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めざすは、お社
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サブ兄ちゃんの本体の三郎さんが、先生と同じような病人になったの?
昼も夜も関係ないってことは、意識がないの?
あたしの体も病院でずっと寝ている。だから、スズメにならないの?
「オレ、朝からずっとかけら探してたんだ。サブ兄ちゃんは今日もきつそうだったから、そのまま寝てた。さっきねぐらに帰ったら、人間の姿のまま起きあがれない」
ゲンスズメはつらそうに、頭の上で話し続ける。
「スズメの姿で池へ飛んでいかないと。ひかり出すまで、間に合わない。小人じゃ時間がかかるんだ。鹿に乗せてってもらいたいけど、あいつらお社にいくのいやがるし」
「わかった。あたしがふたりをつれていく」
「おいおい、小娘。そなた早く家へ帰りたかったのではないか」
「いいの。こっちの方が大事」
ごめんね、お母さん、お父さん。もうちょっと待ってて。絶対帰るから。こまってる友だちを放ってはおけないよ。その友だちはおじいちゃんなんだから、なおさら。
「ごめん、アス」
ゲンスズメは頭の上で、ポツリとつぶやいた。目玉をきょろっと上に向け、あたしはいった。
「いこう、ねぐらへ。あたしも、忘れ物したの思い出したんだ」
口の両端《りょうはし》をにゅっとあげて、あたしは笑った。サブ兄ちゃんを元にもどしてみせる。
「まあ、好きにいたせ。我はお社で待つとしようかの。かけらがひかり出すのは、真夜中。月が頭上高くのぼる時じゃ。ゆめゆめ忘れるでないぞ」
そういって、白バトさまはあっさり飛んでいってしまった。
なんだ、飛べるんだ。ずっと肩に乗せてて損《そん》した。ちょっと重かったし。
のぼってきた坂道を、今度は逆にくだっていく。ゲンスズメの後を追って、走りながら! 少し足首が痛いけど、これくらい大丈夫。
真夜中までにいけばいいなんて、よゆう。絶対間に合う。かがやく池へ先生をつれていけなかったけど、サブ兄ちゃんはかならずつれていく。先生も応援《おうえん》してね。みんながんばれって。
ねぐらへたどりついたら、もう日が落ちていた。ゲンも人間の姿にもどってる。かまどにあいた左の穴をのぞきこみ、声をかける。
「サブ兄ちゃん、安心して。あたしが池までつれていってあげるから」
「なんでもどってきたの、アス。すぐ帰った方がいいって、いったのに」
いつもより低いサブ兄ちゃんの声がした。
「あたしもすぐ帰ろうとしたんだよ。でもね、紙とえんぴつ探すのに時間かかって。結局みつからなかった。かわりに葉っぱを探したの。知ってた? 文字が書ける葉っぱがあるの。それに、クギで字を書いたんだ」
「あー、多羅葉《たらよう》か。知ってるよ。葉書は多羅葉から思いついたんだって」
えっ、知ってたんだ。それなら最初から、サブ兄ちゃんに聞けばよかった。
「さっ、いこう」
あたしはサブ兄ちゃんの体をそっと持ちあげ、葉書が入っていない、もうひとつのズボンのポケットに入れた。肩につかまるだけの力はもうないみたい。
「アス、これ忘れたんだろ?」
ゲンが海水の入ったペットボトルを引きずってきた。
このままでは、たぶん持って帰れない。あたしは、ペットボトルのふたをとってなかみを外へ出した。海水といっしょに出てきた白い砂。色とりどりのきれいな石。コンブ、桜貝。みんな宝物だけど……。
最初にみつけた青い石をつまみ、葉っぱが入ったポケットに入れた。どうか、これだけは持って帰れますように。
立ちあがって、ねぐらの中をみまわした。
空がのぞく天井。ツタがからまった緑の壁。コケがはえたコンクリートの床。
鹿さんが運んでくれたハンモック。四角いかまど。右の穴の中には、ゲンの宝物。あたしの手紙も入っている。
もう二度とこれないだろう。夏のとっておきの思い出を、目の奥に焼きつけておく。絶対忘れないために。
外へ出ると、うす暗くなっていた。そんな中、蛍がよってきて道を照らしてくれる。月はまだ出てない。
ポケットには葉書が二枚と青い石。反対のポケットには、サブ兄ちゃん。肩にはゲンを乗せている。さあ、お社めざして出発!
しばらく歩いて、お社へ続く道に出た。さっきここでまよったんだよね。ねぐらにいくかどうか。
あの時いってれば、もっとはやくサブ兄ちゃんの異変に気づけたのに。
ずきり……。あたしは片目を思わずつむった。
「どうしたんだ? 急にウインクして。オレだってウインクぐらい知ってるぞ」
ゲンがあたしの顔をみていった。
「ウインクじゃないよ。ちょっと目にゴミが入ったの。小さい虫かな」
あたしの右目をのぞきこもうとするゲン。あわててとめた。
「大丈夫だよ。もうとれたみたい」
あたしって魂《たましい》なのに、なんで足が痛くなるのよ。食べ物はいらなくても、不死身じゃないんだ。
文句いってもしょうがない。もうすぐ神社の石段なんだから、それをのぼったらひとまず休もう。足のために。
ほら、石段がみえてきた。あとはのぼるだけ。お社はすぐそこ。
でも、さっきから足の痛みとは別に、体がどこかおかしい。骨がぎしぎし音を立ててる感じ。痛くはないんだけど、なんだろこの感覚。
「おい、なんかおまえちぢんでないか? それとも、オレがでかくなってんのか」
肩に乗せたゲンが、だんだん重たくなってきた。サブ兄ちゃんも大きくなって、ポケットから頭がはみ出してる。
「ちがう。アスが小さくなってるんだ。ゲン、肩から飛びおりろ! アスがおしつぶされる」
「そんなまさか。なんであたしが小さくなるのよ」
そういったとたん、目の前の石段がどんどん高く、大きくなっていく。足元にあった石が、あたしの頭をこしていく。
石段が巨大になってるんじゃない。あたしがちぢんでるんだ!
昼も夜も関係ないってことは、意識がないの?
あたしの体も病院でずっと寝ている。だから、スズメにならないの?
「オレ、朝からずっとかけら探してたんだ。サブ兄ちゃんは今日もきつそうだったから、そのまま寝てた。さっきねぐらに帰ったら、人間の姿のまま起きあがれない」
ゲンスズメはつらそうに、頭の上で話し続ける。
「スズメの姿で池へ飛んでいかないと。ひかり出すまで、間に合わない。小人じゃ時間がかかるんだ。鹿に乗せてってもらいたいけど、あいつらお社にいくのいやがるし」
「わかった。あたしがふたりをつれていく」
「おいおい、小娘。そなた早く家へ帰りたかったのではないか」
「いいの。こっちの方が大事」
ごめんね、お母さん、お父さん。もうちょっと待ってて。絶対帰るから。こまってる友だちを放ってはおけないよ。その友だちはおじいちゃんなんだから、なおさら。
「ごめん、アス」
ゲンスズメは頭の上で、ポツリとつぶやいた。目玉をきょろっと上に向け、あたしはいった。
「いこう、ねぐらへ。あたしも、忘れ物したの思い出したんだ」
口の両端《りょうはし》をにゅっとあげて、あたしは笑った。サブ兄ちゃんを元にもどしてみせる。
「まあ、好きにいたせ。我はお社で待つとしようかの。かけらがひかり出すのは、真夜中。月が頭上高くのぼる時じゃ。ゆめゆめ忘れるでないぞ」
そういって、白バトさまはあっさり飛んでいってしまった。
なんだ、飛べるんだ。ずっと肩に乗せてて損《そん》した。ちょっと重かったし。
のぼってきた坂道を、今度は逆にくだっていく。ゲンスズメの後を追って、走りながら! 少し足首が痛いけど、これくらい大丈夫。
真夜中までにいけばいいなんて、よゆう。絶対間に合う。かがやく池へ先生をつれていけなかったけど、サブ兄ちゃんはかならずつれていく。先生も応援《おうえん》してね。みんながんばれって。
ねぐらへたどりついたら、もう日が落ちていた。ゲンも人間の姿にもどってる。かまどにあいた左の穴をのぞきこみ、声をかける。
「サブ兄ちゃん、安心して。あたしが池までつれていってあげるから」
「なんでもどってきたの、アス。すぐ帰った方がいいって、いったのに」
いつもより低いサブ兄ちゃんの声がした。
「あたしもすぐ帰ろうとしたんだよ。でもね、紙とえんぴつ探すのに時間かかって。結局みつからなかった。かわりに葉っぱを探したの。知ってた? 文字が書ける葉っぱがあるの。それに、クギで字を書いたんだ」
「あー、多羅葉《たらよう》か。知ってるよ。葉書は多羅葉から思いついたんだって」
えっ、知ってたんだ。それなら最初から、サブ兄ちゃんに聞けばよかった。
「さっ、いこう」
あたしはサブ兄ちゃんの体をそっと持ちあげ、葉書が入っていない、もうひとつのズボンのポケットに入れた。肩につかまるだけの力はもうないみたい。
「アス、これ忘れたんだろ?」
ゲンが海水の入ったペットボトルを引きずってきた。
このままでは、たぶん持って帰れない。あたしは、ペットボトルのふたをとってなかみを外へ出した。海水といっしょに出てきた白い砂。色とりどりのきれいな石。コンブ、桜貝。みんな宝物だけど……。
最初にみつけた青い石をつまみ、葉っぱが入ったポケットに入れた。どうか、これだけは持って帰れますように。
立ちあがって、ねぐらの中をみまわした。
空がのぞく天井。ツタがからまった緑の壁。コケがはえたコンクリートの床。
鹿さんが運んでくれたハンモック。四角いかまど。右の穴の中には、ゲンの宝物。あたしの手紙も入っている。
もう二度とこれないだろう。夏のとっておきの思い出を、目の奥に焼きつけておく。絶対忘れないために。
外へ出ると、うす暗くなっていた。そんな中、蛍がよってきて道を照らしてくれる。月はまだ出てない。
ポケットには葉書が二枚と青い石。反対のポケットには、サブ兄ちゃん。肩にはゲンを乗せている。さあ、お社めざして出発!
しばらく歩いて、お社へ続く道に出た。さっきここでまよったんだよね。ねぐらにいくかどうか。
あの時いってれば、もっとはやくサブ兄ちゃんの異変に気づけたのに。
ずきり……。あたしは片目を思わずつむった。
「どうしたんだ? 急にウインクして。オレだってウインクぐらい知ってるぞ」
ゲンがあたしの顔をみていった。
「ウインクじゃないよ。ちょっと目にゴミが入ったの。小さい虫かな」
あたしの右目をのぞきこもうとするゲン。あわててとめた。
「大丈夫だよ。もうとれたみたい」
あたしって魂《たましい》なのに、なんで足が痛くなるのよ。食べ物はいらなくても、不死身じゃないんだ。
文句いってもしょうがない。もうすぐ神社の石段なんだから、それをのぼったらひとまず休もう。足のために。
ほら、石段がみえてきた。あとはのぼるだけ。お社はすぐそこ。
でも、さっきから足の痛みとは別に、体がどこかおかしい。骨がぎしぎし音を立ててる感じ。痛くはないんだけど、なんだろこの感覚。
「おい、なんかおまえちぢんでないか? それとも、オレがでかくなってんのか」
肩に乗せたゲンが、だんだん重たくなってきた。サブ兄ちゃんも大きくなって、ポケットから頭がはみ出してる。
「ちがう。アスが小さくなってるんだ。ゲン、肩から飛びおりろ! アスがおしつぶされる」
「そんなまさか。なんであたしが小さくなるのよ」
そういったとたん、目の前の石段がどんどん高く、大きくなっていく。足元にあった石が、あたしの頭をこしていく。
石段が巨大になってるんじゃない。あたしがちぢんでるんだ!
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