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ゆめみたい
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「白バトさま。この流星群が、あたしのせいってどういうこと?」
こうゆうの壮大《そうだい》っていうのかな。とてつもなくすごくて宇宙的なことが、なんであたしのせいなの。ひょっとして、あたし魔法つかいだったとか? それとも、エスパー?
「そなたは、呼び水だったのじゃ」
「よびみずってなに?」
なんだその地味な言葉。がっかりなんだけど。
「面倒じゃの。はよう大人になれ。簡単にいえば、きっかけじゃ。そなたの存在が、この島へ落ちてくる星のかけらの意味をかえたのだ」
「ますます、わかんないんだけど」
「どういうことだよ。オレらにも教えてくれよ、白バトさま」
ゲンがサブ兄ちゃんを支え、白バトさまへよってきた。
「ええい、そなたまで。今そんな悠長《ゆうちょう》なことを話している暇はない。はよう池へ入るのじゃ」
そうだった。池がひかる時に入らないと。あたしのつえは崖の上においてきたから、はいはいしながら進む。
流星群の落下がぴたりとやんだ。ゲンとサブ兄ちゃんが先に池へ入った。あたしも足からそっと入る。はれた左足に、冷たい水がここちいい。
あたしたち三人が首元までつかる深さへ進むと、頭上から満月の光は真っすぐおりてきた。水面に黄色い満月が落っこちたみたい。夜空にうかぶ満月と池にうつる満月を光の柱がつないでる。
その光の柱に反応して、池の中の星のかけらもひかり出した。白バトさまがいったように、ドバーっとひかっている。あたしたちの輪郭《りんかく》が、ぼやけるくらい強い光。まぶしくて目をとじたら、まぶたの裏も明るい。
その裏側にいろんな映像がうかんできた。
島の学校で授業をうけている子どもたち。あたしが知ってる、ボロボロの校舎じゃない。廃村になる前の風景?
漁船に乗って、あみを引いてるおじさんの姿。井戸から水をくんでる女の人。その人たちをみあげてる映像だ。これをみているのは、子どもたち?。
島の風景とはちがう映像も。
海をさみしそうにみているおじいさんの横顔。タンスの中の着物を大事そうにみているおばあさんの後ろ姿。スーツを着て家を出ていくおじさん。
これは、島をはなれた後の記憶? この島と関係ない記憶だ。つぎつぎかわる映像の中に、野球をやってるあたしの姿があった。これって、あたしの家族の記憶?
まぶしい光と、くるくるかわる映像にめまいがしそう。体まで、めまいにつられて感覚がなくなってきた。自分の体が自分じゃないみたい。
ふっと光が突然《とつぜん》やんだ。目をあけると、さっきまでのまぶしさがうそのような暗闇に、放り出された。目を細めると、横に立つサブ兄ちゃんとゲンの姿がみえた。二人はあたしと同じ大きさ。元の大きさにもどったのかわからない。
「よかったのお、そちたち。今年は元にもどったぞ」
さっきの壮大な景色とは真逆な、まのびした白バトさまの声。あわてて、池のまわりを探す。
いた! いつもの小さなかわいい姿の白バトさま。あらためて自分の体をみた。さっき首元まであった池の水は、あたしたちの足元にしかない。
ということは、元の大きさにもどれたんだ。夢みたい。
「やった。アスのおかげだ。この大きさにもどったの。何年ぶりだろう」
「ありがとう。アスがいなかったら、とっくにあきらめてたよ」
そういうふたりにあたしは、だきついた。ふたりの体温があったかい。夢じゃない。あたしたちは、やりとげたんだ。
「こちらこそ、ありがとう!」
あたしたちは三人でだき合い、ひとかたまりになって、水しぶきをあげながら飛びはねた。もう、足首も痛くない。何回だって飛べる。
「やめぬか。我に水がかかる」
白バトさまの苦情を聞いて、しぶしぶ池から出た。
「さっきおっしゃっていた、星のかけらの意味がかわったというのは、どういうことですか?」
すっかり元気になったサブ兄ちゃんが、白バトさまを腕へ乗せ質問し始めた。
「つまりの。小娘を心配する家族の強い思いが、この島へとどいた。すると、他の住民を思う気持ちも星のかけらとなってやってきたのじゃ」
「全然意味わかんねえ」
「他の住民って。この島にはもう三人しかいないよ」
「そうか、蛍か。蛍になった人々を思う気持ちがとどいたんだ」
サブ兄ちゃんが太ももをたたいていった。
「そうじゃ。今までは元住民の島の思い出だったものが、ここにいる蛍になった住民を思う思い出も、星のかけらとなったということじゃ。わかったかの?」
あたしとゲンは同時に首をかしげていった。
「たぶん」
「あはは、そっくりな反応だね」
サブ兄ちゃんに笑われた。だって、ゲンとあたしはおじいちゃんと孫なんだもん。内緒だけど。そっくりなのは、あたりまえ。
「さあ、もうよいだろう。ねぐらへ帰ってひと眠りするがよい。小娘、帰るのは明日でよかろう。我もつかれたしの」
「これから、お酒飲まないでね。白バトさまも眠ってね。そして朝いちばんここにくるから待っててよ」
白バトさまには、十分念おししとかないと。
「わかった、わかった。我も眠る。ではの」
そういって、やぶの中へ首を前後にゆらしながら入っていった。
あたしたちは、石段を競うように一気にかけおりた。あんなに高かった石段だったのに。体が元にもどったら、こんなに簡単におりられる。これから、ゲンもサブ兄ちゃんもできることがふえるね。
あたしは、ちょっとだけほこらしい気持ちでふたりをみた。
石段の下のクギでとめた葉っぱと青い石を拾いながら、ねぐらへ歩き始める。
ふたりはもうあたしの肩に乗っていない。横を同じ目線で歩いてる。小人になった時と同じなんだけど、なんかちょっと恥《は》ずかしい。
恥ずかしさをまぎらわすため、あたしはいった。
「ふたりと最後に野球したかったな」
「やろうぜ、アスが帰る前に」
「でも、バットとボールがないよ」
「ボールもってるよ。ボクは中学で野球部に入ってたんだ」
えっ? サブ兄ちゃんが野球やってたなんてはじめて聞いた。
こうゆうの壮大《そうだい》っていうのかな。とてつもなくすごくて宇宙的なことが、なんであたしのせいなの。ひょっとして、あたし魔法つかいだったとか? それとも、エスパー?
「そなたは、呼び水だったのじゃ」
「よびみずってなに?」
なんだその地味な言葉。がっかりなんだけど。
「面倒じゃの。はよう大人になれ。簡単にいえば、きっかけじゃ。そなたの存在が、この島へ落ちてくる星のかけらの意味をかえたのだ」
「ますます、わかんないんだけど」
「どういうことだよ。オレらにも教えてくれよ、白バトさま」
ゲンがサブ兄ちゃんを支え、白バトさまへよってきた。
「ええい、そなたまで。今そんな悠長《ゆうちょう》なことを話している暇はない。はよう池へ入るのじゃ」
そうだった。池がひかる時に入らないと。あたしのつえは崖の上においてきたから、はいはいしながら進む。
流星群の落下がぴたりとやんだ。ゲンとサブ兄ちゃんが先に池へ入った。あたしも足からそっと入る。はれた左足に、冷たい水がここちいい。
あたしたち三人が首元までつかる深さへ進むと、頭上から満月の光は真っすぐおりてきた。水面に黄色い満月が落っこちたみたい。夜空にうかぶ満月と池にうつる満月を光の柱がつないでる。
その光の柱に反応して、池の中の星のかけらもひかり出した。白バトさまがいったように、ドバーっとひかっている。あたしたちの輪郭《りんかく》が、ぼやけるくらい強い光。まぶしくて目をとじたら、まぶたの裏も明るい。
その裏側にいろんな映像がうかんできた。
島の学校で授業をうけている子どもたち。あたしが知ってる、ボロボロの校舎じゃない。廃村になる前の風景?
漁船に乗って、あみを引いてるおじさんの姿。井戸から水をくんでる女の人。その人たちをみあげてる映像だ。これをみているのは、子どもたち?。
島の風景とはちがう映像も。
海をさみしそうにみているおじいさんの横顔。タンスの中の着物を大事そうにみているおばあさんの後ろ姿。スーツを着て家を出ていくおじさん。
これは、島をはなれた後の記憶? この島と関係ない記憶だ。つぎつぎかわる映像の中に、野球をやってるあたしの姿があった。これって、あたしの家族の記憶?
まぶしい光と、くるくるかわる映像にめまいがしそう。体まで、めまいにつられて感覚がなくなってきた。自分の体が自分じゃないみたい。
ふっと光が突然《とつぜん》やんだ。目をあけると、さっきまでのまぶしさがうそのような暗闇に、放り出された。目を細めると、横に立つサブ兄ちゃんとゲンの姿がみえた。二人はあたしと同じ大きさ。元の大きさにもどったのかわからない。
「よかったのお、そちたち。今年は元にもどったぞ」
さっきの壮大な景色とは真逆な、まのびした白バトさまの声。あわてて、池のまわりを探す。
いた! いつもの小さなかわいい姿の白バトさま。あらためて自分の体をみた。さっき首元まであった池の水は、あたしたちの足元にしかない。
ということは、元の大きさにもどれたんだ。夢みたい。
「やった。アスのおかげだ。この大きさにもどったの。何年ぶりだろう」
「ありがとう。アスがいなかったら、とっくにあきらめてたよ」
そういうふたりにあたしは、だきついた。ふたりの体温があったかい。夢じゃない。あたしたちは、やりとげたんだ。
「こちらこそ、ありがとう!」
あたしたちは三人でだき合い、ひとかたまりになって、水しぶきをあげながら飛びはねた。もう、足首も痛くない。何回だって飛べる。
「やめぬか。我に水がかかる」
白バトさまの苦情を聞いて、しぶしぶ池から出た。
「さっきおっしゃっていた、星のかけらの意味がかわったというのは、どういうことですか?」
すっかり元気になったサブ兄ちゃんが、白バトさまを腕へ乗せ質問し始めた。
「つまりの。小娘を心配する家族の強い思いが、この島へとどいた。すると、他の住民を思う気持ちも星のかけらとなってやってきたのじゃ」
「全然意味わかんねえ」
「他の住民って。この島にはもう三人しかいないよ」
「そうか、蛍か。蛍になった人々を思う気持ちがとどいたんだ」
サブ兄ちゃんが太ももをたたいていった。
「そうじゃ。今までは元住民の島の思い出だったものが、ここにいる蛍になった住民を思う思い出も、星のかけらとなったということじゃ。わかったかの?」
あたしとゲンは同時に首をかしげていった。
「たぶん」
「あはは、そっくりな反応だね」
サブ兄ちゃんに笑われた。だって、ゲンとあたしはおじいちゃんと孫なんだもん。内緒だけど。そっくりなのは、あたりまえ。
「さあ、もうよいだろう。ねぐらへ帰ってひと眠りするがよい。小娘、帰るのは明日でよかろう。我もつかれたしの」
「これから、お酒飲まないでね。白バトさまも眠ってね。そして朝いちばんここにくるから待っててよ」
白バトさまには、十分念おししとかないと。
「わかった、わかった。我も眠る。ではの」
そういって、やぶの中へ首を前後にゆらしながら入っていった。
あたしたちは、石段を競うように一気にかけおりた。あんなに高かった石段だったのに。体が元にもどったら、こんなに簡単におりられる。これから、ゲンもサブ兄ちゃんもできることがふえるね。
あたしは、ちょっとだけほこらしい気持ちでふたりをみた。
石段の下のクギでとめた葉っぱと青い石を拾いながら、ねぐらへ歩き始める。
ふたりはもうあたしの肩に乗っていない。横を同じ目線で歩いてる。小人になった時と同じなんだけど、なんかちょっと恥《は》ずかしい。
恥ずかしさをまぎらわすため、あたしはいった。
「ふたりと最後に野球したかったな」
「やろうぜ、アスが帰る前に」
「でも、バットとボールがないよ」
「ボールもってるよ。ボクは中学で野球部に入ってたんだ」
えっ? サブ兄ちゃんが野球やってたなんてはじめて聞いた。
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