6 / 50
第1笑
2本目(1)プロ意識
しおりを挟む
2
「な~んて、この間は偉そうなこと言うたんやけれども……ゴホッ」
部室でマスクを付けた笑美が申し訳なさそうにする。司が苦笑しながら尋ねる。
「大丈夫……ではないですよね?」
「ちょっとまだ熱っぽいかな……ピークは過ぎたから」
「無理に顔を出さなくても……」
「いや、ネタライブはもう週末やろ?」
「ええ、それで告知はしています」
司は端末を操作しながら頷く。
「それなら一日も休んでられん……ゴホッゴホッ……」
笑美が咳き込む。司が心配そうに声をかける。
「ああ、無理しないで下さい」
「こ、これくらいなんでもあらへん……」
「いや、見るからに辛そうですよ」
何故か虚勢を張る笑美に司は困惑する。
「平気やって……」
「喋るのも辛そうじゃないですか。今日はもうお帰りになった方が……」
「ネタだけでも確認するわ」
「え?」
「どのネタで行くねん?」
笑美が部室の脇に積み重なったネタ帳の山に目をやる。
「いや……」
「まだ決まってないんか? ネタ選びも大事やで、早う決めんと……」
「そうではなくて……」
司が首を左右に振る。
「ん?」
笑美が首を傾げる。
「今回も新ネタで行きます」
「えっ⁉ もう出来たん、新しいの……」
「はい」
「凄いスピードやな……」
「笑美さんをイメージすると、どんどん新ネタが浮かんでくるんです」
「ウチをイメージすると……」
「ええ、良い刺激を受けるんです」
「ええ刺激……」
赤くなった顔で言葉を反芻する笑美を見て、司がハッとなって慌てる。
「あっ! へ、変な意味じゃないですよ⁉」
「! わ、分かっとるわ、そんなこと!」
「だって顔赤いし……」
「これは熱っぽいからや!」
「ああ、なんだ、熱か……」
「そうや、熱や……」
ひと呼吸おいてから司が口を開く。
「って、また熱っぽくなってきたんですか?」
「ちょっとぼうっとしてきたかも……」
「もう今日は帰った方が良いですよ」
「だから、ネタだけ確認するって言うたやん」
「はあ……」
「どれや? 新ネタ?」
「この中から考えていまして……」
司がまだ新しいノートを差し出す。笑美が受け取る。
「拝見します……」
「汚い字ですから、清書したやつを今晩にでもRANEで送りますよ」
「後で送って欲しいのはそうやけど……ウチ、こういうの見るの好きやねん」
「え?」
「作家さんの気持ちや魂がこもってるような気がしてな……」
「そんな……大げさですよ」
司が照れくさそうにする。
「……この40ページまでのネタ……」
「も、もうそこまで読まれたんですか⁉」
「ああ」
「は、早い……もう半分……」
感嘆とする司に対し、笑美がボソッと呟く。
「ボツな」
「え?」
司が首を傾げる。
「せやからボツや、ボツ」
「ええっ、20個の新ネタ、ボツですか⁉」
「うん」
「な、何故?」
「おもろないもん」
「お、おもろない……」
笑美のシンプルなダメ出しを受けて、司は肩を落とす。
「いちいち落ち込んでいる暇はないで~」
笑美が笑う。
「え?」
「なんでアカンかというと……」
笑美はノートを広げ、ボツネタの問題点を次々指摘していく。司がメモを取りながら頷く。
「な、なるほど……」
「分かった?」
「ええ、大変分かりやすい指摘です。そうか……演者側の視点が不足していたのか……」
「まあ、そうやね、独りよがりって感じが目立つっちゅうか……」
「一目見ただけで、こんなに問題点を見つけ出してしまうなんて……さすがプロです!」
「いやいや、プロ志望だっただけやから……」
「いや、プロ顔負けのプロ意識の高さですよ!」
「そ、そうかな~?」
笑美が照れくさそうに後頭部を抑える。
「そうですよ!」
「ま、まあ、その辺はプロにも負けへんつもりだったからな……ゴホッゴホッゴホッ!」
笑美が咳き込む。
「プロ意識が聞いて呆れるな……」
「ん?」
部室のドアが開き、七三分けで眼鏡をかけた、見るからに真面目そうな風貌の男子生徒が入ってきた。司が挨拶をする。
「あ、おはようございます……」
「おはよう」
男子生徒が司に挨拶を返す。
「えっと、今日は……」
「分かっている。窓際の席を借りるぞ」
「ええ、どうぞ」
男子生徒が笑美の方を向く。
「……君、他の生徒に風邪を移したらどうするつもりだ? プロ云々は口だけか?」
そう言って、男子生徒は席につく。笑美がムッとする。
「な、なんなん、あの人!」
「屋代智(やしろさとし)さん、3年生……『セトワラ』の会員です……」
「ええっ⁉」
司の言葉に笑美は驚く。
「な~んて、この間は偉そうなこと言うたんやけれども……ゴホッ」
部室でマスクを付けた笑美が申し訳なさそうにする。司が苦笑しながら尋ねる。
「大丈夫……ではないですよね?」
「ちょっとまだ熱っぽいかな……ピークは過ぎたから」
「無理に顔を出さなくても……」
「いや、ネタライブはもう週末やろ?」
「ええ、それで告知はしています」
司は端末を操作しながら頷く。
「それなら一日も休んでられん……ゴホッゴホッ……」
笑美が咳き込む。司が心配そうに声をかける。
「ああ、無理しないで下さい」
「こ、これくらいなんでもあらへん……」
「いや、見るからに辛そうですよ」
何故か虚勢を張る笑美に司は困惑する。
「平気やって……」
「喋るのも辛そうじゃないですか。今日はもうお帰りになった方が……」
「ネタだけでも確認するわ」
「え?」
「どのネタで行くねん?」
笑美が部室の脇に積み重なったネタ帳の山に目をやる。
「いや……」
「まだ決まってないんか? ネタ選びも大事やで、早う決めんと……」
「そうではなくて……」
司が首を左右に振る。
「ん?」
笑美が首を傾げる。
「今回も新ネタで行きます」
「えっ⁉ もう出来たん、新しいの……」
「はい」
「凄いスピードやな……」
「笑美さんをイメージすると、どんどん新ネタが浮かんでくるんです」
「ウチをイメージすると……」
「ええ、良い刺激を受けるんです」
「ええ刺激……」
赤くなった顔で言葉を反芻する笑美を見て、司がハッとなって慌てる。
「あっ! へ、変な意味じゃないですよ⁉」
「! わ、分かっとるわ、そんなこと!」
「だって顔赤いし……」
「これは熱っぽいからや!」
「ああ、なんだ、熱か……」
「そうや、熱や……」
ひと呼吸おいてから司が口を開く。
「って、また熱っぽくなってきたんですか?」
「ちょっとぼうっとしてきたかも……」
「もう今日は帰った方が良いですよ」
「だから、ネタだけ確認するって言うたやん」
「はあ……」
「どれや? 新ネタ?」
「この中から考えていまして……」
司がまだ新しいノートを差し出す。笑美が受け取る。
「拝見します……」
「汚い字ですから、清書したやつを今晩にでもRANEで送りますよ」
「後で送って欲しいのはそうやけど……ウチ、こういうの見るの好きやねん」
「え?」
「作家さんの気持ちや魂がこもってるような気がしてな……」
「そんな……大げさですよ」
司が照れくさそうにする。
「……この40ページまでのネタ……」
「も、もうそこまで読まれたんですか⁉」
「ああ」
「は、早い……もう半分……」
感嘆とする司に対し、笑美がボソッと呟く。
「ボツな」
「え?」
司が首を傾げる。
「せやからボツや、ボツ」
「ええっ、20個の新ネタ、ボツですか⁉」
「うん」
「な、何故?」
「おもろないもん」
「お、おもろない……」
笑美のシンプルなダメ出しを受けて、司は肩を落とす。
「いちいち落ち込んでいる暇はないで~」
笑美が笑う。
「え?」
「なんでアカンかというと……」
笑美はノートを広げ、ボツネタの問題点を次々指摘していく。司がメモを取りながら頷く。
「な、なるほど……」
「分かった?」
「ええ、大変分かりやすい指摘です。そうか……演者側の視点が不足していたのか……」
「まあ、そうやね、独りよがりって感じが目立つっちゅうか……」
「一目見ただけで、こんなに問題点を見つけ出してしまうなんて……さすがプロです!」
「いやいや、プロ志望だっただけやから……」
「いや、プロ顔負けのプロ意識の高さですよ!」
「そ、そうかな~?」
笑美が照れくさそうに後頭部を抑える。
「そうですよ!」
「ま、まあ、その辺はプロにも負けへんつもりだったからな……ゴホッゴホッゴホッ!」
笑美が咳き込む。
「プロ意識が聞いて呆れるな……」
「ん?」
部室のドアが開き、七三分けで眼鏡をかけた、見るからに真面目そうな風貌の男子生徒が入ってきた。司が挨拶をする。
「あ、おはようございます……」
「おはよう」
男子生徒が司に挨拶を返す。
「えっと、今日は……」
「分かっている。窓際の席を借りるぞ」
「ええ、どうぞ」
男子生徒が笑美の方を向く。
「……君、他の生徒に風邪を移したらどうするつもりだ? プロ云々は口だけか?」
そう言って、男子生徒は席につく。笑美がムッとする。
「な、なんなん、あの人!」
「屋代智(やしろさとし)さん、3年生……『セトワラ』の会員です……」
「ええっ⁉」
司の言葉に笑美は驚く。
0
お気に入りに追加
6
あなたにおすすめの小説
[1分読書]彼女を寝取られたので仕返しします・・・
無責任
青春
僕は武田信長。高校2年生だ。
僕には、中学1年生の時から付き合っている彼女が・・・。
隣の小学校だった上杉愛美だ。
部活中、軽い熱中症で倒れてしまった。
その時、助けてくれたのが愛美だった。
その後、夏休みに愛美から告白されて、彼氏彼女の関係に・・・。
それから、5年。
僕と愛美は、愛し合っていると思っていた。
今日、この状況を見るまでは・・・。
その愛美が、他の男と、大人の街に・・・。
そして、一時休憩の派手なホテルに入って行った。
僕はどうすれば・・・。
この作品の一部に、法令違反の部分がありますが、法令違反を推奨するものではありません。
婚約者に消えろと言われたので湖に飛び込んだら、気づけば三年が経っていました。
束原ミヤコ
恋愛
公爵令嬢シャロンは、王太子オリバーの婚約者に選ばれてから、厳しい王妃教育に耐えていた。
だが、十六歳になり貴族学園に入学すると、オリバーはすでに子爵令嬢エミリアと浮気をしていた。
そしてある冬のこと。オリバーに「私の為に消えろ」というような意味のことを告げられる。
全てを諦めたシャロンは、精霊の湖と呼ばれている学園の裏庭にある湖に飛び込んだ。
気づくと、見知らぬ場所に寝かされていた。
そこにはかつて、病弱で体の小さかった辺境伯家の息子アダムがいた。
すっかり立派になったアダムは「あれから三年、君は目覚めなかった」と言った――。
婚約者は、今月もお茶会に来ないらしい。
白雪なこ
恋愛
婚約時に両家で決めた、毎月1回の婚約者同士の交流を深める為のお茶会。だけど、私の婚約者は「彼が認めるお茶会日和」にしかやってこない。そして、数ヶ月に一度、参加したかと思えば、無言。短時間で帰り、手紙を置いていく。そんな彼を……許せる?
*6/21続編公開。「幼馴染の王女殿下は私の元婚約者に激おこだったらしい。次期女王を舐めんなよ!ですって。」
*外部サイトにも掲載しています。(1日だけですが総合日間1位)
私の隣は、心が見えない男の子
舟渡あさひ
青春
人の心を五感で感じ取れる少女、人見一透。
隣の席の男子は九十九くん。一透は彼の心が上手く読み取れない。
二人はこの春から、同じクラスの高校生。
一透は九十九くんの心の様子が気になって、彼の観察を始めることにしました。
きっと彼が、私の求める答えを持っている。そう信じて。
勘違いから始まる・関係・ゆり?・ブラコン!
シャル
青春
こちらは昔書いてたデータが消えたので更新してません。すみません。
ゆり、とかブラコンと、書いてますが、基本は女子高生の日常の話です。
主人公は、途中から登場する、巫杜(みこと)になります、
外ではクール?キャラでも家では、ブラコンキャラになります。
そこまで、恐ろしいブラコンの予定はありません。予定ですが。
思い付いた話を書くので、話数関係なく曜日が戻ったりするかもしれませんが、
気にしないでください。
例えば、夏の話から冬の話になったりです。
まだわかりませんが、多分なります。
キャラの会話は、わかりやすい?ように「」の中に書いてます。
キャラの心の声は「()」にしてます。
キャラの会話や登場キャラが多い予定なので、
誰が話てるか、わかりやすくするため
キャラ名作者
「よかったら読んでってください。
ちなみに、文才まったくないので。誤字脱字は、お許しください。」
こんな感じです・・・
また書きためれたら、まとめて公開します
1週間に1話程度は公開頑張ります。
恐喝されている女の子を助けたら学校で有名な学園三大姫の一人でした
恋狸
青春
特殊な家系にある俺、こと狭山渚《さやまなぎさ》はある日、黒服の男に恐喝されていた白海花《しらみはな》を助ける。
しかし、白海は学園三大姫と呼ばれる有名美少女だった!?
さらには他の学園三大姫とも仲良くなり……?
主人公とヒロイン達が織り成すラブコメディ!
小説家になろう、カクヨムでも投稿しています。
カクヨムにて、月間3位
やめて抱っこしないで!過保護なメンズに囲まれる!?〜異世界転生した俺は死にそうな最弱プリンスだけど最強冒険者〜
ゆきぶた
BL
異世界転生したからハーレムだ!と、思ったら男のハーレムが出来上がるBLです。主人公総受ですがエロなしのギャグ寄りです。
短編用に登場人物紹介を追加します。
✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎
あらすじ
前世を思い出した第5王子のイルレイン(通称イル)はある日、謎の呪いで倒れてしまう。
20歳までに死ぬと言われたイルは禁呪に手を出し、呪いを解く素材を集めるため、セイと名乗り冒険者になる。
そして気がつけば、最強の冒険者の一人になっていた。
普段は病弱ながらも執事(スライム)に甘やかされ、冒険者として仲間達に甘やかされ、たまに兄達にも甘やかされる。
そして思ったハーレムとは違うハーレムを作りつつも、最強冒険者なのにいつも抱っこされてしまうイルは、自分の呪いを解くことが出来るのか??
✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎
お相手は人外(人型スライム)、冒険者(鍛冶屋)、錬金術師、兄王子達など。なにより皆、過保護です。
前半はギャグ多め、後半は恋愛思考が始まりラストはシリアスになります。
文章能力が低いので読みにくかったらすみません。
※一瞬でもhotランキング10位まで行けたのは皆様のおかげでございます。お気に入り1000嬉しいです。ありがとうございました!
本編は完結しましたが、暫く不定期ですがオマケを更新します!
嫌われ者金田
こたろう
青春
こんな人いたら嫌だって人を書きます!
これ実話です!というか現在進行形です!
是非共感してください!
一応ノベルバの方ではジャンル別最高5位に入っています!
あとノベルバの方ではこちらより沢山投稿しています。続き気になる方は是非ノベルバの方にお願いします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる