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本編
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しおりを挟むアレクの怪我の痕を見た父は、半ば無理矢理に叔父を追い返した。
「何をするんだ!!」
「コイツは一晩預かる、お前は頭を冷やせ!!」
使用人に抑え込まれながら屋敷の外へ追い出された叔父はしばらく騒いでいたけれど、明日の朝には返すから、という父の言葉で何とか帰った。
「お父様」
「…お前の部屋へ連れて行け。少し私も頭を冷やす」
多分それが父に出来た最大の優しさだったのだろう。少なくともあの叔父を追い返すのには随分と時間がかかったし、面倒だっただろうが、それでもそうしてくれた。
結局一晩泊まったアレクは翌朝にほぼ無理やり連れ戻され、何ヶ月も連絡が取れない日々が続いた。
「もうアレックスと関わるな。アイツがうるさくて堪らん」
ある日そう言った父が見せてきたのは、婚約解消の文言が書かれた紙と、アレクの腹違いの弟であるステューならやっても良いという馬鹿げた内容だった。
日頃アレクを目の敵にしていたステューとは仲が良くなかったし、そんな彼と婚約など馬鹿にされているとしか思えなかった。
アレクに連絡を取ろうにも手紙は何も返って来なかった。しばらくして使用人の噂話で聞いたのは、アレクは何度か屋敷を抜け出そうとして、また酷い折檻をされて部屋に閉じ込められているということだった。
差し出した手紙が何十通を超える頃、叔父が直々に文句を言いにきた。
「アレックスはお前のことなど気にも留めておらん。余計なことをしてくれるな、お前にはステューで十分事足りているだろう。二度と関わるな」
散々放置したのに使えると分かった途端に態度を一転させて、折檻して。こんな親がいて良いものか。
「兄貴の様子?教えてやってもいいぜ、その代わり抱かせろよ。兄貴とは散々やることやってたんだろ?」
下衆な笑みを浮かべたステューにも、己の利益しか考えず子供を道具にしか思わない叔父にも腹が立った。腹がたっても、私にはどうすることも出来なかった。
アレクとはそんな関係ではない。同じ寝台で眠りもした、泊まることだって度々あった。けれど私たちの間にあったのは俗的な言葉では言い表せない、綺麗な、不可侵な宝物だった。
「私に触れていいと、貴方に言う日は永遠に来ないわ」
そう言った私にステューは「どうせ俺のものになるのに」と鼻で笑った。
ステューはアレクを嫌っていたから、アレクから私を奪ったと思うと愉快だったのだろう。
けれどお互い様かもしれない。私とアレクは両親に愛されなかった。
ステューは、母親に愛されていた。
私たちにないものを持っている彼を遠ざけて嫌っていたのは私の方かもしれないと考えるようになったのは、もう少し後のことだったが。
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