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(…まぁこうなるわよね)
 向かい合って座ったもののお互い何か言うこともなく夕食を黙々と口にしている今の状況にシャルロットは辟易した。勝手に不機嫌になって勝手に気まずくなって、この人はどうしたいのだろう。
「──エリック王子には結婚式の際に沢山助力を頂いたお礼に改めて伺っただけです。今朝に話さなかったのは旦那様が家を出られてから手紙が届いたからです。…そうよね?」
 部屋の隅に控えていたジェームズに声をかける。手紙を私に持ってきたのは他でもない彼だ。
「はい、その通りでございます」
 肯定してくれた彼にホッとしつつも未だ何か疑うような目を向けてくるセルヴィンと視線を交わらせることに疲れて逸らしてしまう。
「時間が空いた時にいつでも来るようにと書いていらしたので、」
「その手紙はどこにある?」
「え?」
「見せられないのか?」
 呆れた。それ以外になんの言葉も出ない。どうしてこの人はそんなにも探りたがるのだろう。
「私宛に届いた王子からの手紙を夫とはいえ勝手に見せることなど出来ません」
「俺に見られたら都合の悪いことが書いてあるんじゃないか?」
 都合の悪いことなんて何もない。あるとすれば仮にも一国の王子と親しすぎるほど言葉が崩れていてとても外に見せられるようなものではないということくらいか。
 それにしたって親兄弟であろうと人の手紙を見せろなんてあり得ないことなのに何を考えているのだろう。シャルロットが気を悪くするのも無理はないことだった。
「そんなに手紙の内容が知りたいのでしたらどうぞエリック王子に直接許可を頂いてください」
「知られたら困るんだろう?結婚したばかりで王子と不倫を働くなんて噂になるのが怖いのか」
 そこまで言われてシャルロットは初めてこの男が何を勘違いしているのか理解した。
(まさか私がエリックと不倫をしているだなんて本気で思っているの?)
 だとしたらなんとくだらない勘違いだろうか。くだらなさすぎていっそ笑えてしまったけれど、続いた夫の言葉にシャルロットは言葉を失った。
「そういえば式の直前まで王子と一緒に居たらしいな。あの趣味の悪そうな王子のことだ、俺に金を出させたドレスで随分と盛り上がったんじゃないのか?」
 あまりにも酷い侮辱だった。妻を、女を、私をなんだと思っているのか。
(…最低ね、こんな人だなんて知らなかったわ)
 もともと少なかった情が更にすり減っていくのを感じながらシャルロットは口元をハンカチで拭いて席を立つ。
「私のことをどう思おうと馬鹿にしようと侮辱しようと勝手になされば良いですが王子のことまでそのように仰るなんて不敬罪に問われても仕方のない発言だと思いますが?」
 そもそもエリックとそんな関係にないのに何がどう勘違いすればそうなるのだろうか、私は不思議で堪らない。
 というか一番最初に私に言った言葉を忘れたのだろうか。
「貴方、随分と前の話になりますが、婚約時に言いましたよね?子供さえ作らなければ恋人を作ろうが私の勝手だと」
 勿論やましいことなど私にはないわけだが、自分から言ったに責めてくるだなんてお門違いにも程があるのではないか。
「ご自分で仰ったことを、」
「言ってない」
「はい?」
「言ってない」
「……いえ、仰いましたよね?」
「言ってない。何年何月何日何時何分のことだ?証書でもあるのか?ないだろう。だから俺はそんなこと言ってない」
 あっけらかんと言い切ったセルヴィンにどこか既視感を覚える。どこかでこんな光景を見た気が──あぁそうだわ、母方の従弟のマウリツォ(五歳)が言い訳をするときにこんなことを言っていたわね。
「……貴方…」
 五歳児と同じことを言い出した夫、しかも公爵位にまで就いている男にシャルロットはいよいよ頭が痛くなってしまった。
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