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いきなり異世界
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坂道をのぼり、バイパス道路にそって走る。車の音はうるさいし、黒くてかたいアスファルトが熱くて熱くて。汗《あせ》がふき出してくる。久しぶりにかいた汗は、気持ちがいい。
走って三分でコンビニに到着《とうちゃく》。赤くて四角いポストはすぐ目についたけど、なんだかちがう色がまざってた。立ちどまって、ポストをじっくりみる。
白いハトだ。ハトがポストの上にとまってる。すぐそばにある自動ドアがあいて人が出てきても、知らんふりしてそこにいる。
店内からもれる冷気が、気持ちよくてすずんでるのかな? だってあのハト、ドアがあくたびちっちゃい目を細めるんだもん。
おもしろくてついついハトを観察してたら、背中につたう汗ではっと思い出す。ポケットの中のお金を。
ハトをみてる場合じゃない。早く手紙をポストへ入れて、アイス買おう。
おそるおそるポストに近づいても、ハトはちっともにげない。それどころか、あたしの顔をじっとみてポーっと鳴く。かわいいけど、赤い目が不気味。
すごく人になれたハト。ここで、エサを待ってるのかも。
ハトにつつかれないか用心して、手紙を持った右手をこわごわポストへ近づける。コトンと音がして、手紙がポストの中に落ちた。
その音を聞き、おじいちゃんのことを思い出す。
「あーあ手紙といっしょに、あたしも配達してくれないかなー」
まわりにいるのは、ハトだけだったから油断した。もう中学生なのにファンタジーな子どもっぽいこといったと、顔がちょっと赤くなる。そうしたら、
「そなたの願い、かなえてやろう」
どこかでおじさんの声がした。
*
どこ、ここ?
あたしはさっきいた場所より、ちょっとだけひんやりした空気に鳥はだがたつ。おまけに、大音量のセミの声で耳が痛い。目の前のコンビニはなくなり、あたりの景色がすべて緑一色にぬりかえられた。
緑の正体は、木、木、草、草、コケ? あと図鑑でみたシダ類ってやつ。ここって山の中? あたしが立っているあたりだけ木がはえてない。広さは、学校のグラウンドの半分ぐらいかな。
あっ、緑以外の色もあった。どぎついピンクの花が木にいっぱい咲いている。
この花は、友だちの家に咲いてたのと同じだ。たしか、キョウチクトウっていう木だったような。
キョウチクトウは、太陽の光をたっぷりあびて、毒々しい姿で立っている。
友だちの家のキョウチクトウはきれいだなって思えた。けど、ここのこれはなんだかこわい。勢いがあって、今にもあたしにおおいかぶさってきそう。
太陽は山に半分かくれている。チュンチュンとスズメの鳴き声が聞こえてきた。その声にホッとした。これはあたしが知っているのといっしょだ。
「これ、願いをかなえてやったぞ。そこの小娘」
さっきのおじさんの声が、セミの声にまざって聞こえてきた。
あたりをみると、十歩先に円筒形《えんとうけい》の赤いカタマリがある。その上に、白いハトがとまっていた。さっきのハトにちがいない。あたしは、あわててハトへかけよる。くつがふわふわの地面をける。そのたびに草をふんでガサガサ音がした。
「今しゃべったの、あんた?」
セミに負けない大声で、ハトへ話しかける。
「あんたとは失敬《しっけい》な、八幡様《はちまんさま》の神使《しんし》である我《われ》に、失礼であるぞ」
そういってハトは、胸をふくらませふんぞり返る。
「あたし、こんなところにつれてきてなんていってない」
「なぜじゃ、配達してくれと申したではないか」
「おじいちゃんのところに、いきたいっていっただけなのに」
「ふむ、配達先をまちがえたか。いたし方あるまい。この神聖な神使とて、まちがう時は、まちがうのじゃ」
このハトは自分のまちがいをあやまりもしないで、ふんぞり返っている。なんかむかつく。それに、シンシってなに?
「こんな緑しかないところやだよ。今すぐもとの場所にもどして」
あたしが必死でお願いしてるのに、むかつくハトはフンと鼻をならす。
「ここは、緑以外にもいろいろあるぞ。そなたの目は節穴か」
そういって、赤い目であたしをにらんできた。なんで、逆切れされないといけないのよ。悪いのはそっちでしょ。
「最近の人の子は、ほんにわかっておらん。がまんもたりん。この緑の世界がいかに豊かであるか。知るがよい」
「よくいうよ。自分だって暑いのがまんできなくて、コンビニの前ですずんでたくせに」
「むむっ、バレておったのか。こざかしい小娘じゃ。よしわかった。小娘しばらくここにおれ。そのひん曲がった根性をたたきなおすがよい」
「冗談《じょうだん》じゃない! こんなコンビニもないようなとこにいたら死んじゃう」
「大丈夫じゃ、死にはせん。そなたは――」
そこまでハトがいうと、急にあたりが暗くなってきた。太陽が山にかくれたんだ。
「いかん、日が暮れる。わしは鳥目で暗くなると飛べんのじゃ。早くほこらに帰らねば。さらばだ、小娘。そのうち、むかえに来てやるぞ」
それだけいって、さっさと山のほうへに飛んでいってしまった。
その方向に向かって、あたしは力いっぱいさけんだ。
「ばかーーー! そのうちっていつだーーー!」
走って三分でコンビニに到着《とうちゃく》。赤くて四角いポストはすぐ目についたけど、なんだかちがう色がまざってた。立ちどまって、ポストをじっくりみる。
白いハトだ。ハトがポストの上にとまってる。すぐそばにある自動ドアがあいて人が出てきても、知らんふりしてそこにいる。
店内からもれる冷気が、気持ちよくてすずんでるのかな? だってあのハト、ドアがあくたびちっちゃい目を細めるんだもん。
おもしろくてついついハトを観察してたら、背中につたう汗ではっと思い出す。ポケットの中のお金を。
ハトをみてる場合じゃない。早く手紙をポストへ入れて、アイス買おう。
おそるおそるポストに近づいても、ハトはちっともにげない。それどころか、あたしの顔をじっとみてポーっと鳴く。かわいいけど、赤い目が不気味。
すごく人になれたハト。ここで、エサを待ってるのかも。
ハトにつつかれないか用心して、手紙を持った右手をこわごわポストへ近づける。コトンと音がして、手紙がポストの中に落ちた。
その音を聞き、おじいちゃんのことを思い出す。
「あーあ手紙といっしょに、あたしも配達してくれないかなー」
まわりにいるのは、ハトだけだったから油断した。もう中学生なのにファンタジーな子どもっぽいこといったと、顔がちょっと赤くなる。そうしたら、
「そなたの願い、かなえてやろう」
どこかでおじさんの声がした。
*
どこ、ここ?
あたしはさっきいた場所より、ちょっとだけひんやりした空気に鳥はだがたつ。おまけに、大音量のセミの声で耳が痛い。目の前のコンビニはなくなり、あたりの景色がすべて緑一色にぬりかえられた。
緑の正体は、木、木、草、草、コケ? あと図鑑でみたシダ類ってやつ。ここって山の中? あたしが立っているあたりだけ木がはえてない。広さは、学校のグラウンドの半分ぐらいかな。
あっ、緑以外の色もあった。どぎついピンクの花が木にいっぱい咲いている。
この花は、友だちの家に咲いてたのと同じだ。たしか、キョウチクトウっていう木だったような。
キョウチクトウは、太陽の光をたっぷりあびて、毒々しい姿で立っている。
友だちの家のキョウチクトウはきれいだなって思えた。けど、ここのこれはなんだかこわい。勢いがあって、今にもあたしにおおいかぶさってきそう。
太陽は山に半分かくれている。チュンチュンとスズメの鳴き声が聞こえてきた。その声にホッとした。これはあたしが知っているのといっしょだ。
「これ、願いをかなえてやったぞ。そこの小娘」
さっきのおじさんの声が、セミの声にまざって聞こえてきた。
あたりをみると、十歩先に円筒形《えんとうけい》の赤いカタマリがある。その上に、白いハトがとまっていた。さっきのハトにちがいない。あたしは、あわててハトへかけよる。くつがふわふわの地面をける。そのたびに草をふんでガサガサ音がした。
「今しゃべったの、あんた?」
セミに負けない大声で、ハトへ話しかける。
「あんたとは失敬《しっけい》な、八幡様《はちまんさま》の神使《しんし》である我《われ》に、失礼であるぞ」
そういってハトは、胸をふくらませふんぞり返る。
「あたし、こんなところにつれてきてなんていってない」
「なぜじゃ、配達してくれと申したではないか」
「おじいちゃんのところに、いきたいっていっただけなのに」
「ふむ、配達先をまちがえたか。いたし方あるまい。この神聖な神使とて、まちがう時は、まちがうのじゃ」
このハトは自分のまちがいをあやまりもしないで、ふんぞり返っている。なんかむかつく。それに、シンシってなに?
「こんな緑しかないところやだよ。今すぐもとの場所にもどして」
あたしが必死でお願いしてるのに、むかつくハトはフンと鼻をならす。
「ここは、緑以外にもいろいろあるぞ。そなたの目は節穴か」
そういって、赤い目であたしをにらんできた。なんで、逆切れされないといけないのよ。悪いのはそっちでしょ。
「最近の人の子は、ほんにわかっておらん。がまんもたりん。この緑の世界がいかに豊かであるか。知るがよい」
「よくいうよ。自分だって暑いのがまんできなくて、コンビニの前ですずんでたくせに」
「むむっ、バレておったのか。こざかしい小娘じゃ。よしわかった。小娘しばらくここにおれ。そのひん曲がった根性をたたきなおすがよい」
「冗談《じょうだん》じゃない! こんなコンビニもないようなとこにいたら死んじゃう」
「大丈夫じゃ、死にはせん。そなたは――」
そこまでハトがいうと、急にあたりが暗くなってきた。太陽が山にかくれたんだ。
「いかん、日が暮れる。わしは鳥目で暗くなると飛べんのじゃ。早くほこらに帰らねば。さらばだ、小娘。そのうち、むかえに来てやるぞ」
それだけいって、さっさと山のほうへに飛んでいってしまった。
その方向に向かって、あたしは力いっぱいさけんだ。
「ばかーーー! そのうちっていつだーーー!」
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