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【第449話】上書き
しおりを挟む「まったく……クローズは馬鹿な奴だよな。僕は魔人として200年~300年生きられるだけで十分満足しているというのに奴は全く満足していなかった。それどころかクローズは僕が生きている内に大きなプロジェクトを一つ成し遂げようと言い始めたんだ」
ディザールが語るクローズの言動は、まるで生きた証を作らせたがっているかのように思えた。クローズの言う大きなプロジェクトとやらがサラスヴァ計画とは別のもう一つの計画の事だろうか?
気になった俺は「そのプロジェクトとやらが『もう一つの計画』ってやつか?」と尋ねると、ディザールは首を小さく横に振り、否定の言葉を返す。
「半分正解で半分不正解だ。というのもディザールが持ち掛けてきたプロジェクトというのはモンストル大陸より遥か北に存在するというプレシャーデン大陸をモンストル大陸と繋いでやろうというプロジェクトだったんだ」
「モンストル大陸の外だとォッ? というかモンストル大陸の遥か北に大陸があったのか。確かに言われてみれば過去視でクローズは大陸の外に出た事があると言っていたな……。それでクローズはプレシャーデン大陸とやらをモンストル大陸に繋いでどうするつもりだったんだ?」
「クローズ曰く、いきなり互いの存在を知らない大陸同士を接触させたら色々と面白い事になりそうだからやってみたくなって提案したんだそうだ。クローズ的には面白がっているだけじゃなくて生態系を乱して進化を促してみたい気持ちがあったのだとは思うが、僕は正直子供じみた動機だと呆れたんだ」
「まぁ、クローズの知的好奇心に由来するメチャクチャ具合は今に始まった事ではないから、ある意味クローズらしいとも思うが……。ディザールに賛成の気持ちは湧かなかったのか?」
「僕はモンストル大陸の人類が大嫌いだが、別に他大陸には恨みはない。だから、最初は反対しようとしたんだ。だけど、クローズからプレシャーデン大陸の話を聞いているうちに僕は徐々に興味が湧いてきた」
「そのプレシャーデン大陸っていうのはどんな大陸なんだ?」
「一言で言えば文明レベルの低い大陸だ。人々は魔石の加工はおろか、製鉄・金属加工すらままならず、魔術なんて誰も使えない。武器は石斧や弓など原始的なものばかりで、住居は木造か洞窟を掘ったもの大半だ。モンストル大陸で言えば2000年近く前の文明レベルだろう。もっとも気候だけは安定しているから人口はモンストル大陸より多いがな」
「話を聞く限りディザールが興味を持ちそうな大陸には思えないが、何に興味を持ったんだ?」
「プレシャーデン大陸の人々はモンストル大陸よりも広い大地を持ち、多くの人間がいるにもかかわらず人間同士で争っていないのだ。まるで戦争や殺しという概念そのものを知らないかのようにな。文明レベルが低いと言っても武器の類はちゃんと持っているにもかかわらずだ」
大小様々な小競り合いがあるモンストル大陸の人間からしたら信じられない事実だ。自分達の住む大陸が憐れな存在に思えてくる。
俺ですら行ってみたくなったプレシャーデン大陸についてディザールは更に話を続ける。
「興味を持った僕はプレシャーデン人みたいな優しい人類だけがいれば悲劇は起こらないのでは? と考えた。だからクローズにはプレシャーデン人に一切迷惑を掛けるなと伝えた上で別の計画を考えた。その計画はモンストル大陸の人類を絶滅させた後、プレシャーデン人にモンストル大陸の存在を教える計画だ。僕達はシンプルに『プレシャーデン計画』と名付けた」
「きつい言い方をすれば『愚かなモンストル人を消し去って、優しいプレシャーデン人でモンストル大陸を上書きする』って事か? それが出来ればモンストル大陸の町や物資や資源を残したままプレシャーデン人に渡すことが出来るだろうな。加えてディザール達がいればモンストル大陸の歴史を伝え残したうえで教訓や戒めにすることも可能だろうな」
「よく分かっているじゃないか。計画通り一部プレシャーデン人をモンストル大陸に動かすことが出来たなら、きっと平和に大陸を利用してくれるはずだ。モンストル大陸にプレシャーデン人が溢れたその時は、僕達みたいな異物は恐らく邪魔になるだろう。だから僕は最終的には廃王園に閉じこもり、研究をしながら細々と死んでいくつもりだったんだ。もっとも計画は阻まれてしまったがな」
「ディザールは過去視で見た時からずっと考えが極端すぎるんだよ。クローズにそそのかされた点は気の毒だとは思うが、0か100を選ぶんじゃなくて、もっと丁度いい塩梅の選択を……いや、もう終わったことだ、説教はやめておくか」
「昔、グラドにも似たような事を言われたよ。ディザールは優し過ぎるし真面目過ぎるから極端な行動に出てしまうんだ、っとな。優しい人間がこれだけ多くの者を殺せるはずがないし、子供や仲間を大切に出来ないはずがないだろうにな……グラドの目は正しいのか曇っているのか今でもよく分からない」
そう語るディザールの目には薄っすらと涙が溜まっていた。きっとディザールは何が正しくて何が間違っているのかを本当は分かっていて、それでも歯止めが効かなくなっていたのだろう。
辛い言い方をすればディザールはどこかのタイミングで『壊れてしまった』のだろう。真面目で優しかった人間が一人で背負うにはあまりにも重い人生だったと敵である俺ですら思う程だ。
俺は何て言葉を掛ければいいのか分からず、黙る事しか出来なくなっていた。そんな俺を尻目にディザールは上半身を起こすとザキールと戦っていた地点を見つめて、か細い声で呟く。
「ザキールは残虐なところこそあったが、それでも最後には仲間を想い、自身の命を燃やしていたのだから僕なんかよりよっぽど立派だったな。フィルを運び終わった後しばらく姿を見かけなかったのは恐らく一人で動けるうちに廃王園に置いてあるプレシャーデン計画について書かれた計画書を探していたのだろうな。計画書には外海を超えてプレシャーデンに着く為の手段をはじめ、色々な事が書いてあるから知りたかったのだろう」
「そうか、それでザキールはフィルに『探し物がある』と言っていたんだな。それで結局、計画書はどこにあるんだ? あんたはもう拘束されて一生外には出られなくなる身だ。俺が代わりにプレシャーデンに行って冒険話ぐらいなら聞かせてやってもいいぜ?」
「フッ、計画書を手にしたとしてもお前達では絶対に外海を出られはしない。外海は死の海以上に厳しい海域が途方もない広さで広がっているのだからな。羽を持つ魔人でもしっかりと計画を練らねば辿り着けはしない」
「ケッ、最後まで嫌味ったらしい親父だぜ。まぁ時間はいくらでもあるんだ、続きは牢屋の中でゆっくりと聞かせてもらうさ。計画書を読みながらな」
――――ち、父親譲りで忠告を聞かないね。ガラルド君は――――
後ろから突如聞こえてきた声に驚いて確認すると、そこには髪が全て白髪になり、顔に皺を刻んだ老人に変貌したクローズが今にも死んでしまいそうな程に息切れしながら立っていた。
クローズは脱皮を使うことでディザールに大量の魔力を送り込んでいたが、脱皮を以てしても一度で大量の魔力を送り込む行為が危険なのは傍からみていた俺でも分かるし、実際息絶えていると思っていた。
事実クローズは今にも死んでしまいそうな状態だ。ここまで歩いてきて一言呟いただけでも凄まじい執念だ。もしかしたらクローズは最後にディザールへお別れを言いに来たのだろうか? 敵とは言え二度も死に目に立ち会うのは辛いものがある。
だが、これも死闘を繰り広げた者同士の義理だ、最後に奴を支えてやろう。俺は回復魔術で少しだけ動くようになった両足を震えさせながら立ち上がり、今にも倒れそうなクローズの横に行き、肩を支えて呟いた。
「ほら、しっかり立てよクローズ。最後に何か言いたくてここまで歩いて来たんじゃないのか?」
「…………」
俺が問いかけたにも関わらず何故かクローズは黙ったままだ。息切れしているから喋れないのかとも思ったが、それだけが理由じゃない気がする。なんというか今のクローズには生命力を感じない。
様子がおかしく困惑しているとクローズは明後日の方向を見ながら消え入りそうな声で呟いた。
「あれ? 変だな、皆の声が聞こえなくなった……それに目も見えない……今、私を支えてくれているのは誰だ?」
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