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くらやみの中の光
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あたりをみまわすと、蛍《ほたる》がいっぱい飛んでいた。
お尻を緑色に点滅させて、ふぅらふぅらと飛んでいる。今は八月。ふつう蛍が飛ぶのは、地域にもよるけど六月のはず。
「とってもきれい、あたし蛍みるのはじめて」
その言葉にふたりはおどろいている。
「蛍みたことないって、アス本当にどこから来たんだよ。おまえ宇宙人か?」
そんなに、おどろくことかな。実物をみようと思ったら、遠い田舎にいかないと。
「もっとすごいもの、みせてあげる。アス、あのペットボトルっていうの出して」
サブ兄ちゃんにいわれ、からのペットボトルをあみから出した。
「ふたあけて、蛍に向けてごらん」
あたしはいわれるまま、キャップをはずし飲み口を蛍に向けた。
「さあ、蛍たち。その容器に入って」
サブ兄ちゃんが、おかしなことをいった。
入って、なんて蛍にお願いして入ってくれるわけない。入ってくれるわけないって思ったのに。蛍がペットボトルの中に自分から入っていった! うそでしょ……。
サブ兄ちゃんの言葉がわかるのか、蛍が一匹また一匹とひかりながらペットボトルの中に集まっていく。どういう魔法なのこれ。
やっぱりここって、異世界なんだ。魔法の世界なんだ。すごい!
「ふたしめて。朝になったらにがしてあげてね」
「この蛍閉じ込めたら、死んじゃわない?」
緑にひかるソードみたいなペットボトルのふたを閉めながら、あたしはいった。
「この島の蛍は死なない。一年中飛んでるんだ」
死なないなんて、魔法生物だ。やった、魔法生物ゲットだ。
うす闇の中、緑にかがやくペットボトルを宝物みたいにかかげ、しげしげとみる。
これは、あっちの世界に持っていけないよね。死んじゃったらかわいそう。でも、みんなにみせたいな。
「アス、これでくくって首からさげろよ。そうしたら、ランタンみたいになるぞ」
ゲンの小さい手から、ひもみたいに長い植物のつるをうけとった。
それをペットボトルにくくりつけ輪っかにした。その輪っかに首を通す。
あたしの胸に、かがやくペットボトル。あたりがぼんやり緑色にそまる。すごく幻想的で、うそみたいにきれい。まるで夢みたい。
「おっもしれえ。アスの顔がスイカみたいに緑色!」
ゲラゲラ笑うゲンの頭を、人差し指でグリグリおしてやる。もう、せっかくの気分が台無し。男子ってこっちでも、あっちでもいっしょだな。デリカシーがないんだから。
「それ持って、浜にいこう。さっきいった星のかけらがみられるかも」
そうだった。レアアイテム星のかけらのこと聞かないと。
首から蛍ランタンをぶらさげ、ふたりを肩に乗せ、昼間遊んだ浜へいった。
真っ暗な海。ザーンザーンととぎれることのない波の音。同じ音なのに、ずいぶん昼間とちがう。太陽の下で聞いたらワクワクする音なのに、あたりが暗いとさみしく聞こえる。
「星のかけらって、何なの? 浜辺に落ちてるの?」
あたしの問いにサブ兄ちゃんは答えてくれた。
「空から落ちてくるんだよ」
へっ? 本当にかがやくお星さまのかけらなの、たとえじゃなくて。
あたしは、思わず夜空をみあげた。
こども科学館でみたプラネタリウムそっくりな空。ううん、あれより数倍きれい。だって本物の星空だもん。キラキラひかって、まばたきしてる。
大口あけて、またたく星に吸いよせられていたら、シュッと夜空を横切る光の線があらわれた。
だんだん線が太くなって、こっちへ近づいてくる。
「あれ、流れ星? なんかこっちに落ちてきそうなんだけど」
「あれが、星のかけらだ。この島に落ちてくるぞ」
ゲンの言葉通り、ぐんぐん流れ星は近づいてくる。隕石《いんせき》? やばいあんなの落ちたら、爆発するよ。
「早く、にげようよ。隕石が落ちたら大変なことになるんだよ」
あたしはあせって、ゲンとサブ兄ちゃんの顔をみた。それなのに、ふたりは近づいてくる流れ星をうれしそうな顔でみあげ、ちっとも動かない。えーどうしたらいいの?
流れ星は、浜辺にいるあたしたちの頭の上を通り越し、後ろの山の中へ吸い込まれていった。
瞬間あたしは目をぎゅっとつむり、耳を両手でふさぎ、ちぢこまる。爆発しなくても、ものすごく大きな落下音がするはず。
しばらくたっても、なんの音もしなければ、爆発もしなかった。そっと、耳から手をはなす。
「あれは、八幡様の池に落ちたな」
「そうだね。よかったあれは探さなくてもいい。アスが来てから、星のかけらが増えた。昨日も一個落ちたし」
体がかたまっているあたしを無視して、ふたりは肩の上で好き勝手いい合っている。
「いい加減、説明して。星のかけらってなんなの!」
「ごめんごめん。あれは隕石じゃないんだ。ボクらにもよくわからないんだけど。あれが力の源《みなもと》なのは、たしか」
あたしの肩に乗るサブ兄ちゃんは、月影をうけほんのり明るい。至近距離であたしのことじっとみてる。なんか、照れるんだけど。いくら小人でも、イケメンだし。
照れてることがばれないように、あたしはちょっと不機嫌な声を出す。
「力の源ってどういう意味?」
「あの星のかけらがたまったら、体が元の大きさにもどるんだ」
お尻を緑色に点滅させて、ふぅらふぅらと飛んでいる。今は八月。ふつう蛍が飛ぶのは、地域にもよるけど六月のはず。
「とってもきれい、あたし蛍みるのはじめて」
その言葉にふたりはおどろいている。
「蛍みたことないって、アス本当にどこから来たんだよ。おまえ宇宙人か?」
そんなに、おどろくことかな。実物をみようと思ったら、遠い田舎にいかないと。
「もっとすごいもの、みせてあげる。アス、あのペットボトルっていうの出して」
サブ兄ちゃんにいわれ、からのペットボトルをあみから出した。
「ふたあけて、蛍に向けてごらん」
あたしはいわれるまま、キャップをはずし飲み口を蛍に向けた。
「さあ、蛍たち。その容器に入って」
サブ兄ちゃんが、おかしなことをいった。
入って、なんて蛍にお願いして入ってくれるわけない。入ってくれるわけないって思ったのに。蛍がペットボトルの中に自分から入っていった! うそでしょ……。
サブ兄ちゃんの言葉がわかるのか、蛍が一匹また一匹とひかりながらペットボトルの中に集まっていく。どういう魔法なのこれ。
やっぱりここって、異世界なんだ。魔法の世界なんだ。すごい!
「ふたしめて。朝になったらにがしてあげてね」
「この蛍閉じ込めたら、死んじゃわない?」
緑にひかるソードみたいなペットボトルのふたを閉めながら、あたしはいった。
「この島の蛍は死なない。一年中飛んでるんだ」
死なないなんて、魔法生物だ。やった、魔法生物ゲットだ。
うす闇の中、緑にかがやくペットボトルを宝物みたいにかかげ、しげしげとみる。
これは、あっちの世界に持っていけないよね。死んじゃったらかわいそう。でも、みんなにみせたいな。
「アス、これでくくって首からさげろよ。そうしたら、ランタンみたいになるぞ」
ゲンの小さい手から、ひもみたいに長い植物のつるをうけとった。
それをペットボトルにくくりつけ輪っかにした。その輪っかに首を通す。
あたしの胸に、かがやくペットボトル。あたりがぼんやり緑色にそまる。すごく幻想的で、うそみたいにきれい。まるで夢みたい。
「おっもしれえ。アスの顔がスイカみたいに緑色!」
ゲラゲラ笑うゲンの頭を、人差し指でグリグリおしてやる。もう、せっかくの気分が台無し。男子ってこっちでも、あっちでもいっしょだな。デリカシーがないんだから。
「それ持って、浜にいこう。さっきいった星のかけらがみられるかも」
そうだった。レアアイテム星のかけらのこと聞かないと。
首から蛍ランタンをぶらさげ、ふたりを肩に乗せ、昼間遊んだ浜へいった。
真っ暗な海。ザーンザーンととぎれることのない波の音。同じ音なのに、ずいぶん昼間とちがう。太陽の下で聞いたらワクワクする音なのに、あたりが暗いとさみしく聞こえる。
「星のかけらって、何なの? 浜辺に落ちてるの?」
あたしの問いにサブ兄ちゃんは答えてくれた。
「空から落ちてくるんだよ」
へっ? 本当にかがやくお星さまのかけらなの、たとえじゃなくて。
あたしは、思わず夜空をみあげた。
こども科学館でみたプラネタリウムそっくりな空。ううん、あれより数倍きれい。だって本物の星空だもん。キラキラひかって、まばたきしてる。
大口あけて、またたく星に吸いよせられていたら、シュッと夜空を横切る光の線があらわれた。
だんだん線が太くなって、こっちへ近づいてくる。
「あれ、流れ星? なんかこっちに落ちてきそうなんだけど」
「あれが、星のかけらだ。この島に落ちてくるぞ」
ゲンの言葉通り、ぐんぐん流れ星は近づいてくる。隕石《いんせき》? やばいあんなの落ちたら、爆発するよ。
「早く、にげようよ。隕石が落ちたら大変なことになるんだよ」
あたしはあせって、ゲンとサブ兄ちゃんの顔をみた。それなのに、ふたりは近づいてくる流れ星をうれしそうな顔でみあげ、ちっとも動かない。えーどうしたらいいの?
流れ星は、浜辺にいるあたしたちの頭の上を通り越し、後ろの山の中へ吸い込まれていった。
瞬間あたしは目をぎゅっとつむり、耳を両手でふさぎ、ちぢこまる。爆発しなくても、ものすごく大きな落下音がするはず。
しばらくたっても、なんの音もしなければ、爆発もしなかった。そっと、耳から手をはなす。
「あれは、八幡様の池に落ちたな」
「そうだね。よかったあれは探さなくてもいい。アスが来てから、星のかけらが増えた。昨日も一個落ちたし」
体がかたまっているあたしを無視して、ふたりは肩の上で好き勝手いい合っている。
「いい加減、説明して。星のかけらってなんなの!」
「ごめんごめん。あれは隕石じゃないんだ。ボクらにもよくわからないんだけど。あれが力の源《みなもと》なのは、たしか」
あたしの肩に乗るサブ兄ちゃんは、月影をうけほんのり明るい。至近距離であたしのことじっとみてる。なんか、照れるんだけど。いくら小人でも、イケメンだし。
照れてることがばれないように、あたしはちょっと不機嫌な声を出す。
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