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ずるいカラス

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「だから、オレたちがみつけた白い石を、おまえらがくわえて飛んでくのを何回もみてるんだって」

「さあ、なんのことだかわかりませんねえ。気のせいではありませんか?」

 ゲンスズメが、カラスの巣からはなれたところの枝にとまって、巣の中のカラスへ話しかけていた。
 木の上につくられた巣の様子は、下からみえない。でも、ゲンスズメをばかにしたカラスの冷たい声だけは、下にいてもよく聞こえる。
 丁寧な言葉づかいで、しらを切るカラス。はら立つなー。こういう態度、なんていうんだっけ。
 そうだ、慇懃無礼《いんぎんぶれい》っていうんだ。おじいちゃんといっしょにみた時代劇で、家老《かろう》がこんな感じでしゃべって、お殿様は激怒《げきど》してた。

 カラスってこの世界でもかしこいんだ。うちの近所のカラスも超かしこい。
 カラスをおっぱらおうと攻撃した近所のおじさんの車だけ、フンが落とされた。そのおじさんは、駐車する場所をかえてもまた落とされた。あげくのはてには、買いかえた車にも。
 カラスはかしこいし、すごく執念深い。

「君たちにとってはただの石だろうけど、ボクたちにはとても大切な石なんだ。意地悪しないで返してくれないか」

 サブスズメも説得に参加する。

「聞き捨てなりませんねえ。まるで、私たちがわざととってるみたいじゃないですか」

「わざとだろ! オレたちが、昼間みつけた石を夜とりにくるってわかってんだろ。そんで目の前でいっつもかっさらっていきやがって。その巣の中に石をためこんでるに決まってる」

 わー性格悪い。ゲンたちをからかって遊んでるみたいだ。カラスはいたずらも大好きだし。

「ゲンやめろ。カラスに失礼だ。お願いします。全部返してください」
 サブスズメが、カラスに頭をさげているようだ。こんな時でも、礼儀正しいな、サブスズメは。怒ってもいいのに。

「ちょうどいい。子どもたちも巣立って、今は私と妻だけ。そんなにいうのなら、どうぞ巣の中をさがしてみてください」

 えっ、そんなことしたらばれちゃうじゃない。あんがいばかなのかな、カラスって。

「その言葉にウソはねえな」

 ゲンスズメはおどすような言葉をはき捨て、サブスズメといっしょに飛んでいって、巣のふちにとまった。
 よかった。これで石をまたゲットできた。ゲンスズメはいやそうだったけど、カラスも鹿さんといっしょでいい人(鳥)なんだよ。

「ない、一個もない!」

 ゲンスズメの怒った声が、木々の間をこだまする。

「どこにかくしたんだ。教えてくれ!」

 くやしさがにじむサブスズメの声。それと、カーカーって耳ざわりなカラスの鳴き声。二羽の声が山中にひびき、私の頭の中でもぶちっという音がひびいた。

「ちょっといい加減にしなさい。返してってお願いしてるんだから、素直に返しなさいよ!」

 カラスは予想もしない声が下から聞こえてきておどろいたのか、わざわざ巣からあたしのところまで飛んできた。
 大きな体にするどい口ばし。何もかも真っ黒なカラスを思いっきりにらんでやった。
 そうしたら、カラスはひるむどころかフンって鼻息も荒く、あたしのことばかにした目でにらみ返してきた。カラスの表情なんかわかんないけど、絶対この顔はみくだした顔だ。

「おやおや、スズメくんたちは鳥のプライドを捨て、人間を味方につけているのですか」

 なんてこというのこのカラス! 失礼にもほどがある。
 カラスからあたしを守ろうと、おりてきた二羽が目をむく。

「何いってやがる。オレたち人間だ!」
 ゲンスズメがくってかかるけど、カラスは素知らぬ顔。

「君たちは、もうスズメと何らかわらない。そのくせ、私たちをみくだしているのが、いちいち癇《かん》にさわるのです。ふん、ちょっとからかって、遊んでやったが。人間を味方にする君たちに、用はない」

 なーにー、こんなこといわれてだまってられない。

「あんただって、ゲンたちがスズメだからからかったんでしょう。もし、鷹《たか》やとんびだったら絶対からかったりしないはず。そっちこそスズメのことみくだしてるじゃない」

 カラスの冷たい真っ黒い目が、ちょっとだけ細くなる。

「ほう、この人間の子どもは、なかなかいいたい放題いってくれますね。では、どうすれば、私が白い石をわたすと思いますか?」

 えっと、これっていい流れなのかな。それとも、悪い流れ? あたしの返答次第で、石が返ってくるかもしれないし、永久に返ってこないかもしれない。
 このいじわるカラスはどうやったら、返してくれるんだろう。
 よーく考えろあたし!

 このカラスはとっても頭がよくて、ばかにされるのが何よりきらい。人(カラス)にお願いする時ってどうすれば、失礼にならないんだろう。
 お願いを聞いてもらったら、ありがとうってお礼をいえばいいんだよ。それで対等じゃない?

 まてまて、このカラスはただでいうことを聞かないんだった……ただ?
 ただじゃなくて、お金はらったら? 
 そうだ、あたしのポケットには百円玉が入っていたんだ。

「わかった。白い石のかわりに、この百円玉をあげる。これと交換ってことでどう?」

 ぴかぴかひかる百円玉を指ではさみ、カラスの目の前につき出した。
これでどうだ。お願い。いいっていって!

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