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第1章
第3話(2)青年は勇者
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「そなたは最寄田静香……だな?」
「は、はい……」
わたしは頷く。
「ふむ……三日目か、ついに出会うことが出来て良かった……」
灰色の髪をした青年は胸に手を当てて、微笑む。なかなかにハンサムな顔立ちをしている。長く伸びた髪は美しくなびいており、爽やかさを感じさせる。まさに絵に描いたようなイケメンだ。だがしかし……。
「……」
わたしは自然と距離を置こうとする。青年がそれに気が付いて、首を傾げる。
「うん? いかがしたのか?」
「いや、なんというか……」
「ひょっとして……警戒をしているのか?」
「ま、まあ、そうですね……」
一昨日の昨日、昨日の今日だし、しょうがないだろう。わたしは素直に頷く。
「ふふっ……我は決して怪しい者などではないよ」
「そ、そうですかね⁉」
わたしは思わず大声を上げてしまう。ブレザー姿の高校生が集まっている中で、ロールプレイングゲームの登場キャラクターのような恰好をしている男性はどう考えても怪しい寄りだと思うが。昨日も思ったが、コスプレイヤーの集まりというわけでもないのに。
「そうだ。だからそんなに警戒しないでもらいたい」
「……何故にわたしの名前を知っているんですか?」
「それはもちろん、そなたに用があるからだよ」
「そ、そなたって……趣味というものは人それぞれだと思いますけど、いきなりロールプレイングゲームごっこというのはちょっと……結構ハードルが高いというか……」
「! あっはっはっは……!」
青年は声高らかに笑う。わたしはちょっとムッとしながら尋ねる。
「な、なにがおかしいんですか?」
「いや、失礼……我は別にごっこ遊びをしているつもりではないよ。こういうものだ」
青年は服の中に隠していた剣を見せてくる。
「え? け、剣ですか、それ……? ええっと……?」
「ああ、我の名はジャッキー=バラバンという。この世界にやって来た勇者だ」
「ゆ、勇者⁉」
わたしは思いもかけないフレーズに驚く。
「そうだ、ごくごく普通のな」
ジャッキーと名乗った青年は長い髪をかき上げる。
「勇者はごくごく普通ではありませんよ!」
「そうか?」
「そうですよ! 初めて見ました!」
「初めて?」
ジャッキーさんは驚いて目を丸くする。
「ええ、初めてですよ! レアリティで言えばSSRです!」
「こんなに大きな街だというのに?」
ジャッキーさんは両手を広げて、周囲を見回す。
「はい」
「近くにある新宿……駅という場所はこの世界で一番の利用者数だと聞いたのだが?」
「そ、それはそうらしいですね……」
「それならば中にはいるだろう、勇者の一人や二人くらい」
「い、いや、それはもしかしたらいるかもしれませんけど、そんないちいち確認したりとかはしませんから……仮にいたとしても日本で勇者の需要はあまり無いんじゃないですか、知らないですけど」
「勇者の需要が無い? ふむ……この日本という国……やはり興味深いな……」
ジャッキーさんは顎に手を当てて呟く。
「……あの、もういいですか? ホームルームが始まってしまいますので……」
わたしはその場から離れようとする。
「あ、ちょっと待ちたまえ……!」
「はい?」
わたしは呼び止められ、振り返ってしまう。
「………」
ジャッキーさんは少し目を閉じた後、片目を開いて周囲を伺う。
「あ、あの……?」
「……うん、とりあえずは大丈夫のようだ」
ジャッキーさんは頷く。
「は、はあ……?」
「……そうだな……放課後にまた話をしたいのだが……お願い出来るかな?」
「え、ええ……」
わたしは露骨に困惑する。
「おや、困惑しているようだな。どうしてだ?」
「いや、どうしてだって言われても……」
「そなたにとって不利益な話ではないはずだ」
「……もう十分不利益を被っていますよ」
自称勇者だというちょっと痛い青年と朝から立ち話……他の生徒からジロジロと見られている。どんな噂が立てられてしまうのやら……。
「……不利益だと?」
「いや、いいです。失礼します」
「待っているぞ」
わたしは軽く会釈をし、その場を後にして、教室へと向かう。夕方になり、ホームルームも終わる。この痛いイケメンと鉢合わせしたりしないように裏門から帰れば……。
「げっ……」
裏門から帰ろうとしたわたしは顔をしかめる。ジャッキーさんが何故かいたからだ。
「やあ……」
「……何故ここに?」
「いや、我もホームルームが早目に終わったものでな……この辺りを散策していた」
「……そ、そういえば、もしかしてなんですけど……」
「ああ、我は転入生?というやつだよ」
「せ、制服を着ていなくても良いんですか?」
「特例で認めてもらった」
「そんなことが可能なんですか?」
「可能だ。なんといっても勇者だからな」
「……散策って……暇なんですか?」
「暇とは随分だな。初めて訪れる場所を隈なく探すというのは冒険の基本だ」
「ぼ、冒険ですか?」
「ああ、この世界は我にとっては真新しいことだらけだからな。ある程度は慣れたが」
「……今朝もこの世界だとかなんとか言っていましたけど……」
「ああ、我はそなたたちとは違う世界、異世界からやってきたのだ」
「異世界……そういう設定なんですね……やっぱりごっこ遊びじゃないですか……」
わたしの少々イラついた視線にジャッキーさんは苦笑交じりで応じる。
「やや棘を感じるな……あ、現れたな、モンスターだ。さあ、共に討伐と参ろうか」
「はいいいっ⁉」
ジャッキーさんの提案にわたしは驚く。
「は、はい……」
わたしは頷く。
「ふむ……三日目か、ついに出会うことが出来て良かった……」
灰色の髪をした青年は胸に手を当てて、微笑む。なかなかにハンサムな顔立ちをしている。長く伸びた髪は美しくなびいており、爽やかさを感じさせる。まさに絵に描いたようなイケメンだ。だがしかし……。
「……」
わたしは自然と距離を置こうとする。青年がそれに気が付いて、首を傾げる。
「うん? いかがしたのか?」
「いや、なんというか……」
「ひょっとして……警戒をしているのか?」
「ま、まあ、そうですね……」
一昨日の昨日、昨日の今日だし、しょうがないだろう。わたしは素直に頷く。
「ふふっ……我は決して怪しい者などではないよ」
「そ、そうですかね⁉」
わたしは思わず大声を上げてしまう。ブレザー姿の高校生が集まっている中で、ロールプレイングゲームの登場キャラクターのような恰好をしている男性はどう考えても怪しい寄りだと思うが。昨日も思ったが、コスプレイヤーの集まりというわけでもないのに。
「そうだ。だからそんなに警戒しないでもらいたい」
「……何故にわたしの名前を知っているんですか?」
「それはもちろん、そなたに用があるからだよ」
「そ、そなたって……趣味というものは人それぞれだと思いますけど、いきなりロールプレイングゲームごっこというのはちょっと……結構ハードルが高いというか……」
「! あっはっはっは……!」
青年は声高らかに笑う。わたしはちょっとムッとしながら尋ねる。
「な、なにがおかしいんですか?」
「いや、失礼……我は別にごっこ遊びをしているつもりではないよ。こういうものだ」
青年は服の中に隠していた剣を見せてくる。
「え? け、剣ですか、それ……? ええっと……?」
「ああ、我の名はジャッキー=バラバンという。この世界にやって来た勇者だ」
「ゆ、勇者⁉」
わたしは思いもかけないフレーズに驚く。
「そうだ、ごくごく普通のな」
ジャッキーと名乗った青年は長い髪をかき上げる。
「勇者はごくごく普通ではありませんよ!」
「そうか?」
「そうですよ! 初めて見ました!」
「初めて?」
ジャッキーさんは驚いて目を丸くする。
「ええ、初めてですよ! レアリティで言えばSSRです!」
「こんなに大きな街だというのに?」
ジャッキーさんは両手を広げて、周囲を見回す。
「はい」
「近くにある新宿……駅という場所はこの世界で一番の利用者数だと聞いたのだが?」
「そ、それはそうらしいですね……」
「それならば中にはいるだろう、勇者の一人や二人くらい」
「い、いや、それはもしかしたらいるかもしれませんけど、そんないちいち確認したりとかはしませんから……仮にいたとしても日本で勇者の需要はあまり無いんじゃないですか、知らないですけど」
「勇者の需要が無い? ふむ……この日本という国……やはり興味深いな……」
ジャッキーさんは顎に手を当てて呟く。
「……あの、もういいですか? ホームルームが始まってしまいますので……」
わたしはその場から離れようとする。
「あ、ちょっと待ちたまえ……!」
「はい?」
わたしは呼び止められ、振り返ってしまう。
「………」
ジャッキーさんは少し目を閉じた後、片目を開いて周囲を伺う。
「あ、あの……?」
「……うん、とりあえずは大丈夫のようだ」
ジャッキーさんは頷く。
「は、はあ……?」
「……そうだな……放課後にまた話をしたいのだが……お願い出来るかな?」
「え、ええ……」
わたしは露骨に困惑する。
「おや、困惑しているようだな。どうしてだ?」
「いや、どうしてだって言われても……」
「そなたにとって不利益な話ではないはずだ」
「……もう十分不利益を被っていますよ」
自称勇者だというちょっと痛い青年と朝から立ち話……他の生徒からジロジロと見られている。どんな噂が立てられてしまうのやら……。
「……不利益だと?」
「いや、いいです。失礼します」
「待っているぞ」
わたしは軽く会釈をし、その場を後にして、教室へと向かう。夕方になり、ホームルームも終わる。この痛いイケメンと鉢合わせしたりしないように裏門から帰れば……。
「げっ……」
裏門から帰ろうとしたわたしは顔をしかめる。ジャッキーさんが何故かいたからだ。
「やあ……」
「……何故ここに?」
「いや、我もホームルームが早目に終わったものでな……この辺りを散策していた」
「……そ、そういえば、もしかしてなんですけど……」
「ああ、我は転入生?というやつだよ」
「せ、制服を着ていなくても良いんですか?」
「特例で認めてもらった」
「そんなことが可能なんですか?」
「可能だ。なんといっても勇者だからな」
「……散策って……暇なんですか?」
「暇とは随分だな。初めて訪れる場所を隈なく探すというのは冒険の基本だ」
「ぼ、冒険ですか?」
「ああ、この世界は我にとっては真新しいことだらけだからな。ある程度は慣れたが」
「……今朝もこの世界だとかなんとか言っていましたけど……」
「ああ、我はそなたたちとは違う世界、異世界からやってきたのだ」
「異世界……そういう設定なんですね……やっぱりごっこ遊びじゃないですか……」
わたしの少々イラついた視線にジャッキーさんは苦笑交じりで応じる。
「やや棘を感じるな……あ、現れたな、モンスターだ。さあ、共に討伐と参ろうか」
「はいいいっ⁉」
ジャッキーさんの提案にわたしは驚く。
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