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禍時と闇の神

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笑ってナギは矢の飛んできた方向を指し示しましたが、すぐに表情が変わります。


「おや?あ~あ、
ユナよりも先に別のものが来てしまったみたいだ。」

「え?なに? 」

アンジェは身構えました。

彼らの近くから表れたのは、カラカラと音を立てて、動き回る真っ白な骨。バラバラに飛び散っていた骨が組み合わされ動き始めました。

「なにこれ!?」

アンジェは、驚きに目を見開きます。

「大禍時の始まりの笛吹きだね」

「大禍時?笛吹?なによそれ………」

「ほら、彼の手をみてごらん。手に笛を持っているだろう。
これから、彼らは大禍時の門を開く。
その時刻なのさ。 
彼らはね、その時に近くにいたものを引きずり込むんだ」
「ひ、引きずり込まれたらどうなっちゃうの?」
「皆、同じように骨となり世界を永遠にああやってさ迷い続けることになる」
「そんなの嫌!」

「どうやって倒せばいい?」

同じく聞いていたシンは、ナギに倒し方を訊ねます。

「魔法の使えない君たちには無理だ。
だから、道は一つだよ。逃げるんだ」

「でも、本当にユナはあっちにいるの?それにシン!リノは?」

「こいつなら、蜘蛛の糸まみれだが大丈夫だ!」

「うえっぷう、あぁ、口のなかにも入った!」

未だに白い糸をつけて、リノは気持ち悪そうです。

「よかった」

アンジェは、肩を撫で下ろしました。


「ふふ、よかったね。お嬢ちゃん。
安心していい。ユナならこの森の次期長であるリーンゼィルが保護しているよ。此方にむかっている。君たちは、そこの君の肩にいる小鳥に道を示してもらいなさい。ボクはほんのすこしだけ、逃げる時間を稼いであげる」
「そんなわけには!」
「お嬢ちゃん。気にしないで。ボクは戦うことは得意じゃないんだけれど、殺すことは得意なんだ」

三日月に開いた口から真っ赤な舌が見えてアンジェは本能的に震えました。

「さぁて、あの子達との約束だ。ほら、いきな。あっ、ボクの絶対に羽に触れてはいけないよ」

「なんで?」

リノは不思議そうに訊いてきました。

「こうなるからさ」

ひらひらと美しい羽が地面に落ちるやいなや。
地面が紫色に変わり腐り落ちてしまいました。

「わっ、なんで」
「ボクの羽は、命を喰らう。死にたくなければ離れていなよ」
「でも、何をするの!」
「一時的に禍時の魔物を抑える、その隙にユナのところへむかうといい。」
「わかった!気をつけてねお兄さん!」
「なっ!誰がお兄さんだよ!」

不貞腐れた顔でナギ怒りましたが、彼らを見送ると彼女は、翼を何度もはためかせ、羽根をちらします。
雪のように白い羽ですが、地面から生命が消えてゆきます。
その光景に、ざわざわと森が騒ぎはじめ、先ほど、大きな蜘蛛の糸に絡まれた化け物が蜘蛛の糸を引きちぎり食らいます。
  
「おやおや、悪食な子だ」

あきれたようにナギは羽根をちらします。

『そんなこと、いわないでくださいよ』

 闇の中から、酷く落ち着いた声が聞こえてきました。影はとても髪の長いシルエットが見え隠れしています。
それに、ナギは怯えも緊張感もなく笑いかけました。

「やぁ、こんにちはかな?それともこんばんは? はじめまして、僕はナギ 。君はソワールかい?」

  真っ黒な深い深い闇からぬるりと病的なほどに白い肌の腕が生えて、そこからずるりと漆黒の長い髪に冷たい銀色の瞳に無表情の青年が現れました。彼の周りは酷く暗い障気を放っており生き物はなく、けれども彼はとても悠然としています。


「今は、こんばんわですよ‥‥‥、ナギ
お久し振りですね」


  ゆるゆると形を成すと彼は銀色の瞳を本の少し和らげてナギを見つめます。


「それとも、はじめまして‥‥‥‥‥‥と言うべきですか?
 君は覚えていないかもしれませんね」

「ふふ、それじゃあこんばんわにお久しぶりだね。こちらとあちらをつなぐ洞穴であったでしょう?
 でも残念だなぁ。ボクは君の事を言葉では知っているけれど殆んど初対面だ。だから ごめんね。
それとさ、失礼かもしれないんだけど、君って、ソレールの結界内には入ってこれなかったんじゃなかったっけ?」

「ええ、そうです。あちらでもお会いしましたね。よく覚えてくれていました。
さて、結界内に僕の存在があれるかっことですが、兄の結界には入ることができません そういうルールですから、だから、この体は、僕の本体ではありません。今日は挨拶と君に会いたくて少しズルをして来たのです。ねぇ、ナギ。僕の元に来ればこんな下らない事をしなくてもいいんですよ?」

  そう言って彼は甘く囁くように、その真っ白な手を光に向けて差し出しました。その無表情な顔に僅かながらに懇願こんがんに見えます。


「うーん、そうなんだよね
 きっと君ならばボクの全てに終わりをもたしてくれそうだ。」

「そうですよ、だから君は僕の手を取ればいいだけなんです」


「ふふ、それが一番手っ取り早いともボクも思うんだ。でもさ ボクは今ほんのすこしだけ、あの子がこれからどうするのかに興味が出たんだ」


  それに酷く不機嫌そうに、酷く残忍そうな顔でソワールはナギを見据えました。その眼には酷く嫉妬が滲んでいて今すぐにでもナギを握りつぶしてしまいそうな程です。


「‥‥‥‥‥‥、あんなあっさりと殺せそうな子供に‥‥‥ですか?」


  地を這うような低い声でソワールはナギを威圧しますがナギはそんな事など、どうとも思っていないかのように笑っているようでした。


「うん、そう
 あの、あっさりと殺せそうな所が逆に面白そうなんだよ、期待はずれなら殺してしまってくれても僕は構わないよ」


「‥‥‥‥‥‥、
 まぁ、今日はいいでしょう
 でも時は迫っていますよ、とソレールに伝えて下さい、貴方の終わりの始まりはもうすぐです」


  そう言うと彼は後ろを向いて闇に溶けて消えました。


「あはは、あー本当に怖いなぁ。‥‥‥」





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