【序章完】ヒノモトバトルロワイアル~列島十二分戦記~

阿弥陀乃トンマージ

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序章

これまでとこれからのこと

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               これまでとこれからのこと

「……以上が、各地に放っている間者や信頼出来る情報筋などから寄せられたお話です」

「zzz……はっ、うん、大体分かりました」

 紅が尼僧に向かって頷く。

「貴女、ほとんど寝ていたでしょう……」

 碧が冷めた視線を送る。

「失礼な、所々は聞いていたよ」

「所々って」

「……もう一度、最初からお話しますか?」

「げえっ⁉ あ、庵主、それは勘弁してください……足も痺れてきたし……」

 紅が足を抑えながら顔をしかめる。

「では、要点を簡単に振り返りましょうか~」

「さ、さすが、大姉上!」

 翠の提案に紅はうんうんと頷く。碧がため息をつく。

「はあ……姉上は紅に甘過ぎます……」

「情報の整理は大事なことでしょう~?」

「まあ、それは確かに……」

 翠は庵の真ん中に日本地図を広げ、地図を指し示す。

「それじゃあ、『北海道』から……」

「道知事は内乱を鎮めるために手を打ったと……」

「ええ、『運否天賦の商売人』、『黒田屋光兵衛』さんを派遣したようね~」

「いくつもの名前を持っているみたいですが、詳しい経歴は?」

 碧が尼僧に尋ねる。尼僧が首を左右に振る。

「色々と調べさせてはおりますが、本名すらも分からないと……」

「ただの商人さんではなさそうですね~」

「北海道が再び一つにまとまったら、他地域にとっては厄介ね……」

「そんなことが可能なのかな~?」

 紅が後頭部を両手で抑える。碧が呟く。

「きっと、なんらかの勝算はあるのでしょうね……」

「案外、サイコロ任せなのかも~」

「姉上、そんな馬鹿なことはないでしょう」

「う~ん、どうでしょうね~?」

 碧に対し、翠は肩をすくめる。尼僧が口を開く。

「道知事主導の統一を好ましく思わない勢力もいるようです。早速刺客を派遣したという話も……もっとも、黒田屋光兵衛はそれも見越して、強力な護衛を三名確保しましたが」

「なかなか目端が利くようだね~」

 紅が顎に手を当てて頷く。翠が地図を指し示す。

「お次は『東北道』……」

「『源義成』一行は今どこに?」

 碧の問いに尼僧は首を振る。

「平泉付近で確認したのが最後です。これは未確認情報ですが……」

「未確認?」

「大陸に渡ったのではないかと……」

「まさか……」

 尼僧の言葉に碧は戸惑う。

「自由奔放だね~」

「『天翔ける英雄』は伊達じゃないわね~」

 紅と翠が互いに顔を見合わせる。碧がたしなめる。

「呑気に感心している場合ではないでしょう」

「ごめんなさい。東北道は今混乱しているのでは?」

「それもある程度は織り込み済みのようで、思っているほどではないようです」

 翠の問いに尼僧が答える。

「ふむ……土台は揺るぎませんか~」

「軍事力と経済力は確か……その上に絶大なカリスマが立ったら……面倒ね」

 碧が腕を組んで呟く。翠が地図を指し示す。

「お次は『北関東州』……」

「繰り返しになりますが、州政府は『井川ラウラ』を軍に呼び戻すことに失敗したようです」

「狙いはなんなんだろう?」

 紅の呟きに尼僧が応える。

「故郷である群馬の奪還を優先して、独自に動いているようです」

「州政府の要請を蹴るとは、足癖が悪そうだね~」

 尼僧の言葉を聞いて、紅が笑う。

「まさに『天衣無縫の魔女』ね~」

 翠も笑みを浮かべる。碧が呆れる。

「そうやって笑ってはいられないわ……『魔女』や『魔人』はたった一人でも戦局を大いに変えられるだけの存在なのだから……その中でもトップクラスの実力者である井川ラウラが勝手に動いているということは……」

「ということは?」

 紅が首を傾げる。

「北関東だけでなく、周辺地域が大いに荒れる恐れがあるわよ……」

「あらあらそれは大変なことね~」

 翠は頬に片手を添え、小首を傾げる。碧が地図を指差す。

「次は『東京特別区』……」

「なんだっけ? 『安価メロンで大満足』だっけか?」

「『天下御免の大義賊』よ……」

「ああ、それそれ」

 紅が碧の言葉に頷く。碧はため息交じりで話をする。

「はあ……この『島田克洋』と三名の女性たちをどうするつもりなのか……」

「どうするつもりって?」

「捨て駒として使うのじゃないのかってこと」

「そ、そんなことある?」

「『上級国民』は下界の民、いわゆる『下級国民』をなんとも思っていない節があるわ」

「え、ええ……」

 碧の説明に紅が戸惑う。尼僧が口を開く。

「ただ、捨て方にも色々あります……」

「そうですね~庵主のお考えに同感です~」

 翠が頷く。

「どういうこと? 大姉上」

「……たとえば、色々と表に言えないような仕事をさせるとかね~」

 翠が紅に向かってウインクする。碧が地図を指差す。

「次は『南関東州』……」

「新型パワードスーツの研究がそこまで進んでいたとはね~」

 翠が顎に手を当てて感心する。尼僧が話す。

「ただ、秘匿性を高めるため、各地で独自に開発を進めていたようです」

「ということは……」

「碧さんのお察しの通り、緊密な連携が取れていたわけではないようで……」

「すぐにその新型が量産うんぬんというわけではないのですね?」

「その通りです」

 尼僧は碧の言葉に頷く。

「それじゃあ、当面はその~なんだっけ? えっと……」

 紅が額に手を当てる。翠がフォローする。

「『星ノ条まつり』ちゃん」

「そう! その子を警戒しておけば良いんだね?」

「厳密に言えば、彼女が合流したとされる部隊――男性一人と女性三人――もね」

 碧が淡々と答える。

「でも大仏さんがすぐ量産化ってわけじゃないんだ~ちょっとつまんないかも」

「つまんないって……『古都のシン・大仏』が大勢並んでいたら脅威よ……」

 紅の言葉に碧が呆れる。翠が地図を指差す。

「お次は『北陸甲信越州』……」

「喫緊でどうにかしなければならないわね、『恐竜女帝』、『エカテリーナ双葉』は……」

 碧は顎をさする。

「現在は山形県、関東方面、静岡県の三方面に同時侵攻中だったかしら?」

「大姉上、福井からこの滋賀の地にも迫ってきているってよ」

「あらいけない、うっかりして一番大事なことを忘れていたわ~」

 紅の指摘を受け、翠は額を抑える。

「もっとも、関東方面への侵攻は思うように進んではいないようですね。群馬県を完全に制圧出来ているわけではないようですから……」

 尼僧が地図を指し示しながら説明する。碧が地図を指差して尼僧に尋ねる。

「……もう一方面攻めるとなると、ここら辺ですか?」

「そうなります」

「それは向こうも警戒はしているでしょうし、女帝といえども簡単ではないのでは?」

「女帝は思っている以上に冷静に物事を判断します」

「攻略が可能だと判断した……まさか⁉」

「そのまさかです。どうなるかは近々新たな報告があるでしょう」

「あらあら、思っている以上に大変なことになりそうね~」

 尼僧と碧の会話の内容を察した翠が腕を組んで首を傾げる。碧が地図を指差す。

「次は『東海道』……」

「広い地下に籠って籠城戦略かしら?」

「それはあまり得策ではないでしょう……迎撃に出るのでは?」

 碧が翠に答える。

「元々を遡れば、北陸甲信越州の信越地域も東海道の領土で、『中部州』と名乗っており、『北陸道』はそれに従属するようなかたちでした。それが逆転したような現在のような状況を苦々しく思っている者は数多くいると思われます」

「因縁があるのですね……」

 尼僧の説明に翠が頷く。尼僧は続ける。

「実態を今一つ掴めないのですが、『織田桐修羅』自体は争いを好まない性格だとか……」

「そういう場合、大抵は血の気の多い臣下の暴走を止められないもの……」

「そういった見方をしておくのが賢明でしょうね……」

 碧の呟きに対し、尼僧が苦笑する。翠がため息交じりで頷く。

「やはり、女帝との衝突ですか……」

「そうとも限らないよ。こっちや……はたまたこっちに打って出るかも?」

 紅が地図の二か所を人差し指でトントンと叩く。翠が首を捻る。

「そんな……でも、『第六感魔王』ならばありえない話ではないかもしれないわね……」

 碧が地図を指差す。

「お次はここね、『関西州』……」

「『陰陽師』たちの結界による防衛も必ずしも十分だというわけではありません」

「あの手この手で突破してきますからね……」

 尼僧の言葉に碧が頷く。

「まあ、ある程度混乱してくれた方が、ワタシたちにとっては都合が良いけれど……」

「紅ちゃん、怖いことを言うわね……」

 紅に対し、翠が渋い表情を向ける。

「だから赤ちゃんみたいに言わないで……現実的な話よ。もちろん、罪もない民に危険が及ぶような事態は避けられるのならば避けたいけど」

「……あの男が今後どう動くかですね」

「『志渡布無双』ですか? こんなタイミングで後進育成に回った男ですよ?」

「『理の外の陰陽師』です。なにかしら考えがあってのことでしょう」

「考え……まさか……」

「いや、それはまさかというやつでしょう。碧ちゃん」

 尼僧と話す碧の胸中を察した翠が苦笑いを浮かべる。

「目をつけたという教え子に自らの手助けをさせるつもりとか……」

「……いずれにせよ、多少の混乱は避けられないということかしら……」

 翠が悲しげに目を伏せる。紅が地図をビシっと叩く。

「次はここだね! 『中国州』!」

「今のところはその目は西、あるいは南に向いているようだけど……」

「また繰り返しになりますが、民間からも兵を集めているようです」

「つまり……?」

「軍事力を高めるということは防衛以上の手段にも打って出る可能性があります」

 翠の問いかけに尼僧が答える。

「『陽の者』による大規模侵攻か……」

「嫌な響きだね、それ……」

 碧の呟きに紅が苦笑する。碧は尼僧に問う。

「ただ、『陰の者』の暴走という内憂を抱えているはずですが……?」

「その暴走を上手くコントロールすることが出来るのなら話は別です」

「『乱世の舞姫』、『御子柴心』ですか……」

「ええ、陰キャ気質の彼女の登場は警戒すべきかと……」

「(仮)の動向には注意すべきね~」

「大姉上、(仮)ってなんだっけ?」

「御子柴ちゃんが加入したバンドよ」

「ああ、なんかややこしいな……それにしても、陰キャの女の子が鍵を握るとはね……」

 紅が後頭部を掻く。碧が地図を指差す。

「お次は『四国州』……」

「『革新派』が州の主導権を握りそうなのでしょうか?」

「『保守派』も動きをある程度は察知しているようです。州都の四国中央市、通称『風京(ふうきょう)』に間者を派遣し、様子を探らせてはいます」

 尼僧が翠の質問に答える。

「『人間離れ』した者たち同士の衝突は不可避ですか……」

「起こり得るでしょうね」

 尼僧が碧の呟きに反応する。

「『革新派』でも独自に動きそうなのが、『やや遅れてきた革命家』、『平末竜王』ですね」

「いうほど“やや”かな?」

 翠の言葉に紅が笑みを浮かべる。碧が顔をしかめる。

「それはどうでもいいでしょう……」

「分かっているよ、姉上……『革新派』も完全なる一枚岩ではないというのが、またややこしくなりそうだね」

「まあ、どうなるかしばらく様子見ね~」

 翠が腕を組む。紅が地図をビシっと叩く。

「お次は『九州』!」

「『九の会』とやらの規模はどれくらいなのでしょうか?」

「実際の規模は把握出来ておりませんが、各勢力の有力な若手家臣が軒並み名を連ねているという話も聞きます」

 尼僧が翠の疑問に答える。翠が頷く。

「それが真ならば、『九州三国志』の様相も随分と変わりそうですね……」

「『守旧派』と『改革派』の争いになるかもしれませんね……」

「ですが、『御神楽伊那』を迎え入れたことが大きいです」

 尼僧が碧の言葉に応える。

「その巫女はそこまでの存在ですか」

「ええ、ただ、あの『武闘派巫女』を『九の会』が御せるかどうか……?」

 尼僧が首を傾げる。翠が呟く。

「事態は簡単には進まない可能性が極めて高いということですね」

「そうですね……」

「内戦で疲弊すれば好都合だね」

「紅ちゃ……紅、また恐ろしいことを……」

「でも事実でしょう、大姉上? 九州の軍事力は一つにまとまると厄介だよ。ねえ、姉上?」

「ええ、それはその通りね……」

 碧が頷く。紅が地図をビシっと叩く。

「最後はここだね、『沖縄特別区』!」

「ここも三つの勢力に分かれているわね~」

「またもや繰り返しになりますが、それをかき乱す存在が出てきました……」

 尼僧が呟く。碧が尋ねる。

「『悪夢の双子』ですね?」

「ええ、そうです」

「『イチゴ』くんと『イチエ』ちゃんは今どこにいるのかしら?」

 翠が地図を眺めながら呟く。

「まあ、沖縄本島だとは思いますが……現在、那覇市、通称『海京(かいきょう)』からは何も報告が入っていません。報せを待つしかありませんね……」

 尼僧が淡々と呟く。

「脱出を手引きした者たちの素性が気になるところではありますね……」

 碧が再び腕を組んで呟く。

「元米軍の関係者と恐らくは大陸からのエージェント……衝突するんじゃないかしら?」

「案外、がっちりと手を組むもんだよ。イレギュラーな事態が起これば別だけど……」

 紅が顎をさすりながら呟く。

「……情報は整理出来ましたか?」

「ええ、庵主、漠然とですが!」

「はあ……紅、まだ漠然となの……?」

「姉上、要点はある程度抑えたよ」

「ある程度では困るのよ」

「まあまあ、庵主、わたしたちがこれから動くとすればどうすればよろしいでしょうか?」

 翠が碧をなだめながら、尼僧に問う。

「各地には関者などの他に、強力な協力者がいまず。曲者揃いですが……彼らの力を借りて潜入し、今名前を挙げた十二組と接触を試みてみるのが良いかと……」

「手を組めということですか?」

「もしくは利用するか……困難なことですから、他の手段を模索しても良いですが……」

「ふむ……」

 碧が深々と頷く。

「いずれにせよ、貴女たちは自分たちが思っている以上に影響力があるということを自覚して行動して下さい。危険に晒すことになりますが、貴女たちが動かなければ事態は変わりません。無責任な言い方になってしまいますが……頑張って下さい、『深海三姉妹』」

「「「はい!」」」

 尼僧の言葉に三姉妹は揃って力強く頷く。最後に笑うのは誰だ。

               ~序章完~


(23年8月6日現在)

これで序章が終了になります。次章以降の構想もあるので、再開の際はまたよろしくお願いします。
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