オレと君以外

泉花凜 いずみ かりん

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第四章 「形勢逆転」

3時限目

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 警察沙汰になった俺たちは、もちろん全員校長室に呼び出しを食らった。

 特に筑摩と竹のやつらは重罪だということで、長期間の停学処分になった。ざまあみろと心の中で舌を出す。

 俺たち四人は、千晃さんを助け出すために乱闘騒ぎを起こしたのだと説明し、それは聞き入れられた。が、乱闘は乱闘のため、お咎めなしというわけにはいかなかった。

 まずは水ノ宮学園に謝罪するため、校長、担任教師と一緒に向かいの校舎にお邪魔することになった。

 今まで何も気に留めていなかったけれど、千晃さんの通う学校は、どこもかしこも金がかかってそうなピカピカの校舎に、高そうな施設内の器具などが目に入って、マジでビビった。どんだけ教育費かかるの、これ?

 向こうの校長室は、渡り廊下を渡った奥の方にあった。廊下もまるで外国の城の回廊みたいに広くて清潔で、俺たちは場違いも甚だしかった。

 水ノ宮の生徒たちが俺らを目にとめて、何事かと怯えた様子を見せる。まあ、そうっすよね。髪色ピンクだし、金髪だし、赤髪だし、喧嘩の勲章がまだ傷痕に残ってるし。

 痛い視線を受けながら、校長室へ連れていかれた俺たちは、中に入った。

 まず、この学校の校長は、意外なほどに温和な外見をした、人の好さそうなおじいちゃん先生だった。丸く下がった目元が深いしわに刻まれて、口角はきゅっと上がっている。俺たちを見ると、その人は開口一番に、

「よくがんばったね」

 などと告げた。

 ……がんばったね、とは?

 言葉の真意がわからず、俺は千代田たちと顔を見合わせる。このおじいちゃんは何を言っているんですかね?

 戸惑いが伝わったらしく、校長先生は言葉を続けた。

「うちの生徒を助け出してくれたんだろう? 義理人情に厚い子たちだね。怪我までして、勇気を奮ってくれてありがとう」

 ……まさか、礼を言われるとは思わなかった。

 呆気にとられる俺たちを、校長先生はただただ、微笑んで見つめている。その目には何の含みもなく、純粋に俺たちの行動を褒めてくれているようだった。

 ……何だろう。校長って、もっと偉そうにふんぞり返ってるものだと思ってたけど、実際に間近に見たこの人は、本当に生徒思いに感じられた。世の中にはこういう人もいるんだな。

 うちの学校の校長が、担任とともにペコペコ頭を下げ始める。

 うちの生徒がすみませんとかいろいろ謝罪を述べながら、今後の俺たちの処置についてどうするか、話し始める。

 もしかして俺たちも、筑摩たちと同じ停学処分かも。そうなったらなったでかまわないと強気な態度を見せるけれど、家族は悲しむだろうな。内申点、最悪なことになりそう。でも、不思議と後悔はまったくしていない。「内申点の影響が怖くて何もできませんでした」って結果じゃ、俺という人間に生まれた意味がねえ。俺はやりたいことをやった。

 水ノ宮の校長は一切語句を荒げることもせず、冷静に相手方の話を聞いている。黙って見ていると、お地蔵さんみたいに見えてきた。悟りでも開いてる? この人。

「実はですね、今回の被害者……という言い方だと酷ですが、音羽くんから直々に申し出がありました」

 校長先生の発した名前に、ドキッと激しく心臓が軋む。千晃さん、頬の怪我は治ったのかな? 大丈夫かな?

 こっちの動揺を見抜いたみたいに、校長先生は安心するよう促す視線を向ける。

「音羽くんがすべての事情を話してくれました。私はこの子たちに何の非もない事実を承知しております。問題は起こしましたが、勇気ある行動です。……そうですね、三日間程度の自宅謹慎と、反省文の提出でいいのではないでしょうか?」

 ポカーン、と音がしそうなほど、俺は口を半開きにして惚けてしまった。

 この人、校長なのに、寛大というか、何というか、不思議な人だな。

「いえ、それでは対応が甘いといいますか、その」と担任は恐縮しっぱなしで、冷や汗をダラダラ垂らしている。山吹の校長の方は渋い顔をして唸っていた。俺たちの処置をどの程度にするか、匙加減が難しいわけね。

 別に重くてもいいけどね、俺は自分の行動に何の気後れも感じてないし、と胸中で開き直っていると、校長席に着くお地蔵さんは後光の差すようなオーラを放ちながら、ごく軽い調子で提案をした。

「内申書には、大切な人を守るために身を挺して不良チームと戦い抜いた、と書き記すのもいいですね。将来は勇敢な青年に成長しそうだ。うん、それがいい」

 校長先生は一人でニコニコしゃべっている。

 何か、ユニークな人だな。実はおもしろい系?

 飄々とした態度に緊張を解かれたのか、うちの校長と担任も言葉尻が柔らかくなり、俺たちの処置は向こうの言う通り、三日間の自宅謹慎と反省文の提出で終わった。

 頭の中では、千晃さんが俺たちのために動いてくれた事実が映像化されて、脳内再生されていた。

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