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【本編】第1章 始まりと出会い
第20話
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リズ「いっ…!」
波がアギトを呑み込んだ後、アギトが最後に放った魔法を受ける。
その爆風と反動で大きく飛ばされた。
リズ「はぁ…はぁ…いたたた…。」
肩で呼吸をし、なんとか息を整える。
ライフゲージに目を移すと、気がつけばほとんどなくなっていた。
大丈夫、まだ退場にはなっていない。
リズ「倒せた…私、倒せたのかな…?」
戦いが終わったことで急に積もる疲労感と手に残る手応えがあった。
リズはベガの方へ立ち寄る。
ベガは未だに目を閉じていた。
リズ「退場…しちゃったんだよね。」
リズはベガの手を取り胸の前で両手で優しく包んだ。
ベガの仇を討てたことをいち早く言ってあげたかった。
気づけば空は元通り晴れ晴れとしており、嵐のような雨や風も止んでいた。
あれほどの力を自分で持っていたことに驚きを隠せなかったが、自分はここまでやれたんだと次第に自信へと繋がっていく。
???「いやぁ、お見事でした。」
背後から拍手と共に声をかけられる。
聞き覚えのある優しい声だった。
途端に背筋が凍る。
恐る恐る、ゆっくりと声がした背後を振り向く。
リズ「……しぶといですね。」
アギト「いえいえ、あと一歩のところまで詰められて正直危なかったですが。」
リズは立ち上がり、魔導書を出現させる。
体力もマナも枯渇しているせいか、立ちくらみがしてふらついた。
アギト「無理しないでいいですよ、ベガくんと共に今退場してあげますから。」
そういってアギトは右手を前に出す。
リズに対抗する余力は残っていなかった。
リズ「っ…!」
リズは目を強く瞑り、退場するその時を待った。
アギト「《グレイスストーム》」
目を瞑った状態でも技が迫ってくるのが分かった。
あれほど動いて、波に呑み込まれ、最後は残りの力で対抗し魔法を放ったのにも関わらず、これだけのパワーのある魔法を使えることに尊敬の気持ちを隠せなかった。
──シュイン!
目の前で何かが切れた音と共に迫ってくる魔法を感じなくなった。
魔法が当たった気はしなかったのだが。
リズは違和感を覚え目を開ける。
???「まだ、終わってねぇぞ。」
目を開けると魔法はなく、アギトの姿が見えていた。
アギトは口を半開きにして少し驚いた表情を見せる。
そして、後ろから誰かが歩いてくる足音が聞こえた。
リズは後ろを振り返るとそこにいたのは──
ベガ「俺はまだ、負けてねぇ。」
リズ「ベ……ベガくん…なの…?」
涙が溢れる。
ベガがまだ退場してないことを知り、安心したのか良かったと思ったのか。
仕舞いには腰が抜けてしまった。
ベガはリズがボロボロの姿で泣いているのを見て、
ベガ「おいおい、まだ勝負は終わってねぇぞ。泣くのは後だ…戦えるか?」
ベガが手を差し伸べる。
リズは頷き、手を取って立ち上がる。
涙を拭い、迷いも全て断ち切った。
リズ「行くよ、ベガくん。」
ベガ「おう!」
手を繋いだまま2人は反対の手をお互い前に出す。
2人のマナが一点に集中する。
アギト「さぁ、見せてください。2人の技を!」
ベガ・リズ「《トロピカルビア》!」
魔法を詠唱すると、矢のように魔法が放たれる。
アギト目掛けて一直線に伸びる魔法は詠唱後一瞬でアギトの手前まで来ていた。
アギト「《コンバート・リバース》」
アギトは魔法に触れる直前、目の前に結界のような透明のシールドを張った。
魔法がそのシールドに当たった瞬間──
ベガ「そんなのありかよ。」
ベガとリズを目掛けて跳ね返り、2人は自分達が放った攻撃を受けた。
砂塵が高く舞い上がる。
アギトは後ろを振り返り、何もすることなくこの場を去っていく。
2人は力なく倒れ込んでいた。
リズ「何が起きたの…?」
リズはもう喋ることが精一杯のように、小さく掠れた声で呟いた。
ベガ「俺達の魔法を跳ね返したんだ。ったく、流石に強すぎだろ。」
ベガの言葉を聞いて納得したのか、リズは少し笑った。
リズ「仕方ないよ。でも私、なんか負けたのに清々しいんだよね。」
ベガはリズの顔を一度見て、もう一度青空に目を向ける。
ベガ「あぁ、俺もだ。同期にこれだけ強い奴がいるなら、俺は魔法学園に来て正解だったと思う。」
リズ「本当に、凄いね。私達もいつか──」
2人は仰向けに倒れ込んだまま青空を眺め、その場から笑ったまま静かに消えた。
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
ライト「はぁっ…はぁっ…はぁっ…。」
ライトは森の中をひたすらと走っていた。
やはりマップが広いせいもあったかもしれないが、移動だけに体力を要するなんて日々の練習が足りていないと思った。
しかし、焦って走る理由ももちろんある。
通信魔法中、森の中のエンリがいた辺りだけに突然黒い怪しげな雲が出現したからだ。
今はもうなくなっているが、もしかすると誰かいるのかもしれないし戦ってる最中かもしれない。
ライト「ここだ…!」
ライトは立ち止まって周囲を見渡す。
木々は倒れ、地面は所々抉られ、亀裂が走ってるところもある。
ここで戦いがあったのは間違いないようだ。
ライト「エンリくんは…他のみんなは?」
大声を出すのは敵に見つかるのでしたくなかったが、呼びかけたい叫びたい気持ちが喉元まで来たのをなんとか抑える。
ライト「そうだ…通信魔法!」
ライトはチーム内専用の通信魔法を繋ぐ。
しかし、時間が経っても誰とも繋がらなかった。
ライト「嘘だろ…みんな、やられちゃったのか…?」
そんなわけないと呪文のように何度も自分に言い聞かせるが、時間が経つにつれて不安と胸のざわつきは増していく。
???「やっと会えましたね、ライトくん。」
声がした方を振り向くと、誰かがこっちへ歩いてきてるのを感知した。
やがて人影が見え、その姿が現れた。
ライト「もしかして、アギトさんが…。」
アギトはライトの言葉の意味を察したらしく、普段と変わらない優しい声で返した。
アギト「あぁ、リズさんとベガくん。彼らは私が先程退場させてあげましたよ。」
その事実を伝えられ、ライトは言葉も出なかった。
ただ呆然とその場に立ちすくんでいた。
ライト「間に合わなかった…。」
今すぐ崩れ落ちてしまいそうな体をなんとか立たせ、叫んで逃げたい気持ちをぐっと堪える。
アギト「あの威勢はどこへいったんですか?」
しばらくの沈黙の後、アギトが口を開いた。
ハッとライトは気づく。
今は対抗戦の最中でまだ終わったわけではない、集中しなくては。
そう自分に言い聞かせ、深呼吸をした。
アギト「ライトくん、君はこの1週間で格段と成長を遂げているのを僕は知っている。」
アギトは淡々と静かに呟いた。
アギト「君は僕を倒す為に今日まで頑張って来たんじゃないんですか?」
その通りだった。
この1週間でチームメイトに支えられながら、一つ一つコツコツと鍛錬を重ねてきた。
アギト「ライトくんの気持ちもわかりますが、今やるべきことはそれではないはずです。」
ライトは悔しくて仕方がなかった。
全くアギトの言う通りだった。
ライトの中で衝撃があったのは事実、それでも魔術師としてやるべき事は残されている。
ライト「《ブリッツストーム》!」
ライトの攻撃は当たらなかったが、両者にとってそれぞれ感じるものがあった。
アギト(その通りですよ、ライトくん。)
アギトは持ち前の精霊を召喚した。
もちろん本気だ。
ライト「《ブリッツストーム》!」
立て続けに攻撃を繰り返す。
アギトくらいの実力なら対策や訓練はしてきているだろうが、基本的に遠距離攻撃を使う召喚士は近距離戦が苦手な人が多いはずだ。
距離を取らせない、どこか隙をつけたら一気に畳み掛けるつもりだ。
アギト(立ち回りは良く出来ている…ですが──)
アギト「それだけでは僕を一向に倒すことは出来ませんよ。」
アギトは体勢を低くしてライトの左足付近を通り、背後へと一気に回った。
アギト「《テンペスト》!」
ライト「っと…!」
なんとか避けるが体勢を崩してしまう。
アギトはその一瞬を見逃さなかった。
アギト「《テンペスト》!」
もう一度放たれた魔法は今度こそライトにヒットした。
ライトは被弾の衝撃で大きく飛ばされる。
ライト「ぐぁっ…!」
森の中をおよそ50mほど飛ばされただろうか。
地面を転がり、最後は背中から木に思いきり衝突し静止した。
ライト「っぁ…!」
魔法が腹部の悪いところに当たったか、呼吸が安定しない。
それに、とんでもない勢いを余して木にぶつかったせいか、肺が潰れたように痛い。
ライト「はぁっ…、っ…はぁっ…。」
なんとか痛みを我慢しつつ根性で立ち上がる。
少しフラついたがまだ動く力は残っていた。
アギト「まだまだいきますよ、《グレイスストーム》!」
ライト「っ…!」
なんとか躱すもバランスが上手く取れずそのまま力なく転んだ。
ライト(反撃しないと…!)
ライト「《エレキサンダー》!」
アギト「《グレイスストーム》!」
両者の魔法が接触し合い、その間に体勢を立て直そうとするがアギトは一気に接近して来る。
ライト(なんでっ…!)
召喚士は近距離戦が不得意なはずだが、得意な遠距離戦を捨ててまで近づいてきた。
次から次へとアギトはライトに拳を出し、ライトはそれを退ける。
もう魔法なんて使わない、完全な格闘戦になっている。
ライト(休む暇なんてない…これでも召喚士なのかっ…!)
近距離戦を得意とする魔術師かと勘違いするくらい、俊敏な動きで攻め込んでくる。
ライト「ぐっ…!」
アギトの右手がライトの左の頬を殴り、隙が出来たところに左足で腹部を思い切り前に蹴り飛ばす。
まるで本物の格闘家を相手にしてるかのような俊敏さとパワーを持ち合わせている。
ライト(くそっ、距離を詰めなきゃ勝てないのに。これじゃあ距離を詰めても返り討ちに合うだけだ…。)
アギトがゆっくりと歩いてくる。
今のライトの状態ではまともに戦えない。
逃げようかと考えたが、逃げるわけにはいかなかった。
アギト「もう、終わりにしますか?」
ライト「まだです…俺はまだ、やりきってない。」
腹部を抑えながら立ち上がる。
動く度に腹部が激しく痛む。
ライト(動け、俺の体…!)
歯を食いしばり、痛みを我慢しつつ息を大きく吸って地面を思いきり蹴った。
ライト「《ブリッツストーム》!」
何度躱されたとしても。
ライト(絶対に…!)
何度倒されても。
ライト(俺の一撃を…!)
何度挫けても。
ライト(俺の成長を見てもらうんだ…!)
──ビリビリッ!
ライトの周囲の空気が帯電していく。
自然と右手に電気が走る、今なら──
低い姿勢から打ち付けられたライトの右手。
激しい轟音と迸る電撃の音。
抉れる地面、亀裂が入り地面が放電力により浮き上がる。
ライト「《雷切》っ!」
それは雷が走ったような、一瞬の出来事だった。
波がアギトを呑み込んだ後、アギトが最後に放った魔法を受ける。
その爆風と反動で大きく飛ばされた。
リズ「はぁ…はぁ…いたたた…。」
肩で呼吸をし、なんとか息を整える。
ライフゲージに目を移すと、気がつけばほとんどなくなっていた。
大丈夫、まだ退場にはなっていない。
リズ「倒せた…私、倒せたのかな…?」
戦いが終わったことで急に積もる疲労感と手に残る手応えがあった。
リズはベガの方へ立ち寄る。
ベガは未だに目を閉じていた。
リズ「退場…しちゃったんだよね。」
リズはベガの手を取り胸の前で両手で優しく包んだ。
ベガの仇を討てたことをいち早く言ってあげたかった。
気づけば空は元通り晴れ晴れとしており、嵐のような雨や風も止んでいた。
あれほどの力を自分で持っていたことに驚きを隠せなかったが、自分はここまでやれたんだと次第に自信へと繋がっていく。
???「いやぁ、お見事でした。」
背後から拍手と共に声をかけられる。
聞き覚えのある優しい声だった。
途端に背筋が凍る。
恐る恐る、ゆっくりと声がした背後を振り向く。
リズ「……しぶといですね。」
アギト「いえいえ、あと一歩のところまで詰められて正直危なかったですが。」
リズは立ち上がり、魔導書を出現させる。
体力もマナも枯渇しているせいか、立ちくらみがしてふらついた。
アギト「無理しないでいいですよ、ベガくんと共に今退場してあげますから。」
そういってアギトは右手を前に出す。
リズに対抗する余力は残っていなかった。
リズ「っ…!」
リズは目を強く瞑り、退場するその時を待った。
アギト「《グレイスストーム》」
目を瞑った状態でも技が迫ってくるのが分かった。
あれほど動いて、波に呑み込まれ、最後は残りの力で対抗し魔法を放ったのにも関わらず、これだけのパワーのある魔法を使えることに尊敬の気持ちを隠せなかった。
──シュイン!
目の前で何かが切れた音と共に迫ってくる魔法を感じなくなった。
魔法が当たった気はしなかったのだが。
リズは違和感を覚え目を開ける。
???「まだ、終わってねぇぞ。」
目を開けると魔法はなく、アギトの姿が見えていた。
アギトは口を半開きにして少し驚いた表情を見せる。
そして、後ろから誰かが歩いてくる足音が聞こえた。
リズは後ろを振り返るとそこにいたのは──
ベガ「俺はまだ、負けてねぇ。」
リズ「ベ……ベガくん…なの…?」
涙が溢れる。
ベガがまだ退場してないことを知り、安心したのか良かったと思ったのか。
仕舞いには腰が抜けてしまった。
ベガはリズがボロボロの姿で泣いているのを見て、
ベガ「おいおい、まだ勝負は終わってねぇぞ。泣くのは後だ…戦えるか?」
ベガが手を差し伸べる。
リズは頷き、手を取って立ち上がる。
涙を拭い、迷いも全て断ち切った。
リズ「行くよ、ベガくん。」
ベガ「おう!」
手を繋いだまま2人は反対の手をお互い前に出す。
2人のマナが一点に集中する。
アギト「さぁ、見せてください。2人の技を!」
ベガ・リズ「《トロピカルビア》!」
魔法を詠唱すると、矢のように魔法が放たれる。
アギト目掛けて一直線に伸びる魔法は詠唱後一瞬でアギトの手前まで来ていた。
アギト「《コンバート・リバース》」
アギトは魔法に触れる直前、目の前に結界のような透明のシールドを張った。
魔法がそのシールドに当たった瞬間──
ベガ「そんなのありかよ。」
ベガとリズを目掛けて跳ね返り、2人は自分達が放った攻撃を受けた。
砂塵が高く舞い上がる。
アギトは後ろを振り返り、何もすることなくこの場を去っていく。
2人は力なく倒れ込んでいた。
リズ「何が起きたの…?」
リズはもう喋ることが精一杯のように、小さく掠れた声で呟いた。
ベガ「俺達の魔法を跳ね返したんだ。ったく、流石に強すぎだろ。」
ベガの言葉を聞いて納得したのか、リズは少し笑った。
リズ「仕方ないよ。でも私、なんか負けたのに清々しいんだよね。」
ベガはリズの顔を一度見て、もう一度青空に目を向ける。
ベガ「あぁ、俺もだ。同期にこれだけ強い奴がいるなら、俺は魔法学園に来て正解だったと思う。」
リズ「本当に、凄いね。私達もいつか──」
2人は仰向けに倒れ込んだまま青空を眺め、その場から笑ったまま静かに消えた。
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ライト「はぁっ…はぁっ…はぁっ…。」
ライトは森の中をひたすらと走っていた。
やはりマップが広いせいもあったかもしれないが、移動だけに体力を要するなんて日々の練習が足りていないと思った。
しかし、焦って走る理由ももちろんある。
通信魔法中、森の中のエンリがいた辺りだけに突然黒い怪しげな雲が出現したからだ。
今はもうなくなっているが、もしかすると誰かいるのかもしれないし戦ってる最中かもしれない。
ライト「ここだ…!」
ライトは立ち止まって周囲を見渡す。
木々は倒れ、地面は所々抉られ、亀裂が走ってるところもある。
ここで戦いがあったのは間違いないようだ。
ライト「エンリくんは…他のみんなは?」
大声を出すのは敵に見つかるのでしたくなかったが、呼びかけたい叫びたい気持ちが喉元まで来たのをなんとか抑える。
ライト「そうだ…通信魔法!」
ライトはチーム内専用の通信魔法を繋ぐ。
しかし、時間が経っても誰とも繋がらなかった。
ライト「嘘だろ…みんな、やられちゃったのか…?」
そんなわけないと呪文のように何度も自分に言い聞かせるが、時間が経つにつれて不安と胸のざわつきは増していく。
???「やっと会えましたね、ライトくん。」
声がした方を振り向くと、誰かがこっちへ歩いてきてるのを感知した。
やがて人影が見え、その姿が現れた。
ライト「もしかして、アギトさんが…。」
アギトはライトの言葉の意味を察したらしく、普段と変わらない優しい声で返した。
アギト「あぁ、リズさんとベガくん。彼らは私が先程退場させてあげましたよ。」
その事実を伝えられ、ライトは言葉も出なかった。
ただ呆然とその場に立ちすくんでいた。
ライト「間に合わなかった…。」
今すぐ崩れ落ちてしまいそうな体をなんとか立たせ、叫んで逃げたい気持ちをぐっと堪える。
アギト「あの威勢はどこへいったんですか?」
しばらくの沈黙の後、アギトが口を開いた。
ハッとライトは気づく。
今は対抗戦の最中でまだ終わったわけではない、集中しなくては。
そう自分に言い聞かせ、深呼吸をした。
アギト「ライトくん、君はこの1週間で格段と成長を遂げているのを僕は知っている。」
アギトは淡々と静かに呟いた。
アギト「君は僕を倒す為に今日まで頑張って来たんじゃないんですか?」
その通りだった。
この1週間でチームメイトに支えられながら、一つ一つコツコツと鍛錬を重ねてきた。
アギト「ライトくんの気持ちもわかりますが、今やるべきことはそれではないはずです。」
ライトは悔しくて仕方がなかった。
全くアギトの言う通りだった。
ライトの中で衝撃があったのは事実、それでも魔術師としてやるべき事は残されている。
ライト「《ブリッツストーム》!」
ライトの攻撃は当たらなかったが、両者にとってそれぞれ感じるものがあった。
アギト(その通りですよ、ライトくん。)
アギトは持ち前の精霊を召喚した。
もちろん本気だ。
ライト「《ブリッツストーム》!」
立て続けに攻撃を繰り返す。
アギトくらいの実力なら対策や訓練はしてきているだろうが、基本的に遠距離攻撃を使う召喚士は近距離戦が苦手な人が多いはずだ。
距離を取らせない、どこか隙をつけたら一気に畳み掛けるつもりだ。
アギト(立ち回りは良く出来ている…ですが──)
アギト「それだけでは僕を一向に倒すことは出来ませんよ。」
アギトは体勢を低くしてライトの左足付近を通り、背後へと一気に回った。
アギト「《テンペスト》!」
ライト「っと…!」
なんとか避けるが体勢を崩してしまう。
アギトはその一瞬を見逃さなかった。
アギト「《テンペスト》!」
もう一度放たれた魔法は今度こそライトにヒットした。
ライトは被弾の衝撃で大きく飛ばされる。
ライト「ぐぁっ…!」
森の中をおよそ50mほど飛ばされただろうか。
地面を転がり、最後は背中から木に思いきり衝突し静止した。
ライト「っぁ…!」
魔法が腹部の悪いところに当たったか、呼吸が安定しない。
それに、とんでもない勢いを余して木にぶつかったせいか、肺が潰れたように痛い。
ライト「はぁっ…、っ…はぁっ…。」
なんとか痛みを我慢しつつ根性で立ち上がる。
少しフラついたがまだ動く力は残っていた。
アギト「まだまだいきますよ、《グレイスストーム》!」
ライト「っ…!」
なんとか躱すもバランスが上手く取れずそのまま力なく転んだ。
ライト(反撃しないと…!)
ライト「《エレキサンダー》!」
アギト「《グレイスストーム》!」
両者の魔法が接触し合い、その間に体勢を立て直そうとするがアギトは一気に接近して来る。
ライト(なんでっ…!)
召喚士は近距離戦が不得意なはずだが、得意な遠距離戦を捨ててまで近づいてきた。
次から次へとアギトはライトに拳を出し、ライトはそれを退ける。
もう魔法なんて使わない、完全な格闘戦になっている。
ライト(休む暇なんてない…これでも召喚士なのかっ…!)
近距離戦を得意とする魔術師かと勘違いするくらい、俊敏な動きで攻め込んでくる。
ライト「ぐっ…!」
アギトの右手がライトの左の頬を殴り、隙が出来たところに左足で腹部を思い切り前に蹴り飛ばす。
まるで本物の格闘家を相手にしてるかのような俊敏さとパワーを持ち合わせている。
ライト(くそっ、距離を詰めなきゃ勝てないのに。これじゃあ距離を詰めても返り討ちに合うだけだ…。)
アギトがゆっくりと歩いてくる。
今のライトの状態ではまともに戦えない。
逃げようかと考えたが、逃げるわけにはいかなかった。
アギト「もう、終わりにしますか?」
ライト「まだです…俺はまだ、やりきってない。」
腹部を抑えながら立ち上がる。
動く度に腹部が激しく痛む。
ライト(動け、俺の体…!)
歯を食いしばり、痛みを我慢しつつ息を大きく吸って地面を思いきり蹴った。
ライト「《ブリッツストーム》!」
何度躱されたとしても。
ライト(絶対に…!)
何度倒されても。
ライト(俺の一撃を…!)
何度挫けても。
ライト(俺の成長を見てもらうんだ…!)
──ビリビリッ!
ライトの周囲の空気が帯電していく。
自然と右手に電気が走る、今なら──
低い姿勢から打ち付けられたライトの右手。
激しい轟音と迸る電撃の音。
抉れる地面、亀裂が入り地面が放電力により浮き上がる。
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