12 / 37
11
しおりを挟む(…まぁこうなるわよね)
向かい合って座ったもののお互い何か言うこともなく夕食を黙々と口にしている今の状況にシャルロットは辟易した。勝手に不機嫌になって勝手に気まずくなって、この人はどうしたいのだろう。
「──エリック王子には結婚式の際に沢山助力を頂いたお礼に改めて伺っただけです。今朝に話さなかったのは旦那様が家を出られてから手紙が届いたからです。…そうよね?」
部屋の隅に控えていたジェームズに声をかける。手紙を私に持ってきたのは他でもない彼だ。
「はい、その通りでございます」
肯定してくれた彼にホッとしつつも未だ何か疑うような目を向けてくるセルヴィンと視線を交わらせることに疲れて逸らしてしまう。
「時間が空いた時にいつでも来るようにと書いていらしたので、」
「その手紙はどこにある?」
「え?」
「見せられないのか?」
呆れた。それ以外になんの言葉も出ない。どうしてこの人はそんなにも探りたがるのだろう。
「私宛に届いた王子からの手紙を夫とはいえ勝手に見せることなど出来ません」
「俺に見られたら都合の悪いことが書いてあるんじゃないか?」
都合の悪いことなんて何もない。あるとすれば仮にも一国の王子と親しすぎるほど言葉が崩れていてとても外に見せられるようなものではないということくらいか。
それにしたって親兄弟であろうと人の手紙を見せろなんてあり得ないことなのに何を考えているのだろう。シャルロットが気を悪くするのも無理はないことだった。
「そんなに手紙の内容が知りたいのでしたらどうぞエリック王子に直接許可を頂いてください」
「知られたら困るんだろう?結婚したばかりで王子と不倫を働くなんて噂になるのが怖いのか」
そこまで言われてシャルロットは初めてこの男が何を勘違いしているのか理解した。
(まさか私がエリックと不倫をしているだなんて本気で思っているの?)
だとしたらなんとくだらない勘違いだろうか。くだらなさすぎていっそ笑えてしまったけれど、続いた夫の言葉にシャルロットは言葉を失った。
「そういえば式の直前まで王子と一緒に居たらしいな。あの趣味の悪そうな王子のことだ、俺に金を出させたドレスで随分と盛り上がったんじゃないのか?」
あまりにも酷い侮辱だった。妻を、女を、私をなんだと思っているのか。
(…最低ね、こんな人だなんて知らなかったわ)
もともと少なかった情が更にすり減っていくのを感じながらシャルロットは口元をハンカチで拭いて席を立つ。
「私のことをどう思おうと馬鹿にしようと侮辱しようと勝手になされば良いですが王子のことまでそのように仰るなんて不敬罪に問われても仕方のない発言だと思いますが?」
そもそもエリックとそんな関係にないのに何がどう勘違いすればそうなるのだろうか、私は不思議で堪らない。
というか一番最初に私に言った言葉を忘れたのだろうか。
「貴方、随分と前の話になりますが、婚約時に言いましたよね?子供さえ作らなければ恋人を作ろうが私の勝手だと」
勿論やましいことなど私にはないわけだが、自分から言ったに責めてくるだなんてお門違いにも程があるのではないか。
「ご自分で仰ったことを、」
「言ってない」
「はい?」
「言ってない」
「……いえ、仰いましたよね?」
「言ってない。何年何月何日何時何分のことだ?証書でもあるのか?ないだろう。だから俺はそんなこと言ってない」
あっけらかんと言い切ったセルヴィンにどこか既視感を覚える。どこかでこんな光景を見た気が──あぁそうだわ、母方の従弟のマウリツォ(五歳)が言い訳をするときにこんなことを言っていたわね。
「……貴方…」
五歳児と同じことを言い出した夫、しかも公爵位にまで就いている男にシャルロットはいよいよ頭が痛くなってしまった。
44
お気に入りに追加
5,681
あなたにおすすめの小説
病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない
月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。
人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。
2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事)
。
誰も俺に気付いてはくれない。そう。
2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。
もう、全部どうでもよく感じた。
私のドレスを奪った異母妹に、もう大事なものは奪わせない
文野多咲
恋愛
優月(ゆづき)が自宅屋敷に帰ると、異母妹が優月のウェディングドレスを試着していた。その日縫い上がったばかりで、優月もまだ袖を通していなかった。
使用人たちが「まるで、異母妹のためにあつらえたドレスのよう」と褒め称えており、優月の婚約者まで「異母妹の方が似合う」と褒めている。
優月が異母妹に「どうして勝手に着たの?」と訊けば「ちょっと着てみただけよ」と言う。
婚約者は「異母妹なんだから、ちょっとくらいいじゃないか」と言う。
「ちょっとじゃないわ。私はドレスを盗られたも同じよ!」と言えば、父の後妻は「悪気があったわけじゃないのに、心が狭い」と優月の頬をぶった。
優月は父親に婚約解消を願い出た。婚約者は父親が決めた相手で、優月にはもう彼を信頼できない。
父親に事情を説明すると、「大げさだなあ」と取り合わず、「優月は異母妹に嫉妬しているだけだ、婚約者には異母妹を褒めないように言っておく」と言われる。
嫉妬じゃないのに、どうしてわかってくれないの?
優月は父親をも信頼できなくなる。
婚約者は優月を手に入れるために、優月を襲おうとした。絶体絶命の優月の前に現れたのは、叔父だった。
アルバートの屈辱
プラネットプラント
恋愛
妻の姉に恋をして妻を蔑ろにするアルバートとそんな夫を愛するのを諦めてしまった妻の話。
『詰んでる不憫系悪役令嬢はチャラ男騎士として生活しています』の10年ほど前の話ですが、ほぼ無関係なので単体で読めます。
【取り下げ予定】お幸せに、婚約者様。私も私で、幸せになりますので。
ごろごろみかん。
恋愛
仕事と私、どっちが大切なの?
……なんて、本気で思う日が来るとは思わなかった。
彼は、王族に仕える近衛騎士だ。そして、婚約者の私より護衛対象である王女を優先する。彼は、「王女殿下とは何も無い」と言うけれど、彼女の方はそうでもないみたいですよ?
婚約を解消しろ、と王女殿下にあまりに迫られるので──全て、手放すことにしました。
お幸せに、婚約者様。
私も私で、幸せになりますので。
7年ぶりに帰国した美貌の年下婚約者は年上婚約者を溺愛したい。
なーさ
恋愛
7年前に隣国との交換留学に行った6歳下の婚約者ラドルフ。その婚約者で王城で侍女をしながら領地の運営もする貧乏令嬢ジューン。
7年ぶりにラドルフが帰国するがジューンは現れない。それもそのはず2年前にラドルフとジューンは婚約破棄しているからだ。そのことを知らないラドルフはジューンの家を訪ねる。しかしジューンはいない。後日王城で会った二人だったがラドルフは再会を喜ぶもジューンは喜べない。なぜなら王妃にラドルフと話すなと言われているからだ。わざと突き放すような言い方をしてその場を去ったジューン。そしてラドルフは7年ぶりに帰った実家で婚約破棄したことを知る。
溺愛したい美貌の年下騎士と弟としか見ていない年上令嬢。二人のじれじれラブストーリー!
生まれ変わっても一緒にはならない
小鳥遊郁
恋愛
カイルとは幼なじみで夫婦になるのだと言われて育った。
十六歳の誕生日にカイルのアパートに訪ねると、カイルは別の女性といた。
カイルにとって私は婚約者ではなく、学費や生活費を援助してもらっている家の娘に過ぎなかった。カイルに無一文でアパートから追い出された私は、家に帰ることもできず寒いアパートの廊下に座り続けた結果、高熱で死んでしまった。
輪廻転生。
私は生まれ変わった。そして十歳の誕生日に、前の人生を思い出す。
婚約破棄すると言われたので、これ幸いとダッシュで逃げました。殿下、すみませんが追いかけてこないでください。
桜乃
恋愛
ハイネシック王国王太子、セルビオ・エドイン・ハイネシックが舞踏会で高らかに言い放つ。
「ミュリア・メリッジ、お前とは婚約を破棄する!」
「はい、喜んで!」
……えっ? 喜んじゃうの?
※約8000文字程度の短編です。6/17に完結いたします。
※1ページの文字数は少な目です。
☆番外編「出会って10秒でひっぱたかれた王太子のお話」
セルビオとミュリアの出会いの物語。
※10/1から連載し、10/7に完結します。
※1日おきの更新です。
※1ページの文字数は少な目です。
❇❇❇❇❇❇❇❇❇
2024年12月追記
お読みいただき、ありがとうございます。
こちらの作品は完結しておりますが、番外編を追加投稿する際に、一旦、表記が連載中になります。ご了承ください。
※番外編投稿後は完結表記に致します。再び、番外編等を投稿する際には連載表記となりますこと、ご容赦いただけますと幸いです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる