上 下
8 / 25
第1章

第2話(3)選ばれし存在

しおりを挟む
「ヴィ、ヴィランとは⁉」

「あれのことだよ」

 功人さんが指を差した先には、手足の他に、四本の足を背中から生やした少女のような存在がいた。

「!」

 わたしは驚いてしまう。

「……」

「ひ、ひええっ⁉」

 少女の八本の手足が一斉にわたしの方に向いた為、わたしは思わず悲鳴を上げる。それとは対照的に功人さんは冷静に呟く。

「蜘蛛女だね……」

「な、なんですか、それは⁉」

 わたしは功人さんに問う。

「だからヴィランだよ」

「ヴィ、ヴィランとは一体⁉」

「ふむ……ヒールと言った方が分かりやすいかな?」

「いやいや、横文字を横文字で言い直されても!」

「そうか……」

 功人さんは若干だが、困ったような表情になる。

「よ、要するに悪役ですか?」

「ああ、まあ、そんなところだね……」

 功人さんがわたしの問いに頷く。

「あ、悪役さんがどうしてこんなところに……」

「それはもちろん……」

「も、もちろん……?」

「『光あるところに闇がある』とはよく言うじゃないか……」

「ま、まあ、なんとなく聞いたことある言い回しではありますが……」

「それを言い換えてみるとだ」

「え?」

「『正義あるところに悪がある』ということだよ」

「は、はあ……」

「つまり……」

「つ、つまり?」

「……」

「………」

「…………」

「ず、随分と溜めますね!」

「ん?」

 功人さんが首を傾げる。

「ん?じゃなくて教えてくださいよ!」

「ふっ、せっかちだな……」

 功人さんが笑みを浮かべる。

「この状況ではどんなに急かしても問題ないと思いますが⁉」

「……ちょっかいだ」

「はい?」

「ヴィランというものはヒーローにちょっかいをかけてくるものなんだよ」

「ちょ、ちょっかいって⁉」

「言い換えれば……いわゆるひとつの『構ってちゃん』ってところかな?」

 功人さんがウインクする。

「緊張感のない言い換えはやめてくださいよ!」

「そうかな?」

「そうですよ!」

「まあまあ、少し落ち着きたまえ……」

「落ち着いていられません!」

「ミス静香、こういうときこそ状況を整理すべきだ」

「む……」

 わたしは少し黙り込む。ミスとか初めて言われたな……。功人さんは頷く。

「……さっきのちょっかいうんぬんはまあジョークみたいなものなんだが……」

「! ジョ、ジョークなんですか⁉」

「落ち着いて」

「いや、落ち着いていられませんって!」

「長年の調査の結果、新宿のこの付近にお宝が眠っているということが分かった……」

「お、お宝⁉」

「ああ、GHQなどが関係する……いわゆる『M資金』というやつだ」

「そ、それって、都市伝説とかでよく聞くやつ……!」

「あいつらヴィランはそれを狙っているんだ……!」

 功人さんは蜘蛛女をビシっと指差す。

「へ、へえ……」

「! う、薄いリアクション⁉」

 功人さんがわたしの反応に戸惑う。

「い、いや、そんなこと言われても……」

 わたしは鼻の頭をポリポリと搔く。

「なにか気になることがあるのかい⁉」

「気になるっていうか……ぶっちゃけ、それってわたし関係あります?」

「だ、大分ぶっちゃけたね⁉」

「だって……」

「大いに関係あるよ!」

「ええ? わたしはごく普通の女子高生ですよ?」

 突発的に人一倍強い霊感が備わったことを除けばだが。

「とんでもない!」

 功人さんが両手を大きく広げて首を振る。アメリカ仕込みの身振り手振りだ。

「と、とんでもないとは?」

 わたしは困惑する。

「何故にこうして私が君のもとにやって来たのかと言うと……」

「は、はい……」

「……君はスーパーヒロインなんだ……!」

「え、ええっ⁉」

「You are Super Heroine!」

「な、なんで英語で言い直したんですか⁉」

「OK?」

「ぜ、全然OKじゃないですよ⁉」

「アンダスタン?」

「きゅ、急にカタカナ英語⁉ さ、さっぱり理解出来ませんよ!」

「ビコーズ……」

「な、何故なら?」

「君は『選ばれし存在』ってことさ!」

 功人さんが右手の親指をグッと立て、真っ白な歯を見せて、ニカっと笑う。

「そ、そんな⁉」

 わたしは思わず天を仰ぐ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

陰陽師安倍晴明の優雅なオフ~五人の愛弟子奮闘記~

阿弥陀乃トンマージ
キャラ文芸
 時は平安と呼ばれていた時代、平和かと思われた京の都にも、物の怪の類が連日連夜、悪さを働こうとしていた。  それらをほとんど未然に防ぐ活躍をしていた、稀代の天才陰陽師『安倍晴明』。  ところが、晴明は「後は任せた」と言い出して、突然(部分的な)休暇に入ってしまう。  弟子である五人の女の子たちが、師匠の代わりに物の怪退治へと赴くも、思わぬ事態が発生してしまって……!?  新感覚の平安妖退治ファンタジー、ここに幕開け!

女子高生は卒業間近の先輩に告白する。全裸で。

矢木羽研
恋愛
図書委員の女子高生(小柄ちっぱい眼鏡)が、卒業間近の先輩男子に告白します。全裸で。 女の子が裸になるだけの話。それ以上の行為はありません。 取って付けたようなバレンタインネタあり。 カクヨムでも同内容で公開しています。

【第1章完】ゲツアサ!~インディーズ戦隊、メジャーへの道~

阿弥陀乃トンマージ
キャラ文芸
 『戦隊ヒーロー飽和時代』、滋賀県生まれの天津凛は京都への短大進学をきっかけに、高校時代出来なかった挑戦を始めようと考えていた。  しかし、その挑戦はいきなり出鼻をくじかれ……そんな中、彼女は新たな道を見つける。  その道はライバルは多く、抜きんでるのは簡単なことではない。それでも彼女は仲間たちとともに、メジャーデビューを目指す、『戦隊ヒーロー』として!

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

なにげない猫の日常

夏目 沙霧
キャラ文芸
ゆるーっと毎日だらけて、時には人に癒しを与える猫。 その猫達の日常を小話程度にしたものです。 ※猫、しゃべる 文・・・霜月梓 絵・・・草加(そうか) (着色・・・もっつん)

部室強制監獄

裕光
BL
 夜8時に毎日更新します!  高校2年生サッカー部所属の祐介。  先輩・後輩・同級生みんなから親しく人望がとても厚い。  ある日の夜。  剣道部の同級生 蓮と夜飯に行った所途中からプチッと記憶が途切れてしまう  気づいたら剣道部の部室に拘束されて身動きは取れなくなっていた  現れたのは蓮ともう1人。  1個上の剣道部蓮の先輩の大野だ。  そして大野は裕介に向かって言った。  大野「お前も肉便器に改造してやる」  大野は蓮に裕介のサッカーの練習着を渡すと中を開けて―…  

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

処理中です...