、守備的なポジションに向いていると思う」
「松内さんはどう? フリーキックを譲って貰っていたね」
「あの人もキック精度が高いね、パスも欲しい所にさ出してくれる」
「同級生の莉沙ちゃんと流ちゃんはどういう印象を持った?」
「おさげ髪の娘はサイドライン際でのプレーが上手いね。それであの中に切れ込むカットインは分かっていても簡単には止められないね。前髪長い娘は足が速いね、正直技術はまだまだだとは思うけど……逆に言えば、伸び代は一番あるんでねえかな」
「じゃあ……健さんと竜乃ちゃんはどうかな? フットサルでも対戦したけど」
「キーパーの娘は……基本技術は確かに高いと思うけど、ゴールマウスからドリブルを始めたりするのは見ていてヒヤヒヤするな。ただ、相当メンタルが強いよね。わだすのことを妙な名前で呼んでくるあの娘は……」
「あの娘は……?」
エマちゃんは腕を組んで俯きました。一瞬の間を置いた後、顔を上げて一言呟きました。
「荒削りだね」
「そ、そう……」
「でも、ポテンシャルの高さみてえなもんは感じるね」
「あ、や、やっぱり⁉ そう思う⁉」
「あくまでも、みてえなもん、だけどもね」
エマちゃんはフッと微笑みました。すると、美花さんがホイッスルを鳴らしました。紅白戦終了の笛です。
「まあ、まだ初日だけんども……」
エマちゃんは立ち上がります。
「おもしぇそうなプレーが一杯出来そうなチームに入れて、とってもワクワクしてるよ」
「そう、それは良かった」
紅白戦を終えたキャプテンたちが呼んでいるため、私は小走りでコートの中央へと向かおうとします。
「わだすが一番ドキドキワクワクしてんのはアンタとのプレーすることだけんどね、『桃色の悪魔』さん……お願いだからわだすをこれまで見たことの無いような景色の先まで連れて行ってけさいん……」
「え? エマちゃん今何か言った?」
「いんや、何にも。ほらほら早く集合しねえと」
振り返った私に対してエマちゃんは笑って首を横に振りました。
「は、はい……」
鈴森が頷くと、緑川は周囲を見回す。
「そうなると人数が揃わなくなりますから……ああ、丸井さんも抜けて下さい。鈴森さんのクールダウンに付き合って上げて下さい」
「あ、はい……」
丸井もコートの外に出て、鈴森ともに軽くジョギングを始めた。
「どうだった鈴森さん? 練習初日は?」
私は鈴森さんとゆっくり並走しながら、彼女に話しかけました。
「あ、そ、そうすね……こんな広えコートでプレーするのは久しぶりだったんで、勘を取り戻すのにちょっと苦労しだすね」
「そっか、小学生までサッカーとフットサル、両方やっていたんだっけ?」
「は、はい……五年生くれえまで」
「ドイツにいたんだって?」
「……親の仕事の都合で五歳から五年間向こうさ住んでいました。こっちさ帰ってきたとき、誘われたのがフットサルクラブだったんで、そっからは主にフットサルをやっていました」
金髪碧眼の顔立ちから発される訛りの混ざった独特な口調に若干戸惑いつつも、私は話を続けました。
「それで東北チャンピオンチームに入るなんて凄いね」
「い、いえ、全国大会さ出た丸井さんの方が凄いです」
「桃でいいよ」
「え?」
「名前で呼んでよ、これからチームメイトなんだから。敬語もやめてよ、同い年なんだしさ」
「じゃ、じゃあ、も、桃ちゃん……」
「うん。私もエミリアちゃんって呼んで良いかな?」
「あ、エマでいいがす……仲の良い人は皆そう呼んでくれますから」
「分かった、改めてよろしくね、エマちゃん」
「う、うん、こちらこそ……」
私たちは軽いジョギングを終えると、コートの脇で紅白戦を観戦しつつ、ストレッチを行いました。私はエマちゃんに皆の印象を聞いてみました。
「皆のプレーはどうかな?」
エマちゃんはしばらく考え込んでから、淡々と話し始めました。
「……主力組のキーパー、副キャプテンの……」
「永江さん?」
「うん、良いキーパーだね、ああやって後ろでドッシリと構えていてくれると、味方としてはとっても安心する」
「じゃあ、キャプテンは?」
「……守備ももちろん上手いけど、キックの精度が高いね。低い位置からでも攻撃の起点さなれるのは大きいね」
「センターバックのコンビは対峙してみてどうだった?」
「あの明るい髪の人は当たりが強いね、わだすと比べてもそこまで大柄ってわけでもないけど、吹っ飛ばされて驚いたよ。あれが高校レベルのタックルなんだね。髪さ長い人はなんていうか……不思議な人だね。完全にかわしたと思ったらボールを取られていてビックリしたよ」
「真理さんは一対一ならほぼ負けなしだからね……」
私はエマちゃんの言葉に深々と頷きました。
「成実さんは?」
「サイドテールの人は、とてつもない運動量だね。あんだけ動き回ってボールを拾ってくれたら味方としてはとても助かるよ」
「じゃあ、輝さんは?」
「ゆるふわの人か……やっぱりあの左足のキックが目を引くね。距離を問わず凄く正確で……あれはなかなか真似さできるもんでないね。これまで相当な数のボール蹴り込んできたんだろうな……」
エマちゃんは心底感心したように呟きました。
「聖良ちゃんはどうかな?」
「ツインテールの娘? ドリブルが鋭いね、自信を持っているのが見ていても伝わってくるよ。かといってパスオンリーってわけでもなく、パスもシュートも出来るし、相手にするととっても守りづらいね」
「秋魚さんはどう?」
「まあ、アフロにまずビックリしたんだけども……プレー自体はとっても堅実だね。身長は高いけど、足元の技術も備えていて、意外と器用な選手だね。意外とつったら悪いか」
そう言ってエマちゃんは軽く笑った。ストレッチも終わり、私たちは座り込んで、紅白戦を眺めました。私は続いて他の選手に対するエマちゃんの寸評を聞いてみました。
「一緒にプレーした選手たちはどうだった? 池田さんとか」
「……フットサルの時も思ったけど、ポジショニングが良いよね、味方にとっては良い所、相手にとっては嫌な所さいる」
「桜庭さんと脇中さんは?」
「ショートボブの人はパスカットが上手いね、マッシュルームカットの人はフィードが丁寧だね。二人とも落ち着いているし、守備的なポジションに向いていると思う」
「松内さんはどう? フリーキックを譲って貰っていたね」
「あの人もキック精度が高いね、パスも欲しい所にさ出してくれる」
「同級生の莉沙ちゃんと流ちゃんはどういう印象を持った?」
「おさげ髪の娘はサイドライン際でのプレーが上手いね。それであの中に切れ込むカットインは分かっていても簡単には止められないね。前髪長い娘は足が速いね、正直技術はまだまだだとは思うけど……逆に言えば、伸び代は一番あるんでねえかな」
「じゃあ……健さんと竜乃ちゃんはどうかな? フットサルでも対戦したけど」
「キーパーの娘は……基本技術は確かに高いと思うけど、ゴールマウスからドリブルを始めたりするのは見ていてヒヤヒヤするな。ただ、相当メンタルが強いよね。わだすのことを妙な名前で呼んでくるあの娘は……」
「あの娘は……?」
エマちゃんは腕を組んで俯きました。一瞬の間を置いた後、顔を上げて一言呟きました。
「荒削りだね」
「そ、そう……」
「でも、ポテンシャルの高さみてえなもんは感じるね」
「あ、や、やっぱり⁉ そう思う⁉」
「あくまでも、みてえなもん、だけどもね」
エマちゃんはフッと微笑みました。すると、美花さんがホイッスルを鳴らしました。紅白戦終了の笛です。
「まあ、まだ初日だけんども……」
エマちゃんは立ち上がります。
「おもしぇそうなプレーが一杯出来そうなチームに入れて、とってもワクワクしてるよ」
「そう、それは良かった」
紅白戦を終えたキャプテンたちが呼んでいるため、私は小走りでコートの中央へと向かおうとします。
「わだすが一番ドキドキワクワクしてんのはアンタとのプレーすることだけんどね、『桃色の悪魔』さん……お願いだからわだすをこれまで見たことの無いような景色の先まで連れて行ってけさいん……」
「え? エマちゃん今何か言った?」
「いんや、何にも。ほらほら早く集合しねえと」
振り返った私に対してエマちゃんは笑って首を横に振りました。
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