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にげろ!

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「遊んでくれたら、お礼に星のかけらの場所を教えてやるよ。探してんだろ?」

「どこにあるのか、知ってるの?」

 なんて、いい幽霊さんだ。ゲンとは仲悪かったみたいだけど、孫のあたしがその分遊ぶからゆるして。

「ああ、昨日の夜。俺の頭をかすめるみたいに落ちてきた。ほんと迷惑《めいわく》なんだよな。あんなもの、俺たちにとったらただの石ころなのに。あたったらどうしてくれるんだよ」

 えっと、いいかたは乱暴だけどかけらの場所は知ってるわけで。ちょっと遊ぶだけで手に入るんだから、ラッキー。

「じゃあ、遊んだらその場所教えてね。でも、何して遊ぶ?」

 姿がみえない幽霊と、どうやって遊ぶんだろ。ここにテレビゲームとかないし。

「かくれんぼしようぜ。俺が鬼な。百数えるから、その間ににげろ」

 姿のない鬼からにげるの? まっ、いっか。なんとかなるだろう。

 あたしは静かにやぶから出て、あたりをみまわす。石垣の上に松の木がうわってる。石垣をのぼったら、地面にパラパラと松ぼっくりが落ちていた。
 すごい。ここの松ぼっくり大きい。うれしくなって、ひとつ拾いポケットに入れた。

 顔をあげると、今にもくずれそうな家が建っていた。この中に入ってみよう。
 中はうす暗く、ボロボロ。壁へ斜《なな》めによりかかる、骨組みだけの障子《しょうじ》があった。その三角のすきまに入ろうかと思ったけど、まるみえだ。床板《ゆかいた》を何枚かはずして、立てかけよう。
 子どもの力でも簡単に板がはずれた。クギとか打ってないみたい。

 その板を、障子に立てかけながら、はっとひらめく。
 これをトラップにして、あたしは床下にかくれたらいいんじゃない? ナイスアイデア。さっそく、それらしく板を立てかけ、あたしはあいた穴から床下へおりた。

 床下はせまいけど、よつんばいになったら十分かくれられる。ひざと手をついたら、しめった土の冷たさに汗がひく。外は、あんなに暑いのに、ここはすずしい。いいところをみつけた。

 ハイハイしながら進み、うす暗い中、体育座りで鬼を待つ。地面につけたお尻が、だんだんしめってくる。

 とっくに百は数え終えてるだろう。もう少ししたら、さっきの場所にもどってみよう。だって、こんなところ絶対みつけられないし。
 勝利を確信し、自然と顔がにやついた。

 体育座りをして、何もしないで待つのは暇《ひま》だ。
 頭の中で今日これからの予定を、組み立てよう。試験の前の勉強計画とかたてるの、めんどくさいだけだったけど、今はちがう。

 ええっと、夕方までにかけらをみつけて。ひょっとして、ひとつだけじゃなくて、網元幽霊さん他にもかけらの場所知ってるかも。時間のかぎり探そうっと。なんてったって、明日はゲンたちが元の大きさにもどれる満月の日なんだから。

 で、ねぐらに帰ってサブ兄ちゃんと合流する。それから、学校にいる先生へ会いにいくと。
 先生なんの用事だろう。あたしだけじゃなくて、三人に用事だよね。

 そんなことを考えていたら、遠くで足音がする。鬼は、ここにねらいを定めたな。ごくんとつばを飲み込み、息をひそめた。
 ぎし、ぎし、ぎし。床板をふむ音がする。中に入ったんだ。

 ガタン。板をよける音。舌打ちが聞こえてきた。
 シッシッシ。ひっかかった、ひっかかった。息を殺してよろこぶあたし。その上を、足音が通りすぎていく。

 んっまって、足音? 幽霊って足がないはずじゃ……。
 何かが、あたしの上で動きまわってる。……何が?

 トン! 軽く空気をふるわす音。土に何かが着地した。ジャリ、ジャリ。土をふみしめる音がゆっくり、ゆっくり近づいてくる。
 網元幽霊は姿がみえないっていった。でも、実態がないとはいってない。つまり透明《とうめい》人間ってこと? 
 ここはすずしいはずなのに、おでこにびっしりと汗がうかぶ。

 きっと、透明人間なんだよ。鬼は透明人間……ほんとの鬼……だったらどうしよう。
 ぶんぶんと頭を強くふる。恐怖をふりはらうように。
 体育座りからよつんばいになり、近づいてくる音からソロリソロリとにげる。
 土につけた指先は、冷たさでふるえがとまらない。そのふるえは全身に広がっていく。

 あたしの背中から、甲高い声が聞こえてきた。

「みーつけた」

 その声といっしょに、足音がかけ出した。うそでしょ。ハイハイにしては早すぎる。こんなせまいところで走れるわけない。

 やだー、何に追いかけられてるのよ。自分で幽霊っていったくせに! 
 にげるあたしの背中にどさりと重みと体温が加わり、目の前が暗くなる。目かくしされたんだ。

「つかまえたぞ!」

「ギャー、助けて!」

 悲鳴とともに、あたしは立ちあがった。床板で頭をしこたまぶつけたけど、暗闇から一転、日の光に心底安堵《しんそこあんど》した。目隠しされた手が、はずれたんだ。って安堵したけど、背中にかかる重みは、まだなくなってない。
 どうしよう! こわい!

「おい! エテ公。アスに何しやがる。はなれろ!」

 ゲンスズメの声が、耳に流れこんできた。





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