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第1章

第8話(3)変幻自在のエース

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「……八景島が入って、このまま横浜プレミアムペースになるかと思われたけど……」

「そんなことはなかったわ!」

「むしろ……川崎ステラが盛り返しているわ!」

「やはりあの存在が大きいわね!」

「ええ、百合ヶ丘恋! まさか前半の内に出てくるとはね……」

「しかし、横浜プレミアム側がチャンスを作れないでいる……」

「ふふっ、前半はベンチで見ておこうと思ったけれど、そうも行かなくなってね……」

 恋がギャラリーの声を聞きながら呟く。

「それっ!」

「はっ!」

「むっ!」

「八景島からの鋭い縦パスを百合ヶ丘がカット!」

「あそこに通すというのもさすがだけど、読む方もさすがね……」

「さっきから何度か同じことを繰り返しているわ……」

 ギャラリーが恋のプレーに湧く。

「さすがは『鋼鉄の貴婦人』ね!」

「は? そこは『川崎の鉄壁』じゃないの⁉」

「はい? 『微笑みの将軍』って聞いたけれど⁉」

「ふ、二つ名でケンカしないで⁉」

 謎の言い争いを始めたギャラリーに向かって、恋が思わず声を上げる。

「百合ヶ丘! 調子に乗るなよ!」

 紅が恋を指差して声を上げる。

「! あ、ああ、これは失礼……試合中に集中を欠いていたわね……」

 恋が視線を戻し、軽く頭を下げる。

「自分は『横浜の防波堤』だ!」

 紅が自らの胸を右手の親指で指差す。

「二つ名で張り合ってきた⁉」

 恋が戸惑う。

「百合ヶ丘と言えども万能ではない! とりあえずシュートを撃っていけ!」

「!」

 紅の指示を受け、横浜プレミアムの選手がシュートを撃っていく。

「わたしを避けるように、その位置から強引にシュートを撃っても……」

「はあっ!」

 わりと良いシュートではあったが最愛が難なく防ぐ。

「残念、そこには最愛ちゃんがいるのよ……」

 恋がニヤリと笑う。

「むう……しかし、良いぞ! 多少強引な形でもどんどんシュートを撃っていけ! それで流れは引き戻せる!」

 紅が前線に声をかける。

「……!」

「はっ!」

 こぼれ球からのボレーシュートを最愛が防ぐ。

「! 良いボレーだったが、弾かずにキャッチング……!」

 紅が驚く。

「……‼」

「ふっ!」

 こぼれ球から抜け出した相手との1対1という難しい状況も最愛が防ぐ。

「‼ 前へ飛び出して、スライディングでクリア……!」

 紅が再び驚く。

「………」

「ほっ!」

 混戦状態となった川崎ステラのゴール前の隙を突いて、カーブをかけたシュートを放つが、これも最愛が防ぐ。

「⁉ 巻いた良いシュートだったが、横っ飛びで防いだ……!」

 紅が三度驚く。

「すごいわよ、あのキーパー⁉」

「あのキーパーが加わってから川崎ステラは負け知らずだとか……」

「! ほう……それは良いキーパーだな。なるほど、百合ヶ丘だけではないか……」

 ギャラリーの声を聞いて、紅は笑みを浮かべる。

「……⁉」

「寄越せ!」

 紅が猛然と掛け上がってくる。味方は一瞬戸惑ったが、紅にパスを送る。

「………!」

「ナイスパス! それっ!」

「ぐうっ⁉」

 紅の放ったグラウンダーの強烈なシュートも最愛が身を低くしてキャッチしてみせる。

「⁉ そ、それも防ぐか……」

「……攻勢は凌げたかしら……前半の内にここでもう一押し……雛子ちゃん!」

 恋と代わった雛子がヴィオラに代わってピッチに戻る。雛子、真珠、魅蘭の三人はまだ粗さは残るものの、良い連携を見せ、横浜プレミアムのゴール前に再三侵入。チャンスを作る。

「むう……」

 紅が顔をしかめる。

「ふふっ、これは俺様の出番かな?」

 キーパーユニフォームを着た黒髪で整った短髪で、体格の良い女性がピッチに入る。

「選手交代! キーパーを変える⁉」

 ギャラリーから驚きの声が上がる。魅蘭が首を傾げる。

「……キーパーなのに、7番?」

「魅蘭ちゃん! 良い調子だから気にせず続けて!」

「ええ!」

 恋の声に魅蘭は頷く。その後、川崎ステラにチャンスが訪れる。

「おらっ!」

「はあん⁉」

「えいっ!」

「ふうん⁉」

「それっ!」

「ほおん⁉」

「あの7番、立て続けにシュートを……どれも簡単なシュートではなかったはず……」

 魅蘭がファインセーブを連発する相手ゴールキーパーに舌を巻く。するとそのゴールキーパーがわざとボールをサイドラインに出す。

「なんだ? 交代? うん⁉」

「キーパーからフィールドプレイヤー用のユニフォームに着替えた?」

 真珠と雛子が驚く。

「さあ、前半の内にもう一点返そうか!」

 7番が声をかける。紅が7番にボールを預ける。

「三人とも! しんどいけど、ここは戻って!」

 恋の指示で、魅蘭、真珠、雛子が守備に戻る。川崎ステラの陣内に壁が出来上がる。

「……ふふっ、そういうのをこじ開けるのが面白いんだよ!」

「むっ⁉」

 7番が鋭いドリブル突破でゴール前にあっという間に侵入する。

「おらあっ!」

「よしっ! ⁉」

 強烈なシュートは独特の変化で、最愛の腕からすり抜け、川崎ステラのゴールに入る。

「出た、鋭いドリブル突破からの無回転シュート!」

「彼女の代名詞的プレー!」

「ゴレイロからピヴォまで幅広くこなす、横浜プレミアムのエース、鶴見奈々子(つるみななこ)!」

「ふふふ、もっと俺様を称えな……」

 奈々子と呼ばれた選手が自らの背番号7番を誇示する。
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