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 埋葬の許可が出たマリアンヌの遺体を引き取った男爵家がひっそりと弔ったことを聞いたリシアは、不躾であると承知の上でレイス男爵家を訪ねた。
「お忙しいのは承知で無理を言って申し訳ありません。初めまして、リシア・ルーベルクと申します」
「いえ……」
 憔悴しきった顔を隠そうともしない男爵は私が何をしにきたのか窺っているようだった。
「私の娘のことでご迷惑を。城での騒ぎは聞いております」
「そのことを咎めにきたわけではありません。ただお話を伺いたく」
「話とは……?」
 夜な夜な屋敷を抜け出して遊び回っていた彼女のことをまさか父である男爵が知らないはずがない。だが事情を聞かれた彼は何も知らないし王太子に無理やり連れて行かれたに違いないと話したらしい。
「例の賭場でレイス嬢が親しくしていた相手を知りたいのです」
「──とうに何度も説明しましたが、マリアンヌはそんなところに出入りすることはありません。あの子は家で過ごすのがとても好きでしたから」
「ですが」
「申し訳ありませんが貴女の期待に応えるようなことは話せません」
「……そうですか」
 ルイスが賭場のオーナーを探しているけれどいまだに情報のひとつも入ってこない。いつも通りであれば今頃は他の場所でまた同じように場所を開くそうだが、その気配は一切なかった。
「男爵も一人娘を亡くされてさぞお辛いでしょうに、不躾に申し訳ありませんでした」
「……本当に……あの子が私の膝の上に座りお父様と呼んで縋っていたのがまるで昨日のことのようで」
 瞳に涙を浮かべた男爵はもうずっと前に妻を亡くして以来、男手ひとつでマリアンヌを育てたという。そんな可愛い娘を失えば、たとえ彼女が死ぬ前にとんでもないことをしていたとしても、きっと辛くて堪らないだろう。
「マリアンヌが死んだというのに親戚を名乗るやつらが屋敷に訪れてきますし、本当にもう……」
 マリアンヌに兄弟はいないから後継の座を狙う人間もいるのだろう。
「たしかにその問題も考えなくてはいけませんものね。お辛いとは思いますが」
「──マリアンヌがこうなってしまっては仕方がありませんから、養子を取ろうかと。以前より考えていた子どもがいたのですが今は連絡が絶たれたので、探しておりまして」
「そうなのですか?血の繋がった子が?」
「ええまぁ、遠くはありますが、親を早くになくして私が父親のように本当に可愛がっておりました。ただその子を預けていたやつが……まあ、色々ありまして」
「そうですか。──長居してしまいましたね、私はそろそろ失礼いたします。帰りにマリアンヌ嬢に会いに行ってもよろしいですか?」
「もちろんです」
 少し遠回りになるが墓地に寄ってみようと思い立ち場所を尋ねる。
 リシアを乗せた馬車は男爵邸を出て彼女の墓がある墓地へと向かった。
「お嬢様、あまり収穫がありませんでしたね」
 せっかくここまで来ましたのにと残念そうに言うアンシアにそうかしらと窓の外を眺める。
(マリアンヌが死ぬ前から養子として考えていた子……そんな子をどうして人に預けていたのかしら)
 男爵と話していて引っかかったなにかが、私の頭から消えてくれなかった。
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