上 下
47 / 50
第1笑

12本目(2)まだ君がいる

しおりを挟む
「ど、どうしましょう⁉」

「……」

「まさか僕ら以外全員なんて……」

「………」

「こんなことがあっていいのか……」

「…………」

「え、笑美さん! 黙ってないでなんとか言って下さいよ!」

「……アレやな」

「え?」

「バカは風邪ひかないっちゅうんはホンマなんやな」

「じょ、冗談を言っている場合じゃないんですよ!」

「しかし、すごい確率やで、ウチらだけ罹らへんって……」

「か、感心している場合でもないんですよ!」

 司は若干いら立ち気味に声を上げる。

「イライラしても、事態は好転せえへんで?」

「そ、それはそうかもしれないですけど!」

「まあ、ちょっと落ち着けや……」

「お、落ち着いてなんかいられないですよ!」

「水でも飲みや」

 笑美が水のペットボトルを手渡す。司はそれを受け取り、勢いよく飲む。

「ゴクゴク……ゲホッ、ゲホッ!」

 司がむせる。笑美は苦笑する。

「あらら、落ち着くために水渡したのに、落ち着いてないな~」

「ゲホッ……」

「待てよ……」

「?」

「ある意味“オチ”はついたか? ……な~んちゃって」

 笑美が後頭部に片手を添える。

「だ、だから!」

「ん?」

「そんなことを言っている場合じゃないんですよ!」

「まあまあ……」

「まあまあって……どうするんですか⁉」

「どうするって……そんなもん決まってるやないか」

「はい?」

「ウチと君のコンビで決勝に臨むしかないやんけ」

「ええっ⁉」

 司が驚く。

「そないに驚くことか?」

 笑美が首を傾げる。

「そ、それは驚きますよ! こ、ここに来てですか?」

「満を持してって感じやね?」

「い、いや、決してそういう感じでは……」

「なんや、もう忘れたんか?」

「は、はい?」

「春に自分とウチで漫才やったやん、なんたら説明会で」

「部活動サークル活動説明会」

「そう、それ」

 笑美が司を指差す。

「で、でも、その1回だけじゃないですか⁉」

「1回でもやってたら十分やろ」

「そ、そんな……」

「それに、ネタの読み合わせでは、司くんが何度も欠席者の代理を務めていたやん」

「そ、それはそうですけど……」

「な? 大丈夫やって」

「さ、さすがに……」

「……知っとるで」

「え? な、なにをですか?」

「膨大なネタ帳の中から、いつも必ず何冊だけ持ち歩いているよな?」

「よ、よく見ていますね……」

「観察眼が命やからな」

 笑美が自らの目元に右手の人差し指を添える。

「あ、あれは、メンバーの皆さんそれぞれのネタ帳ですよ……」

 司が自分の鞄に目をやる。

「その中に一冊だけ……!」

 笑美が司の鞄をビシっと指差す。

「!」

「他とはメーカーの違うノートが入っているよな?」

「そ、それが何か?」

「君専用のネタ帳やろ?」

「! え、えっと……」

「自分ももう一度演者として出てみたいという欲求が湧いてきたんとちゃう?」

「あ、憧れのようなものですよ! 僕はあくまでも作家志望ですから!」

「憧れさえあればどうとでもなる。それがいっちゃん大事なもんやからな……」

「し、しかし、地区予選決勝ですよ! 前回とはわけが違う!」

「それならウチが漫談するしかなくなるけど……」

「そ、それは規定に引っかかるかも……確認はしてませんけど」

「じゃあ、このまま不戦敗か?」

「⁉」

「……例えば地区予選準優勝でも、事情が事情やし、交渉次第ではセトワラの活動は継続出来るかもしれんけど……ウチは今のメンバーでもうちょっと続けたい!」

「……!」

「クソ真面目な屋代先輩」

「クソって……」

「ゴリマッチョな江田先輩」

「ゴリって……」

「いつもうるさ……明るい礼明ちゃん」

「今うるさいって……」

「いつもやかま……楽しい礼光ちゃん」

「今やかましいって……」

「オタクな……マニアックな因島くん」

「完全にオタクって言った……」

「チャラ男な……ムードメーカーな倉橋くん」

「完全にチャラ男って言った……」

「ワガママお嬢様な優美ちゃん」

「ワガママって……」

「キッチリ執事な小豆くん」

「キッチリって……」

「クレバーなオースティン」

「確かにわりと堅実ですよね……」

「クールなエタン」

「寡黙ですよね……」

「ハッピーなマリサ」

「朗らかですよね……」

「……この個性的なメンバーともっともっと思い出を作りたくはないか?」

「……作りたいです! やりましょう! 漫才!」

「……ネタ帳見せて。30分で仕上げるで」

 笑美が腕を組んでニヤリと笑う。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

[1分読書]彼女を寝取られたので仕返しします・・・

無責任
青春
僕は武田信長。高校2年生だ。 僕には、中学1年生の時から付き合っている彼女が・・・。 隣の小学校だった上杉愛美だ。 部活中、軽い熱中症で倒れてしまった。 その時、助けてくれたのが愛美だった。 その後、夏休みに愛美から告白されて、彼氏彼女の関係に・・・。 それから、5年。 僕と愛美は、愛し合っていると思っていた。 今日、この状況を見るまでは・・・。 その愛美が、他の男と、大人の街に・・・。 そして、一時休憩の派手なホテルに入って行った。 僕はどうすれば・・・。 この作品の一部に、法令違反の部分がありますが、法令違反を推奨するものではありません。

婚約者に消えろと言われたので湖に飛び込んだら、気づけば三年が経っていました。

束原ミヤコ
恋愛
公爵令嬢シャロンは、王太子オリバーの婚約者に選ばれてから、厳しい王妃教育に耐えていた。 だが、十六歳になり貴族学園に入学すると、オリバーはすでに子爵令嬢エミリアと浮気をしていた。 そしてある冬のこと。オリバーに「私の為に消えろ」というような意味のことを告げられる。 全てを諦めたシャロンは、精霊の湖と呼ばれている学園の裏庭にある湖に飛び込んだ。 気づくと、見知らぬ場所に寝かされていた。 そこにはかつて、病弱で体の小さかった辺境伯家の息子アダムがいた。 すっかり立派になったアダムは「あれから三年、君は目覚めなかった」と言った――。

婚約者は、今月もお茶会に来ないらしい。

白雪なこ
恋愛
婚約時に両家で決めた、毎月1回の婚約者同士の交流を深める為のお茶会。だけど、私の婚約者は「彼が認めるお茶会日和」にしかやってこない。そして、数ヶ月に一度、参加したかと思えば、無言。短時間で帰り、手紙を置いていく。そんな彼を……許せる?  *6/21続編公開。「幼馴染の王女殿下は私の元婚約者に激おこだったらしい。次期女王を舐めんなよ!ですって。」 *外部サイトにも掲載しています。(1日だけですが総合日間1位)

幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話

妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』 『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』 『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』  大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。

あの瞬く星のような君の心音が、燃え尽きてしまったとしても

雨愁軒経
青春
人の一生における心拍数が決まっているといわれるように、夢にも熱量の拍数があるらしい。 夢拍症候群――別名『ハートビート・シンドローム』。 十代の少年少女が発症し、夢へ打ち込めば打ち込むほど昂った鼓動を鎮めるように揺り戻され、体が思うように動かなくなってしまう病。 症状に抗えば命を落とすこともある理不尽な足枷は、5年前に確認されてから今日まで、若者たちの未来を蝕み続けてきた。 イラストレーターを目指す一ノ瀬凪は、画題とした人の姿が歪んで見えてしまう現象に襲われ、夢拍症候群と診断されてしまう。 SNSで絵師としての活動停止を報告した凪に、よく依頼をくれる常連さんから一通のメールが届く。 それは、夢拍症候群を患った者たちを支援する特殊学校の存在を報せるものだった。 どうせ死ぬのならと転入を決めた凪は、そこで、かつて大切な約束を交わした歌手志望の少女・風吹乙花と再会することになる―― 懸命に今を戦うすべての人たちへ捧ぐスターライトステージが、今始まる。 ※タイトルは『あの瞬く星のような君の心音(うた)が、燃え尽きてしまったとしても』と読みます※

嫌われ者金田

こたろう
青春
こんな人いたら嫌だって人を書きます! これ実話です!というか現在進行形です! 是非共感してください! 一応ノベルバの方ではジャンル別最高5位に入っています! あとノベルバの方ではこちらより沢山投稿しています。続き気になる方は是非ノベルバの方にお願いします。

やめて抱っこしないで!過保護なメンズに囲まれる!?〜異世界転生した俺は死にそうな最弱プリンスだけど最強冒険者〜

ゆきぶた
BL
異世界転生したからハーレムだ!と、思ったら男のハーレムが出来上がるBLです。主人公総受ですがエロなしのギャグ寄りです。 短編用に登場人物紹介を追加します。 ✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎ あらすじ 前世を思い出した第5王子のイルレイン(通称イル)はある日、謎の呪いで倒れてしまう。 20歳までに死ぬと言われたイルは禁呪に手を出し、呪いを解く素材を集めるため、セイと名乗り冒険者になる。 そして気がつけば、最強の冒険者の一人になっていた。 普段は病弱ながらも執事(スライム)に甘やかされ、冒険者として仲間達に甘やかされ、たまに兄達にも甘やかされる。 そして思ったハーレムとは違うハーレムを作りつつも、最強冒険者なのにいつも抱っこされてしまうイルは、自分の呪いを解くことが出来るのか?? ✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎ お相手は人外(人型スライム)、冒険者(鍛冶屋)、錬金術師、兄王子達など。なにより皆、過保護です。 前半はギャグ多め、後半は恋愛思考が始まりラストはシリアスになります。 文章能力が低いので読みにくかったらすみません。 ※一瞬でもhotランキング10位まで行けたのは皆様のおかげでございます。お気に入り1000嬉しいです。ありがとうございました! 本編は完結しましたが、暫く不定期ですがオマケを更新します!

Hand in Hand - 二人で進むフィギュアスケート青春小説

宮 都
青春
幼なじみへの気持ちの変化を自覚できずにいた中2の夏。ライバルとの出会いが、少年を未知のスポーツへと向わせた。 美少女と手に手をとって進むその競技の名は、アイスダンス!! 【2022/6/11完結】  その日僕たちの教室は、朝から転校生が来るという噂に落ち着きをなくしていた。帰国子女らしいという情報も入り、誰もがますます転校生への期待を募らせていた。  そんな中でただ一人、果歩(かほ)だけは違っていた。 「制覇、今日は五時からだから。来てね」  隣の席に座る彼女は大きな瞳を輝かせて、にっこりこちらを覗きこんだ。  担任が一人の生徒とともに教室に入ってきた。みんなの目が一斉にそちらに向かった。それでも果歩だけはずっと僕の方を見ていた。 ◇ こんな二人の居場所に現れたアメリカ帰りの転校生。少年はアイスダンスをするという彼に強い焦りを感じ、彼と同じ道に飛び込んでいく…… ――小説家になろう、カクヨム(別タイトル)にも掲載――

処理中です...