【第1章完】お嬢様はゴールキーパー!

阿弥陀乃トンマージ

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第1章

第11話(4)ペースの奪い合い

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「むん!」

「くっ!」

 泉がまたもや激しい寄せでボールをカットする。ボールはサイドラインを割る。

「港北泉ちゃん、大人しそうだけど、プレースタイルは激しいわね……」

 恋が呟く。

「試合のペースを強引に取り返されてしまいました……」

 ヴィオラが汗を拭いながら、恋の呟きに反応する。

「……このままではいけないわよね~?」

 恋が大げさに首を傾げる。

「それはもちろん……」

「お願い出来るかしら?」

「……やってみましょう」

 恋の言葉にヴィオラが頷く。

「さて……」

 キックインをしようと雛子がピッチを見回す。

「ボールを……!」

 ヴィオラがボールを要求する。

「お願い!」

「4番だ!」

「分かっている!」

 紅の声かけよりも早く、泉がボールを奪いにいく。

「ふっ!」

「ぬっ!」

 ヴィオラがダイレクトですぐさまボールを前に位置する真珠に渡す。これは紅がカットするが、こぼれたボールを雛子が拾う。

「雛子さん!」

 ヴィオラが再びボールを要求する。

「頼むわ!」

 雛子が横浜プレミアム陣内中央に位置をとったヴィオラにパスを出す。

「今度こそ!」

「はっ!」

「むっ!」

 ヴィオラがまたもダイレクトで、今度はあえて後方の自陣に戻す。ボールは恋が収める。

「ヴィオラちゃん、ナ~イス♪」

「くっ、ダイレクトでボールを素早く散らしてきたか……」

 泉が汗を拭いながら呟く。

「それっ♪」

 恋から鋭いボールがヴィオラに入る。

「ダイレクトで来るぞ!」

「分かっているよ!」

 紅の声に応えながら、泉がわずかに距離を取って、ヴィオラに対応する。

「ほっ!」

「うっ⁉」

 ヴィオラがパスを選択せず、ドリブルでかわしにかかった。泉の反応は遅れ、まんまとかわされてしまう。ヴィオラが良い位置で抜け出す。

「それっ!」

「!」

「ちっ……」

 ヴィオラの放った鋭いシュートは亜美がなんとか防ぐ。ヴィオラが天を仰ぐ。

「ヴィオラちゃん、ドンマイ、ドンマイ♪」

 恋が声をかける。

「すまん。ダイレクトだと思った……」

「いいや、それはぼくも思ったから……」

 紅の言葉に泉は気にするなという風に手を振った。泉の激しいプレーで試合のペースを奪い返すかと思われた横浜プレミアムだったが、まだペースは川崎ステラのものだった。

「ヴィオラ!」

 雛子からヴィオラにボールが入る。泉の対応がやや遅れる。

「くっ……」

「はい!」

「よっしゃ! おっと⁉」

 真珠へのパスは瑠璃子がカットする。ボールは転がってサイドラインを割る。

「さきほどのドリブルで、港北に迷いが生じているな……パスかそれともドリブルか……対応が後手に回ってしまっている……」

「なにをぶつぶつと呟いているんですの?」

 瑠璃子が紅に尋ねる。

「確認して、状況を整理しているんだ……大師ヴィオラ、好選手だな」

「確認するまでもありませんわ……」

「ペースがなかなか握れない……このまま向こうにリードされた状態でハーフタイムを迎えると非常に良くない……」

「コーチは強引に奪い返すつもりのようですわよ」

「む……?」

 瑠璃子が自チームのベンチを指差す。そこにはカンナが立っていた。

「ふはははっ! 切り札登場!」

 カンナが泉と代わってピッチに入る。真珠が苦笑する。

「やかましい坊主だな……」

「アンタも似たようなもんでしょ……」

「いや、どこがだよ!」

 雛子の言葉に真珠が反発する。

「ボールを三ツ沢に集めるぞ!」

「そのつもりですわ!」

 紅の指示よりも早く、瑠璃子がボールをカンナに渡す。

「! 早速おれにボールを預けるとは……お嬢にしては、なかなか賢明な判断だ」

 カンナが笑みを浮かべる。

「ぶつぶつ言ってないで! 相手が来ていますわよ!」

「おっ⁉」

 雛子とヴィオラがカンナに体を寄せる。

「奪う!」

「ええ!」

「そうは……いかねえっての!」

「!」

「‼」

 カンナが鋭く速いドリブルで二人をかわす。

「おっと~」

「! ちいっ……」

 恋が素早く体を寄せ、ボールをサイドラインに蹴り出す。

「良いぞ! どんどん仕掛けろ! 三ツ沢!」

 紅が右サイドライン際に位置を取ったカンナにパスする。ヴィオラが体を寄せる。

「ふむ……」

「……」

 体の向きから中央へ切り込んでくるのをヴィオラは警戒する。カンナが笑う。

「まあ、普通はそうだよな……だけどよ!」

「……⁉」

 カンナが縦の狭いスペースへと切り込んだ。ヴィオラがかわされてしまう。

「おらあっ!」

「⁉」

 そのまま角度のない位置からカンナがシュートを決める。予期せぬ方向からのシュートに最愛は反応出来なかった。これで2対2。横浜プレミアムが同点に追いつく。この後も川崎ステラはカンナのドリブルによる仕掛けの対応に苦慮したままハーフタイムを迎える。
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