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【第445話】同化

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「ほら、さっさと立てよディザール。いつまで寝転んでるつもりだ? 俺達はザキールから喧嘩の続きを託されているんだ。早く始めようぜ」

 俺はザキールの想いと自身の怒りを込めて、ディザールに言葉をかけた。ディザールはナイトメア・メイズの影響で未だに四つん這いの状態だ、本当は今のうちに攻撃するのが正解なのだろう。

 だけど、俺は立ち上がるまで攻撃する気にはなれなかった。きっと俺は心の奥底でディザールに全てを出し尽くさせてたうえでブッ飛ばしたいと思っているのだろう。

 生まれたての小鹿のように足を震わせながら立ち上がったディザールはニヤリと笑い、杖の先を俺に向ける。

「ハァハァ……攻撃を加える決定的なチャンスを見逃すとはな。お人好しなのか戦士の矜持なのか知らないが馬鹿な奴め。お前達が多少体力を回復しようとも態勢を整えた私が負けるわけがない。今、攻撃しなかったことをあの世で後悔するのだな」

「息切れしながら強がってんじゃねぇよ。俺はお人好しでもなければ戦士の誇りが強いわけでもない。仲間を守る為なら卑怯な手だって使ってやるさ。お前が立ち上がるのを待ったのは俺が納得のいくまで殴りたいだけだ。ほら、魔術でも何でもいい、攻撃してこいよ」

「ちっ……ザキール未満のガラクタがいい気になるなよ? だったらお望み通り喰らわせてやる! 貫け! アイス・ランス!」

 ディザールはリリスが放つアイス・ニードルより3倍以上大きく、堅固な氷の槍を生み出すと、勢いよく俺に向かって飛ばしてきた。

 いつもなら慌てて避けるか、スキルで防御するところだが、この時の俺は不思議と冷静で尚且つ絶対に素手で止められる自信があり、気が付けば軌道を見切って片手でアイス・ランスを掴んでいた。

 俺は手に掴んだアイス・ランスを高熱で溶かすと、目を点にしたディザールがぼそりと呟く。

「馬鹿な……中級魔術とはいえ僕の魔術を素手で止められるはずが……」

 ディザールも驚いているが俺もかなり驚いている。休んで体力が回復した影響か、ディザールの技のキレが落ちているのか、それとも何か別の理由があるのか分からないが、闘志が燃え滾っている今の俺なら絶対に負ける気がしない。

 それに加えて俺の横にはグラッジ、フィル、レックがいて、離れた位置からはリリス達が見守ってくれている、これほど頼もしい事はない。

 俺は腰を落として拳を構え、最後の戦いの開始を告げる。

「これが本当に最後の戦いだ! いくぞ、ディザール!」

 俺は先手を打つべくレッド・ステップでディザールに近づいた。するとディザールはすぐさま風魔術で土煙をおこし、そのまま後ろへ大きく下がる。

 魔術が得意なディザールと距離を空けるわけにはいかない。急いで距離を詰め直そうとした俺だったが、ディザールが再び天使ネメシスに魔力を注入し、自身の横に配置してしまい足を止めざるを得なかった。

 ディザールは右腕が消失したままのネメシスの腰に手を当てると、凛々しい声で命じる。

「天使ネメシスよ。片腕を失おうとも、お前は最強だ。まずは敵の数を減らしたい、一番機動力の低いフィルから潰すのだ!」

 ディザールに命じられるとネメシスは一直線にフィルに向かって飛び出した。術者のディザールが疲弊していて片腕を消失しているネメシスは巨剣を振るった時よりはパワーダウンしているはずだが、それでも強烈な攻撃を放ってくるはずだ。

 ここは一旦、俺も下がってフィルのフォローに入った方がいいかと考えたが、俺より先に飛び出したグラッジが千色千針せんしきせんしんを発動してネメシスの前に立ちはだかり、声高に叫んだ。

「ネメシス! お前の相手は僕とフィルさんだ! ガラルドさんとレックさんはディザールを頼みます!」

 グラッジの判断はバランスがとれていて良いかもしれない。強力な物理攻撃を持つネメシスを近接に強いグラッジが抑えて、フィルがバックアップし、魔術が得意なディザールをバニッシュが使えるレックが相手して、機動力に長けた俺がディザールとの距離を詰める……現状の最適な振り分けだろう。

 俺達はグラッジの言葉に従い、陣形を展開する。二組がそれぞれ前衛後衛に分かれて、ネメシス・ディザールと戦う時間が始まった。

 俺はひたすらレッド・ステップでディザールとの距離を詰めつつ、時々レッド・バレットで牽制を入れてじわじわとディザールにダメージを与え続けた。一方、俺の後ろにぴったりとついたレックはディザールの放つ魔術の威力を大きく減衰し、俺が被弾に耐えられるレベルまでバニッシュを展開し続けてくれた。

 グラッジとネメシスは互いに神々しい光を体から放っているものの、それとは対照的に荒々しい近接戦を繰り広げていた。

 千色千針せんしきせんしんの影響で剣をはじめとした武器が使えないグラッジは拳撃と蹴撃でネメシスにダメージを与え続け、ネメシスは術者が気を取られている影響か、単調に剣を振り回している。

 それでもネメシス自体の身体能力が相当高いせいでグラッジは何度も被弾し、フィルの植物による防御支援すら剣で切り裂いている。その様相はもはや天使というより悪魔に近い。

 2つのパーティーは互いに状況を確認し合いながら、戦場を激しく移動し、爆音をたてて地面に穴を開けながら戦い続けた。

 リリスのイントラによって回復してもらった手も再びズキズキと痛みはじめ、俺の肉体と魔量にも限界が近づきつつある。グラッジ達も同様で徐々に動きのキレが悪くなっているようだが、それはディザールとネメシスも同じだった。

 この泥臭い戦いがいつまで続くのだろうか。息切れで頭が回らなくなってきた俺が弱気になってきた頃に状況が動きはじめた。とうとうネメシスに限界がきて、剣を地面に落としたのだ。

 剣が地面に落ちる音を合図に無言で心を通じ合わせた俺、グラッジ、フィル、レックはネメシスを放置し、一斉にディザールに向かって走り出した。ディザールは一際焦った表情で杖を構える。

「くっ……来るなら来い!」

 ネメシスが攻撃能力を失った今こそ、全部の力をディザールにぶつける時だ。俺達は各々が放てる最強の遠距離技を解き放つ。


「レッド・テンペスト!」

双蒸撃そうじょうげき!」

「グリーン・キャノン!」

絶氷閃ぜっひょうせん


 4つの強烈なエネルギーが一点に集中する。廃王園はいおうえん全てが震えているのではと思う程の振動に加え、4つの色が混ざり合う爆発は禍々しくも神々しくもあり、爆風は俺達4人の足裏を大きく後ろへ滑らせ、リリス達の隠れている瓦礫の山すら後ろへ吹き飛ばしてしまった。

 俺は慌ててリリス達が無事なのか視線を向けると、どうやらリリス達は地面に刺さる岩片にしがみつくことでギリギリ吹き飛ばされずに済んだようだ。

 もうこんな大爆発は2度と起こしたくはない……もしかしたらディザールの肉体も消失してしまったのではないだろうか? と不安になりながら爆心地の煙が晴れるのを待っていると、煙の中から現れたのは誰にも想像できなかったであろうディザールの姿だった。

 なんとディザールは半透明になったネメシスを鎧のように纏い、全身から血を流しながらも辛うじて一斉攻撃を耐えていたのだ。俺は慌てて視線を横に向けると、ネメシスが元々立っていた場所からネメシスの姿は消えていた。

 考えられるのは遠隔操作していたネメシスを一瞬で消し去ったディザールが、すぐさま自身の前にネメシスを再召喚して、鎧化させた可能性だ。

 スキルにしても魔術にしても魔力を伸ばさなければいけない性質上、一瞬でエネルギーを遠くへ飛ばすことはできないが、一瞬で消滅させること自体は難易度は高いものの不可能なわけじゃない。まさか、ここにきて超高度なスキルコントロールを披露されるとは思わなかった。

 ネメシスと一体化したディザールはうなだれた姿勢を起こし、ゆっくりとこちらへ視線を向ける。そして、強力な魔力を纏った状態とは裏腹に無機質な声で言い放つ。

「ネメシスと同化し、クローズの命まで吸った我が身だ。何がなんでもお前達に勝ってみせる」


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