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A面「サヨナラ、二月のララバイ」
海辺の駅
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まずは、県内最大のターミナル駅を目指して、十五分遅れてホームに入ってきた電車に乗り込んだ。南へ向かう車窓からは次第に雪景色はなくなり、一時間半かけて到着したターミナル駅の上空には、青空が広がっていた。
そこから、海へ向かう路線に乗り換え、県を越えて数駅乗ると降車する。そこには最終目的地の駅があるローカル線が、乗り入れている。もう、この時点で時刻は正午を過ぎていた。
ホームの立ち食いソバを食べてから一時間待つと、ようやく、一両編成のワンマン列車がやってきた。クリーム色に青いラインの入った列車は、緩慢な動きで海を目指し走り出した。
街中を走っていた列車は、しばらくすると海沿いに出た。進行方向左手には冬枯れの山がせまり、右手には柔らかな陽光をうけ、どこまでも青い海が広がっている。
まもなく、列車は小さな駅で停車した。幅の狭いコンクリートのホームに、俺と晶が降り立つと、鼻先に潮の香がただよう。すでに太陽は西に傾きかけていた。
列車が走り去ると視界が開けた。目の前に蓋の開いた蒼天と、海岸沿いから沖へ向かい青が藍色に代わる海がどこまでも続いている。海と空の境界に、まっすぐ伸びた水平線が横たわっていた。驚くことにこの駅には空と海しかない。
だいぶ南にやってきたので雪の気配は微塵もなく、気温も暖かい。時折海からの風が強く吹き付けるが、あまり寒いとは思わなかった。
ホームには三本足で支えられたトタンの屋根と青いベンチが二つだけおかれている。平日の昼間に、乗降客は誰もいない。晶がベンチに座り腕と足を投げ出し、大きく伸びをした。
「やっとついた。昔海に一番近い駅って聞いて行ってみたかったんだ。本当に海が目の前だ」
単線の線路の向こうは崖になっていて、すぐ下は波打ち際だ。俺は晶の隣に腰をおろす。波の音が耳に心地よく、しばらく二人でだまって海を眺めていた。すると、晶が大きなあくびをしてごろんとベンチの上で横になった。
「眠くなってきた。帰りたくなったら起こしてよ」
晶の上半身で三人掛けのベンチはいっぱいになり、あいつは俺の膝の上に頭を乗せてあっという間に寝息をたてはじめた。
あまりにも子供っぽい行動にあきれたけれど、膝の上の頭はそのままにした。ここに連れてきてもらった礼として、起きるまでの間膝を貸してやろう。
それほど、この景色は価値あるものだった。
刻一刻と太陽は落ちていき、空と海の色が徐々に変わっていく。今この時をとどめ、変化を拒むことなど許されないほどその情景は劇的に美しかった。
途切れぬ波音が、体の中に満ちていく。
そこから、海へ向かう路線に乗り換え、県を越えて数駅乗ると降車する。そこには最終目的地の駅があるローカル線が、乗り入れている。もう、この時点で時刻は正午を過ぎていた。
ホームの立ち食いソバを食べてから一時間待つと、ようやく、一両編成のワンマン列車がやってきた。クリーム色に青いラインの入った列車は、緩慢な動きで海を目指し走り出した。
街中を走っていた列車は、しばらくすると海沿いに出た。進行方向左手には冬枯れの山がせまり、右手には柔らかな陽光をうけ、どこまでも青い海が広がっている。
まもなく、列車は小さな駅で停車した。幅の狭いコンクリートのホームに、俺と晶が降り立つと、鼻先に潮の香がただよう。すでに太陽は西に傾きかけていた。
列車が走り去ると視界が開けた。目の前に蓋の開いた蒼天と、海岸沿いから沖へ向かい青が藍色に代わる海がどこまでも続いている。海と空の境界に、まっすぐ伸びた水平線が横たわっていた。驚くことにこの駅には空と海しかない。
だいぶ南にやってきたので雪の気配は微塵もなく、気温も暖かい。時折海からの風が強く吹き付けるが、あまり寒いとは思わなかった。
ホームには三本足で支えられたトタンの屋根と青いベンチが二つだけおかれている。平日の昼間に、乗降客は誰もいない。晶がベンチに座り腕と足を投げ出し、大きく伸びをした。
「やっとついた。昔海に一番近い駅って聞いて行ってみたかったんだ。本当に海が目の前だ」
単線の線路の向こうは崖になっていて、すぐ下は波打ち際だ。俺は晶の隣に腰をおろす。波の音が耳に心地よく、しばらく二人でだまって海を眺めていた。すると、晶が大きなあくびをしてごろんとベンチの上で横になった。
「眠くなってきた。帰りたくなったら起こしてよ」
晶の上半身で三人掛けのベンチはいっぱいになり、あいつは俺の膝の上に頭を乗せてあっという間に寝息をたてはじめた。
あまりにも子供っぽい行動にあきれたけれど、膝の上の頭はそのままにした。ここに連れてきてもらった礼として、起きるまでの間膝を貸してやろう。
それほど、この景色は価値あるものだった。
刻一刻と太陽は落ちていき、空と海の色が徐々に変わっていく。今この時をとどめ、変化を拒むことなど許されないほどその情景は劇的に美しかった。
途切れぬ波音が、体の中に満ちていく。
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