上 下
30 / 32

30,伝えたいこと

しおりを挟む


「シャルロット!」
 レオン王子と気まずい空気が流れた時、声をかけてきたのはアルフレッドだった。
「アルフレッド様」
「良かった、人に聞いたらエルシア嬢に付いていると言うから…」
「…俺は父上の元へ報告がてら行く。シャルロット、今日のところは早く帰れ。また後日呼ばれるだろうが」
 ちらりとアルフレッドを一瞥したレオン王子に頷きシャルロットは婚約者へと向き直る。
「申し訳ありません」
「いや……君は大丈夫なのか?」
 ドレスの裾に付いた血が返り血であることはすぐに分かったのだろう。肩に手を置いたアルフレッドに頷く。
「私は大丈夫です。けれど、エルシアが…」
「…そうか…」
「国王陛下は?」
「王妃様も揃って御無事だと聞いたよ。君に怪我がなくて良かった。目の前であんなことがあって驚いただろう、やっぱり君の側に居たらよかった…」
 眉間に皺を寄せて俯くアルフレッドに慌てて首を振った。
「そんな、大丈夫ですわ。私は見ているだけで何も出来ませんでしたもの。…国王陛下が御無事なら、エルシアも、身体を張った甲斐があったというものでしょうから…」
 そう思わないとやってられなかった。目の前で大量の血を流し、治療後も幸せそうに良かったと笑うあの子に、否定的な言葉など言えるはずがない。
「…兄さんが今日は早く帰れと。シャルロットも、送るから今日は帰ろう」
「アルフレッド様。もう少しだけエルシアと話しがしたいので、お先にお帰りになって下さい」
「待つよ」
「でも」
「あんなことがあった後だ、大切な人を一人では帰せない」
 アルフレッドは優しい。優しくて、私を愛してくれていて、なのに私はそんなことを気付きもしなかった。
 貴方の優しさに甘えてばかりだった。
 一年前、私はどれほど嫌われても失望されても、いうべき言葉があったはずなのに。
「…ねぇ、アルフレッド様。もし出来るなら、今夜は私の家に来ては頂けませんか」
 そう言うとアルフレッドは大きく目を開いた。掠れた声で、うん、と頷く。
「私、貴方に話したいことが沢山あるんです。失望されるかもしれないけれど、聞いて頂けませんか?」
「──うん、聞くよ、君の話ならどんなことだって」
「…ありがとうございます」
 私は卑怯だったから言えないことが沢山あって、隠し事も沢山して、逃げてばかりで、見て見ぬ振りをして。
 貴方は本当にそんな私を受け入れてくれるだろうか。
 言わなくても良いことかもしれない。言わなければ愛したままでいてもらえるかもしれない。
 けれどそれでは何も変わらない。
 息を切らせて、私の心配をしてくれて、そんな貴方が私はとても大好きだって。
 今度こそ伝えられるかしら?
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

この度、夫が亡くなりまして だけど王太子との復縁はお断りです!

えんどう
恋愛
旧題:この度、夫が亡くなりまして。  病気により逝ってしまった夫の葬儀を、エリーナは悲しみに暮れながらも必死にこなしていた。  公爵だった夫は30も年上であったがとても良い人だった。  悔やみを告げる名前も顔も見たことのない自称親戚筋が絶えた時、訪ねてきたのは元恋人でありこの国の王太子殿下で──。

薄幸の令嬢は幸福基準値が低すぎる

紫月
恋愛
継母に虐待を受け使用人のような扱いを受ける公爵令嬢のクリスティナ。 そんな彼女は全く堪えた様子もなく明るく前向き! 前世でも不遇な環境だった為に彼女が思う幸福は基準が低すぎる。 「ご飯が食べられて、寝る場所があって、仕事も出来る! ありがたい話です!」 そんな彼女が身の丈以上の幸福を手に入れる…かもしれない、そんな話。 ※※※ 生々しい表現はありませんが、虐待の描写があります。 苦手な方はご遠慮ください。

婚約者と王の座を捨てて、真実の愛を選んだ僕の結果

もふっとしたクリームパン
恋愛
タイトル通り、婚約者と王位を捨てた元第一王子様が過去と今を語る話です。ざまぁされる側のお話なので、明るい話ではありません。*書きたいとこだけ書いた小説なので、世界観などの設定はふんわりしてます。*文章の追加や修正を適時行います。*カクヨム様にも投稿しています。*本編十四話(幕間四話)+登場人物紹介+オマケ(四話:ざまぁする側の話)、で完結。

これが私の兄です

よどら文鳥
恋愛
「リーレル=ローラよ、婚約破棄させてもらい慰謝料も請求する!!」  私には婚約破棄されるほどの過失をした覚えがなかった。  理由を尋ねると、私が他の男と外を歩いていたこと、道中でその男が私の顔に触れたことで不倫だと主張してきた。  だが、あれは私の実の兄で、顔に触れた理由も目についたゴミをとってくれていただけだ。  何度も説明をしようとするが、話を聞こうとしてくれない。  周りの使用人たちも私を睨み、弁明を許されるような空気ではなかった。  婚約破棄を宣言されてしまったことを報告するために、急ぎ家へと帰る。

処刑直前ですが得意の転移魔法で離脱します~私に罪を被せた公爵令嬢は絶対許しませんので~

インバーターエアコン
恋愛
 王宮で働く少女ナナ。王様の誕生日パーティーに普段通りに給仕をしていた彼女だったが、突然第一王子の暗殺未遂事件が起きる。   ナナは最初、それを他人事のように見ていたが……。 「この女よ! 王子を殺そうと毒を盛ったのは!」 「はい?」  叫んだのは第二王子の婚約者であるビリアだった。  王位を巡る争いに巻き込まれ、王子暗殺未遂の罪を着せられるナナだったが、相手が貴族でも、彼女はやられたままで終わる女ではなかった。  (私をドロドロした内争に巻き込んだ罪は贖ってもらいますので……)  得意の転移魔法でその場を離脱し反撃を始める。  相手が悪かったことに、ビリアは間もなく気付くこととなる。

五歳の時から、側にいた

田尾風香
恋愛
五歳。グレースは初めて国王の長男のグリフィンと出会った。 それからというもの、お互いにいがみ合いながらもグレースはグリフィンの側にいた。十六歳に婚約し、十九歳で結婚した。 グリフィンは、初めてグレースと会ってからずっとその姿を追い続けた。十九歳で結婚し、三十二歳で亡くして初めて、グリフィンはグレースへの想いに気付く。 前編グレース視点、後編グリフィン視点です。全二話。後編は来週木曜31日に投稿します。

目を覚ましたら、婚約者に子供が出来ていました。

霙アルカ。
恋愛
目を覚ましたら、婚約者は私の幼馴染との間に子供を作っていました。 「でも、愛してるのは、ダリア君だけなんだ。」 いやいや、そんな事言われてもこれ以上一緒にいれるわけないでしょ。 ※こちらは更新ゆっくりかもです。

7年ぶりに帰国した美貌の年下婚約者は年上婚約者を溺愛したい。

なーさ
恋愛
7年前に隣国との交換留学に行った6歳下の婚約者ラドルフ。その婚約者で王城で侍女をしながら領地の運営もする貧乏令嬢ジューン。 7年ぶりにラドルフが帰国するがジューンは現れない。それもそのはず2年前にラドルフとジューンは婚約破棄しているからだ。そのことを知らないラドルフはジューンの家を訪ねる。しかしジューンはいない。後日王城で会った二人だったがラドルフは再会を喜ぶもジューンは喜べない。なぜなら王妃にラドルフと話すなと言われているからだ。わざと突き放すような言い方をしてその場を去ったジューン。そしてラドルフは7年ぶりに帰った実家で婚約破棄したことを知る。  溺愛したい美貌の年下騎士と弟としか見ていない年上令嬢。二人のじれじれラブストーリー!

処理中です...