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本編

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(…どういう状況かしら?)
 カレンはあまりの驚きでまともな言葉も出なかった。
 私の手を強く握り「よかった」とばかり呟いて涙を零しているのは確かに夫だ。
 中の人が入れ替わったのかと疑う程度にはその様子は私からすれば奇異なものであって、戸惑うのも無理はなかった。
「あ、の、旦那様…?」
 何とか恐る恐る声を出した私を、夫のシークは何故か抱き締めてきた。
「三日も目覚めなかったんだ。今日気が付かなければもう無理だろうと……よかった…!」
「三日…?」
 あの痛みで気を失った瞬間から三日も経っているというの?
 慌てて視線を自分の腹へ落とせば、ぼっこりと膨れていたその場所はペタンと引っ込んでいた。
「子供は…」
「勿論無事だ。連れてこい」
 シークが部屋の隅に控えていたメイドに声をかけると、彼女は頷いて部屋の外へ出て行った。
 他にも数人がホッとした表情で此方を見ているが──何故誰も突っ込まないのだろう?
「奥様、お連れしました。元気なおぼっちゃまでございます」
 それは豪華な乳母車に乗せられた眠る赤ん坊が目の前に連れてこられたけれど、カレンは何も言えなかった。
 生まれたら少しは執着心や愛情も芽生えるかと思ったけれど、とても我が子との出会いに喜ぶ気持ちは湧いてこない。
「君によく似た可愛い子だ。名は何にしようか」
 こんな生まれたてのしわくちゃの顔を見て私に似ているだなんて、どうして判断がつくのだろうか。
 寝起きのせいで頭が痛いし、口を開けばまともなことを言える気がしなかったから自ら閉じているのだが。
「五体満足な上に標準よりも大きい元気な息子だ。カレン、本当にありがとう」
 笑みを浮かべた夫に、それをほうっと和らいだ表情で見守るメイドたち──はい?
 貴方、そんなに話せたのですね。
 何を今更都合良く優しい夫面をしようとしているのか分からないけれど、心配しなくとも出て行くときはこの子供を置いて行く。
 息子と分かった時点で肩の荷がすとんと下りたように心が楽になった。
 思うところは沢山あるけれど、少なくとも意識がない間は側にいてくれたようだし礼は言わねばならない。
「ご心配をおかけして申し訳ありませんでした。もう私は大丈夫ですので」
「何を言うんだ。大切な妻が苦しんでいるのに何もしてあげられなかった、その後悔ばかりだ。もし君が死んでしまったら、きっと後悔で後を追っていただろう」
 ──はい??
「口にするのはこんなにも簡単だったのに、どうして今まで言えなかったんだろう。カレン、俺と家族になってくれて、こんなに可愛い子を産んでくれてありがとう。愛している」
 あまりに自然に額に落とされた口づけに、私の頭はキャパオーバー寸前だった。
 ただ少なくとも、離縁しましょう、そう言える雰囲気でなかったことだけは確かである。
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