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第1章

第6話(1)一週間を振り返ってみよう

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「はあ~あ……」
 新宿オルタナティブ学園の高校二年生に無事進級したは良いものの、怒涛のような一週間を過ごしたわたし、最寄田静香は新宿駅東口で大きくため息をついた。
「せっかくの週末だというのに……」
 そう、わたしの足はなんとなく新宿に向かってしまったのだ。まあ、休みの日をライバルたちに差をつけようと、授業の予習復習に費やすほど、わたしは殊勝な人間ではないし、部活動に懸命な汗を流そうというほど、熱血人間でもない。どちらかといえば文化系寄りの人間だし、そもそもが帰宅部だ。
「まあ……」
 わたしは通行人の方々の邪魔にならないように道の脇に寄って、腕を組んで考え込む。復習……というか、この嵐のような一週間を落ち着いて振り返ってみてもいいのかもしれない。落ち着かない人出だけどれも。案外こういう状況の方が、考えがよくまとまったりするものだ。余計混乱するかもしれないが……。
「月曜日は……」
 白髪でイケメンの陰陽師と出会った。神主さんのような恰好をした彼は明石家天馬と名乗った。その天馬さんが言うには、わたしは妖を引き寄せやすい状態……ベタに言うと霊感が強い体質に突発的になってしまっているという。しかもオルタナティブ学園は人に悪戯するような妖たちの通り道だという。わたしは天馬さんとともに『祓い屋』として、妖撃退にあたることとなった……。
「えっと……」
 わたしは自らの頬を撫でる。振り返りを続けるとしよう。
「火曜日は……」
 栗毛色の髪でイケメンのスーパーヒーローと出会った。この場合のヒーローとは比喩的な表現ではなく、アメコミ映画から飛び出してきたようなガチのヒーローだ。彼は浜松功人と名乗った――エリートと読む。キラキラしている――その功人さんが言うには、わたしは選ばれし存在だという。新宿近辺に眠るという『M資金』を狙うヴィランたちの企てを共に阻止しようと言われた。ヴィランたちは学園付近を狙っているという。わたしは功人さんとともに『スーパーヒロイン』として、ヴィラン撃退にあたることとなった……。
「ええっと……」
 わたしは自らの顎をさする。振り返りを続けるとしよう。
「水曜日は……」
 灰色の長髪でイケメンの勇者と出会った。この場合の勇者というのも比喩ではなく、正真正銘の勇者だ。ゲームの世界から出てきたようなファンタジックな衣服を纏っていたし、なんといっても腰に立派な剣を提げていた。彼はジャッキー=バラバンと名乗った。そのジャッキーさんが言うには、わたしはこの辺でもっとも運命的な勇者だという。何故かしら繋がってしまった、この世界と異世界……その異世界からやってくるモンスターを討伐しようと言われた。学園の辺りによくモンスターが出現するという。わたしはジャッキーさんとともに『運命的な勇者』として、モンスター撃退にあたることとなった……。
「う~ん……」
 わたしは自らの後頭部をポリポリと掻く。振り返りを続けよう。
「木曜日は……」
 茶色の短髪でイケメンのスペースポリスマンと出会った。宇宙服のようなものを着た彼はデストロイ=ノリタカと名乗った。コードネームだと言う――いや、本名を名乗れ――そのノリタカさんが言うには、わたしには『適性』があるという。適性とはスペースポリスマンのである。地球に侵略行為を仕掛けてくるエイリアン――つまり異星人――を迎撃しようと言われた。日本ではこの学園付近を異星人が特に狙っているという。わたしはノリタカさんととともに『サイレンス=シズカ』というコードネームで、エイリアン迎撃にあたることとなった……。
「うう~ん……」
 わたしは自らの額を抱えた。振り返りを続けよう。
「金曜日は……」
 金髪の無造作ヘアーでイケメンのエクソシストと出会った。全身黒ずくめの恰好をしたワイルドな彼はブレム=マタと名乗った。そのブレムさんが言うには、わたしは『素質』があるという。素質とはエクソシストのである。人に害をなす悪魔をともに祓おうと言われた。実際にベタベタな悪魔と遭遇してしまったから、信じるしかない。この学園付近によく現れるという。わたしはブレムさんの相棒として悪魔祓いをすることとなった……。
 ……まあ、嘆いてばかりもいられない。ブレムさんの話では、悪魔の出現頻度というのは週に一度か二度らしい。頻度が決まっている悪魔ってなんだろうとは思うが……とにかく悪魔を祓うとしよう……いや、悪魔だけでなく、妖やヴィラン、モンスターや異星人もだ。何故ならば、わたしは突発的に人一倍強い霊感が備わっていて、選ばれし存在で、運命的な勇者で、スペースポリスマンの適性が高く、エクソシストとして特異な素質を持っているそうだから……うん?
「いやいや、そんなこたあないでしょう!」
 わたしは両手で頭を抱えて、大声を叫ぶ。その声も新宿の喧噪にはすぐにかき消されてしまう。大型3Dヴィジョンから時折飛び出してくる猫と目が合ったような気がした。
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