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第1章

第5話(4)個の力

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「ううっ……」

 相手チームの選手がきょろきょろとする。

「なにやってんだ!」

「パスをよこせ!」

「くっ!」

「ほいっと♪」

「はっ⁉」

 苦し紛れのパスを恋が難なくカットする。

「おい!」

「しまった!」

「カウンター来るぞ! 下がれ!」

 相手チームが慌てて自陣内に戻る。

「ふふっ……」

 恋がゆっくりと持ち上がり、相手チームの陣内に入る。

「くそっ!」

 相手が恋にチャージをかける。

「ま、待て! 不用意に飛び込むな!」

「ひょいっと♪」

「あっ⁉」

 恋が相手のチャージをあっさりとかわす。

「……!」

「むっ!」

 恋の鋭いグラウンダーのパスが真珠に通る。

「よっしゃ!」

「ぐっ!」

 真珠の放ったシュートは相手ゴールキーパーがなんとか防ぐ。

「ちいっ!」

「今のは決めなさいよ!」

「ピーピーうるせえぞ、トサカ!」

「なによ!」

「なんだよ!」

「はいはい、切り替え、切り替え~♪」

 恋が言い争う真珠と雛子をなだめる。

「はっ!」

「うおっ!」

 ヴィオラが相手からボールを奪う。

「キャプテン!」

 ヴィオラが奪ったボールをすかさず恋にあずける。

「ナ~イス、ヴィオラちゃん~♪」

「また、百合ヶ丘に!」

「パス警戒だ!」

「ああ!」

 相手が恋に対し、距離を取ったディフェンスを取る。

「ふ~ん……」

「パスコースは切ったぞ!」

「……別に下だけじゃないのよ? パスコースっていうのは……!」

「!」

 恋がふわりとボールをゴール前に上げる。

「ル、ループパス⁉」

「よしっ!」

 雛子がそのパスに飛び込み、頭で合わせ、ヘディングシュートを放つ。

「はっ⁉」

 シュートは惜しくもゴール上に外れる。

「くっ……」

 雛子が頭を抱える。

「なにやってんだ、トサカ! そのヘアスタイルは飾りかよ⁉」

「か、髪型は関係ないでしょ⁉」

 真珠の言葉に雛子が反応する。

「はいはい、切り替えよ~♪」

 恋がポンポンと両手を叩く。

「カウンターだ!」

「左ががら空きだぞ!」

「それっ!」

「空けてんのよ」

「なにっ⁉」

 恋があっさりとボールを奪う。またもや川崎ステラのボールになる。

「すごい……すっかりこちらのペース……」

「いるんだよね~試合を変えられるプレイヤーっていうのが……」

 ベンチに座る魅蘭の呟きに円が反応する。

「試合を変えられる……」

「不思議だよね~フットサルもチームスポーツなのにさ、違いを作り出したり、試合を決めるのは個の力によるものだったりするの」

「個の力……」

 魅蘭が円の言葉を反芻する。恋がボールを持って相手陣内に入る。

「パス警戒だ!」

「ふむ、ほとんど隙がない……ならば!」

「‼」

 恋がシュートを放つ、鋭いシュートが相手ゴールに飛ぶが、ボールはポストを叩く。

「あ~惜しい」

 恋が天を仰ぐ。

「あ、危なかった……」

「引くな! 攻めに行くぞ!」

「お、おおっ!」

「攻めに来てくれるなら……こっちも手を打とうかしら……円ちゃん、ツインテちゃん!」

「うん?」

「それぞれ、雛子ちゃん、真珠ちゃんと交代ね♪ 二人とも出ずっぱりだから」

「あ、ああ……!」

「わ、分かりましたわ!」

 円と魅蘭が交代でピッチに入る。またもや恋がボールを持つ。

「引き続きパスを警戒!」

「シュートは任せろ!」

 相手チームがしきりに声を掛け合う。

「ふっ……」

 恋がシュートモーションに入る。

「止めろ!」

「……引っかかった♪」

「なっ⁉」

 恋がシュートを止め、斜め前に走り込んだヴィオラにパスを出す。ヴィオラがそれをダイレクトで恋にリターンする。走り込んだ恋がそれを受けて、再びシュート体勢に入る。

「ナ~イス♪」

「ゴール前に入られた! シュートコースを防げ!」

「な~んてね♪」

「⁉」

 恋がシュートと見せかけ、パスを送る。走り込んだ魅蘭がそれをゴールに流し込む。

「や、やりましたわ! どんなものです!」

「へえ、一度のチャンスを確実に決めるとは……やるわね~魅蘭ちゃん♪」

 恋やメンバーが興奮気味の魅蘭を祝福する。残りの時間帯はやや攻め込まれたが、最愛のセーブで凌ぎ、川崎ステラが勝利を収めた。
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