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 シャルロットの両親は当たり前ながらに恋愛結婚ではなかった。むしろ今の貴族社会でお互い妥協をしながらより好みの相手を見つけはするものの、恋愛結婚なんていうのはまずあり得ないだろう。そんなものをすれば都市伝説並みに語り継がれるほどの事案である。
 とにかくシャルロット自身が結婚に特に願望を抱いてはいなかったし、むしろ子供を産めば離婚する夫婦だっている中でなんだかんだうまくやっている両親を尊敬すらしていた。
 家を出る際に母に上手くやっていく秘訣を尋ねたところ、必要なことは心に留めず臆すことなく口にしてお互いの共通認識の上で理解し合うことだと言われた。
 なのでシャルロットなりに結婚してから気が付けばもう二週近く経とうとしているが自分で考えていたことを述べたのだが。
「……旦那様?」
 固まったまま動かない夫に呼びかけてはみるもののやはり反応はない。どうやらよほど疲れているらしい。
「長くお仕事をされてきっとお疲れなのですね。この後はゆっくりお休み下さい、私は部屋におりますので用事があった際にだけお申し付け下さったらちゃんと参りますので。そうそう、寝室もしっかり分けて頂いていますから安心なさって下さい、私が旦那様の元を訪れることはありませんので。ではそういうことで、お先に失礼致します」
 ぺこりと頭を下げて部屋に戻ったシャルロットにセルヴィンは何も言わず、やはり硬直したままであった。


 部屋に戻ったシャルロットはベッドの脇に落ちていた手紙を拾い上げてペーパーナイフで封を切り、ざっと目を通した。

【 我が妻シャルロット
 体調は回復したと連絡を受けたが気分はどうだろうか?
 式のことで君に任せきりにしていた過労が祟ったのだろうと叱責を受けた。本当にその通りだ、今君の側にいられないことをとてももどかしく思っている。
 どうか俺が帰るまでの間は無理をせずゆっくりと休んで欲しい。それから、もし君が嫌でないのなら屋敷に戻った日にこれからの俺たちの関係の在り方を話し合いたい。せっかく夫婦になったのだからお互いに寄り添うことも大切だ。
 ひとまず心に余裕が出来れば是非新婚旅行はどこに行くか考えておいてくれ。勿論まだしばらく先でも良い。戻ったらしばらく休みを取ろうと考えているから、君と毎日他愛のない話をしながら過ごせたら幸せだ。
 早く君に会いたくて堪らない。 】


「……なんなのこれ?」
 思わず鳥肌の立った自分の腕を手で撫でながらシャルロットは手紙をベッドの上に放り投げた。
 式の準備も招待客の手配まで何一つ手伝わず当日に来ただけの男が体調を崩した私のそばにいたところで何ができるというのか。
 突っ込みたい箇所が多々あるものの、私は考えるのを放棄してベッドの上に転がった。はしたなかろうが、今そうしなければ頭の中を整理できそうになかったからだ。以前は髪型のせいでこんな風に脱力してベッドに倒れ込むなんてことが無かっただけにストレートヘアに変えて良かったと思う。
(……何度見ても意味不明ね。もしかして今までのあの人は別人だったとか?それとも私のことをからかって遊んでる?いいえ、そんな暇人じゃないわよね…)
 私は結婚前と何も変わっていないのに、どうして彼だけがあんなにも変わってしまったのか不思議で堪らない。
「──あっ」
 ふと手紙の文字を見て声を漏らした。

 もしかすると私は彼が手紙にしたためた、寄り添いや話し合いといったもの全てを真っ向から拒否してしまったのではないだろうか。
 自分の考えと私生活にはお互い関わらないなんていう勝手なルールを決めて帰ってきてしまったが良かったのだろうか。
 彼からすれば手紙は読んでいるものだという前提で話を聞いていただろう。実際には封すら開けていなかったわけだが。
(…まぁ大丈夫よね)
 無言の肯定という言葉があるくらいだ、反論しなかったということは特に問題ないのだろう。
 そう思うのに、何故だか、彼のあの絶句した時の表情だけが頭から離れてくれなかった。
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