祓っていいとも!

阿弥陀乃トンマージ

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第1章

第1話(2)青年は陰陽師

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「最寄田静香さんですね?」

「は、はい……」

 わたしは頷く。

「こんなに早くお会いすることが出来て良かった……」

 白髪の青年はほっと胸を撫で下ろし、にっこりと微笑む。あまり人の容姿をどうこう言うのは良くないが、端正な顔立ちをしている。神秘的な雰囲気のイケメンだ。だが……。

「……」

 わたしは自然と距離を置こうとする。青年がそれに目ざとく気が付き、首を傾げる。

「はて、どうされたのですか?」

「いや、なんというか……」

「ひょっとして……」

「え?」

「警戒されていますか?」

「ま、まあ、そうですね……」

 変に取り繕ってもしょうがない。ここは素直に頷いておくとしよう。

「ははっ、ぼくは決して怪しい者ではありませんよ」

「そ、そうですか⁉」

 わたしは思わず大声を上げてしまう。高校生が集まっている中で、神主さんのような恰好をしている男性はどう考えても怪しい寄りだと思うのだが。お祭りでもないのに。

「そうです。ですからそんなに警戒しないでいただきたい」

「……何故、わたしの名前を知っているんですか?」

「それはもちろん、貴女に用があるからですよ」

 わたしの問いに対し、青年は頷いて、わたしを指し示す。

「……お祓いしてもらうことは検討していましたが、そちらから来られても困ります」

「はい?」

「どこの神社の方かは知りませんけど、お参りする神社は自分で選びますから」

「! あっはっはっは……」

 青年は高らかに笑う。わたしはちょっとムッとしながら尋ねる。

「な、なにがおかしいんですか?」

「いえ、失礼……ぼくは神主さんではありませんよ」

「え?」

「ぼくは明石家天馬(あかしやてんま)……陰陽師です」

「お、陰陽師⁉」

「そうです、ごくごく普通の」

 天馬と名乗った青年は短すぎず、長すぎない無造作ヘアをかき上げる。

「陰陽師はごくごく普通ではありませんよ!」

「そうですか?」

「そうですよ! 初めて見ました!」

「初めて?」

 天馬さんは驚いて目を丸くする。

「ええ、初めてです! 激レア」

「こんなに人が多い東京で?」

 天馬さんは両手を広げて、周囲を見回す。

「はい」

「近くにある新宿駅は世界一の乗降客数だと聞きますよ?」

「そ、そうらしいですね……」

「中にはいるでしょう、陰陽師の一人や二人」

「い、いや、それはもしかしたらいるかもしれませんけど、そんないちいち確認したりはしませんから……」

「ふむ……」

 天馬さんは頷く。

「もういいでしょうか? ホームルームが始まってしまいますので……」

 わたしはその場から離れようとする。

「あ、ちょっとお待ちください……」

「はい?」

 わたしは呼び止められ、振り返る。

「………」

 天馬さんは目を閉じて黙り込む。

「あ、あの……?」

「……とりあえずは大丈夫のようですね」

 天馬さんは目を開いて呟く。

「は、はあ……」

「放課後、またお話出来ますでしょうか?」

「ええ……」

 わたしは露骨に困惑する。

「色々とご相談に乗ることが出来ると思うのですが……」

「むっ……」

「いかがでしょうか?」

「……考えておきます」

「ご検討のほど。お願い致します」

 わたしは軽く会釈をし、その場を後にして、教室へと向かう。今日は新年度最初の日だから、ホームルームも早く終わる。この怪しげなイケメンと鉢合わせしたりしないように裏門から帰れば良いだろう。そして……。

「げっ……」

 裏門から帰ろうとしたわたしは顔をしかめる。天馬さんが何故かそこにいたからだ。

「お待ちしておりました」

「……まさか、ずっとここに?」

「いえ、ぼくもホームルームがありましたので」

「ええっ⁉ 生徒なんですか⁉」

「はい、転入生です」

「せ、制服を着てなくても良いんですか?」

「特例で認めて頂きました」

「そんなことが……」

「なんてたって陰陽師ですから」

「そんな往年のアイドル歌手みたいなこと言われても……って、なんで裏門から帰るって分かったんですか?」

「分かったというか……感じるのです……」

 天馬さんは自分の胸にそっと手を当てて呟く。

「は、はあ~?」

 わたしはありったけの呆れ具合を伝えてみせる。対する天馬さんはそれを気にも留めずに話を続ける。

「まあ、ちょうど良いですね……」

「なにがですか?」

「この場所がですよ……」

「! ナ、ナニをするつもりですか⁉ 大声出しますよ⁉」

 わたしは身構える。天馬さんは苦笑する。

「もう出していると思いますが……あ、出てきました、妖です。さあ、祓いましょう」

「はい⁉」

 天馬さんの提案にわたしは驚く。
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