【序章完】ヒノモトバトルロワイアル～列島十二分戦記～

序章

第８話（２）拳を振るう

「ぐう……」

　男たちが苦しそうに倒れ込む。真海が刀を鞘に納めて呟く。

「愛媛の者たちか……」

「ううう……」

「弱いな。しかし、命までは奪ってはならぬとは……面倒だな」

「おらあっ！」

「む！」

　真海は突然の攻撃を横に飛んでかわす。

「へえっ、やるねえ……」

　金髪でロングヘアーの女性が髪をかき上げる。背丈は真海よりもやや小さく、修道服のようなものに身を包んでいる。

「誰だ？」

「……人に名を尋ねるなら、まず自分が名乗るのが礼儀ってもんじゃないの？」

「む……」

「どうかした？」

「まさかこんな場で礼儀を説かれるとは……」

「はははっ！　それはそうかもね」

　女性が大笑いする。

「天空真海だ」

「そう、アタシは麦宿素子（むぎやどもとこ）……」

「麦宿……」

「素子で良いよ。もっとも……」

「？」

「ここでお別れだけどね！」

　素子が真海に襲い掛かる。

「くっ！」

「ふん！」

「なっ⁉」

「そらあっ！」

「おわっ⁉」

　真海が迎撃のため、振るった刀を素子は拳で受け止め、押し返してきた。後退させられた真海は驚きの表情を浮かべながら呟く。

「拳で受け止めただと……？」

「そう、先に殴って終わりにしようと思ったけど、速い刀の振りだね～。良く鍛えているっていうのが分かるよ」

　素子が握っていた拳を広げてひらひらとさせる。

（硬い手甲を付けているわけでもない、両手ともに単なる穴あきのグローブだ。なのにどうして自分の刀を受け止められたのだ？）

　真海が刀を構えながら、素子との距離を保ちつつ、考えを巡らす。

「答えは案外簡単だよ」

「……！」

「まあ、説明するの苦手だから、体で味わってみる？」

　素子は悪そうな笑顔を浮かべ、拳を握る。

「……ご教授願おうか」

「そらっ！」

（速い！　ぐうっ……！）

　一瞬で真海の懐に入った素子の左拳が真海の右脇腹に入る。真海は苦悶の表情を浮かべながら、バックステップで距離を取る。素子が笑う。

「素早い後退だね、連撃をお見舞いするつもりだったのに……」

「そ、それは遠慮する……」

　真海は脇腹を抑えながら答える。

「しかし、真海さん、やるねえ……」

「……皮肉か？」

「いやいや、マジで感心しているんだよ。右の肘を狙ったのに、とっさに反応して、肘の位置をずらすんだから」

　素子が両手を広げて感心する。

（肘を正確に狙ってきた……肘を壊せば刀が振るえなくなるからな、力任せの戦闘スタイルかと思ったが、きちんと考えている……厄介だ）

「う～ん、どうしちゃったのかな、また黙り込んじゃって？」

「……思い直していた」

「思い直す？　ああ、惚れ直しちゃったかな？」

「……どうやらただの馬鹿ではないと言いたかったのだが……やはり馬鹿か」

「！　言ってくれるじゃないの！」

　素子が再び真海に迫る。

（硬い拳で連撃も可能！　まともに打ち合ったら刀を砕かれる可能性が……！　ならば、一撃で終わらせる！）

　真海は一瞬で考えをまとめる。

「むっ⁉」

「はああっ！」

　真海の持つ刀の刀身が大剣のように太く厚くなる。真海はそれを軽々と真横に薙ぐ。

「なんの！　『ビリビリ』！」

「ぐおっ⁉」

　素子が刀に向かって拳を放ち、拳が刀に触れたかと思うと、電撃が走り、それを喰らった真海は思わず膝をつく。素子は後方に吹っ飛ばされながら、すぐさま起き上がる。

「一撃に力を込めてきたか～判断は間違っていなかったかもね～」

　素子は後頭部を掻きながら淡々と呟く。

「ぐっ……」

「おっと、まだ立てるの？　タフだね～」

「ふん……」

　真海が立ち上がって刀を構え直す。しかし、足元が若干ふらつく。素子が笑う。

「だいぶ足にきているみたいだけど……」

「……ちょうど良いハンデだ」

「言ってくれるね！」

　素子が三度、真海の懐に入る。真海が舌打ちする。

「ちぃ！」

「もらった！」

「ふん！」

（なっ⁉　刀の形状が小刀に変化⁉　喉元を狙っている⁉）

「はあっ！」

「しまっ……たって言うと思った？」

　素子の表情が驚きから余裕に変わったことに真海は驚く。

「⁉」

「『すだち』！」

「むっ⁉」

　素子の小さく振るった拳から大量の汁が噴き出す。それが目に入ったため、真海は思わず、その目を閉じてしまう。素子が笑う。

「ははっ、徳島名物ってやつだよ！」

「ば、馬鹿な……！」

「名物をもう一個おまけだ！　『渦潮』！」

「ごはっ⁉」

　素子が腕に素早い回転を加え、ボクシングのコークスクリューブローのようなパンチを放つ。その強烈なパンチは真海のみぞおちに綺麗に入る。真海は後方に吹っ飛んで倒れ込み、動かなくなる。真海が問う。

「鉄の拳の味はどうかな？」

「……」

「聞いていないか。相手が悪かったね。常人よりちょっとばかしアイアンなもので……」

　素子が服の袖をまくる。そこには機械の腕が覗く。