7 / 25
第1章
第2話(2)青年はスーパーヒーロー
しおりを挟む
「最寄田静香さんだね?」
「は、はい……」
わたしは頷く。
「新年度二日目か、思ったよりは早く出会うことが出来て良かったよ……」
栗毛色の髪をした青年は胸に手を当てて、にっこりと微笑む。かなりハンサムな顔立ちをしている。髪型も短すぎず長すぎず、整っているし、清潔感を感じさせる。まさにお手本のようなイケメンだ。だがしかし……。
「……」
わたしは自然と距離を置こうとする。青年がそれに気が付き、首を傾げる。
「うん? どうかしたのかな?」
「いや、なんというか……」
「ひょっとして……警戒しているのかい?」
「ま、まあ、そうですね……」
昨日の今日だし、しょうがないだろう。わたしは素直に頷く。
「ははっ、私は決して怪しい者などではないよ」
「そ、そうですかね⁉」
わたしは思わず大声を上げてしまう。高校生が集まっている中で、アメコミ映画の登場人物のような恰好をしている男性はどう考えても怪しい寄りだと思うのだが。コスプレイヤーの集まりというわけでもないのに。
「そうだよ。だからそんなに警戒しないでもらいたいな」
「……何故、わたしの名前を知っているんですか?」
「それはもちろん、君に用があるからだよ」
わたしの問いに対し、青年は頷いて、わたしを指し示す。
「……趣味は人それぞれだと思いますけど、いきなりコスプレというのはちょっと……なかなかハードルが高いというか……」
「! わっはっはっは……!」
青年は高らかに笑う。わたしはちょっとムッとしながら尋ねる。
「な、なにがおかしいんですか?」
「いえ、失礼……私はコスプレイヤーではないよ。こういうものだ」
「え? め、名刺……? ええっと、浜松……こうとさん?」
「エリートだ。浜松功人(はままつエリート)……単なるスーパーヒーローさ」
「ス、スーパーヒーロー⁉」
わたしは思いもかけないフレーズに驚く。
「そうだよ、ごくごく普通の」
功人と名乗った青年は整った髪をかき上げる。
「スーパーヒーローはごくごく普通ではありませんよ!」
「そうかい?」
「そうですよ! 初めて見ました!」
「初めて?」
功人さんは驚いて目を丸くする。
「ええ、初めてです! 激レア!」
「こんなに大都市のトキオで?」
功人さんは両手を広げて、周囲を見回す。トキオって言い方なんだか腹立つな。
「はい」
「近くの新宿ステーションは世界一の乗降客数だと聞くよ?」
「そ、そうらしいですね……」
「それなら中にはいるだろう、スーパーヒーローの一人や二人」
「い、いや、それはもしかしたらいるかもしれませんけど、そんないちいち確認したりはしませんから……日本のヒーローは正体を隠すんじゃないですか、知らないですけど」
「ふむ……日本のスーパーヒーローというのは奥ゆかしいのかな……」
功人さんは顎に手を当てて呟く。
「お、奥ゆかしいかはどうかは知りませんが……あの、もういいですか? ホームルームが始まってしまいますので……」
わたしはその場から離れようとする。
「あ、ちょっと待ってくれないか……!」
「はい?」
わたしは呼び止められ、振り返る。
「………」
功人さんは左腕に巻いた腕時計のような機器を操作しながら、周囲を伺う。
「あ、あの……?」
「……うん、とりあえずは大丈夫のようだね」
功人さんは頷く。
「は、はあ……」
「……そうだな……放課後、またお話出来るかな?」
「ええ……」
わたしは露骨に困惑する。
「おや、困惑しているね。どうしてだい?」
「いや、どうしてだいって言われても……」
「コーヒーをご馳走するよ?」
「……コーヒーって、学食のでしょ?」
「学外がご希望ならそれでも別に構わないのだけれど……」
「いや、いいです。失礼します」
「待っているよ」
わたしは軽く会釈をし、その場を後にして、教室へと向かう。夕方になり、ホームルームも終わる。この怪しげなイケメンと鉢合わせしたりしないように裏門から帰れば……。
「げっ……」
裏門から帰ろうとしたわたしは顔をしかめる。功人さんが何故かそこにいたからだ。
「やあ♪」
「……なんでここに?」
「いや、学外でお茶するならこちらの方が良いお店が近いのでね」
「……そういえば、もしかしてなんですけど……」
「ああ、私は転入生だよ」
「せ、制服を着てなくても良いんですか?」
「特例で認めてもらったよ」
「そんなことが……」
「出来るのさ。スーパーヒーローだからね」
功人さんがウインクしてくる。わたしは思ったことを口にしてしまう。
「……そんなスーツを着ていて恥ずかしくないんですか?」
「恥ずかしい? どこかだい?」
功人さんが両手を広げる。
「いや、結構ピチピチだし、周りから浮いているし……」
「周囲と違うのは恥ずかしいことじゃないさ。ステイツで個性の大切さを学んだからね」
「ス、ステイツ?」
「ああ、合衆国のことさ。あちらで過ごすことが多かったからね」
「……アメリカ帰りのスーパーヒーローさんが何の御用ですか?」
わたしの若干イラついた視線に功人さんは苦笑交じりで応じる。
「何かトゲを感じるが……あ、出てきたな、ヴィランだ。さあ、共に戦おうじゃないか」
「はいいっ⁉」
功人さんの提案にわたしは驚く。
「は、はい……」
わたしは頷く。
「新年度二日目か、思ったよりは早く出会うことが出来て良かったよ……」
栗毛色の髪をした青年は胸に手を当てて、にっこりと微笑む。かなりハンサムな顔立ちをしている。髪型も短すぎず長すぎず、整っているし、清潔感を感じさせる。まさにお手本のようなイケメンだ。だがしかし……。
「……」
わたしは自然と距離を置こうとする。青年がそれに気が付き、首を傾げる。
「うん? どうかしたのかな?」
「いや、なんというか……」
「ひょっとして……警戒しているのかい?」
「ま、まあ、そうですね……」
昨日の今日だし、しょうがないだろう。わたしは素直に頷く。
「ははっ、私は決して怪しい者などではないよ」
「そ、そうですかね⁉」
わたしは思わず大声を上げてしまう。高校生が集まっている中で、アメコミ映画の登場人物のような恰好をしている男性はどう考えても怪しい寄りだと思うのだが。コスプレイヤーの集まりというわけでもないのに。
「そうだよ。だからそんなに警戒しないでもらいたいな」
「……何故、わたしの名前を知っているんですか?」
「それはもちろん、君に用があるからだよ」
わたしの問いに対し、青年は頷いて、わたしを指し示す。
「……趣味は人それぞれだと思いますけど、いきなりコスプレというのはちょっと……なかなかハードルが高いというか……」
「! わっはっはっは……!」
青年は高らかに笑う。わたしはちょっとムッとしながら尋ねる。
「な、なにがおかしいんですか?」
「いえ、失礼……私はコスプレイヤーではないよ。こういうものだ」
「え? め、名刺……? ええっと、浜松……こうとさん?」
「エリートだ。浜松功人(はままつエリート)……単なるスーパーヒーローさ」
「ス、スーパーヒーロー⁉」
わたしは思いもかけないフレーズに驚く。
「そうだよ、ごくごく普通の」
功人と名乗った青年は整った髪をかき上げる。
「スーパーヒーローはごくごく普通ではありませんよ!」
「そうかい?」
「そうですよ! 初めて見ました!」
「初めて?」
功人さんは驚いて目を丸くする。
「ええ、初めてです! 激レア!」
「こんなに大都市のトキオで?」
功人さんは両手を広げて、周囲を見回す。トキオって言い方なんだか腹立つな。
「はい」
「近くの新宿ステーションは世界一の乗降客数だと聞くよ?」
「そ、そうらしいですね……」
「それなら中にはいるだろう、スーパーヒーローの一人や二人」
「い、いや、それはもしかしたらいるかもしれませんけど、そんないちいち確認したりはしませんから……日本のヒーローは正体を隠すんじゃないですか、知らないですけど」
「ふむ……日本のスーパーヒーローというのは奥ゆかしいのかな……」
功人さんは顎に手を当てて呟く。
「お、奥ゆかしいかはどうかは知りませんが……あの、もういいですか? ホームルームが始まってしまいますので……」
わたしはその場から離れようとする。
「あ、ちょっと待ってくれないか……!」
「はい?」
わたしは呼び止められ、振り返る。
「………」
功人さんは左腕に巻いた腕時計のような機器を操作しながら、周囲を伺う。
「あ、あの……?」
「……うん、とりあえずは大丈夫のようだね」
功人さんは頷く。
「は、はあ……」
「……そうだな……放課後、またお話出来るかな?」
「ええ……」
わたしは露骨に困惑する。
「おや、困惑しているね。どうしてだい?」
「いや、どうしてだいって言われても……」
「コーヒーをご馳走するよ?」
「……コーヒーって、学食のでしょ?」
「学外がご希望ならそれでも別に構わないのだけれど……」
「いや、いいです。失礼します」
「待っているよ」
わたしは軽く会釈をし、その場を後にして、教室へと向かう。夕方になり、ホームルームも終わる。この怪しげなイケメンと鉢合わせしたりしないように裏門から帰れば……。
「げっ……」
裏門から帰ろうとしたわたしは顔をしかめる。功人さんが何故かそこにいたからだ。
「やあ♪」
「……なんでここに?」
「いや、学外でお茶するならこちらの方が良いお店が近いのでね」
「……そういえば、もしかしてなんですけど……」
「ああ、私は転入生だよ」
「せ、制服を着てなくても良いんですか?」
「特例で認めてもらったよ」
「そんなことが……」
「出来るのさ。スーパーヒーローだからね」
功人さんがウインクしてくる。わたしは思ったことを口にしてしまう。
「……そんなスーツを着ていて恥ずかしくないんですか?」
「恥ずかしい? どこかだい?」
功人さんが両手を広げる。
「いや、結構ピチピチだし、周りから浮いているし……」
「周囲と違うのは恥ずかしいことじゃないさ。ステイツで個性の大切さを学んだからね」
「ス、ステイツ?」
「ああ、合衆国のことさ。あちらで過ごすことが多かったからね」
「……アメリカ帰りのスーパーヒーローさんが何の御用ですか?」
わたしの若干イラついた視線に功人さんは苦笑交じりで応じる。
「何かトゲを感じるが……あ、出てきたな、ヴィランだ。さあ、共に戦おうじゃないか」
「はいいっ⁉」
功人さんの提案にわたしは驚く。
0
お気に入りに追加
6
あなたにおすすめの小説
陰陽師安倍晴明の優雅なオフ~五人の愛弟子奮闘記~
阿弥陀乃トンマージ
キャラ文芸
時は平安と呼ばれていた時代、平和かと思われた京の都にも、物の怪の類が連日連夜、悪さを働こうとしていた。
それらをほとんど未然に防ぐ活躍をしていた、稀代の天才陰陽師『安倍晴明』。
ところが、晴明は「後は任せた」と言い出して、突然(部分的な)休暇に入ってしまう。
弟子である五人の女の子たちが、師匠の代わりに物の怪退治へと赴くも、思わぬ事態が発生してしまって……!?
新感覚の平安妖退治ファンタジー、ここに幕開け!
女子高生は卒業間近の先輩に告白する。全裸で。
矢木羽研
恋愛
図書委員の女子高生(小柄ちっぱい眼鏡)が、卒業間近の先輩男子に告白します。全裸で。
女の子が裸になるだけの話。それ以上の行為はありません。
取って付けたようなバレンタインネタあり。
カクヨムでも同内容で公開しています。
【第1章完】ゲツアサ!~インディーズ戦隊、メジャーへの道~
阿弥陀乃トンマージ
キャラ文芸
『戦隊ヒーロー飽和時代』、滋賀県生まれの天津凛は京都への短大進学をきっかけに、高校時代出来なかった挑戦を始めようと考えていた。
しかし、その挑戦はいきなり出鼻をくじかれ……そんな中、彼女は新たな道を見つける。
その道はライバルは多く、抜きんでるのは簡単なことではない。それでも彼女は仲間たちとともに、メジャーデビューを目指す、『戦隊ヒーロー』として!
小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話
矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」
「あら、いいのかしら」
夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……?
微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。
※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。
※小説家になろうでも同内容で投稿しています。
※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
部室強制監獄
裕光
BL
夜8時に毎日更新します!
高校2年生サッカー部所属の祐介。
先輩・後輩・同級生みんなから親しく人望がとても厚い。
ある日の夜。
剣道部の同級生 蓮と夜飯に行った所途中からプチッと記憶が途切れてしまう
気づいたら剣道部の部室に拘束されて身動きは取れなくなっていた
現れたのは蓮ともう1人。
1個上の剣道部蓮の先輩の大野だ。
そして大野は裕介に向かって言った。
大野「お前も肉便器に改造してやる」
大野は蓮に裕介のサッカーの練習着を渡すと中を開けて―…
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
上杉山御剣は躊躇しない
阿弥陀乃トンマージ
キャラ文芸
【第11回ネット小説大賞 一次選考通過作品】
新潟県は長岡市に住む青年、鬼ヶ島勇次はとある理由から妖を絶やす為の組織、妖絶講への入隊を志願する。
人の言葉を自由に操る不思議な黒猫に導かれるまま、山の中を進んでいく勇次。そこで黒猫から勇次に告げられたのはあまりにも衝撃的な事実だった!
勇次は凄腕の女剣士であり妖絶士である上杉山御剣ら個性の塊でしかない仲間たちとともに、妖退治の任務に臨む。
無双かつ爽快で華麗な息もつかせぬ剣戟アクション活劇、ここに開幕!
※第11回ネット小説大賞一次選考通過作品。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる