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第1章 桃と竜乃
第5話(3)ハーフタイムの救世主
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金曜日の放課後、ミーティング終わりにキャプテンに声を掛けられた私は、マネージャーとともに、学校の玄関前にいました。もう大半の生徒が出払っています。雨は先程のミーティング時よりは弱まってきて、小雨になっていますが、雨雲の様子から見て、また強く降り出しそうな気配がします。
「あの……ここに何が?」
「先程数学の先生とすれ違いました。そろそろ出てくるでしょう」
数学?不思議に思っていると、話し声がして、三人の女の子が玄関から出てきました。
「はぁ~ウザッ! 急に数学の補習とか何ナノ?」
「大体、ウチら文系だし。今更数学とか……ってヒカル? あれ……」
三人は私と先日ひと悶着あった方々、成実さん、ヴァネさん、そして……ヒカルさんです。私たちの存在に気がついた成実さんが、スマホをいじっているヒカルさんに声を掛けます。顔を上げたヒカルさんは私たち……というかキャプテンに気付き状況を察したようです。
「なるほど……アンタの差し金ってわけね」
「お待ちしていました。突然の補習、お疲れさまです」
キャプテンは大げさに両手を広げながら答えました。
「白々しい……何の用よ?」
「言わなくても分かっておられると思いますが……では、また雨も強くなりそうですし、単刀直入にお話しましょう。御三方とも、そろそろサッカー部に戻って来てもらえませんか? 実は明日“絶対に負けられない試合”があるのです」
私は驚いた顔で、キャプテン、そしてマネージャーを見つめました。マネージャーは黙って頷きました。
「……」
「私がキャプテンになった昨秋から、こうして直接お願いするのは三度目ですね、美花さんの方からも度々お話があったと思いますが……」
「答えはNOよ、何度来ても同じ……」
ヒカルさんが静かに答えます。
「では何故サッカー部に籍を残したままなのですか?」
「ガチの帰宅部っていうのは基本NGなんでしょ、この学校。転部とか今更面倒だからよ」
この話はこれでおしまいといった感じで、ヒカルさんたちは私たちとすれ違い、校門の方へ向かいます。
「怪我、もう治っているのでしょう?」
キャプテンの言葉に、ヒカルさんが立ち止まります。
「体もそうですし、心の方も……」
「何を言って……!」
「広瀬川沿いのとあるグラウンドで、三人でボールを蹴っていること……知っていますよ。蹴るだけじゃなくて走る方もすっかり問題ないみたいですね」
「バ、バレてた……」
ヴァネさんが小さく呟きます。キャプテンが続けます。
「となると問題は心の方だと思っていましたが、それも克服したのではないですか?」
「……」
ヒカルさんは無言を貫きます。
「先日のピロティーでの一件以来……彼女たちとボールを蹴り合って、貴方の心にもまた火が灯ったのじゃないですか?」
キャプテンが私の方を振り返りつつ、話を続けます。
「あの日以来、練習の様子を覗いているの……気付いていますよ、非常階段の踊り場からね」
「め、目ざとい……」
今度は成実さんが小声で呟きました。キャプテンがヒカルさんを真っ直ぐ見据えます。
「怪我からもうすぐ一年です。もう十分なんじゃないですか」
「勝手なことを……」
そう言い捨てて、ヒカルさんは立ち去ろうとしました。すると……
「待って! ヒカルちゃん!」
マネージャーがヒカルさんの元に駆け寄ります。
「勿体ないよ! 三人とも凄い才能を持っているのに! 私、小学校の頃から憧れていた……ああ、こういう人たちが上に行くんだろうなって……」
「上に行けなかったのよ、私たちは……」
ヒカルさんが苛立ち気味に答えます。
「ジュニアユースからユースに上がれなかった人なんて一杯いるよ、それでもプロになった人だって一杯いる! 高校サッカーで頑張れば、プロの人はきっと見てくれている!」
美花さんが捲くしたてます。ジュニアユースやユースとは話から察するに、ここ地元仙台のプロチーム『織姫仙台FC』の下部組織のことでしょう。
「ユースに上がれなかったのはきっと色々な理由があるんだと思う……でも、こう言ったらなんだけど……私、嬉しかったんだ。ヒカルちゃんたちと同じ高校に入れて。私は下手っぴだったから、中学までで選手は止めちゃっていて一緒にプレーは出来ないけど……でもサポートすることなら出来る! って思ったの。確かに怪我は残念だったけど、自分だけだって自棄にならないで! 上手く行かないときなんて、誰にだってあるよ! ちょっと待ってて……」
目を逸らすヒカルさんに対してマネージャーは、段ボールから取り出した背番号7のユニフォームを突き付けます。
「見て、三人のユニフォームもちゃんと用意してあるんだよ! いつ戻ってきてくれても良いように! キャプテンも言ったけど、明日は市民サッカー場で大事な試合があるの! 三人の力が必要なの! ね? だから受け取って!」
「~~~、要らないわよ、そんなもの!」
ユニフォームを渡そうとしたマネージャーの手を、ヒカルさんが払いのけます。ユニフォームが地面に落ちて、雨水に濡れます。そんな様子を見て、私は思わず口を開いていました。
「そんなもの……?」
私はヒカルさんの前に進み出ます。
「サッカーを続けたくても続けられなかった人は大勢います。ユニフォームを手にしたくても届かなかった人も山ほどいます。でも、貴方はユニフォームに袖を通す資格がある。この間ボールを蹴って感じました……他人にとって喉から手が出るほど欲しい“才能”を貴方は持っている! それなのに貴方はその資格を手放そうとしている、たった一度や二度の躓きで……」
「アンタは躓いたことなんかないでしょう⁉」
「ありますよ! これからだってあるかもしれない! でも諦めない! 諦めたくない! 諦めるつもりも無い! 何故なら……」
私は落ちたユニフォームを拾って続けます。
「このユニフォームには多くの人の思いが詰まっているから! 私にも貴方にも責任がある。これを託された責任が! ……躓いたら、また立ち上がれば良いんです。一人が無理なら、皆が助けてくれる。それがチームです。」
「……くだらない」
ヒカルさんは私たちに背を向けて、歩き出しました。
「諦めないで下さい!」
やや強くなってくる雨の中、私は大声で叫びました。ヒカルさんは一瞬だけ立ち止まりましたが、またすぐ歩き去っていきました。
時間は戻って今日。突然のことに戸惑いを隠せない私を見て、ヒカルさんは笑いながら私の背中にまわってこう言います。
「途中からだけど見ていたわよ、三失点に絡む大活躍。なかなか見られるもんじゃないわね、それの重さにつまずいちゃったってやつ?」
そう言ってヒカルさんは私の背番号10を指差します。
「……助けてあげるわ」
「え?」
「一人が無理なら、皆が助けてくれる。それがチーム……なんでしょ? だから助けてあげるわ、ウチらがね」
気が付くと、ヒカルさんの後ろにヴァネさんと成実さんも立っていました。
「三人とも……! 来てくれたんだね! ありがとう!」
私の様子を見に来たマネージャーが、三人の元に駆け寄ります。ヒカルさんが照れ臭そうに答えます。
「べ、別にお礼を言われることじゃないわよ」
「来てくれると信じていましたよ」
そう言ってキャプテンがこちらに歩み寄ってきます。
「まあ欲を言えば、試合開始前に来て欲しかったのですが……」
「い、いや、場所と時間間違え……痛っ!」
「余計なこと言うなし」
ヴァネさんのわき腹を成実さんが肘で小突きます。
「……駅から走ってきたわ。アップは十分よ」
ヒカルさんの言葉に、キャプテンが満足そうに頷きます。
「それは結構。では早速、控え室でユニフォームに着替えてきて下さい、……と、言いたいところなのですが」
皆が「?」となっている中、キャプテンはこう続けます。
「私はともかく、三人とも、美花さんには言うことがあるのではないですか?」
「い、いえ、良いんですよ、キャプテン! そういうのは!」
「いいえ美花さん、これもケジメですから」
キャプテンは笑顔でそう言います。
「わ、悪かったヨ、ちょっと調子に乗ってた……」
「色々ゴメン、特にこの間は……悪かったし」
「……ごめん、美花。ウチが馬鹿だった。何もかも上手く行かないからって、勝手に腐って、でも……今日で終わりにする。だから見ていて頂戴」
「う、うん……!」
美花さんは涙を拭って、三人の謝罪に応えます。キャプテンもその様子を見て頷きます。
「では御三方、着替えをよろしく。後半開始から三人同時に入ってもらいます」
数分後、ユニフォーム姿となった三人が、皆の前に並びます。キャプテンがポンと手を叩いて、こう告げます。
「後半からこの三人に入ってもらいます。初めましての方もいると思いますので、簡単に自己紹介をお願いします。それではどうぞ」
「え?あ、ああ、アタシは谷尾(やお)ヴァネッサ恵美(えみ)。2-C。日本とブラジルのハーフ。ポジションはセンターバックだけど中盤やFWも出来るヨ、ヴァネって呼んで良いヨ。ヨロシク!」
「石野成実(いしのなるみ)。クラスはヴァネと一緒。ポジションは中盤だけど、センターバックとGK以外ならどこでも出来るし。まあよろしくだし」
「菊沢輝(きくさわひかる)……クラスは二人と同じ。ポジションはサイドハーフかな。よろしく」
「ありがとうございます。システムは変えません。三人に入ってもらうポジションは先程伝えた通りです……あ、先生どうでした、先方は?」
常磐野ベンチから九十九先生が戻ってきました。急な交代についての許可をもらいに行ってきたようです。
「別に構いませんよ、だって。怖そうな人だと思ったけど、意外といい人かもね」
「点差もついたし、余裕の表れでしょうかね……丸井さん」
「は、はい」
「ごめんなさい、私の采配ミスです」
「ど、どうしたんですかいきなり」
「高校最初の試合にいきなり慣れないポジションで起用してしまって……後半は丸井さん本来のポジション、ボランチでのプレーをお願いします。それと……」
「?」
「昨日も言いましたが、あまり気負い過ぎないで下さいね。皆がついていますから。そうですよね、皆さん?」
キャプテンの言葉に皆が頷き、口々に声を掛けてくれます。
「ビィちゃん、良いパス頼むぜ!」
「桃ちゃん、頑張りましょう!」
「気楽に行こうー」
「皆……ありがとう!」
私は皆にお礼を言いました。
<常磐野ベンチ>
常磐野のコーチが呆れた様子で呟く。
「全く……遅れてきた三人をそのまま投入するですって? 試合を投げたのかしら?」
そして選手たちに向かってこう告げる。
「いい、貴方たち? 後半はもっと点差を広げなさい! プレーぶりによってはBチームへの昇格もあるから各々気合いを入れていくこと、いいわね!」
「「はい‼」」
選手たちの気持ちのこもった返事にコーチが満足気に頷く。そんな中、一人の選手がおずおずと手を上げる。
「コ、コーチ~こっちはメンバー変更なしですか~?」
「交代枠は五人だから、早い時間帯から順次変えていくわ……って天ノ川! 貴方は今日出すつもりはないわよ!」
「は、は~い」
天ノ川と呼ばれた選手はそう言ってベンチにすごすごと戻った。
「あの……ここに何が?」
「先程数学の先生とすれ違いました。そろそろ出てくるでしょう」
数学?不思議に思っていると、話し声がして、三人の女の子が玄関から出てきました。
「はぁ~ウザッ! 急に数学の補習とか何ナノ?」
「大体、ウチら文系だし。今更数学とか……ってヒカル? あれ……」
三人は私と先日ひと悶着あった方々、成実さん、ヴァネさん、そして……ヒカルさんです。私たちの存在に気がついた成実さんが、スマホをいじっているヒカルさんに声を掛けます。顔を上げたヒカルさんは私たち……というかキャプテンに気付き状況を察したようです。
「なるほど……アンタの差し金ってわけね」
「お待ちしていました。突然の補習、お疲れさまです」
キャプテンは大げさに両手を広げながら答えました。
「白々しい……何の用よ?」
「言わなくても分かっておられると思いますが……では、また雨も強くなりそうですし、単刀直入にお話しましょう。御三方とも、そろそろサッカー部に戻って来てもらえませんか? 実は明日“絶対に負けられない試合”があるのです」
私は驚いた顔で、キャプテン、そしてマネージャーを見つめました。マネージャーは黙って頷きました。
「……」
「私がキャプテンになった昨秋から、こうして直接お願いするのは三度目ですね、美花さんの方からも度々お話があったと思いますが……」
「答えはNOよ、何度来ても同じ……」
ヒカルさんが静かに答えます。
「では何故サッカー部に籍を残したままなのですか?」
「ガチの帰宅部っていうのは基本NGなんでしょ、この学校。転部とか今更面倒だからよ」
この話はこれでおしまいといった感じで、ヒカルさんたちは私たちとすれ違い、校門の方へ向かいます。
「怪我、もう治っているのでしょう?」
キャプテンの言葉に、ヒカルさんが立ち止まります。
「体もそうですし、心の方も……」
「何を言って……!」
「広瀬川沿いのとあるグラウンドで、三人でボールを蹴っていること……知っていますよ。蹴るだけじゃなくて走る方もすっかり問題ないみたいですね」
「バ、バレてた……」
ヴァネさんが小さく呟きます。キャプテンが続けます。
「となると問題は心の方だと思っていましたが、それも克服したのではないですか?」
「……」
ヒカルさんは無言を貫きます。
「先日のピロティーでの一件以来……彼女たちとボールを蹴り合って、貴方の心にもまた火が灯ったのじゃないですか?」
キャプテンが私の方を振り返りつつ、話を続けます。
「あの日以来、練習の様子を覗いているの……気付いていますよ、非常階段の踊り場からね」
「め、目ざとい……」
今度は成実さんが小声で呟きました。キャプテンがヒカルさんを真っ直ぐ見据えます。
「怪我からもうすぐ一年です。もう十分なんじゃないですか」
「勝手なことを……」
そう言い捨てて、ヒカルさんは立ち去ろうとしました。すると……
「待って! ヒカルちゃん!」
マネージャーがヒカルさんの元に駆け寄ります。
「勿体ないよ! 三人とも凄い才能を持っているのに! 私、小学校の頃から憧れていた……ああ、こういう人たちが上に行くんだろうなって……」
「上に行けなかったのよ、私たちは……」
ヒカルさんが苛立ち気味に答えます。
「ジュニアユースからユースに上がれなかった人なんて一杯いるよ、それでもプロになった人だって一杯いる! 高校サッカーで頑張れば、プロの人はきっと見てくれている!」
美花さんが捲くしたてます。ジュニアユースやユースとは話から察するに、ここ地元仙台のプロチーム『織姫仙台FC』の下部組織のことでしょう。
「ユースに上がれなかったのはきっと色々な理由があるんだと思う……でも、こう言ったらなんだけど……私、嬉しかったんだ。ヒカルちゃんたちと同じ高校に入れて。私は下手っぴだったから、中学までで選手は止めちゃっていて一緒にプレーは出来ないけど……でもサポートすることなら出来る! って思ったの。確かに怪我は残念だったけど、自分だけだって自棄にならないで! 上手く行かないときなんて、誰にだってあるよ! ちょっと待ってて……」
目を逸らすヒカルさんに対してマネージャーは、段ボールから取り出した背番号7のユニフォームを突き付けます。
「見て、三人のユニフォームもちゃんと用意してあるんだよ! いつ戻ってきてくれても良いように! キャプテンも言ったけど、明日は市民サッカー場で大事な試合があるの! 三人の力が必要なの! ね? だから受け取って!」
「~~~、要らないわよ、そんなもの!」
ユニフォームを渡そうとしたマネージャーの手を、ヒカルさんが払いのけます。ユニフォームが地面に落ちて、雨水に濡れます。そんな様子を見て、私は思わず口を開いていました。
「そんなもの……?」
私はヒカルさんの前に進み出ます。
「サッカーを続けたくても続けられなかった人は大勢います。ユニフォームを手にしたくても届かなかった人も山ほどいます。でも、貴方はユニフォームに袖を通す資格がある。この間ボールを蹴って感じました……他人にとって喉から手が出るほど欲しい“才能”を貴方は持っている! それなのに貴方はその資格を手放そうとしている、たった一度や二度の躓きで……」
「アンタは躓いたことなんかないでしょう⁉」
「ありますよ! これからだってあるかもしれない! でも諦めない! 諦めたくない! 諦めるつもりも無い! 何故なら……」
私は落ちたユニフォームを拾って続けます。
「このユニフォームには多くの人の思いが詰まっているから! 私にも貴方にも責任がある。これを託された責任が! ……躓いたら、また立ち上がれば良いんです。一人が無理なら、皆が助けてくれる。それがチームです。」
「……くだらない」
ヒカルさんは私たちに背を向けて、歩き出しました。
「諦めないで下さい!」
やや強くなってくる雨の中、私は大声で叫びました。ヒカルさんは一瞬だけ立ち止まりましたが、またすぐ歩き去っていきました。
時間は戻って今日。突然のことに戸惑いを隠せない私を見て、ヒカルさんは笑いながら私の背中にまわってこう言います。
「途中からだけど見ていたわよ、三失点に絡む大活躍。なかなか見られるもんじゃないわね、それの重さにつまずいちゃったってやつ?」
そう言ってヒカルさんは私の背番号10を指差します。
「……助けてあげるわ」
「え?」
「一人が無理なら、皆が助けてくれる。それがチーム……なんでしょ? だから助けてあげるわ、ウチらがね」
気が付くと、ヒカルさんの後ろにヴァネさんと成実さんも立っていました。
「三人とも……! 来てくれたんだね! ありがとう!」
私の様子を見に来たマネージャーが、三人の元に駆け寄ります。ヒカルさんが照れ臭そうに答えます。
「べ、別にお礼を言われることじゃないわよ」
「来てくれると信じていましたよ」
そう言ってキャプテンがこちらに歩み寄ってきます。
「まあ欲を言えば、試合開始前に来て欲しかったのですが……」
「い、いや、場所と時間間違え……痛っ!」
「余計なこと言うなし」
ヴァネさんのわき腹を成実さんが肘で小突きます。
「……駅から走ってきたわ。アップは十分よ」
ヒカルさんの言葉に、キャプテンが満足そうに頷きます。
「それは結構。では早速、控え室でユニフォームに着替えてきて下さい、……と、言いたいところなのですが」
皆が「?」となっている中、キャプテンはこう続けます。
「私はともかく、三人とも、美花さんには言うことがあるのではないですか?」
「い、いえ、良いんですよ、キャプテン! そういうのは!」
「いいえ美花さん、これもケジメですから」
キャプテンは笑顔でそう言います。
「わ、悪かったヨ、ちょっと調子に乗ってた……」
「色々ゴメン、特にこの間は……悪かったし」
「……ごめん、美花。ウチが馬鹿だった。何もかも上手く行かないからって、勝手に腐って、でも……今日で終わりにする。だから見ていて頂戴」
「う、うん……!」
美花さんは涙を拭って、三人の謝罪に応えます。キャプテンもその様子を見て頷きます。
「では御三方、着替えをよろしく。後半開始から三人同時に入ってもらいます」
数分後、ユニフォーム姿となった三人が、皆の前に並びます。キャプテンがポンと手を叩いて、こう告げます。
「後半からこの三人に入ってもらいます。初めましての方もいると思いますので、簡単に自己紹介をお願いします。それではどうぞ」
「え?あ、ああ、アタシは谷尾(やお)ヴァネッサ恵美(えみ)。2-C。日本とブラジルのハーフ。ポジションはセンターバックだけど中盤やFWも出来るヨ、ヴァネって呼んで良いヨ。ヨロシク!」
「石野成実(いしのなるみ)。クラスはヴァネと一緒。ポジションは中盤だけど、センターバックとGK以外ならどこでも出来るし。まあよろしくだし」
「菊沢輝(きくさわひかる)……クラスは二人と同じ。ポジションはサイドハーフかな。よろしく」
「ありがとうございます。システムは変えません。三人に入ってもらうポジションは先程伝えた通りです……あ、先生どうでした、先方は?」
常磐野ベンチから九十九先生が戻ってきました。急な交代についての許可をもらいに行ってきたようです。
「別に構いませんよ、だって。怖そうな人だと思ったけど、意外といい人かもね」
「点差もついたし、余裕の表れでしょうかね……丸井さん」
「は、はい」
「ごめんなさい、私の采配ミスです」
「ど、どうしたんですかいきなり」
「高校最初の試合にいきなり慣れないポジションで起用してしまって……後半は丸井さん本来のポジション、ボランチでのプレーをお願いします。それと……」
「?」
「昨日も言いましたが、あまり気負い過ぎないで下さいね。皆がついていますから。そうですよね、皆さん?」
キャプテンの言葉に皆が頷き、口々に声を掛けてくれます。
「ビィちゃん、良いパス頼むぜ!」
「桃ちゃん、頑張りましょう!」
「気楽に行こうー」
「皆……ありがとう!」
私は皆にお礼を言いました。
<常磐野ベンチ>
常磐野のコーチが呆れた様子で呟く。
「全く……遅れてきた三人をそのまま投入するですって? 試合を投げたのかしら?」
そして選手たちに向かってこう告げる。
「いい、貴方たち? 後半はもっと点差を広げなさい! プレーぶりによってはBチームへの昇格もあるから各々気合いを入れていくこと、いいわね!」
「「はい‼」」
選手たちの気持ちのこもった返事にコーチが満足気に頷く。そんな中、一人の選手がおずおずと手を上げる。
「コ、コーチ~こっちはメンバー変更なしですか~?」
「交代枠は五人だから、早い時間帯から順次変えていくわ……って天ノ川! 貴方は今日出すつもりはないわよ!」
「は、は~い」
天ノ川と呼ばれた選手はそう言ってベンチにすごすごと戻った。
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