28 / 43
禍時と闇の神
しおりを挟む笑ってナギは矢の飛んできた方向を指し示しましたが、すぐに表情が変わります。
「おや?あ~あ、
ユナよりも先に別のものが来てしまったみたいだ。」
「え?なに? 」
アンジェは身構えました。
彼らの近くから表れたのは、カラカラと音を立てて、動き回る真っ白な骨。バラバラに飛び散っていた骨が組み合わされ動き始めました。
「なにこれ!?」
アンジェは、驚きに目を見開きます。
「大禍時の始まりの笛吹きだね」
「大禍時?笛吹?なによそれ………」
「ほら、彼の手をみてごらん。手に笛を持っているだろう。
これから、彼らは大禍時の門を開く。
その時刻なのさ。
彼らはね、その時に近くにいたものを引きずり込むんだ」
「ひ、引きずり込まれたらどうなっちゃうの?」
「皆、同じように骨となり世界を永遠にああやってさ迷い続けることになる」
「そんなの嫌!」
「どうやって倒せばいい?」
同じく聞いていたシンは、ナギに倒し方を訊ねます。
「魔法の使えない君たちには無理だ。
だから、道は一つだよ。逃げるんだ」
「でも、本当にユナはあっちにいるの?それにシン!リノは?」
「こいつなら、蜘蛛の糸まみれだが大丈夫だ!」
「うえっぷう、あぁ、口のなかにも入った!」
未だに白い糸をつけて、リノは気持ち悪そうです。
「よかった」
アンジェは、肩を撫で下ろしました。
「ふふ、よかったね。お嬢ちゃん。
安心していい。ユナならこの森の次期長であるリーンゼィルが保護しているよ。此方にむかっている。君たちは、そこの君の肩にいる小鳥に道を示してもらいなさい。ボクはほんのすこしだけ、逃げる時間を稼いであげる」
「そんなわけには!」
「お嬢ちゃん。気にしないで。ボクは戦うことは得意じゃないんだけれど、殺すことは得意なんだ」
三日月に開いた口から真っ赤な舌が見えてアンジェは本能的に震えました。
「さぁて、あの子達との約束だ。ほら、いきな。あっ、ボクの絶対に羽に触れてはいけないよ」
「なんで?」
リノは不思議そうに訊いてきました。
「こうなるからさ」
ひらひらと美しい羽が地面に落ちるやいなや。
地面が紫色に変わり腐り落ちてしまいました。
「わっ、なんで」
「ボクの羽は、命を喰らう。死にたくなければ離れていなよ」
「でも、何をするの!」
「一時的に禍時の魔物を抑える、その隙にユナのところへむかうといい。」
「わかった!気をつけてねお兄さん!」
「なっ!誰がお兄さんだよ!」
不貞腐れた顔でナギ怒りましたが、彼らを見送ると彼女は、翼を何度もはためかせ、羽根をちらします。
雪のように白い羽ですが、地面から生命が消えてゆきます。
その光景に、ざわざわと森が騒ぎはじめ、先ほど、大きな蜘蛛の糸に絡まれた化け物が蜘蛛の糸を引きちぎり食らいます。
「おやおや、悪食な子だ」
あきれたようにナギは羽根をちらします。
『そんなこと、いわないでくださいよ』
闇の中から、酷く落ち着いた声が聞こえてきました。影はとても髪の長いシルエットが見え隠れしています。
それに、ナギは怯えも緊張感もなく笑いかけました。
「やぁ、こんにちはかな?それともこんばんは? はじめまして、僕はナギ 。君はソワールかい?」
真っ黒な深い深い闇からぬるりと病的なほどに白い肌の腕が生えて、そこからずるりと漆黒の長い髪に冷たい銀色の瞳に無表情の青年が現れました。彼の周りは酷く暗い障気を放っており生き物はなく、けれども彼はとても悠然としています。
「今は、こんばんわですよ‥‥‥、ナギ
お久し振りですね」
ゆるゆると形を成すと彼は銀色の瞳を本の少し和らげてナギを見つめます。
「それとも、はじめまして‥‥‥‥‥‥と言うべきですか?
君は覚えていないかもしれませんね」
「ふふ、それじゃあこんばんわにお久しぶりだね。こちらとあちらをつなぐ洞穴であったでしょう?
でも残念だなぁ。ボクは君の事を言葉では知っているけれど殆んど初対面だ。だから ごめんね。
それとさ、失礼かもしれないんだけど、君って、ソレールの結界内には入ってこれなかったんじゃなかったっけ?」
「ええ、そうです。あちらでもお会いしましたね。よく覚えてくれていました。
さて、結界内に僕の存在があれるかっことですが、兄の結界に本体は入ることができません そういうルールですから、だから、この体は、僕の本体ではありません。今日は挨拶と君に会いたくて少しズルをして来たのです。ねぇ、ナギ。僕の元に来ればこんな下らない事をしなくてもいいんですよ?」
そう言って彼は甘く囁くように、その真っ白な手を光に向けて差し出しました。その無表情な顔に僅かながらに懇願に見えます。
「うーん、そうなんだよね
きっと君ならばボクの全てに終わりをもたしてくれそうだ。」
「そうですよ、だから君は僕の手を取ればいいだけなんです」
「ふふ、それが一番手っ取り早いともボクも思うんだ。でもさ ボクは今ほんのすこしだけ、あの子がこれからどうするのかに興味が出たんだ」
それに酷く不機嫌そうに、酷く残忍そうな顔でソワールはナギを見据えました。その眼には酷く嫉妬が滲んでいて今すぐにでもナギを握りつぶしてしまいそうな程です。
「‥‥‥‥‥‥、あんなあっさりと殺せそうな子供に‥‥‥ですか?」
地を這うような低い声でソワールはナギを威圧しますがナギはそんな事など、どうとも思っていないかのように笑っているようでした。
「うん、そう
あの、あっさりと殺せそうな所が逆に面白そうなんだよ、期待はずれなら殺してしまってくれても僕は構わないよ」
「‥‥‥‥‥‥、
まぁ、今日はいいでしょう
でも時は迫っていますよ、とソレールに伝えて下さい、貴方の終わりの始まりはもうすぐです」
そう言うと彼は後ろを向いて闇に溶けて消えました。
「あはは、あー本当に怖いなぁ。‥‥‥」
0
お気に入りに追加
0
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
旦那の真実の愛の相手がやってきた。今まで邪魔をしてしまっていた妻はお祝いにリボンもおつけします
暖夢 由
恋愛
「キュリール様、私カダール様と心から愛し合っておりますの。
いつ子を身ごもってもおかしくはありません。いえ、お腹には既に育っているかもしれません。
子を身ごもってからでは遅いのです。
あんな素晴らしい男性、キュリール様が手放せないのも頷けますが、カダール様のことを想うならどうか潔く身を引いてカダール様の幸せを願ってあげてください」
伯爵家にいきなりやってきた女(ナリッタ)はそういった。
女は小説を読むかのように旦那とのなれそめから今までの話を話した。
妻であるキュリールは彼女の存在を今日まで知らなかった。
だから恥じた。
「こんなにもあの人のことを愛してくださる方がいるのにそれを阻んでいたなんて私はなんて野暮なのかしら。
本当に恥ずかしい…
私は潔く身を引くことにしますわ………」
そう言って女がサインした書類を神殿にもっていくことにする。
「私もあなたたちの真実の愛の前には敵いそうもないもの。
私は急ぎ神殿にこの書類を持っていくわ。
手続きが終わり次第、あの人にあなたの元へ向かうように伝えるわ。
そうだわ、私からお祝いとしていくつか宝石をプレゼントさせて頂きたいの。リボンもお付けしていいかしら。可愛らしいあなたととてもよく合うと思うの」
こうして一つの夫婦の姿が形を変えていく。
---------------------------------------------
※架空のお話です。
※設定が甘い部分があるかと思います。「仕方ないなぁ」とお赦しくださいませ。
※現実世界とは異なりますのでご理解ください。
辺境領主は大貴族に成り上がる! チート知識でのびのび領地経営します
潮ノ海月@書籍発売中
ファンタジー
旧題:転生貴族の領地経営~チート知識を活用して、辺境領主は成り上がる!
トールデント帝国と国境を接していたフレンハイム子爵領の領主バルトハイドは、突如、侵攻を開始した帝国軍から領地を守るためにルッセン砦で迎撃に向かうが、守り切れず戦死してしまう。
領主バルトハイドが戦争で死亡した事で、唯一の後継者であったアクスが跡目を継ぐことになってしまう。
アクスの前世は日本人であり、争いごとが極端に苦手であったが、領民を守るために立ち上がることを決意する。
だが、兵士の証言からしてラッセル砦を陥落させた帝国軍の数は10倍以上であることが明らかになってしまう
完全に手詰まりの中で、アクスは日本人として暮らしてきた知識を活用し、さらには領都から避難してきた獣人や亜人を仲間に引き入れ秘策を練る。
果たしてアクスは帝国軍に勝利できるのか!?
これは転生貴族アクスが領地経営に奮闘し、大貴族へ成りあがる物語。
元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
政略より愛を選んだ結婚。~後悔は十年後にやってきた。~
つくも茄子
恋愛
幼い頃からの婚約者であった侯爵令嬢との婚約を解消して、学生時代からの恋人と結婚した王太子殿下。
政略よりも愛を選んだ生活は思っていたのとは違っていた。「お幸せに」と微笑んだ元婚約者。結婚によって去っていた側近達。愛する妻の妃教育がままならない中での出産。世継ぎの王子の誕生を望んだものの産まれたのは王女だった。妻に瓜二つの娘は可愛い。無邪気な娘は欲望のままに動く。断罪の時、全てが明らかになった。王太子の思い描いていた未来は元から無かったものだった。後悔は続く。どこから間違っていたのか。
他サイトにも公開中。
〖完結〗その子は私の子ではありません。どうぞ、平民の愛人とお幸せに。
藍川みいな
恋愛
愛する人と結婚した…はずだった……
結婚式を終えて帰る途中、見知らぬ男達に襲われた。
ジュラン様を庇い、顔に傷痕が残ってしまった私を、彼は醜いと言い放った。それだけではなく、彼の子を身篭った愛人を連れて来て、彼女が産む子を私達の子として育てると言い出した。
愛していた彼の本性を知った私は、復讐する決意をする。決してあなたの思い通りになんてさせない。
*設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。
*全16話で完結になります。
*番外編、追加しました。
公爵家長男はゴミスキルだったので廃嫡後冒険者になる(美味しいモノが狩れるなら文句はない)
音爽(ネソウ)
ファンタジー
記憶持ち転生者は元定食屋の息子。
魔法ありファンタジー異世界に転生した。彼は将軍を父に持つエリートの公爵家の嫡男に生まれかわる。
だが授かった職業スキルが「パンツもぐもぐ」という謎ゴミスキルだった。そんな彼に聖騎士の弟以外家族は冷たい。
見習い騎士にさえなれそうもない長男レオニードは廃嫡後は冒険者として生き抜く決意をする。
「ゴミスキルでも美味しい物を狩れれば満足だ」そんな彼は前世の料理で敵味方の胃袋を掴んで魅了しまくるグルメギャグ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる