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第1章
第8話(4)規格外の怪物
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「……前半が終了し、4対2で川崎ステラがリード……」
「今回は練習試合だから、15分ハーフよね……」
「もう5分経過している……横浜プレミアム、厳しいわね……」
ギャラリーが囁き合う。横浜プレミアムがパスを回す。
「ちんたらとパスを回してんじゃねえ! 寄越せ!」
奈々子が苛立ち気味に声を上げる。
「簡単に言う……」
「おい、紅!」
「そらっ!」
紅から鋭く速い縦パスが奈々子に入る。奈々子はそれを足元にピタッと収めてみせるとニヤッと笑う。
「それで良いんだよ……」
奈々子が素早くターンし、前を向く。
「させるかよ!」
「ウゼえ!」
「うおっ⁉」
ショルダータックルをした真珠を奈々子は逆に吹き飛ばす。
「ふん!」
「くっ⁉」
奈々子は軽やかなステップワークで雛子をあっさりとかわして、ゴール前に迫る。
「ははっ!」
「……よっと」
「なにっ⁉」
恋がボールを奪取する。
「百合ヶ丘がボールを奪ったわ!」
「なんて冷静な対応なの!」
「鶴見があっさり止められるなんて!」
恋のディフェンスにギャラリーが湧く。
「ナイスカット!」
最愛が声をかける。
「2~3人のマークをドリブルで簡単に剥がせる鶴見さんも十分凄いけど……恋だって全然負けていない!」
ベンチで円が拳を握る。
「前半終わりからの鶴見さんの登場には少し浮き足立ちましたが、立て直してきましたね……さすがですね」
円の横でヴィオラが頷く。
「くっ……」
奈々子が悔しがる。
「何をやっている! 守備に戻れ、奈々子!」
紅が声を上げる。
「ちっ!」
「ほっ!」
「!」
恋がそのまま素早くボールを持ち上がる。横浜プレミアム側の対応が若干遅れる。
「慌てるな! 二人で挟み込め!」
紅が指示を送る。その指示通り、二人の選手が恋に体を寄せる。
「ふっ!」
恋がボールを蹴る。
「‼」
見事なスルーパスが抜け出した魅蘭に通る。
「ナイスパスですわ!」
「むう!」
紅が猛然と追いかける。
「決めろ!」
真珠が叫ぶ。
「そうはさせん!」
紅が右足を伸ばす。
「ふっ……」
魅蘭が笑みを浮かべる。
「むっ⁉」
シュートを撃つと見せかけた魅蘭が左足から右足にボールを持ち替え、紅の逆を突く。
「キックフェイント! 上手い!」
雛子が声を上げる。魅蘭が笑う。
「ふふっ! もらいましたわ!」
「ふん‼」
「んなっ⁉」
紅が左足でボールを奪う。魅蘭が転倒する。
「残していた足でボールを奪った⁉ いや、まるで刈り取ったような……」
円が驚く。
「足の長さもさることながら、一旦シュートブロックに入ってからの切り替えの速さ、体勢を崩さないボディバランスもさすがですね……」
ヴィオラが感心する。
「どうだ! 百合ヶ丘!」
紅が恋を指差す。
「……」
「む、無視するな!」
「……そもそも」
「?」
「わたしならキックフェイントに引っかかりませんわ」
恋がわざとらしく両手を広げる。
「ぐっ……」
「おい! 八景島!」
横浜プレミアムのコーチがベンチから立ち上がって声を上げる。
「そうだ! 紅!」
奈々子が紅を指差す。
「ん……?」
「俺様より目立つんじゃねえ!」
「そ、そうじゃない! 試合中に相手と会話するな!」
コーチが大声を上げる。
「……はい!」
紅が返事をする。
「ったく……」
コーチがベンチに座る。
「ねえ、コーチ……」
「うん?」
「このままだと負けちゃいますよ~僕を出さなくて良いんですか~?」
大柄で長い金髪の女性がのんびりとした口調で尋ねる。
「今日は、お前は出さん……」
「どうして~?」
「ハーフタイムにのんびりやってくる奴がいるか⁉ 遅刻にも程がある!」
「いや~中華街で食べすぎて、体がちょっと重かったんですよ~」
「食べすぎるな!」
「エネルギーを発散する為には、エネルギーを溜めなきゃいけないでしょう~?」
「……自信はあるのか? 百合ヶ丘相手に……」
「もちろん」
金髪の女性が頷く。
「……準備しろ」
「はい~」
「選手交代! あ、あの選手は……!」
ベンチで円が驚く。ベンチに下がっていた魅蘭が首を傾げる。
「? 凄い選手なんですの?」
「見てれば分かるよ……」
「ほう……しかし、残り時間は10分を既に切っています。ワタクシに代えて大師さんを投入して守備を強化したこちらを崩せるかどうか……」
川崎ステラはヴィオラを投入し、守備の枚数を増やした。
「紅! 多少ラフでも良い! 上げろ!」
「それっ!」
「ほれっ!」
紅が浮かせたボールをサイドライン際で高い跳躍力を見せた奈々子がヘディングでゴール前に送る。高く浮かんだボールをヴィオラと恋がクリアしようとする。
「ひょいっと~」
「……!」
金髪の女性がヴィオラと恋を吹き飛ばして、豪快なヘディングシュートを決める。
「なっ……!」
最愛が戸惑う。有り得ない打点の高さだったからである。
「おらあっ!」
「ほいっと~」
「……‼」
奈々子が放った無回転のキックの急激な変化に金髪の女性が難なく反応し、左足で触ってゴールに押し込む。最愛が唖然とする。
「頼む!」
紅から縦パスが金髪の女性に入る。金髪の女性はゴールに背を向けた状態でボールを受ける。前を向かせまいと、恋が素早く体を寄せる。
「それっと~」
「……⁉」
金髪の女性が恋を背中に背負うような形ながら、ボールを浮かせると、振り向き様に右足を鋭く振り抜く。強烈なシュートがゴールに突き刺さる。全く反応することが出来なかった最愛は言葉を失う。
「わずかな出場時間でハットトリック! これが規格外の怪物! 本牧空(ほんもくそら)!」
「ここで試合終了! 横浜プレミアムの逆転勝利!」
「主力が半分いなくてもやはり強い!」
「⁉」
ギャラリーの声に最愛たち、川崎ステラは衝撃を受ける。
「今回は練習試合だから、15分ハーフよね……」
「もう5分経過している……横浜プレミアム、厳しいわね……」
ギャラリーが囁き合う。横浜プレミアムがパスを回す。
「ちんたらとパスを回してんじゃねえ! 寄越せ!」
奈々子が苛立ち気味に声を上げる。
「簡単に言う……」
「おい、紅!」
「そらっ!」
紅から鋭く速い縦パスが奈々子に入る。奈々子はそれを足元にピタッと収めてみせるとニヤッと笑う。
「それで良いんだよ……」
奈々子が素早くターンし、前を向く。
「させるかよ!」
「ウゼえ!」
「うおっ⁉」
ショルダータックルをした真珠を奈々子は逆に吹き飛ばす。
「ふん!」
「くっ⁉」
奈々子は軽やかなステップワークで雛子をあっさりとかわして、ゴール前に迫る。
「ははっ!」
「……よっと」
「なにっ⁉」
恋がボールを奪取する。
「百合ヶ丘がボールを奪ったわ!」
「なんて冷静な対応なの!」
「鶴見があっさり止められるなんて!」
恋のディフェンスにギャラリーが湧く。
「ナイスカット!」
最愛が声をかける。
「2~3人のマークをドリブルで簡単に剥がせる鶴見さんも十分凄いけど……恋だって全然負けていない!」
ベンチで円が拳を握る。
「前半終わりからの鶴見さんの登場には少し浮き足立ちましたが、立て直してきましたね……さすがですね」
円の横でヴィオラが頷く。
「くっ……」
奈々子が悔しがる。
「何をやっている! 守備に戻れ、奈々子!」
紅が声を上げる。
「ちっ!」
「ほっ!」
「!」
恋がそのまま素早くボールを持ち上がる。横浜プレミアム側の対応が若干遅れる。
「慌てるな! 二人で挟み込め!」
紅が指示を送る。その指示通り、二人の選手が恋に体を寄せる。
「ふっ!」
恋がボールを蹴る。
「‼」
見事なスルーパスが抜け出した魅蘭に通る。
「ナイスパスですわ!」
「むう!」
紅が猛然と追いかける。
「決めろ!」
真珠が叫ぶ。
「そうはさせん!」
紅が右足を伸ばす。
「ふっ……」
魅蘭が笑みを浮かべる。
「むっ⁉」
シュートを撃つと見せかけた魅蘭が左足から右足にボールを持ち替え、紅の逆を突く。
「キックフェイント! 上手い!」
雛子が声を上げる。魅蘭が笑う。
「ふふっ! もらいましたわ!」
「ふん‼」
「んなっ⁉」
紅が左足でボールを奪う。魅蘭が転倒する。
「残していた足でボールを奪った⁉ いや、まるで刈り取ったような……」
円が驚く。
「足の長さもさることながら、一旦シュートブロックに入ってからの切り替えの速さ、体勢を崩さないボディバランスもさすがですね……」
ヴィオラが感心する。
「どうだ! 百合ヶ丘!」
紅が恋を指差す。
「……」
「む、無視するな!」
「……そもそも」
「?」
「わたしならキックフェイントに引っかかりませんわ」
恋がわざとらしく両手を広げる。
「ぐっ……」
「おい! 八景島!」
横浜プレミアムのコーチがベンチから立ち上がって声を上げる。
「そうだ! 紅!」
奈々子が紅を指差す。
「ん……?」
「俺様より目立つんじゃねえ!」
「そ、そうじゃない! 試合中に相手と会話するな!」
コーチが大声を上げる。
「……はい!」
紅が返事をする。
「ったく……」
コーチがベンチに座る。
「ねえ、コーチ……」
「うん?」
「このままだと負けちゃいますよ~僕を出さなくて良いんですか~?」
大柄で長い金髪の女性がのんびりとした口調で尋ねる。
「今日は、お前は出さん……」
「どうして~?」
「ハーフタイムにのんびりやってくる奴がいるか⁉ 遅刻にも程がある!」
「いや~中華街で食べすぎて、体がちょっと重かったんですよ~」
「食べすぎるな!」
「エネルギーを発散する為には、エネルギーを溜めなきゃいけないでしょう~?」
「……自信はあるのか? 百合ヶ丘相手に……」
「もちろん」
金髪の女性が頷く。
「……準備しろ」
「はい~」
「選手交代! あ、あの選手は……!」
ベンチで円が驚く。ベンチに下がっていた魅蘭が首を傾げる。
「? 凄い選手なんですの?」
「見てれば分かるよ……」
「ほう……しかし、残り時間は10分を既に切っています。ワタクシに代えて大師さんを投入して守備を強化したこちらを崩せるかどうか……」
川崎ステラはヴィオラを投入し、守備の枚数を増やした。
「紅! 多少ラフでも良い! 上げろ!」
「それっ!」
「ほれっ!」
紅が浮かせたボールをサイドライン際で高い跳躍力を見せた奈々子がヘディングでゴール前に送る。高く浮かんだボールをヴィオラと恋がクリアしようとする。
「ひょいっと~」
「……!」
金髪の女性がヴィオラと恋を吹き飛ばして、豪快なヘディングシュートを決める。
「なっ……!」
最愛が戸惑う。有り得ない打点の高さだったからである。
「おらあっ!」
「ほいっと~」
「……‼」
奈々子が放った無回転のキックの急激な変化に金髪の女性が難なく反応し、左足で触ってゴールに押し込む。最愛が唖然とする。
「頼む!」
紅から縦パスが金髪の女性に入る。金髪の女性はゴールに背を向けた状態でボールを受ける。前を向かせまいと、恋が素早く体を寄せる。
「それっと~」
「……⁉」
金髪の女性が恋を背中に背負うような形ながら、ボールを浮かせると、振り向き様に右足を鋭く振り抜く。強烈なシュートがゴールに突き刺さる。全く反応することが出来なかった最愛は言葉を失う。
「わずかな出場時間でハットトリック! これが規格外の怪物! 本牧空(ほんもくそら)!」
「ここで試合終了! 横浜プレミアムの逆転勝利!」
「主力が半分いなくてもやはり強い!」
「⁉」
ギャラリーの声に最愛たち、川崎ステラは衝撃を受ける。
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