3 / 50
第1章
第1話(2)1対1
しおりを挟む
「ふふっ……なかなかやるじゃないのさ……」
「いや、すがすがしいまでの捨て台詞だぞ、お前……」
コートの外に出て、膝をつき肩ではあはあと息をする円のことをウルフカットは冷ややかな目で見つめる。最愛は呼吸を整えて正面を見据える。
「……」
「なかなかのものだったぜ」
「そうでしたかしら?」
「ああ、まず初心者はボールを前に飛ばすことすら大変だからな」
「体育の授業が役に立ちましたわ」
「体育の授業、結構万能だな……」
「たくっ、しょうがないわね……」
「あん?」
「ここはアタシの出番のようね……」
「そうか?」
「そうよ」
トサカヘアが髪をかき上げながら前に進み出る。
「おいおい……」
「アンタ!」
トサカヘアが最愛をビシっと指差す。
「は、はい……」
「円を倒したくらいで良い気にならないでちょうだい」
「は、はあ……」
「え、ボクって倒された扱いなの⁉」
「うるせえな、黙って見てろ……」
円の問いにウルフカットが応える。
「あの子はいわゆる『四天王』最弱……」
「さ、最弱なの⁉」
「そもそも四天王が初耳だよ!」
重ねて問う円に対し、ウルフカットが声を上げる。
「パスの技術がなかなかのものだということはよく分かったわ」
「……ありがとうございます」
「しかし、フットサルで何より大事なのはボール扱いよ!」
「ボール扱い……」
「そう、ドリブルでボールを運んだり、相手に渡さないようにボールキープすることがなにより大事になってくるのよ!」
「な、なるほど……」
「そういうところを見てあげるわ!」
「ありがとうございますわ。ええっと……」
「ああ、アタシは等々力雛子(とどろきひなこ)よ」
「よろしくお願いしますわ」
最愛が雛子にも丁寧に頭を下げる。雛子が最愛に向かってボールを転がす。
「さあ、これはいわゆる1対1という練習法よ
「1対1……」
「そう、そこからドリブルを駆使して、アタシをかわしてみなさい!」
「は、はあ……」
「溝ノ口さん、相手の虚を突くことを考えてみてください」
三つ編みが助け舟を出す。
「虚を突くこと……」
「さあ、開始よ!」
「!」
一気に距離を詰めた雛子が最愛からあっさりとボールを奪う。
「あらら……簡単にボールを奪えちゃったわね~」
「むう……」
「初心者に何をイキってんだあいつは……」
ウルフカットが呆れた視線を雛子に送る。
「み、溝ノ口さん、もっと細かなボールタッチを意識してみて!」
円が最愛に声をかける。雛子が驚く。
「なっ……円、四天王を裏切るの……?」
「入った覚えがないから! 大体最弱扱いなんてひどいよ!」
「細かなボールタッチ……」
「ボールを触る回数を増やせということです。それと……」
三つ編みが最愛に囁く。
「や、やってみますわ……」
「では、もう一度……」
三つ編みが片手を挙げる。雛子が顔をしかめる。
「いつの間にかヴィオラが仕切っているのが納得いかないけど……」
「開始!」
「むっ!」
最愛が雛子とボールの間に体を入れるようにしてボールをキープし始めた。
「これは……」
「へっ、ヴィオラの入れ知恵か……」
「くっ!」
「雛子がなかなかボールを取れない!」
「体格差を上手く活かしてやがるな、あれならツンツンはお嬢の懐に入れない」
円とウルフカットがそれぞれ分析する。
「むむ……」
「ちっ!」
さらに最愛は手を使って、雛子が近づいてこられないようにしている。
「上手い手の使い方だ! 雛子を抑え込んでいる!」
「あれもヴィオラの入れ知恵か、あれではツンツンは容易に近づけない」
「……まあ、審判にとってはファウルを取るかもしれないけどね……」
「その辺はまだ初心者だからな、だが、ツンツンとしてはそれを理由に勝負を無効にするのはプライドが許さないはずだ」
「へえ……」
「なんだよ? こっち見てニヤニヤしやがって……」
「仲良いじゃん、雛子と」
「あん? 仲良くねえよ……」
ウルフカットが円を睨む。円が目を背けながら呟く。
「べ、別に睨まなくても良いじゃん……」
「そろそろ動くぞ!」
「溝ノ口さん、足裏を上手く使って!」
「足裏……なるほど……」
最愛が後ろ向きの状態から反転して、雛子の左側を抜けようとする。その動きは雛子ももちろん察知している。
「そう簡単にはさせないわよ! えっ⁉」
雛子が驚いた。前を向こうとした最愛の足元にボールが無かったからである。
「……虚を突けた!」
「! ボールを足裏で反対方向に転がした!」
「えい!」
「⁉」
再び反転した最愛がボールをキープして、雛子の右側を抜き去った。
「はあ、はあ……」
「ま、まさか、そんな……」
肩で息をする最愛の横で雛子が信じられないと言った表情で立ち尽くす。
「パスもドリブルもそれなり以上だね……」
「体育の授業だけであれは身に付かねえ……なかなかのセンスの持ち主だな」
円が戸惑う横で、ウルフカットが笑みを浮かべる。
「いや、すがすがしいまでの捨て台詞だぞ、お前……」
コートの外に出て、膝をつき肩ではあはあと息をする円のことをウルフカットは冷ややかな目で見つめる。最愛は呼吸を整えて正面を見据える。
「……」
「なかなかのものだったぜ」
「そうでしたかしら?」
「ああ、まず初心者はボールを前に飛ばすことすら大変だからな」
「体育の授業が役に立ちましたわ」
「体育の授業、結構万能だな……」
「たくっ、しょうがないわね……」
「あん?」
「ここはアタシの出番のようね……」
「そうか?」
「そうよ」
トサカヘアが髪をかき上げながら前に進み出る。
「おいおい……」
「アンタ!」
トサカヘアが最愛をビシっと指差す。
「は、はい……」
「円を倒したくらいで良い気にならないでちょうだい」
「は、はあ……」
「え、ボクって倒された扱いなの⁉」
「うるせえな、黙って見てろ……」
円の問いにウルフカットが応える。
「あの子はいわゆる『四天王』最弱……」
「さ、最弱なの⁉」
「そもそも四天王が初耳だよ!」
重ねて問う円に対し、ウルフカットが声を上げる。
「パスの技術がなかなかのものだということはよく分かったわ」
「……ありがとうございます」
「しかし、フットサルで何より大事なのはボール扱いよ!」
「ボール扱い……」
「そう、ドリブルでボールを運んだり、相手に渡さないようにボールキープすることがなにより大事になってくるのよ!」
「な、なるほど……」
「そういうところを見てあげるわ!」
「ありがとうございますわ。ええっと……」
「ああ、アタシは等々力雛子(とどろきひなこ)よ」
「よろしくお願いしますわ」
最愛が雛子にも丁寧に頭を下げる。雛子が最愛に向かってボールを転がす。
「さあ、これはいわゆる1対1という練習法よ
「1対1……」
「そう、そこからドリブルを駆使して、アタシをかわしてみなさい!」
「は、はあ……」
「溝ノ口さん、相手の虚を突くことを考えてみてください」
三つ編みが助け舟を出す。
「虚を突くこと……」
「さあ、開始よ!」
「!」
一気に距離を詰めた雛子が最愛からあっさりとボールを奪う。
「あらら……簡単にボールを奪えちゃったわね~」
「むう……」
「初心者に何をイキってんだあいつは……」
ウルフカットが呆れた視線を雛子に送る。
「み、溝ノ口さん、もっと細かなボールタッチを意識してみて!」
円が最愛に声をかける。雛子が驚く。
「なっ……円、四天王を裏切るの……?」
「入った覚えがないから! 大体最弱扱いなんてひどいよ!」
「細かなボールタッチ……」
「ボールを触る回数を増やせということです。それと……」
三つ編みが最愛に囁く。
「や、やってみますわ……」
「では、もう一度……」
三つ編みが片手を挙げる。雛子が顔をしかめる。
「いつの間にかヴィオラが仕切っているのが納得いかないけど……」
「開始!」
「むっ!」
最愛が雛子とボールの間に体を入れるようにしてボールをキープし始めた。
「これは……」
「へっ、ヴィオラの入れ知恵か……」
「くっ!」
「雛子がなかなかボールを取れない!」
「体格差を上手く活かしてやがるな、あれならツンツンはお嬢の懐に入れない」
円とウルフカットがそれぞれ分析する。
「むむ……」
「ちっ!」
さらに最愛は手を使って、雛子が近づいてこられないようにしている。
「上手い手の使い方だ! 雛子を抑え込んでいる!」
「あれもヴィオラの入れ知恵か、あれではツンツンは容易に近づけない」
「……まあ、審判にとってはファウルを取るかもしれないけどね……」
「その辺はまだ初心者だからな、だが、ツンツンとしてはそれを理由に勝負を無効にするのはプライドが許さないはずだ」
「へえ……」
「なんだよ? こっち見てニヤニヤしやがって……」
「仲良いじゃん、雛子と」
「あん? 仲良くねえよ……」
ウルフカットが円を睨む。円が目を背けながら呟く。
「べ、別に睨まなくても良いじゃん……」
「そろそろ動くぞ!」
「溝ノ口さん、足裏を上手く使って!」
「足裏……なるほど……」
最愛が後ろ向きの状態から反転して、雛子の左側を抜けようとする。その動きは雛子ももちろん察知している。
「そう簡単にはさせないわよ! えっ⁉」
雛子が驚いた。前を向こうとした最愛の足元にボールが無かったからである。
「……虚を突けた!」
「! ボールを足裏で反対方向に転がした!」
「えい!」
「⁉」
再び反転した最愛がボールをキープして、雛子の右側を抜き去った。
「はあ、はあ……」
「ま、まさか、そんな……」
肩で息をする最愛の横で雛子が信じられないと言った表情で立ち尽くす。
「パスもドリブルもそれなり以上だね……」
「体育の授業だけであれは身に付かねえ……なかなかのセンスの持ち主だな」
円が戸惑う横で、ウルフカットが笑みを浮かべる。
0
お気に入りに追加
8
あなたにおすすめの小説
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
女豹の恩讐『死闘!兄と妹。禁断のシュートマッチ』
コバひろ
大衆娯楽
前作 “雌蛇の罠『異性異種格闘技戦』男と女、宿命のシュートマッチ”
(全20話)の続編。
https://www.alphapolis.co.jp/novel/329235482/129667563/episode/6150211
男子キックボクサーを倒したNOZOMIのその後は?
そんな女子格闘家NOZOMIに敗れ命まで落とした父の仇を討つべく、兄と娘の青春、家族愛。
格闘技を通して、ジェンダーフリー、ジェンダーレスとは?を描きたいと思います。
私の隣は、心が見えない男の子
舟渡あさひ
青春
人の心を五感で感じ取れる少女、人見一透。
隣の席の男子は九十九くん。一透は彼の心が上手く読み取れない。
二人はこの春から、同じクラスの高校生。
一透は九十九くんの心の様子が気になって、彼の観察を始めることにしました。
きっと彼が、私の求める答えを持っている。そう信じて。
病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない
月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。
人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。
2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事)
。
誰も俺に気付いてはくれない。そう。
2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。
もう、全部どうでもよく感じた。
美少女に恐喝されてフットサル部入ったけど、正直もう辞めたい
平山安芸
青春
史上最高の逸材と謳われた天才サッカー少年、ハルト。
とあるきっかけで表舞台から姿を消した彼は、ひょんなことから学校一の美少女と名高い長瀬愛莉(ナガセアイリ)に目を付けられ、半ば強引にフットサル部の一員となってしまう。
何故か集まったメンバーは、ハルトを除いて女の子ばかり。かと思ったら、練習場所を賭けていきなりサッカー部と対決することに。未来を掴み損ねた少年の日常は、少女たちとの出会いを機に少しずつ変わり始める。
恋も部活も。生きることさえ、いつだって全力。ハーフタイム無しの人生を突っ走れ。部活モノ系甘々青春ラブコメ、人知れずキックオフ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる