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もういいとか、言わないで

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 石段の下、サブ兄ちゃんとゲン、それとあたし。同じ大きさの三人は、尻もちをついていた。
 まわりには、巨大な葉っぱの葉書二枚と青い石が落ちていた。それと、ポケットに入れたのを忘れてたクギ。
 あたしがちぢんでも、ポケットの中に入れたものはそのままなんだ。

「なんで、あたし小さくなったの!」

 誰かに答えを教えてほしくて、さけんでいた。

「アスの力も、少なくなったってことかな。ここにい続けるには、星のかけらの力がいる」

 サブ兄ちゃんが肩で息をしながら、答えてくれた。言葉ははきはきしているけど、体はつらそうだ。

「大丈夫だ、安心しろ。池までもうすぐなんだから。星のかけらが、かがやけばなんの問題もない」

 大丈夫っていったけど、ゲンの顔は不安げにゆがんでいる。

「そういうけど、ゲン。ピラミッドみたいなこの石段を、どうやってのぼるの?」

 あたしは、そびえたつ石段をみあげた。ここからよんでも白バトさまは、気づかないだろう。ひょっとして、また寝てるかも。自分たちでなんとかするしかない。

「さすがに、これはのぼれねえ。迂回《うかい》するしかない。山へ入って、お社の裏手にまわろう」

 朝、鹿さんと通ったルートだ。立ちあがってふりむくと、まん丸な赤い月が海の上をのぼっていた。

「何あの月。赤い」

「のぼったばかりの月は赤いんだよ」

 サブ兄ちゃんの言葉に少しだけ安心する。赤い月が不吉なことじゃないならいいけど。
 そうだ、八幡様にお願いしよう。
 石段の下、背筋をのばして立つ。パンパンと二回顔の前で手をならし、あたしはいのった。

 どうか池へ到着して、元の大きさにもどれますように。お願いします、八幡様。

「ボクをここにおいていってくれ。頭はしっかりしてるけど、体に力が入らない。これじゃあ、歩けない」

 座りこむサブ兄ちゃんに、あたしはかけよって膝まづく。目の前にはあたしより背の高いサブ兄ちゃんの顔が、つらそうにゆがんでいた。いつもの小さな顔じゃないから、なんだかドキドキする。けど、そのドキドキは今いらない。不謹慎だから。
 ドキドキを誤魔化すように、お腹に力を入れた。

「おいていくのは、葉っぱと青い石だけ。サブ兄ちゃんはおいていかないよ」

「「絶対!!」」

 最後の言葉は、ゲンとかぶった。同じ思いの友だちがいたら、力を合わせてなんだってできる。
 葉っぱは風に吹かれて飛んでいかないように、クギでさして地面へ固定した。これがないと帰れないんだから。

 背の高いサブ兄ちゃんをまん中にして右側はゲン、左側にはあたし。肩をかして、歩き始めた。真夜中まで時間はたっぷりある。ぜったい、大丈夫!

                *

 どれぐらいの時間、山の中を歩いただろう。
 鹿さんの背中に乗って、お社へ向かった時はあっという間だったのに。小人の一歩なんて、数センチ。どんなに歩いても、ちっとも前へ進まない。おまけに左の足首がかなり痛い。

 鹿さんが朝に通ったから、山の中のけもの道はふみしめられて平らになっていた。それでも、木の枝や、石が進路をじゃまする。そのたびに、障害物をさけるから時間がかかってしょうがない。お社まであ後どれぐらいだろう。

 月をみあげると、だいぶ高いところまでのぼってる。どうしよう。月がもうすぐ真上にきちゃう。
 そう思ったら右足がすべり、とっさに左足でふんばった。とたん、激痛《げきつう》がはしる。バランスをくずし、サブ兄ちゃんとゲン、三人いっしょにたおれこんでしまった。

「いったー。アス、足すべったのか?」

 ゲンの言葉へ返事をしようと思うけど、あまりの痛さに声が出ない。

「アスの様子がおかしい」

 サブ兄ちゃんにいわれ、ゲンがあたしのそばへよる。月明かりの下、あたしの左足首ははれあがっていた。

「どうしたんだよ、この足。まさかずっとがまんしてたのか?」

「ちょっとひねっただけだから――」

 あたしは、大丈夫っていおうとした。いおうとしたんだけど、言葉が続かない。

「ふたりとも、ボクをここへおいていけ。このままじゃあ間に合わない」

 痛みでジンジンする耳に、サブ兄ちゃんの言葉がつきささる。

「いやだ、絶対いやだ。サブ兄ちゃんもアスもおいていかない。三人で池へいくんだ」

「ゲン、そんなの無理だ。おまえが、アスに肩をかして池までいけ。ボクはもういいから」

 ごめんね、ごめんね。あたしが足を痛めなかったら、こんなことにならなかったのに。サブ兄ちゃんを最後まで支えられたのに。
 涙がポロリと目からこぼれ落ちそうになり、手の甲でグイっとこする。

「もういいとか、いわないで!」

 先生も同じことをいった。星のかけらはもういいって。サブ兄ちゃんまで蛍になっちゃうなんて、いやだ。絶対いや。

 あたしは、右足に力を入れて立ちあがった。泣いている場合じゃない。泣く時間があれば、一歩でも前に進まないと。

「あたし一人なら歩ける。ゲン、一人でサブ兄ちゃんに肩かせる?」

「あったりまえだろ。まかせろ。肩かすどころか、おんぶだってできるぞ。オレはあきらめない!」

 丸ぼうず頭に、きりっとした目。おじいちゃんは、やっぱりたよりになるね。

「ゲン、アス。ありがとう」

 そういうサブ兄ちゃんのほっぺに、月の光でかがやくものが流れ落ちていく。でもすぐに、手のひらでぬぐわれた。

「そこに落ちているまっすぐな枝を拾ってくれ」

 ゲンがすぐに枝を拾って、サブ兄ちゃんへわたす。

「これをつえにするんだアス。足が楽だと思う。次はあっちにはえてる、じねんじょのつるをとって来てくれ」

 サブ兄ちゃんの指先をたどってみると、木につるがまきついてた。じねんじょってなんだろ。

 ゲンがまたとってきて、サブ兄ちゃんへわたす。

「ゲンすまないが、ボクをおんぶして、このつるで体にくくりつけてくれるか」

「おんぶひもだな。わかった!」

 ぺしゃんこになってたみんなの気持ちは、むくむくふくれていく。
 つるの葉っぱをとると、ひもみたいになった。それで、ゲンとサブ兄ちゃんの体をしばる。
 あたしは、つえをついて立ちあがる。うん、左足が楽。これなら歩ける。

 ふたたび出発してしばらく歩くと、あのお社をみおろす崖に出た。三人の足元でほんのり池がひかっていた。
 まだ、ドバーっとはひかってない。間に合った。
 けど、どうやってこの崖をおりればいいんだろう……。

「そうだった。この道は最後、崖をおりないとお社へいけない」

 ハーハーと肩で息をするゲンの声が、草におおわれた地面へポツンと落ちた。






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