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第1章

第5話(3)的確なコーチング

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「円さん、寄せて!」

「うん!」

「雛子さん、詰めて!」

「ええ!」

「真珠さん、挟み込んで!」

「おっしゃあ!」

 最愛が指示を出し、メンバーたちがそれに従って動く。

「くっ!」

「あっ⁉」

 川崎ステラの守備が相手のミスキックを誘発する。

「ヴィオラさん!」

 ヴィオラがすかさず飛び出す。

「オッケー!」

 ボールを拾い、ヴィオラが一気に相手陣内にボールを持ち込む。

「おっし、ヴィオラ!」

 真珠が斜め前に走り込み、パスを要求する。相手もそれを警戒する。

「逆サイド!」

 最愛の声が響く。

「! はっ!」

「!」

 ヴィオラの逆を突いたパスが雛子に渡る。

「よし……!」

「雛子さん、撃てます!」

「それっ!」

「ぐっ!」

 雛子のシュートは惜しくも相手ゴールキーパーに阻まれる。

「くっ……」

 雛子が天を仰ぐ。

「決めろよ、トサカ!」

「うるさいわね!」

「ドフリーだったぞ!」

「分かってるわよ!」

「カウンター、注意!」

「むっ!」

「おっ⁉」

 最愛の声で、真珠と雛子が言い争いをやめて、守備体勢に入る。

「ちっ……」

「とにかく前だ!」

「ヘイ、よこせ!」

「そらっ!」

 相手の長い縦パスが入ろうとする。

「円さん!」

「任せて!」

 円が相手のパスをカットする。逆にカウンターに繋げようとしたが、ボールがサイドラインを割ってしまい、円は天を仰ぐ。

「ドンマイ、ドンマイ、ナイスカットです!」

 最愛が両手をポンポンと叩き、円に声をかける。

「最愛……」

「切り替えていきましょう!」

「……うん!」

 円が頷く。

「……本当に流れが良くなりましたわね」

 ベンチで魅蘭が呟く。

「攻撃が良くなった、つまり、それはしっかりとした良い守備が出来ているということ……」

 魅蘭の呟きに恋が応じる。

「しっかりとした良い守備……」

「それが出来ている原因は分かるかしら?」

「溝ノ口さん……」

 魅蘭が最愛に視線を向ける。恋が頷く。

「そう、最愛ちゃんの的確なコーチングによるものよ」

「コーチング……」

「最後方にいる彼女はフィールド全体を見渡すことが出来る。……味方だけでなく、相手の動きもよく見えるということ……」

「つまり、ピンチをいち早く察知出来る……」

「そうよ。それによって、皆が迷いなく動けているの」

「迷いなく……」

「それぞれと良い信頼関係を築けているからね」

「良い信頼関係……」

「チームメイトのことをよく知るべきだとは言ったけど、ここまでとはね……」

 恋が感心したように呟く。魅蘭が笑みを浮かべる。

「トラブルメイカーの才もあったとは、さすがは我がライバルですわ……」

「うん、それを言うなら、ムードメイカーね」

「ちょっと間違えてしまいましたわ」

「ちょっとどころじゃないわね」

「イージーミスですわ」

「結構大きいミスよ」

「むう……」

 魅蘭が顔をしかめる。

「まあ、それはともかく……」

 恋が立ち上がる。魅蘭が尋ねる。

「お花を摘みに行かれるのですか?」

「いや、試合中だから……さすがに済ませているわよ」

 恋が苦笑する。

「どうされたのです? 急に立ち上がって……」

「もう一押ししようかなと思って……」

「もう一押し?」

「ええ、わたしが出るわ」

「! ほう……」

 恋が上に羽織っていたジャージを脱ぎ、ユニフォーム姿になる。

「円ちゃん、代わりましょう」

「! 分かった」

 円に代わって、恋がピッチに入る。

「ゆ、百合ヶ丘が出てきたぞ!」

「くっ、怯むな……!」

「そういうお前こそ!」

 恋の登場で相手チームが明らかに動揺する。

「ヴィオラちゃん、円ちゃんのポジションに移って。わたしがフィクソやるから~」

「分かりました……」

「雛子ちゃん、もっと前の方にポジション取っていいわよ。フォローするから」

「分かったわ!」

「真珠ちゃん、どんどんシュート撃っていっちゃって~」

「任せろ!」

「最愛ちゃん~」

 恋が後ろに振り返る。

「は、はい!」

「ゴールは任せたわよ~」

「……はい!」

 最愛の顔がより一層引き締まる。
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