20 / 26
第1章
第5話(3)素質あり
しおりを挟む
「あ、悪魔とは⁉」
「見えているだろう。目の前のあれのこった」
ブレムさんが指を差した先には、全身が黒一色、やや小さめで、二本足で立っていて、頭に二本の角が生えており、尻尾が尖っており――矢印のような形をしている――槍を手に持った存在がいた。
「!」
わたしは単純に驚いてしまう。
「……」
「お、おおう……」
黒一色の存在がこちらに向かって動いてきたので、わたしは後ずさりをしてしまう。そんなわたしの様子を見て、ブレムさんは顎をさすりながら呟く。
「へえ……」
「な、なにか?」
わたしはブレムさんに問う。
「いや、感心していたんだよ」
「感心?」
「ああ」
「……もしかしてわたしに対してですか?」
わたしは自らを指差す。
「他に誰がいるよ」
「……感心する要素ありましたか?」
「いや、普通だったなら、悪魔と相対した瞬間に、ガタガタと震え出して、周囲に向かって、『助けてくれー‼』って泣き叫ぶもんなんだよ」
「そ、そうなんですか?」
「そうなんだよ。すっかりビビっちまってな」
「はあ……」
「アンタ、オイラにはビビっている様子だったのに、悪魔にはビビらねえんだな。ははっ、おもしれー……」
「おもしろくはないです!」
わたしは食い気味にブレムさんの言葉を否定した。この局面で『おもしれー女』認定されて良いことは絶対無い気がするからだ。
「そ、そうか……」
「そうです!」
「……いや、やっぱりおもしれ……」
「おもしろくはないです‼」
「……いやいや、おもし……」
「おもしろくないです!」
「……」
「………」
「いとおかし……」
「いとおかしくはないです!」
「インタラスティング……」
「アイアムノットインタラスティングガール!」
「む……」
「OK⁉」
「むう……」
「アンダスタン⁉」
「あ、ああ……」
「……ご理解頂けて良かったです」
わたしはうんうんと頷く。
「ま、まあ、それはともかくとしてだ……」
「はい」
「何故にビビらねえんだ?」
「え、それは……だって……」
「だって?」
「……ベタベタなんですもん」
「は? 触ったのか?」
「いや、感触的な話ではなくてですね、なんというか……ビジュアル的なことです」
「ビジュアル的?」
「ええ、だって見てくださいよ、虫歯の擬人化イラストみたいじゃないですか?」
「ぎ、擬人化イラスト?」
「見たことありませんか? 歯医者さんとかに貼ってあるポスター」
「ああ……なんとなく、言いたいことは分かった……」
「だから、どちらかと言えば……親しみすら覚えます」
「はあっ⁉」
ブレムさんは驚く。
「? なにか?」
わたしは首を捻る。
「い、いや、アンタ、思ったよりも大物かもな……」
「そ、そんなことはありませんよ」
「いいや、とにかく常人ではないようだ」
「いえいえ、極めて常識人ですよ……」
「謙遜すんなよ」
「謙遜させてください」
「だって、悪魔に親しみを覚えるんだろ?」
「それはちょっと口が滑ってしまっただけです。忘れてください」
「忘れろったってな……」
ブレムさんが自らの髪をボサボサと掻く。
「……なんというか、慣れただけです」
「慣れ?」
「ええ、ここ数日色々あったので……」
わたしは俯き加減で呟く。
「ふむ、興味深いな……」
ブレムさんは腕を組んで頷く。
「話すと長くなるので話しませんよ?」
「詳細はどうでもいい」
「ど、どうでもいい?」
「色々あったわりにキャパオーバーしていないアンタ自身に興味が湧いた……」
「あ……」
しまった。マズい流れだぞ、これ。
「悪魔にビビらないのはマジで大事なことだぜ」
「い、いや、ビビるビビらないではなくてですね、慣れてしまったというか……」
「エクソシストの素質ありだな」
「素質あり? わたしはごくごく普通のどこにでもいる平凡な女子高生ですよ?」
突発的に人一倍強い霊感が備わっていて、選ばれし存在で、運命的な勇者で、スペースポリスマンの適性が高いということを除けばだが。
「……それじゃあ、サクっと悪魔祓いと行こうぜ、相棒」
「あ、相棒にされてしまった⁉」
わたしは両手で頭を抱える。
「見えているだろう。目の前のあれのこった」
ブレムさんが指を差した先には、全身が黒一色、やや小さめで、二本足で立っていて、頭に二本の角が生えており、尻尾が尖っており――矢印のような形をしている――槍を手に持った存在がいた。
「!」
わたしは単純に驚いてしまう。
「……」
「お、おおう……」
黒一色の存在がこちらに向かって動いてきたので、わたしは後ずさりをしてしまう。そんなわたしの様子を見て、ブレムさんは顎をさすりながら呟く。
「へえ……」
「な、なにか?」
わたしはブレムさんに問う。
「いや、感心していたんだよ」
「感心?」
「ああ」
「……もしかしてわたしに対してですか?」
わたしは自らを指差す。
「他に誰がいるよ」
「……感心する要素ありましたか?」
「いや、普通だったなら、悪魔と相対した瞬間に、ガタガタと震え出して、周囲に向かって、『助けてくれー‼』って泣き叫ぶもんなんだよ」
「そ、そうなんですか?」
「そうなんだよ。すっかりビビっちまってな」
「はあ……」
「アンタ、オイラにはビビっている様子だったのに、悪魔にはビビらねえんだな。ははっ、おもしれー……」
「おもしろくはないです!」
わたしは食い気味にブレムさんの言葉を否定した。この局面で『おもしれー女』認定されて良いことは絶対無い気がするからだ。
「そ、そうか……」
「そうです!」
「……いや、やっぱりおもしれ……」
「おもしろくはないです‼」
「……いやいや、おもし……」
「おもしろくないです!」
「……」
「………」
「いとおかし……」
「いとおかしくはないです!」
「インタラスティング……」
「アイアムノットインタラスティングガール!」
「む……」
「OK⁉」
「むう……」
「アンダスタン⁉」
「あ、ああ……」
「……ご理解頂けて良かったです」
わたしはうんうんと頷く。
「ま、まあ、それはともかくとしてだ……」
「はい」
「何故にビビらねえんだ?」
「え、それは……だって……」
「だって?」
「……ベタベタなんですもん」
「は? 触ったのか?」
「いや、感触的な話ではなくてですね、なんというか……ビジュアル的なことです」
「ビジュアル的?」
「ええ、だって見てくださいよ、虫歯の擬人化イラストみたいじゃないですか?」
「ぎ、擬人化イラスト?」
「見たことありませんか? 歯医者さんとかに貼ってあるポスター」
「ああ……なんとなく、言いたいことは分かった……」
「だから、どちらかと言えば……親しみすら覚えます」
「はあっ⁉」
ブレムさんは驚く。
「? なにか?」
わたしは首を捻る。
「い、いや、アンタ、思ったよりも大物かもな……」
「そ、そんなことはありませんよ」
「いいや、とにかく常人ではないようだ」
「いえいえ、極めて常識人ですよ……」
「謙遜すんなよ」
「謙遜させてください」
「だって、悪魔に親しみを覚えるんだろ?」
「それはちょっと口が滑ってしまっただけです。忘れてください」
「忘れろったってな……」
ブレムさんが自らの髪をボサボサと掻く。
「……なんというか、慣れただけです」
「慣れ?」
「ええ、ここ数日色々あったので……」
わたしは俯き加減で呟く。
「ふむ、興味深いな……」
ブレムさんは腕を組んで頷く。
「話すと長くなるので話しませんよ?」
「詳細はどうでもいい」
「ど、どうでもいい?」
「色々あったわりにキャパオーバーしていないアンタ自身に興味が湧いた……」
「あ……」
しまった。マズい流れだぞ、これ。
「悪魔にビビらないのはマジで大事なことだぜ」
「い、いや、ビビるビビらないではなくてですね、慣れてしまったというか……」
「エクソシストの素質ありだな」
「素質あり? わたしはごくごく普通のどこにでもいる平凡な女子高生ですよ?」
突発的に人一倍強い霊感が備わっていて、選ばれし存在で、運命的な勇者で、スペースポリスマンの適性が高いということを除けばだが。
「……それじゃあ、サクっと悪魔祓いと行こうぜ、相棒」
「あ、相棒にされてしまった⁉」
わたしは両手で頭を抱える。
0
お気に入りに追加
6
あなたにおすすめの小説
上杉山御剣は躊躇しない
阿弥陀乃トンマージ
キャラ文芸
【第11回ネット小説大賞 一次選考通過作品】
新潟県は長岡市に住む青年、鬼ヶ島勇次はとある理由から妖を絶やす為の組織、妖絶講への入隊を志願する。
人の言葉を自由に操る不思議な黒猫に導かれるまま、山の中を進んでいく勇次。そこで黒猫から勇次に告げられたのはあまりにも衝撃的な事実だった!
勇次は凄腕の女剣士であり妖絶士である上杉山御剣ら個性の塊でしかない仲間たちとともに、妖退治の任務に臨む。
無双かつ爽快で華麗な息もつかせぬ剣戟アクション活劇、ここに開幕!
※第11回ネット小説大賞一次選考通過作品。
合魂‼
阿弥陀乃トンマージ
キャラ文芸
静岡県生まれのごく普通の少年、優月超慈は猛勉強の末、難関と言われる愛知県の『愛京大付属愛京高校』に合格する。
彼を突き動かす理由……それは『彼女をつくること』であった。そしてこの愛京高校にはなんと『合コン部』なるものがあることを聞きつけた彼は、見事に入学試験を突破した。 喜び勇んで学校の門をくぐった超慈を待ち構えていたものは……?
大規模な学園都市を舞台に繰り広げられるドキドキワクワク、常識外れの青春ハイスクールライフ、ここにスタート!
アタシをボランチしてくれ!~仙台和泉高校女子サッカー部奮戦記~
阿弥陀乃トンマージ
キャラ文芸
「アタシをボランチしてくれ!」
突如として現れた謎のヤンキー系美少女、龍波竜乃から意味不明なお願いをされた、お団子頭がトレードマークのごくごく普通の少女、丸井桃。彼女の高校ライフは波乱の幕開け!
揃ってサッカー部に入部した桃と竜乃。しかし、彼女たちが通う仙台和泉高校は、学食のメニューが異様に充実していることを除けば、これまたごくごく普通の私立高校。チームの強さも至って平凡。しかし、ある人物の粗相が原因で、チームは近年稀にみる好成績を残さなければならなくなってしまった!
桃たちは難敵相手に『絶対に負けられない戦い』に挑む!
一風変わった女の子たちによる「燃え」と「百合」の融合。ハイテンションかつエキセントリックなJKサッカーライトノベル、ここにキックオフ!
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
【第一章完】四国?五国で良いんじゃね?
阿弥陀乃トンマージ
キャラ文芸
これは遠い未来にあり得るかもしれない世界。
四国地方は文字通りーーかつての時代のようにーー四つの国に分かたれてしまった。
『人』、『獣』、『妖』、『機』という四つの勢力がそれぞれ国を治め、長年に渡って激しい争いを繰り広げ、土地はすっかり荒廃してしまった。
そんな土地に自らを『タイヘイ』と名乗る謎の青年が現れる。その体にある秘密を秘めているタイヘイは自らの存在に運命めいたものを感じる……。
異なる種族間での激しいバイオレンスバトルが今ここに始まる!

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
2年微能力組!~微妙な能力で下克上!~
阿弥陀乃トンマージ
ライト文芸
栃木県のとある学園に仁子日光と名乗る一人の少年が転校してきた。高二にしてはあまりにも痛々し過ぎるその言動に2年B組のクラス長、東照美は眉をひそめる。しかし自身の立場上、関わり合いを持たざるを得なくなる……。
一人の転校生が微妙な能力、『微能力』で能力至上主義の学園に旋風を巻き起こしていく、スクールコメディー、ここに開幕!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる