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6.湊と壮馬
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湊Side
「一度話をしようぜ」
そう言って壮馬に掴まれた手には今までにはないほどの力が込められていた。
落ち着いて話をするために、互いにソファに腰掛ける。
壮馬はどこまで知っている?
鈴がまさか猫であることは知らないだろう。
『仮にも生徒会長なんだからやっていいことと悪い事がある。それは分かってるな?』
この言葉から推測すると同居していること、俺がコネを使って高校に入れたこと、そもそも理事長と俺に繋がりがあること。どれがバレているのか。
「別にさ、無理に話せって言ってるわけじゃないから」
唐突に沈黙を破るように壮馬が言う。
「壮馬は、今何を知ってる?」
しばしの無言が続いたあと、ふと目が合った。
「…何を知ってるも何も、何も知るわけないだろ(笑)」
だってお前何も言ってくれねぇもん。そう付け加え壮馬はやれやれと少し目を細めて笑った。
え、と思わず間抜けな声が出る。
「ただ、もし湊が一人でかかえこんで一人で責任を取ろうとしてるならオレも一緒に考えてやりたいって思っただけ」
『もっと周りを頼ってもいいんじゃね』
壮馬の紡ぐ言葉に胸が熱くなる。内蔵を全て掴まれたような、こみ上げるものがある。なんとも言えないこの感覚は自分の歪む視界が答えをくれた。
ああ、嬉しくて泣きそうなのだと。
俺はあまり泣かない。泣くほど何かに執着するのを避けている。そうすれば悔しいとも、悲しいとも、何も思わないから。、感情的になるほど執着すると後に苦しいのは自分だから。しかし、壮馬にはその壁をとっくに破壊されていたようだ。
「……ありがとう、ホントに…」
思い返せばこんなことが過去にもあった。
そもそも俺と壮馬の出会いは高校1年生のときでそこまで長い付き合いじゃない。ただ1年生から同じクラスで、一緒に生徒会メンバーとして活動して多くの時間を共にしてきた。
正直、俺と壮馬の性格は全然違う。バカ真面目で、でもつまらない奴だと思われることを恐れて人前ではニコニコ自分を偽って、周りから『王子』と言われる程に人間味を失っていた。それに比べて壮馬は素直で根っからの『いい奴』だと思う。俺のように周りの評価だけじゃなくて自分の意思がある。それがずっと羨ましくて、少し妬ましくて彼とは距離をとっていた。
「お前さ、疲れねぇの?その王子ってやつ」
ある日突然だった。彼にそう声をかけられたのは。
彼のことは同じクラスメイトでありながら、話したことはなかった。ただ、彼の周りにはいつも人が集まっていて人気者であったため覚えていた。よく女の子たちの話にも名前が挙がっている。
放課後の教室には俺と壮馬の二人しかいない。そして、俺の机の上には英単語がぎっしり詰まったノートと、数式の羅列があった。
「えぇっと、菊川壮馬君だよね?どうしたの?」
とにかく万人受けする笑顔を貼り付け、なるべく物腰柔らかく返事をする。
「特に用事はねぇけど、なんとなく話しかけた」
そう言うと彼は俺の前の席に座りスマホを触り始めた。
そっか、それだけ言うと集中しづらいが時間が勿体ないため勉強を再開した。彼も特に何かを話すでもなく、ただそこに座っていた。1時間ほど勉強しそろそろ帰ろうかと席を立ったとき、彼も一緒に立ち上がった。
「ほら、早く帰るぞ」
何故か一緒に帰ることになっていた。別に何かを一緒にしたわけじゃないし、話をしたわけじゃない。絶対に楽しくなかったはずだ。他のクラスメイトだったらもっと配慮して、最近の流行りの話だとか相手の話したいことを察して居心地が良い空間にしただろう。
ただ、菊川壮馬にはそうしなかった。
理由は簡単、彼のことが苦手だから。
別に嫌いだから話しかけないでおこうとかではない。何を話したらいいのか分からないのだ。自分とは違う、偽らなくても人が集まる『本物』を前にすると自分が何をしているのか分からなくなるときがある。
「オレらさ、結構人望ある方じゃん?まぁ色々頼られることも多いし、仲良くしたいって思ってるヤツもたくさんいて。」
何を言っているのだろう。まぁ、確かに有名人であるのはわかっている。お互いに女の子に告白されることも少なくはない。だがその話を何故今するのだろう。
「いや、自慢とかじゃなくてただこんだけ色んな人に囲まれてるオレらなのに今まで喋ったことないの逆に面白くねって話なw」
「ああ、確かに喋ったことなかったね」
喋ったことがないというより、喋る気がなかったからあえてこちらから仲良くしようと歩み寄ることもなかっただけだが。
「オレのことどう思ってる?」
唐突な質問に困惑する。
「え、どう思ってるって……明るくて、友達が多くて頼りがいのあるクラスメイト、かな」
嘘は言ってない、当たり障りのない回答だと思う。
でも彼は「頼りがいのある、ね」と呟き肩を震わせながら笑うのを堪えているようだった。
なんだ、こいつ…
「頼りがいのあるって思ってる割には王子は誰にも頼らないのな、つかその王子の仮面も疲れねぇの?」
「いや、疲れたりはないよ。周りから頼られるのは嫌いじゃないし。それに仮に俺が周りに頼らなくても困る人はいないだろ?」
そう。別に頼らなくてもやっていけている。俺は完璧でありたい。自分の理想を、そして周りからの期待に応えたい。壊したくない。誰かに頼ることでその期待を裏切りたくない。
「……。オレが言いたいのはそう言うことじゃないんだけどな。まぁいいや、お前みたいな周囲の期待に囚われてるやつは頼られるより頼るほうが難しかったりするんだよ。」
「菊川君、なにが言いたいのか分からないんだけど」
「オレから見たら今のお前は完璧過ぎるってこと。少なくともオレはお前が完璧じゃなくても期待外れなんて思わねぇから。だから、」
『もっと周りを頼ってもいいんじゃね』
「一度話をしようぜ」
そう言って壮馬に掴まれた手には今までにはないほどの力が込められていた。
落ち着いて話をするために、互いにソファに腰掛ける。
壮馬はどこまで知っている?
鈴がまさか猫であることは知らないだろう。
『仮にも生徒会長なんだからやっていいことと悪い事がある。それは分かってるな?』
この言葉から推測すると同居していること、俺がコネを使って高校に入れたこと、そもそも理事長と俺に繋がりがあること。どれがバレているのか。
「別にさ、無理に話せって言ってるわけじゃないから」
唐突に沈黙を破るように壮馬が言う。
「壮馬は、今何を知ってる?」
しばしの無言が続いたあと、ふと目が合った。
「…何を知ってるも何も、何も知るわけないだろ(笑)」
だってお前何も言ってくれねぇもん。そう付け加え壮馬はやれやれと少し目を細めて笑った。
え、と思わず間抜けな声が出る。
「ただ、もし湊が一人でかかえこんで一人で責任を取ろうとしてるならオレも一緒に考えてやりたいって思っただけ」
『もっと周りを頼ってもいいんじゃね』
壮馬の紡ぐ言葉に胸が熱くなる。内蔵を全て掴まれたような、こみ上げるものがある。なんとも言えないこの感覚は自分の歪む視界が答えをくれた。
ああ、嬉しくて泣きそうなのだと。
俺はあまり泣かない。泣くほど何かに執着するのを避けている。そうすれば悔しいとも、悲しいとも、何も思わないから。、感情的になるほど執着すると後に苦しいのは自分だから。しかし、壮馬にはその壁をとっくに破壊されていたようだ。
「……ありがとう、ホントに…」
思い返せばこんなことが過去にもあった。
そもそも俺と壮馬の出会いは高校1年生のときでそこまで長い付き合いじゃない。ただ1年生から同じクラスで、一緒に生徒会メンバーとして活動して多くの時間を共にしてきた。
正直、俺と壮馬の性格は全然違う。バカ真面目で、でもつまらない奴だと思われることを恐れて人前ではニコニコ自分を偽って、周りから『王子』と言われる程に人間味を失っていた。それに比べて壮馬は素直で根っからの『いい奴』だと思う。俺のように周りの評価だけじゃなくて自分の意思がある。それがずっと羨ましくて、少し妬ましくて彼とは距離をとっていた。
「お前さ、疲れねぇの?その王子ってやつ」
ある日突然だった。彼にそう声をかけられたのは。
彼のことは同じクラスメイトでありながら、話したことはなかった。ただ、彼の周りにはいつも人が集まっていて人気者であったため覚えていた。よく女の子たちの話にも名前が挙がっている。
放課後の教室には俺と壮馬の二人しかいない。そして、俺の机の上には英単語がぎっしり詰まったノートと、数式の羅列があった。
「えぇっと、菊川壮馬君だよね?どうしたの?」
とにかく万人受けする笑顔を貼り付け、なるべく物腰柔らかく返事をする。
「特に用事はねぇけど、なんとなく話しかけた」
そう言うと彼は俺の前の席に座りスマホを触り始めた。
そっか、それだけ言うと集中しづらいが時間が勿体ないため勉強を再開した。彼も特に何かを話すでもなく、ただそこに座っていた。1時間ほど勉強しそろそろ帰ろうかと席を立ったとき、彼も一緒に立ち上がった。
「ほら、早く帰るぞ」
何故か一緒に帰ることになっていた。別に何かを一緒にしたわけじゃないし、話をしたわけじゃない。絶対に楽しくなかったはずだ。他のクラスメイトだったらもっと配慮して、最近の流行りの話だとか相手の話したいことを察して居心地が良い空間にしただろう。
ただ、菊川壮馬にはそうしなかった。
理由は簡単、彼のことが苦手だから。
別に嫌いだから話しかけないでおこうとかではない。何を話したらいいのか分からないのだ。自分とは違う、偽らなくても人が集まる『本物』を前にすると自分が何をしているのか分からなくなるときがある。
「オレらさ、結構人望ある方じゃん?まぁ色々頼られることも多いし、仲良くしたいって思ってるヤツもたくさんいて。」
何を言っているのだろう。まぁ、確かに有名人であるのはわかっている。お互いに女の子に告白されることも少なくはない。だがその話を何故今するのだろう。
「いや、自慢とかじゃなくてただこんだけ色んな人に囲まれてるオレらなのに今まで喋ったことないの逆に面白くねって話なw」
「ああ、確かに喋ったことなかったね」
喋ったことがないというより、喋る気がなかったからあえてこちらから仲良くしようと歩み寄ることもなかっただけだが。
「オレのことどう思ってる?」
唐突な質問に困惑する。
「え、どう思ってるって……明るくて、友達が多くて頼りがいのあるクラスメイト、かな」
嘘は言ってない、当たり障りのない回答だと思う。
でも彼は「頼りがいのある、ね」と呟き肩を震わせながら笑うのを堪えているようだった。
なんだ、こいつ…
「頼りがいのあるって思ってる割には王子は誰にも頼らないのな、つかその王子の仮面も疲れねぇの?」
「いや、疲れたりはないよ。周りから頼られるのは嫌いじゃないし。それに仮に俺が周りに頼らなくても困る人はいないだろ?」
そう。別に頼らなくてもやっていけている。俺は完璧でありたい。自分の理想を、そして周りからの期待に応えたい。壊したくない。誰かに頼ることでその期待を裏切りたくない。
「……。オレが言いたいのはそう言うことじゃないんだけどな。まぁいいや、お前みたいな周囲の期待に囚われてるやつは頼られるより頼るほうが難しかったりするんだよ。」
「菊川君、なにが言いたいのか分からないんだけど」
「オレから見たら今のお前は完璧過ぎるってこと。少なくともオレはお前が完璧じゃなくても期待外れなんて思わねぇから。だから、」
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