オレと君以外

泉花凜 いずみ かりん

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第四章 「形勢逆転」

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 千晃さん、あんた、どこ行っちまったんだよ?

 彼に何か良くないことが起こった事実だけはわかる。だが、恨まれる要素なんか一つも持っていないあの人に、誰が絡むっていうんだ?

 考えれば考えるほど、わけがわからねえ。手がかりを掴めない現状がもどかしい。俺はどう行動すればいい?

 外はすっかり夜だ。夜遊びなんかする人じゃない。絶対、何かに巻き込まれているのは明らかだったが、原因を突き止められない。

 スマホが振動した。姉貴からだ。
 電話に出て、事情を説明する。
 俺の報告に、姉貴は考えを巡らせて提案した。

「警察に任せた方がいいんじゃない? あんただって未成年なんだから、夜の街にいたら補導されるよ?」
「私服だったらバレねえって。姉貴、申し訳ないけど母さんに上手く言い訳してくれねえかな?」

 姉貴は心配そうに一瞬黙り、続けた。

「うーん、わかったけど、大きな事件だったらさすがに引き返せないし、ヤバいなと思ったら逃げるのよ? あんたは強い分だけ、無茶するところがあるからさ」

 姉貴の声は少々小さくなっていた。

 中学時代、いろいろと荒れまくっていた俺の生活を思い出したのだろう。あの頃は迷惑ばかりかけて、どうしようもない子どもだったな。今もだけど。

「じっとしていられないんだ。俺にできるなら、この足で探して、見つけ出したい」

 通話口から労わる声が聞こえる。

「心配だね。あんたの友だち」

 ズキリ、と胸が痛んだ。「友だち」という言葉の定義が虚しくてならない。俺は、好きな人を、ずっと友だちだと思わなくちゃならないのかな。そういう風にごまかさないといけないなんて、俺にとって、耐えられることじゃない。

 俺は言った。

「……友だちじゃない」
「へ?」

 姉貴が怪訝な声を上げる。それに被せるようにして、俺は打ち明けた。

「友だちっていう目で見ていない。好きな人なんだ。……だから何としても、助けたい」

 姉貴も家族も、俺が同性愛者だと知っている。拒絶せず、否定せず、まっすぐに受け止めてくれた家族が、俺は誇らしくて好きだった。

 姉貴は「そっか」と優しい声を出し、「いろいろネットワーク使って、踏ん張るのよ」とエールを送ってくれた。ありがたい。普段は怖くておっかねえけど、自慢の姉貴だ。

 礼を言って、俺は通話を切った。

 闇雲に探しても埒《らち》が明かない。仲間に協力を頼もうとした時、グッドタイミングでグループLINEに通知が来た。千代田からだった。

『筑摩のやつらがどうにもきな臭いね。違う制服の男子を連れて行ったっていう目撃情報があった』

 おそらくクラスのみんなに聞いて回ってくれたのだろう。千代田は『どこに行ったのかわからないのが悔しいけど』と文をつけて、対策を練り始める。

 ――筑摩。

 腹の中にどす黒い怒りがくすぶり、同じ勢いで千晃さんに対する罪悪感が湧いた。

 あの時の仕返しに、タチの悪い嫌がらせをしに来たってわけか。俺じゃなくて彼を狙うあたり、やつらの底意地の悪さが見えて、吐き気がした。

 ――千晃さん、ごめんな。やっぱり俺が原因で、怖い目に遭わせてしまっていた。

 数か月前の、己の浅はかな行動を恥じた。今までにないくらいに。

 しかし落ち込んでいる暇はなかった。続くようにして矢来からも情報が提供される。

『二年の先輩に媚び売って、情報ゲットしたよー。筑摩は取り巻きを連れて本道区の過疎化地域に入り浸ってるみたい。そこで毎日のようにバカ騒ぎしているんだってさ。迷惑なやつらだね』

 千代田がすぐさま『矢来、ナイス!』と反応する。続いて通知欄に連続投稿が来た。

 通知メッセージ画面に表示される、マップアプリから送られた特定地図。

『本道区五丁目の、空き家だらけの地域にたむろしてるんじゃないかって言われた。探すの大変だろうけど、一つ一つ見て回る?』

 矢来からの文面を見て、俺は迷わず返事を送る。

『どれだけ時間かかっても、見つけ出す。情報提供ありがとう、みんな』

 送信した瞬間に全員分の既読がつき、飯田からの返信がすぐに来た。

『こらこら、自分だけカッコつけようとするな。俺たちも混ぜろって』

 すぐに千代田と矢来からも『みんなで暴れてやろうぜー!』と強い応援メッセージが送られる。

 お前ら、本当に男前だよな、何もかも。

 俺は熱い気持ちを胸に感じ、再度『ありがとう』と返信した。

 喧嘩の強さが自慢の千代田と飯田、顔の広い矢来がついてくれれば、俺は無敵だ。

 俺一人じゃどうしようもないことも、仲間がいるなら、何も恐れずに進める。

 立ち向かうべき時が来た。

 俺は仲間たちに集合場所を告げ、体力を温存するために一度、目についた店内に入った。



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