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 裁判の前日、リシアは再び王太子と面会した。
「犯人の目星はついたのか?」
 せっかちにそう尋ねてくる王太子はどこか焦っているようにも感じた。父の話では、国王陛下が一度はお会いになったようだけれど、この様子を見る限り良い話はしなかったのだろう。
「いいえ。残念ですが」
「……マリアンヌはもう埋葬されたのか?」
「えぇ。男爵にお会いして場所を聞きましたので、私も行きましたが──そういえば先客がいました。ご存知ですか?ジャン・ハドソンです。マリアンヌ嬢とは面識があったようなのですが」
「ジャン・ハドソン?ハドソン伯爵家の次男か」
 名前を言えばすぐに思い当たったらしいが、彼は緩く首を振った。
「彼女と知り合いだったとは知らなかった。俺もあの男とは話したことがないしな」
「そうですか」
 別にジャンを怪しんでいたわけではないけれどなんとなく気にかかっていた。知らないというのならこれ以上なにか聞くこともない。それよりも、とリシアは少しだけ聞くのが億劫なことをこれから口にしなくてはならない。
「ところで殿下、お尋ねしたいことがあり今日も来たのですが」
「なんだ?」
「失礼なことだとは重々承知ですので……その……」
 どう切り出せばいいのか困っている私に彼は怪訝そうな顔をする。マリアンヌのことを調べているうちに分かった、結婚詐欺まがいのこと。それらをこの男が知っていたのかどうか。
「なんだ、はっきり言え」
 そう言われたのでそれならと頷く。
「マリアンヌ嬢にお金を渡したことはありますか?」
「なに?ないが、何故だ?」
 ない。それはつまり金銭的なやり取りがなかったということだ。
「本当ですか?たったの一度も、貸したことも?」
「ないに決まっているだろう。大体俺の使える金は国民から預けられた金も同義だ、いくら恋人であってもそう簡単に渡せるはずがないだろう」
 至極もっともなことではあるけれどこの男が言うとおかしく感じるのはどうしてだろうか。
「そうですか」
「──もしやマリアンヌが今までの交際相手から金を借りていたとか、そういう話か?」
 突然話の核心をつかれたので狼狽えてしまう。知っていたのか、と驚きを隠せなかった。
「ご存知だったのですか?」
「まぁ、それはな。彼女も自分が人に恨まれることをした自覚はあったようだし反省していた」
「反省って……」
 それならばお金を返すのが筋というものだ。賭場に使っておいてなにを、と私の疑問を汲み取ったのか、彼は擁護するように口を開いた。
「俺と出会う前の話だ。彼女なりに思うところがあったんだ、……これを勝手に話すのは気が引けるが」
 仕方ないと言いたげに王太子が話し始めたのは、私にはとても理解できないことだった。
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