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へいきなフリ
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今すぐにでも帰りたいのに、手紙を書かないと帰れない。
今晩帰るのはあきらめ、朝一番に紙とえんぴつを探そう。
酔っぱらいの白バトさまに、明日は一日お社にいるようお願いしてねぐらへ帰った。
何回も念おししたから、大丈夫だとは思うけど……。
王冠だけになった袋を、かまどの前においたら、中からサブ兄ちゃんの声がした。
「アス、帰った?」
「うん。星のかけら池に入れてきた」
「そう、ありがとう」
「あのね、サブ兄ちゃん。明日どうしても帰らないといけなくなって、夜ふたりが元にもどるのみられない。もどったら、いっしょにキャッチボールしたかったけど」
「いいよ。すぐに帰りな。もう、池まで先生を運ばなくてもよくなったしね」
サブ兄ちゃんの言葉に、胸がギリってきしんだ。
「帰るには、手紙書かないといけないの。ここに紙とえんぴつある?」
「ここにはないなあ。学校になら残ってるかも。昔はいっぱいあったしね。手伝おうか?」
「いい、大丈夫。サブ兄ちゃんたちは、星のかけら探して」
「わかったよ。帰る時、ボクらに挨拶《あいさつ》なんかいらないからね。すぐに帰った方がいい」
「でも、ゲンになんにも言ってないし」
「ゲンは起きてるよ。なっ?」
サブ兄ちゃんがそういうと、右のかまどから「ふんっ」ってゲンの鼻息が聞こえた。
「あたし、ここにつれてこられた時は、どうしようと思った。でも、ふたりのおかげてすごく楽しかった。ありがとう」
「こちらこそ、ありがとう。星のかけら、たくさん集まったのはアスのおかげだ。きっと元にもどれるよ」
本当はもどれないかもしれない。かけら、あれだけでは足りないかもしれない。
あたしは、ブンブンと頭をふった。
「うん、絶対もどれるよ」
あたしの言葉の後に、ゲンのぼそぼそいう声が聞こえた。
「ありがとよ」
おじいちゃん、またあっちで会おうね。三郎さんも会おうね。それで、この島の話をふたりにしてあげるんだ。きっと信じないだろうけど。
*
まだ暗いうちからあたしは起きだし、かまどの前で頭をだまってさげた。
あとは一目散に、学校目指してかけ出した。
お母さんは病院で、ずっとあたしのそばにいるのかな。お父さんは今日仕事だろう。あたしが目を覚まして大丈夫って笑ったら、安心してくれるよね。
今日も校庭では、鹿さんたちが草を食べていた。
走りながら「おはよう!」って挨拶したら、通り過ぎてから「今日も早いなあ」って、なごむ声が聞こえた。
校舎の中にある教室の戸を次々開けていき、残された机の中に紙とえんぴつがないか探しまわった。教卓《きょうたく》の中、木のロッカーの中。
本さえあれば、ページをちぎって手紙が書けるのに、それもない。
昨日、先生が蛍になった教室の前に立って、深呼吸を一つしてから勢いよくあけた。
朝日が差し込む部屋に、やっぱり先生はいなかった。
黒板の前に立って、みおろす。先生がいたところを。
お布団代わりにしていた、布の中で何かがひかった。
手をのばしそれにふれると、昨日あたしがおいた星のかけらだった。
そうだ、紙を探しながらかけらも探せばいいんだ。それで、手紙を書いてお社へいったら、池に入れればいい。
一つでも二つでも、ないよりあった方が絶対いいにきまってる。かけらをぎゅうっと強くにぎりしめ、ポケットに入れた。
それから、校舎の中をくまなく探しても何もみつからない。
最後の一番大きな部屋は、たぶん職員室だったんだろう。いくつか残された木の机の引き出しを片っ端からあけていく。
なんにも入ってない。えんぴつ一本残ってなかった。もうここから人がいなくなって六十年。あたしはまだ、十三歳。その約五倍。途方《とほう》もない時間がながれたんだ。
引き出しをにぎる手に痛みがはしる。みたら、指にとげがささってた。とげをぬいたら、指先から血が出た。ぷっくり盛り上がる赤い血をぺろりとなめる。血の味が口の中に広がり、目をつむった。
ゆっくり目をあけると視界の端っこに、四角いものが。部屋のすみに落ちてる!
すぐさまかけよる。やった。本だ。何の本かまったくわからないほどボロボロで、表紙は雨でぬれたのか、くしゃくしゃになっていた。
これでは字が書けない。でも、中に紙が残ってたらその余白《よはく》に書けばいい。
期待に胸をふくらませ表紙をめくった。そうしたら、中身はなんにもなかった。ページ一枚もない。きれいさっぱりない。
よくみたら、ページがやぶりとられてる。
「誰よ、こんなことしたの。本は大切にしなさいって習ったでしょ!」
そのさけび声にかぶさるようにして、外からピィーと甲高い鳴き声が聞こえてきた。聞いたこともない鳴き声。外には鹿さんたちがいるけど……。
あたしはとっさに中身のない本をつかみ、外へ走り出した。まさか、まさかまさかだよね。
外へ出て一番りっぱな角の牡鹿《おじか》に、本をずいっとその鼻先へつきつけていった。
「鹿さん! 紙食べた?」
草を口の中でもしゃもしゃ食べながら、鹿さんはいった。
「おー、紙は全部食べたぞーあんまりうまくなかったな」
やっぱり……おいしくなかったら、食べないでよ。
もうこの島に紙は、一枚も残ってないの?
どうしよう……。
今晩帰るのはあきらめ、朝一番に紙とえんぴつを探そう。
酔っぱらいの白バトさまに、明日は一日お社にいるようお願いしてねぐらへ帰った。
何回も念おししたから、大丈夫だとは思うけど……。
王冠だけになった袋を、かまどの前においたら、中からサブ兄ちゃんの声がした。
「アス、帰った?」
「うん。星のかけら池に入れてきた」
「そう、ありがとう」
「あのね、サブ兄ちゃん。明日どうしても帰らないといけなくなって、夜ふたりが元にもどるのみられない。もどったら、いっしょにキャッチボールしたかったけど」
「いいよ。すぐに帰りな。もう、池まで先生を運ばなくてもよくなったしね」
サブ兄ちゃんの言葉に、胸がギリってきしんだ。
「帰るには、手紙書かないといけないの。ここに紙とえんぴつある?」
「ここにはないなあ。学校になら残ってるかも。昔はいっぱいあったしね。手伝おうか?」
「いい、大丈夫。サブ兄ちゃんたちは、星のかけら探して」
「わかったよ。帰る時、ボクらに挨拶《あいさつ》なんかいらないからね。すぐに帰った方がいい」
「でも、ゲンになんにも言ってないし」
「ゲンは起きてるよ。なっ?」
サブ兄ちゃんがそういうと、右のかまどから「ふんっ」ってゲンの鼻息が聞こえた。
「あたし、ここにつれてこられた時は、どうしようと思った。でも、ふたりのおかげてすごく楽しかった。ありがとう」
「こちらこそ、ありがとう。星のかけら、たくさん集まったのはアスのおかげだ。きっと元にもどれるよ」
本当はもどれないかもしれない。かけら、あれだけでは足りないかもしれない。
あたしは、ブンブンと頭をふった。
「うん、絶対もどれるよ」
あたしの言葉の後に、ゲンのぼそぼそいう声が聞こえた。
「ありがとよ」
おじいちゃん、またあっちで会おうね。三郎さんも会おうね。それで、この島の話をふたりにしてあげるんだ。きっと信じないだろうけど。
*
まだ暗いうちからあたしは起きだし、かまどの前で頭をだまってさげた。
あとは一目散に、学校目指してかけ出した。
お母さんは病院で、ずっとあたしのそばにいるのかな。お父さんは今日仕事だろう。あたしが目を覚まして大丈夫って笑ったら、安心してくれるよね。
今日も校庭では、鹿さんたちが草を食べていた。
走りながら「おはよう!」って挨拶したら、通り過ぎてから「今日も早いなあ」って、なごむ声が聞こえた。
校舎の中にある教室の戸を次々開けていき、残された机の中に紙とえんぴつがないか探しまわった。教卓《きょうたく》の中、木のロッカーの中。
本さえあれば、ページをちぎって手紙が書けるのに、それもない。
昨日、先生が蛍になった教室の前に立って、深呼吸を一つしてから勢いよくあけた。
朝日が差し込む部屋に、やっぱり先生はいなかった。
黒板の前に立って、みおろす。先生がいたところを。
お布団代わりにしていた、布の中で何かがひかった。
手をのばしそれにふれると、昨日あたしがおいた星のかけらだった。
そうだ、紙を探しながらかけらも探せばいいんだ。それで、手紙を書いてお社へいったら、池に入れればいい。
一つでも二つでも、ないよりあった方が絶対いいにきまってる。かけらをぎゅうっと強くにぎりしめ、ポケットに入れた。
それから、校舎の中をくまなく探しても何もみつからない。
最後の一番大きな部屋は、たぶん職員室だったんだろう。いくつか残された木の机の引き出しを片っ端からあけていく。
なんにも入ってない。えんぴつ一本残ってなかった。もうここから人がいなくなって六十年。あたしはまだ、十三歳。その約五倍。途方《とほう》もない時間がながれたんだ。
引き出しをにぎる手に痛みがはしる。みたら、指にとげがささってた。とげをぬいたら、指先から血が出た。ぷっくり盛り上がる赤い血をぺろりとなめる。血の味が口の中に広がり、目をつむった。
ゆっくり目をあけると視界の端っこに、四角いものが。部屋のすみに落ちてる!
すぐさまかけよる。やった。本だ。何の本かまったくわからないほどボロボロで、表紙は雨でぬれたのか、くしゃくしゃになっていた。
これでは字が書けない。でも、中に紙が残ってたらその余白《よはく》に書けばいい。
期待に胸をふくらませ表紙をめくった。そうしたら、中身はなんにもなかった。ページ一枚もない。きれいさっぱりない。
よくみたら、ページがやぶりとられてる。
「誰よ、こんなことしたの。本は大切にしなさいって習ったでしょ!」
そのさけび声にかぶさるようにして、外からピィーと甲高い鳴き声が聞こえてきた。聞いたこともない鳴き声。外には鹿さんたちがいるけど……。
あたしはとっさに中身のない本をつかみ、外へ走り出した。まさか、まさかまさかだよね。
外へ出て一番りっぱな角の牡鹿《おじか》に、本をずいっとその鼻先へつきつけていった。
「鹿さん! 紙食べた?」
草を口の中でもしゃもしゃ食べながら、鹿さんはいった。
「おー、紙は全部食べたぞーあんまりうまくなかったな」
やっぱり……おいしくなかったら、食べないでよ。
もうこの島に紙は、一枚も残ってないの?
どうしよう……。
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